始まり
「お前を窃盗、拉致の容疑で排除する。逃げるな。逃げたら私達の仕事が増える。」
感情か何かを押し殺したような声で淡々と告げる。
「そう言われたら逃げる人が大多数じゃないの?」
「・・・」
無言でこちらへ来る。
どうやら銃を持っていないと思っているようだ。
「一体誰だって。場所を変えよう」
「そんな見え透いた誘いに乗る訳がない。」
「そういえば、メタルオブブラッドって組織が結成されるみたいだが、お前のやってる事は暴力的犯罪者じゃないか?」
「犯罪ではない。」
目の前まで来たか。
「じゃあその物騒な物を仕舞えよ。いや、鉄くずを!」
引き寄せ。腰に見せるようにぶらさげた銃を向こうへ飛ばす。
「チッ、作戦だったか!」
肉弾戦に持ち込もうとするが、鎧。金属。反発の能力でストレートな動きだった拳は変な方向へ行く。
すかさず僕はその腕を掴み、体勢を崩す。
「僕はバグじゃない。あの銃ならここに売ったし、拉致とかは暴力的な事はしていないだろう」
「く、救援を要請する!」
「はぁ。大事にするなって」
この女戦士的な人間を外へ持っていく。さすがに裏口の前で騒ぎは起こせない。
「場所を変えてくれ。さすがにここじゃ騒ぎは起こしたくない。」
「く・・・いいだろう・・・」
救援を呼んだからかやけに余裕そうだ。それにこんな武器を持たない少年じゃ危害を加えるつもりはないと確信しているらしい。とんだ能天気だ。
やがて近くの公園へ来る。来てすぐ、目の前に一人の人間が現れる。
「おい!無事かキャサリン!」
「一人だけ!?」
(ん?)
駆けつけたのはさっき会った髪がブロンドの男性。どこの組織だ?
「どうやら混乱しているようだが・・・」
片手でその男性の鎧を引き寄せる。
「か、体が勝手に・・・」
「銃を使え!私の事はいい!」
「盾にはしないさ。」
今まで手で押さえていた女性を放し、両手を上げる。上げる途中にひとつのアメを口の中に放り込む。
「僕は何もやっていない。こんな男女が来るような事もしていないし」
その男は銃を構えている。撃つ気か。
「第一何も」
「ここだっ!!」
ああ、対策はばっちりしている。
銃から吐き出された弾は重力に引かれるように、そして回転力を失ったまま地面へ落ちた。
「!?」
「な、何が起こっているの・・・」
「状況がいまいち分からないけど、悪役が精一杯喋るための配慮だ。」
今この場では自分が悪役なのかもしれない。
「き、貴様っ!!卑怯だぞ!!」
「どの口が言うかな。」
会話中に銃を撃つ人がどこに居る。
僕は横で武器が無くなった女戦士に確認を取る。
「僕がどういうバグを犯したのか、言ってよ」
「・・・窃盗、拉致。」
「証拠はどこだ」
「被害者。今日バグを起こした犯人が話した。」
「拉致の方は?」
しかしここまで聞いた所で男が大きな声で喋る。
「俺が発見した。証拠映像が欲しいならくれてやるよ。たっぷりと、後でな!」
銃を何発も乱射するが、どれもポテ、ポテと勢いを失って地面に落下する。
「何故だ!何故当たらない!!」
「腕を狙ったのは偉いが、弾を無駄にするのはいけないよ。」
後ろ。物体の移動による磁場の乱れ。
僕は咄嗟にしゃがみ、磁場で形成されたフィールドを解除する。
「く、騙し討ちも効かないか・・・!」
「もし子供達のヒーローなら正々堂々と行ってよ。こんな3人で寄ってたかって子供を虐めるのは人間らしくないよ」
「ウルサイ!この犯罪者が!」
女性が叫ぶ。どこの被害者だろう。
「僕はあんたらに危害を加えるつもりはない。代わりに僕の無罪を認めろ。」
フィールドを再度形成する。このフィールドは手から発する磁力を一定の空間に留める事で銃などの凶器をほぼ無効化できる。
「ついでにお前達が所属する組織のリーダーに会わせろ。このままじゃ許せない」
「ぐ・・・リーダーに会えば、納得するんだな?」
ブロンド短髪の鎧っぽい衣装を着た男性が武力行使は無駄だと思ったのか会話に持っていく。
「ああ。ついでに僕の名前を知っている人が居たら教えて欲しいな。」
「・・・こっちだ、付いて来い。」
「よっ、と」
落ちた弾丸を木の裏に向けて飛ばす。
「!?」
木の影から飛び出して逃げる黒い人間。どうやら盗み聞きしていたようだ。
「本当の悪は、こっちじゃないかな」
たまたま磁場に引っかかっていただけだ。多分この磁場に耐えられるということは人間だ。
その後何事もなく本拠地に着き、リーダーと言われる白髭で、白髪の、緑の軍服を着た老人が出てくる。
「話をしたいというのはお前か」
「はい。この組織がどういう物か聞きたくて来ました。」
「まさか、三人を無力化してここまで連れてこさせるとはな。」
「武器が銃だけだったので。」
この老人は少しでも僕の情報を集めようとしていたが、すぐに顔色が悪くなり、
「・・・くそ、お前ら。本当にこいつは暴力的犯罪を犯したのか?」
「はい。窃盗に、拉致。証拠だってあります」
女戦士は口早に告げるが、
「犯罪を犯した奴の目はこんなものじゃない。罪の意識が無い人間も見た事はあるが、これほど罪を犯していない自信に溢れた人間は初めてだ。」
僕はというと、この白に囲まれた綺麗な世界を見ていた。
「そういう人間も居るのでは?」
「おい、貴様。キサマ。」
しかし見学はすぐに止めさせられる。
「はい。」
「貴様から話を聞きたい。こちらへ来い。」
「はい。」
取調室のようなものだろうか。金属製の机に木の椅子。木の椅子はわりと貴重だが・・・そして扉は一つしかない。当然僕は奥の方へ座らされる。
「ああ、まずは名を名乗ろう。ドルド・アーリだ・・・そちらは名前が無いのだったな。」
その老人が仕切り直すように咳払いをしたあと、本題へと入る。取り調べとも言うべきか。
「では窃盗についてだが、貴様は銃を盗んだようだな。」
「ああ、犯罪者を見かけたので、銃を取って犯人を取り押さえる事に貢献しました。その銃は今はあるジャンク屋に渡しました。」
「その銃は重要な証拠になる。これからは売らずに渡すように。それと、拉致は、我等メタルオブブラッドの団員から証言が出ている。」
「それは、丁度空から降って来た星人を保護しただけです。」
「その星人は、今もいるのかね?」
「はい。ジャンク屋に。」
「はぁ...。今、3人に向かわせている。貴様はここから出るな。」
この男性は僕から聞きたい言葉だけを言わせるように喋っていた。
あの三人はもうすでにジャンク屋に向かっている。何か危害を加えられなければいいが。
しばらくの沈黙と静寂がこの個室を包み込むように、そしてこの空間の時を加速させているかのようにすぐにその時はやって来た。
ドルドが左耳を押さえている。どうやら連絡が入ったようだ。
「・・・その星人は我々が保護する事にした。貴様も解放する。ついでに・・・どうだ、我々メタルオブブラッドと協力しないか?」
「普通に生活するだけの金が二人分貰えるのなら協力するけど、無理なら協力はしません。」
「ではこの話は無かった事にする。」
「そっか」
この後、丁寧にジャンク屋に帰された。帰還メンバーは僕とハカセのみだ。
「ったく、面倒すぎる。巻き添えだ。」
「別にいいじゃんか。それより今回の事でアメ2個も使っちゃったから作ってよ」
「お前、俺からジャンク屋の仕事を奪う気じゃないだろうな…?」
アメを作るのには少々の手間が必要らしい。それを二個。その後にはこちらのテレビの修理も控えているのだ。もう僕の専属メカニックになってしまいそうだ。
「ああ、アメは後できちんと作って置く。残りはどれぐらいだ?」
僕はポケットから紙に包まれたアメを取り出す。
「1個…しかないな」
「そうか、0個じゃないだけ安心したよ。」
僕は自衛の手段として強化を施せる『アメ』をハカセに作ってもらっている。なぜアメなのかというと、持ち運びしやすい上に成分を摂りやすいから、らしい。
「じゃあ、今日のところは帰る。また明日。」
「テレビが故障しているんだろ?ここで泊まっていっていいぞ」
「でもこっちのテレビも壊れるかもしれないし?」
「その時はその時だ。別に構わない。」
こうしてジャンク屋で寝て、また朝が来る。
光の通りは最悪だ。窓が取り付けられているくせに窓からは目の前に建っているビルを見る事しか出来ない。
(目覚めも最悪だな・・・)
微妙に硬いソファだ。こんなのに毎日寝ていたらと思うと苦しくなる。
「ああ・・・・起きていたか・・・丁度いい・・・あとは、まか....せ.......」
ハカセがソファの前までやってきて倒れる。
「さて、帰るか。」
僕の住居は殺風景でベッドとテレビとそのリモコンだけがばっちり備え付けられている。他の物は全てない。冷蔵庫も僕の発する電磁波で比較的すぐに故障するし、電子機器全てが長く使えなかった。
電気を使わないテレビ、電気なしで冷やせる冷蔵庫など、そんなものは無い。それだけ電気はこのメタルランドの中では、安価で、便利な資源なのだ。
僕は自分の部屋に着き、すぐにベッドに倒れ込む。
(ああ、もう朝なのか)
しかし今が朝だという事に気付き、起き上がる。かなり僕は疲れているのだと確認した。
テレビを付け、それを眺める。
・・・眺めようとしたが、テレビがほぼ全ての局で映らない。生きている局は1番のみだった。
そしてその1番では堂々と犯罪予告が行われている・・・
「...した!これより、我々天界人は地上を乗っ取る事にした!すぐに投降すれば、貴様らの命は見逃してやる!繰り返す!貴様らは重大な罪を犯した。天界の第一王子であるラミエルを殺し、天界の秩序を破壊した!これより、我々天界人は地上を乗っ取る事にした!すぐに投降すれ」
ピッ
・・・「大事になり過ぎだ」
テレビを見る限り、髪がすべてお亡くなりになった星人が、大きな舞台に立って演説をしていた。それと、王子?が、死んだ?・・・嘘じゃないのか?
「メタルオブブラッドの連中・・・」
歩きながらそんなことを呟く。




