11.アガルタ調査隊
アガルタ調査隊
「君は『記憶の遺伝』というものを信じるか?」
長官の問いに彼は明確には答えなかった。もちろん彼は今までそんなことを信じてはいなかった、だが彼は最近『不思議な記憶』に悩まされている。その記憶に心当たりはないが、白昼夢のように繰り返すのは記憶にはない『アガルタ調査隊』のことだった。
「またあの夢だ……」
決まって満月の夜、明け方近くに彼はその『夢』で起こされる。何度も繰り返すのは淡い黄緑色の光に包まれた眩しい少女の裸体。それは今にも動きだしそうな姿のまま、ぶ厚いガラスのケースにでも閉じ込められているような感じだ。もちろん彼にはその少女に心当たりなどない。しかし、彼女の名前を彼は知っていた。そしてこう彼女の名を呼ぶ……。
「君の名前は『碧』だね……」
D r.matoba、的場博士の数多くのシステム設計図とは別に、記憶ディスクが一枚アカデミアの研究室に残っていた。しかしそれに残されていた記録は到底信じられないものだと「アカデミア」は結論づけていた。星間航法のエンジン、異星人の話、月の先住民などについての記録などは、地軸の移動、そして大規模な人口減少が進む当時では精査する余裕がなかったのも仕方ない。アカデミアはAIなしで稼働するシステムを秒単位で再構築する必要に迫られていた。その功労者マイトが「ディスク」をもう一度精査しようとするのを見て、疎ましく思ったアカデミアは長期休暇の名目で、隆起したばかりの『新大陸』の調査を命じたのである。少女は的場博士の一人娘「碧(みどり」に違いない。記憶ディスクの内容をマイトは暗誦さえできた、彼女の名前を呼んだところで、いつもマイトは目を覚ますのだった。
「彼女は、いったいどこに眠っているのだろう?」
アカデミアが用意した「アガルタ」行きの飛行艇の中で、マイトはその少女のことを思い出しながら浅い眠りに入った。そして数時間後、緑色の大陸が飛行艇の白い翼の下にようやく見えてきた。緩やかに飛行艇が海面に着水したのと同時に、目を覚ました彼は海面の反射光に少し目を細めた。
「アガルタ出発は、明日の午後一時になります。お気をつけて」
上陸艇に乗り込んだ彼等五人を残して、飛行艇はまもなくオーストラリアに戻っていった。
「これが、海底に沈んでいたアガルタなのか」
アカデミアから真っ先に派遣された彼らは、次々と新大陸に上陸した。マイトはまだ十分乾ききっていない地表に目を落とした。岩の表面にはは干からびた海藻がこびりついていた。潮風に運ばれて生き物の死骸、貝の腐臭が彼の鼻に届く。もちろん海底の生き物がそのまま「陸上げ」されたわけだから、それらはたいてい新種の生き物だ。だがマイトにとっては専門外、立ち止まるほどの興味は湧かなかった。
調査に参加した彼らとは、互いにこれまで面識はなかった。マイトも含めた『調査隊』の5人は各国から派遣された専門機関も者達だった。
「ここにはまだ誰も足を踏み入れていない、誰も知らない地球の歴史を俺たちは覗けるかも知れない」
彼らのうちの一人が感慨深そうに言った。
「急ぎましょう、内部に洞窟があるみたいよ。それも巨大な物が……」
スキャニング用の小型『透過双眼鏡』で大きく口を開けた洞窟を確認した少女が小走りに先を急いだ。
足並みを早めた彼らは、少しずつアガルタの内陸部へと進んでいった。




