33.ワニ人間
ワニ人間
「この港に集まる男たちは、人間の何倍もの大きさを持つオルカやセイウチさえ、一本のモリで仕留める。勇敢な世界一の男たちだ」
縛られた縄をようやくターニャに解かれ、囚われの男がそう言った。
「知った風なことを、いや待てよお前は漁師だったな。あのオロスに生まれたと聞いている」
さすがのヤモリ人間も、男たちに取り囲まれ何度もモリを突き刺され、たまらなかった。そんなことでは致命傷にはならないが次第に太陽も高くなり始めてきた。これ以上時間をかけるわけにもいかない、騒ぎが大きくなる前に人間たちを片付けようと黒服のリーダーは判断した。
「馬鹿者め、お前たち、戻ってこい。俺がこいつらを片付ける……」
「ま、待ってください。俺たちはまだ戦えます、殺さないで……」
「タイム・イズ・オーバー。時間切れだ、吸収され、我が血肉になるがいい」
黒服のリーダーが黒いサングラスを外し、ヤモリ人間に近付いて行く、黒服の体が揺らぎ巨大なあごが開いた。
「そんな、ギャーッ」
「死にたくない……」
ヤモリ人間は頭から丸呑みされていった、そして振り返ったのは「ワニ人間」となった黒服のリーダーだった。
「なんてやつだ、自分の仲間を喰っちまいやがった」
「仲間だと、あいつらは俺のための餌に過ぎん、元はお前たちと同じ人間だ」
「馬鹿な、あいつらが人間だというのか」
「ああ、こいつの船に乗っていた奴らを俺が育てたのさこうして喰うためにな」
ゆっくり「ワニ人間」は港湾作業員たちを見回し、舌なめずりをした。その目は冷たく光り、屈強な男たちでさえゾッと身震いをした。数人の勇敢な男がその背中をモリで突く、しかし鱗で覆われた皮膚には傷ひとつつかない。別の男が投げつけたモリは簡単にその巨大なあごで噛み砕かれた。
「ここならどうだっ!」
ワニの最大の武器はあごでは無くその尾の一撃だ。まともに当たればカバや牛さえその首がへし折れる。ワニ人間のやわらかそうな腹を狙ったモリはその強力な尾でなぎ払われた。
「グフフッ、お前たちがこのダイル様に叶うとでも思っているのか」
それを見て、戦意をなくしてしまった男たちを見据えて、ワニ人間が凄んだ。
「そのモリを借してくれ」
男たちからモリを借り、ワニ人間の前に立ちはだかったのは囚われていた男だった。
「おや、お前何のつもりだ。まさか俺に抵抗でもするつもりか?」
「ああ、こいつとは長い付き合いでね」
男はモリの柄を数度しごく、不思議な光がモリを包んだ。
「……お館様が話していた、それがお前の力か。面白い、俺にそいつを使ってみせろ」
モリの先端はワニ人間の喉元を捉えたまま、男はゆっくりとその背後に回った。
「ガルルルッ」
仕掛けたのはワニ人間の方だった。現存する地球最大、最強の肉食爬虫類「ワニ」。恐竜時代、12メートル以上もあった体長は、数度の地球環境の変化に順応するうちに現在では7メートル程度となったが、その獰猛さは少しも変わらない。素早い「ひと噛み」だが、それは空を切った。
「イヤァーッ!」
掛け声とともに男はその場から跳ねた。そして男を噛み損ねたワニ人間の頭に飛び降りると、今度は怪物の頭を踏み台にしてさらに高く跳んだ。見上げたワニ人間の目に、高くなり始めた太陽が一瞬入った。
「うっ、眩しい。奴はどこだ?」
男が太陽を背にして、ワニ人間の右目をモリで貫いた。怪物はあまりの痛みにうめき声をあげた。
「グルルルルッ」
だが、男はそこまでで力尽きたのか、着地するとその場に倒れた。
「おのれっ、モルモットのくせに。殺してやる……」
モリを抜き取りコンクリートの地面にたたきつけると、ターニャに抱えられた男に向かいワニ人間が突進していった。その時ハーモニカの彼が怪物の死角から現れ、数発の拳が脇腹に打ち込まれた。
「グワッ」
「おいおい、ボディも少しは鍛えておけよ」
立て続けに数発のボディブローが入り、怪物の巨大な顎がたまらず下がった。
「これでどうだっ、化け物!」
その顎を突き上げるように見事なアッパーカットが炸裂し、ワニ人間は後方に倒れた。




