第6話 講習会2
晩飯を食べ終わり日が落ちた頃、Eランク冒険者たちは焚き火を囲んでいた。ゲイルは夜間の見張りは新人達には流石に任せきりには出来ないと言って仮眠を取っている。もちろん、Eランク冒険者たちも交代で見張りをする。
「へぇ、旅ですか」
30代後半の男はグトラスと言い、10代の少女はカナミアと言った。彼らはリミア王国の北側にあるトリエンと言われる街から来たようだった。ちなみにガーランは中央付近にある。
「その傷はどうしたんですか?」
「……これは、ここへ来る途中でちょっとな」
グラトスの右腕には肩から手の甲にかけて大きな傷が一筋についていた。
「ほら、カナミアも黙ってないで仲良くしたらどうだ?」
「……うん」
「まあ、こいつは人見知りが激しいんだ。悪いな」
「いえいえ!御淑やかということですよ!ねっ?」
ササッ
レイがフォローしつつ「でしょ?」と言った様にどや顔してカナミアに視線を送ると、慌てて逸らされる。
「そう言ってくれると有り難いな」
と言うと白髪混じりで金髪の角刈り頭に、よく鍛えられた褐色の肌で気の強そうな男には似つかわない寂しそうに懐かしむ顔をする。
グラトスの隣でもカナミアは短めの金髪を垂らし下をうつ向きながら同じ様な顔をしていた。しかし、グラトスよりも悲しさや寂しさの感情が色濃く見える。
Eランク冒険者達の自己紹介が終わった頃、テントの中からゲイルが出てくる。
「じゃあ、見張りの順番決めするぞ!」
と言うと、枝で作ったくじを引きペアを作る。
レイとカナミア、グラトスとゲイルの組み合わせになった。ゲイルは一応夜通し起きているため、実質全ての組み合わせに入る。
「んじゃ、夕方説明した通りやってくれ!」
晩御飯を食べ終え、ゲイルが仮眠をとる前に見張りの説明を受けた。基本は焚き火は本来せず、闇に目を慣らせておかなければならない。という事があったが、今回のメンバーは焚き火したところで目に支障はでなかった。レイは鬼気による強化で問題なく、グラトス達はこれまでの旅で慣れたらしい。そのため今回は、火があると獣は寄りにくくなるため焚いている。
ゲイルとグラトスはテントに行くと、レイ達は殆ど話さないカナミアと話し掛けたいけど何を話せば良いかわからないレイ。仲が悪い訳ではないが、楽しそうな雰囲気は全くない。
「………その長剣って重くない?」
「別に?」
カナミアの直ぐ手元に置いてある長剣を指す。柄は握りやすいよう手のひらの中心あたるところが少し膨らんでいて、長剣では珍しい円い鍔が付いている。鞘に入ったままでも分かる、厚みのある刀身が長剣の長さ分に渡ってあるのでそれなりの重さは有るだろうと思われる。
しかし、話題に作りの為に苦し紛れで出した言葉に対し「君の剣の方が思いよね?」という意味を含む答えが返ってくる。
「これ?俺としては重くないよ」
「本当?」
小柄な少年であるレイには確実に重いであろう大剣を問題ないと言うのは俄に信じられないようだ。
「ほら」
「っ!?」
大剣を鞘から抜き両手で構え、軽く振る。レイは事も無げにやっているが、やはりその膂力には目を見張るものがある。
言葉数の少なく無表情のカナミアの姿しか見ていないレイは驚く様が新鮮だったのか調子に乗って抜き身の大剣でジャグリングをしてさらに驚かせていた。
「ん?何かいる……のか?」
正にお調子者の象徴だったレイがふと、動きを止めて闇に茂る木々の間の叢に目を向ける。
すると叢の中から2匹のワーウルフが姿を現す。普通の獣である狼とは違い四足を地についた状態で頭の高さが2m近くあり、体つき自体も筋肉質で引き締まっている。
ほぼ同時に2匹が走り出し、若干先行している1匹がカナミアに飛び掛かる。
「………っ!」
息を止め、軽く膝を曲げて屈む。ワーウルフが先程までカナミアの首があったところに噛み付くが、そこにはもう何もない。上手いこと懐に潜り込み抜剣し、その勢いのままワーウルフの首筋を切り裂く。魔物特有の血液ではない液体が吹き出して、カナミアの視界を奪う。
1匹片付けた途端、もう片方の1匹が波状攻撃でカナミアに飛び掛かる。しかし、カナミアの視界は奪われている為動く事が出来ない。
「届けっ!!」
抜き身にしたままであった大剣を右手で逆手に握り、槍投げの要領で2匹目のワーウルフに投合する。この時、一気に大量の鬼気を纏ったため尋常ならざる速さで飛んで行きワーウルフを串刺しにしたまま闇に消える。
更なる刺客はいないかと警戒してから、カナミアに寄って安否確認を行う。
「ありがとう」
血液的な何かが掛かっただけで特に怪我もなく、無傷の勝利をしたのは上出来だった。ワーウルフは一般認識で単体ではEランク級、2匹以上でDランク級とされている。
騒ぎで目を覚ましたオッサン二人、ゲイルとグラトスは戦闘終了してからテントから出てきていた。
「おおー!良い動きだなカナミア!」
「レイは一体………」
ゲイルはカナミアの剣術を評価している。カナミアは剣士として闘える力があるが、剣での戦闘のしたことのないレイは剣術と言える闘い方ではなかった。
そんなレイだがグラトスには驚かれていた。少なくとも小柄な少年から想像できる膂力ではなかった。
「あ、れ?」
レイが急に膝から崩れる。原因は鬼気の使用によるものだった。鬼気はスタミナつまり体力である。大剣を投合した際に、大量の鬼気を纏った為体力も大量に失ったのだった。
体力枯渇状態のレイはそのまま眠り込んでしまい、交代の時間も近いということで見張りを代わる。大剣がすっ飛んで行くところを見たゲイル達は大剣をまず探しに行き、夜は更けていく。