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約束の地  作者: 黒瀬新吉
17/328

17.ナブラ

ナブラ


海中の小魚が肉食魚から身を守るのには、敵よりも更に巨大な生き物になり、一時的にそれを脅かして追いはらう、つまり群れるしかない。それを「ナブラ」と呼ぶ。落下するプテラとメールの眼下には、その「ナブラ」が広がっていた。その小魚たちには長いヒレがあった。


「さあ、ご覧なさい、プテラ」

「あれは、なんのナブラだ。魚たちが俺たちを見ている…」

次の瞬間、一尾が海面を飛び立つ。それを合図におびただしい数のトビウオの群れが二人を受け止めようと一斉にせり上がってきた。まるで網の「ナブラ」が海面から放たれたようだ。


「そんなもので俺を受け止めようというのか、よせ無駄なことだ」

プテラの言う通り、その程度では二人を受け止めることなどできない。落下の衝撃を緩和し、多少速度は弱まったものの、トビウオの網はズタズタに引き裂かれていった。しかし、それが彼らの役目だったのだ。


「ありがとう、トビウオたち。そして間に合ったわね、アガルタの守護神たち」

メーラは微笑んだ。

「あれは、なんだ。巨大な島、いやあれはクジラか…」

プテラの目に海面に浮かぶ数頭の巨大なクジラが映った。そのクジラの群れは一頭また一頭と仰向けになり、ゆっくりとシワの入った灰色の腹を海面にさらした。


「大ナガスクジラ、こんな海の中でも、まだ生き延びていたのか。そして、ずっと待ち続けているというのか…」

「プテラ、あなただってそうでしょう。だからルーラのことを誰にも言わなかったのでしょう」

「そうかもしれない、こんなものを見せられれば、お前たち七海の人魚が再びこの星のシャングリラを見つけられるかもしれないな。さあ、俺も少しは羽ばたいて衝撃を弱めてやろう。大ナガスクジラの腹が裂けては申し訳ないからな…」


プテラは渾身の力で羽ばたいた、それでも大ナガスクジラの腹にはかなりの衝撃がある。やがてクジラの腹は空気で膨らまされ、そして衝突のタイミングを計り今度は逆にしぼんでいった。反動で空に投げ出されたメーラをプテラが追いかけ、器用に空中でメーラを背中にすくって乗せた。


「私は大丈夫、それより早くマーラ達のところへ行かなきゃあ」

そう言うとメーラは再び海中に潜ろうとした。

「そうか、それより大切なことがある。俺の知っている人魚はルーラだけじゃない、俺は氷山に閉じ込められていた人魚を知っている」


「氷山に閉じ込められた人魚…」

メーラはその人魚に心当たりがなかった。

「七海の人魚以外の人魚、まさか…」

プテラは話を続けた。

「それは石化した人魚たちなんだ」

「人魚たち、一人じゃないというの?」

「ああ、間違いない。もしかしたらその人魚たちはシャングリラ人魚ではないかと思う」


ゆっくり海中に潜り始めた一頭の大ナガスクジラがメーラに言った。


「メーラ、プテラの言ったことは本当だろう。実はその人魚についてはわしも白イルカから聞いている。氷山の人魚は『先の戦い』の生き残りではないかとわしは思っている。プテラ、わしからも頼むメーラを守ってやってくれ」

「俺に、メーラを守れというのか」


その答えを待つまでもなく、大ナガスクジラは海中に消えた。

「行きましょう、プテラ。その人魚を探しに」

「やれやれ、とんでもないことになった。まあ、一度は死んだこの俺だ、それに心当たりもある、行くしかないな」

「プテラ、シャングリラ人魚はね、エスメラーダを最後まで守り消えてしまった。だからきっとその氷山は特別なものに違いない。おそらく彼女らが守っているものは…」

「メーラ、その先は俺にもわかる、よし一緒に行こう」



「マーラ、彼らにも伝えてちょうだい。まだアガルタの光は消えてはいないことを…」


プテラが片翼を傾け、マーラたちに合図をすると西へ飛び去った。

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