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魔王の長女に転生したけど平和主義じゃダメですか?  作者: 初瀬ケイム
花降り編 第五章 せんりつとともに
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第四十四話 夢より尊いこの時間

 魔族領王都への出発を一日先送りにし、ルディアムの宿でもう一泊することに決めた俺たち――。


 ただ泊まるだけなら、そのまま今の部屋を借り続ければ問題ないのだが……


 俺の"やりたいコト"の為に、部屋は変更して貰った。


「わぁー! 広ーい!!」


「ひろいのー!!」


 アイリスとコロネが、新しく借りた部屋にはしゃぐ。


 そこは宿一階にある大部屋――。


 本来なら、大人数の冒険者パーティなどが借りる部屋らしい。


 その大部屋に、俺たち全員が集合する。


「よっし! そんじゃ……準備開始だ!」


 俺はエリノアや幼女たちに手伝ってもらいつつ、"準備"を進める。


 太陽の光が差し込む窓を、"力"で出した"遮光カーテン"で覆う。


 遮光性バツグンの一級遮光カーテンで覆われた部屋は、まだ昼間だというのに暗室に早変わりする。


 その上で更に、わずかな光も漏れ入らぬよう、カーテンの淵を布テープで封じていく。

 ドアの隙間も同様に、だ。


「わぁ! 真っ暗であります!」


「夜みたいだね~。」


 そう。

 真っ暗だ。


 その真っ暗な部屋に、今度は"スタンドライト"を配置していく。


「……明るく……なった。」


「暗くしたり明るくしたり……何をしたいのじゃ?」


 幼女たちは訝しむように俺を見る。


「何をしたいって? 」


 俺はフフンと笑って答える。


「"夜"にしたかったんだよ。」


 さぁ、始めよう!


 題して……


 『真昼のパジャマパーティー』を!!


***


 部屋の準備は、午前中を費やして完了した。


 広い部屋の中央には、フカフカのカーペットと可愛い丸テーブルを配置。


 柔らかなスタンドライトの光に照らされた室内は、まさに"女の子"のお部屋だ。


 そしてッ!!


 そしてもちろん、主役は幼女たちだ!!


 俺が全員に配ったのは、そう!


 アニマルキャラクターの着ぐるみパジャマ!!


「……レティ……どう?」


 シャルは紺色におなか部分が白。

 フードに黄色い嘴の付いた可愛い"ペンギンさん"パジャマだ!!


「な、なんだか……恥ずかしいでありますな……。」


 ロロにはビーグル犬モチーフの"ワンちゃん"パジャマ。

 茶色に黒のブチ模様で、垂れた耳がキュートだ!!


「な、なんだか落ち着かないのじゃぁ……。」


 グリムは灰色の"ネコちゃん"パジャマを着ている。

 首元の鈴と長いしっぽが魅力満点だ!!


「でもなんだか楽しいよ~!」


 ミリィは"キリンさん"パジャマ!!

 オレンジがかった黄色のアミメ模様とフードについた角がチャーミング!!


「え、えっと……いいんでしょうか。ボクまで……。」


 シュレムには白と黒の"パンダさん"パジャマを用意した。

 お尻部分にはお団子のような白いしっぽが付いていてとっっても愛くるしい!!


「すごーい! かわいい~!!」


「ふぉぉ! みんなどうぶつさんなの!!」


 アイリスはフードにたてがみの付いた黄色の"ライオンさん"パジャマ。

 コロネのピンク色の"ウサギさん"パジャマは、フードに付いた長い耳がぴょこぴょこと揺れる。


「あぁ~~!! なんて……なんて可愛いんでしょう……!!!!! ぎゅって……ぎゅぅ~って抱きしめたいですわぁ……!!!!」


 興奮気味にエリノアが感嘆の声を上げる。


 ……あ、ちなみにエリノアはフツーのパジャマだ。

 特に可愛さは求めてないんで。


「さて、そんじゃ始めっか!」


 緑色の"カイジュウさん"パジャマを着た俺は、幼女たちに号令を掛ける。


 が、幼女たちは戸惑い気味だ。


「始めるとは……何をするんでありますか?」


「ん? 特に決めてねぇよ?」


 ロロの問いに、俺はキッパリと答える。


 パジャマパーティーの準備はしたが、その中身については全くノープランだ。

 特にゲームをするとか、何かのテーマで話すなんていう企画は用意していない。


 だが……


「こんだけ"女の子"が集まってりゃ、話題なんざ自然と沸いてくるだろ? 特に……今まで隠し事があって、みんなと素直に話せなかったシュレムにとってはな。」


 言われてシュレムは、ハッとした表情を見せる。


 そう。

 それがこのパジャマパーティーの本当の狙いだ。


 同年代の幼女たちと旅をして……だけど目的の為に、自身を偽り続けてきたシュレム。


「な。もう嘘なんてつく必要ねぇんだから……みんなと楽しく、おしゃべりしよーぜ?」


 そう言ってやると、シュレムは幼女たちの顔を見回す。


 みんなは……そんなシュレムを、微笑んで迎えた。


「レティーナさま……みなさん……!! 改めて……改めて、よろしくおねがいしますっ!!」


 幼女たちから暖かい拍手が飛んだ。


 そこからは俺の目論み通り。

 テーマなんて与える必要もなく、みんなでワイワイキャイキャイと女子トークを延々続けた。


 丸テーブルの上に並べられたお菓子やジュース、ちょっと高級なアイスとかを時折つまみながら――。


 実際、幼女たちもシュレムとのおしゃべりはしたかったらしい。

 シュレムへの質問が、嵐のように飛び交った。


「へぇ~! じゃあシュレム殿は御父上の役に立とうと呪術や馬車を勉強したんでありますか!」


「え、えっと!……はい!」


「……すごい! ……シュレム、えらい!」


「そ、そうでしょうか……?」


「うむ! やろうと思ってもなかなか出来ることではないぞ!」


「パパ思いなんだね~!」


 楽しそうに話す幼女たち。


 あぁ、尊いなぁ。


「シュレムさん……皆さんと打ち解けたようでよかったですわぁ。」


 ほっこり顔で幼女たちを眺めるエリノア。


 あ、そうだ。

 エリノアに教えといてやんねーとな。


「エリノア。シュレムは女の子だぞ。」


「ふぇっ!?」


 素っ頓狂な声を上げるエリノア。


 あ~、やっぱまだ騙されたまんまだった。


「そ、そうなんですの!?」


「あぁ。今朝確認した。」


「か、確認!?!? 何を!? 何を確認したんですの!?」


 何を想像したのか顔を赤くするエリノア。


 ほんっとにコイツはサキュバスだな。


「あ、そうそう。」


 興奮するエリノアのことはほっといて、俺はシュレムに問う。


「シュレム。そういえばシュレムの"力"ってさ、誰にでも自由に使えるのか?」


 シュレムの"力"――。


 相手の夢に入り込み、見せたい夢を見せる"夢渡り"の力――。


 もし使うのに制限が無いようなら、その……イロイロお願いしてみたかったりするのだ。


「えー! おねーちゃんだけズルいー!! わたしも楽しい夢見てみたい~!」


「ころね! おそらをとんでみたいの!!」


 アイリスとコロネも乗っかる。


「あ、えっと……。すみません。実はちょっと面倒な条件があるんです。」 


 そう言って、シュレムは一枚の紙切れを取り出す。


 その紙には……何やら複雑な図形のようなものが書かれていた。


 なんとなくゲームやアニメに出てくる"魔法陣"のような印象の図形だ。


「これは"夢渡り"の力を使う時に用いる"呪印"です。これを相手に、眠りにつく前、半日以内に見てもらう必要があるんです。」


 ほぉ、"呪印"か。


「これってシュレムが作ってるのか?」


「はい。……でも精密なものなので、一枚作るのに半日ほど掛かります。しかも一度使ったら効力を失うので……今あるこれも、使用済みの呪印なんです。」


 へぇ~。

 結構面倒なんだな。


「あ、それ! 見覚えがあるであります!」


「わたしも! 部屋のドアに挟んであったの見たよ!」


「妾も見たのじゃ!」


 幼女たちが口々に言う。


 ……あ、そういうことか。


「みんなが俺と"お散歩"して部屋を空けてる間に、シュレムがその"呪印"を仕掛けたのか。」


「……そうです。ごめんなさい。」


 なるほどな。

 だからデートした日の夜に、毎回ああなってたってワケか。


 で、シャルの時は"呪印"を作る時間が無かったから、仕掛けられず……


 結果、シュレムが自ら襲撃を掛けるしかなかったってことだ。


「レティーナさまもすみません。簡単に使える"力"であれば、レティーナさまの望む夢をお見せ出来たんですけど……」


「あ、いやいや! 気にすんなって!」


 誠実に詫びるシュレムに、如何わしい目的で使おうとしたなどと言えるはずも無かった……。


 うん……残念だけど諦めよう。……残念だけど。


 まぁ夢なんかより……目の前にある"現実"の方が、ずっと夢みたいだしな!


 可愛い幼女たちに囲まれての女子会!

 今はそれを堪能しよう!!


「さて! そんじゃゲームでもするかー!」


「わー! いいね! 何するの?」


「みんなで対戦するゲームがいいと思うであります!」


「ふっふっふ! 妾は負けぬぞ!」


「よーし! 対戦するゲームだな!」


「……いいけど……レティ。……"ツイスターゲーム"は……ダメだよ?」


「う……! 何故分かった!?」


「? "ついすたーげーむ"って何ですか……?」


「わーい! ゲーム!!」


「まけないのー!」


 賑やかな笑い声が絶えず響く大部屋で、俺たちの"パジャマパーティー"は延々と続くのだった。

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