上映作品‐1 "サイレントスニーカー" #10-2
これまで"サイレントスニーカー"を読んでいただいた方、誠にありがとうございます。
どうもお待たせ致しました。今回が"サイレントスニーカー"の最終話となります。
前話まで読まれた方もこれから読まれる方も、最後まで楽しんでいただければ幸いです。
アイマン支社崩壊後1ウィン(週間)ほど経ったあたり、エイボリー下3番街にて。
夜の繁華街を、白っぽいグレーのスーツで歩いている男がいる。"大佐"だった。
夜だけに飲み屋(女の子がいる)の引き込みや街娼、さらには酒に飲まれてうろつく酔っ払いが彼に絡もうとするが、彼が一瞥しただけで何故か皆引いていった。
やがて彼はある居酒屋の前に着く。
その居酒屋の入り口はアルケリアでは珍しい引き戸になっていて、その上から編んだ縄を何十本も横に連ねたものをぶら下げている、いわゆる"東州"風の店だった。
ぶら下がった縄を軽く避け、"大佐"はここに何度も来たことがあるように入っていく。
店の中は入ってすぐ左に7~8人座れるカウンター席が、右側には4人掛けのテーブル席が2つあり、さらにその奥には紙を張った引き戸が2つあって、そこはそれぞれ履物を脱いで上がるタイプの個室になっているようだった。
「いらっしゃいませ~」
"大佐"が店に入ると給仕の女中から声が掛かるが、彼女に一瞥すらせずカウンター内でせっせと調理をしている店主らしい男に声を掛ける。
"大佐"の様子に女中は一瞬呆気に取られるが、すぐに接客用の笑顔に戻り仕事に戻っていった。
「奴は来ているか?」
「あ、いらっしゃい旦那! お連れさんなら奥で先に一杯やってますぜ! おい、サクラ! 奥にお客さん案内しろ!」
「はい! お客様、こちらへどうぞ。ご注文の際は中に鈴が置いてありますので、それを鳴らしてお呼び下さい。では、ごゆっくり」
サクラと呼ばれた女中は先程無視されたことなど無かったように振る舞い、"大佐"を個室の一つに案内すると頭を下げカウンターの方へ戻っていった。
"大佐"が引き戸を開け中に入ると、中には座卓があってそこに男が一人胡坐をかいていて、彼が来る前から突き出しをつまみに手酌で飲んでいる。男はユーゴーの父親であるミツヨシだった。
「おう、来たか」
「遅くなった」
「いいって、いいって。お前ぇの役職じゃあ、定時なんて有ってないようなもんだからよ。気にしちゃいねぇさ。ほらほら、突っ立ってねぇで座れよ」
ミツヨシのざっくばらんな様子にも一切表情を変えず、"大佐"は彼の向かい側に座る。
「よし、じゃあまずは一杯」
「うむ、では頂こう」
"大佐"が杯を取ると、ミツヨシは手近にある銚子を取り上げ彼の杯に酒を注いだ。
ミツヨシは"大佐"が最初の一杯を飲み干すと鈴を鳴らして女中を呼び、頼んでいた料理を出すよう話をする。
それからすぐ座卓の上に料理が並び、2人はしばらく軽く雑談などしつつ舌鼓を打っていた。
ほどなく料理が平らげられ、落ち着いたところで"大佐"が口を開く。
「ところで、今日は何の用だ?」
「用? 何のことやら。俺は単に近頃会っていない友人と、一杯やりたいと思っただけだぜ?」
ミツヨシの言葉に日頃全く感情を表に出さない"大佐"が、彼を非難するように微妙に目を細める。
そんな態度の"大佐"にミツヨシは、降参とばかり胸の辺りで両手を挙げた。
「わかった、わかった。話すよ。ちょぃと前にウチのバカが家に来てよ、預かっている弟の遺品を漁ってたらしいんだわ。弟に関することといえばアイマン鉱山しか知らないからよ、あそこで何かあったのか聞きたくてな。ああ、一応言っておくが、お前と一杯やりたいってのも本当だぜ」
「そうか。私が彼らにあそこへ調査に行かせた。内容までは守秘義務があるから言えないが、先日あそこでの調査が終わったと報告があった。直に戻ってくるだろう」
「そうか」
ミツヨシは"大佐"の話にホッとした表情を浮かべ、自分の杯に酒を注ぎ一気に飲み干した。
その様子を見た彼の口の端が珍しく笑みの形で上がっていたのだが、ミツヨシが気付いたかどうか。
「しかしというかやはりというか、お前も人の親のようだな。だがお前、アレは勘当したのではなかったか?」
"大佐"の珍しく、本当に珍しいからかうような口調に、ミツヨシはムッとした顔で答える。
「お前なぁ……。自分の子がかわいくねぇわけねぇだろう。とはいえ真相はどうあれ、あれだけの事をやっちまったんだ、頭首として何かしらの罰を与えなければ門人に示しがつかんだろうが。一応言っとくが、俺はアレを勘当にはしたが破門にはしてないからな。で、一つ聞きたいんだが、アレの一件についてお前どこまで掴んでる?」
「軍内部の事だ、お前でも話すわけにはいかん。だが一つだけ言えることは、奴は罠に嵌められた可能性が高いという事くらいか。どうしても気になるようなら、自分で調べればいい」
ミツヨシの問いの回答を拒否した"大佐"に対し、彼は少し情けない顔で口を開く。
「そうか……。だからといって、俺はもう一線からは身を引いている。今更何もできねぇよ」
「そうか? 実のところお前の力も借りたいと思っていたのだが……。今回の一件、彼等だけでは追い切れない気がするのでな。かといって、他のチームや軍を動かして大事になるのも避けねばならん」
事件から何か危険な臭いを感じたミツヨシは、さっきの調子はどこへやら"大佐"の話にいつの間にか面白いものを見つけた子供のようになっていた。
「なるほど、この件は表沙汰にしちゃいけねぇってか。何かヤバそうな連中が相手のようだな。面白れぇ、いいだろう乗ってやるよ。近いうちにお前の事務所に行くから、茶菓子を用意しとけよ」
「わかった」
ミツヨシの受諾の言葉に、"大佐"は話が終わったとばかりに鈴を取り酒と料理を追加する。
それから2人は閉店時間過ぎてもまだ飲んでいたため、ついには店主まで加わり結局3人で飲み明かすことになった。
そこは闇の中にあった。
地下なのか、それとも窓が一切無いのか、そこには外からの光が全く入ってきていなかった。
一応、そこの壁にある柱のような出っ張りに白光石を用いた魔術灯が灯っていたが、闇を払拭するにはとても光量が足らずここが広間の様な空間であるということを示すだけで精一杯だった。
しかしそのおかげでその広間が横幅に比べ奥行きが長く、突き当たりが床面より少し高くなっている事が分かる。
そしてそこには石造りで背もたれが床から座面までの2倍以上もある椅子が設置されていて、まるで城にある"謁見の間"のようだった。
その椅子に"影"が座っている。
といっても"影"になっているのは胸から上で、そこから下は普通に"人"だった。
しかしその"影"が着ているのは、絹のような光沢を持つ生地に金糸で豪華な刺繍が施されているという、庶民では一生着る事ができないであろうものだった。
その"影"の前に男が一人跪いて頭を垂れている。
「クライン、アイマンではご苦労だった」
"影"から男に低い声が降り掛かる。声からするに"影"は男性で、跪いているのはアイマンから帰還したクラインだった。
「は、我が身の不甲斐なさで、シャリア様を止める事はおろか鉱脈一つを潰す羽目になり、もはやこの首落としてお詫びするしか……」
このまま放っておけば本当にするのではと思わせるような声音に、"影"が慌てる様子もなくゆっくりと声を掛ける。
「そこまでせずともよい、クライン。遅かれ早かれ、いずれ奴等に嗅ぎ付けられるのは予想がついていた。アイマンの鉱脈はしばらく使えなくなったが、鉱脈はあそこだけではないし、ほとぼりが冷めたらまた掘り起こせばいい。あそこは我等のものだからな。それに実験そのものも進んでおるようだしな。しかしまさかシャリアが、あの者にそこまで敵愾心を燃やしていたとはな……。それについては、気付かなかったこちらの落ち度だ。だからでもないが、この件でお前一人を責めるつもりはない」
「それは……、しかし……」
"影"は慰めるように声を掛けるがクラインは頑なに態度を崩さず、そんな彼に"影"がイラついて声を上げる。
「もうよい、今更何を言っても結果は変わらん! どうしてもと言うのなら、次にあの者が立ちはだかった時お前がその首を取れ!」
「はっ、ははぁっ!」
"影"からの怒声に垂れた頭をさらに下げるクラインだったが、数瞬の後やおら立ち上がると何かを決意したような顔で"影"に向かい深々と頭を下げて踵を返した。
クラインが出て行った後の"謁見の間"で"影"は独り言ちる。
「ようやく我の足元に辿り着くか弟よ! 我が座るべき椅子に今も座り続けるその罪、いずれその身で贖わせてやる! その時を恐れおののきながら待っているがいい! ワーハッハッハッハ……!!」
誰も聞く者もない哄笑が広間中に響いていた。
ユーゴー達がアイマンから帰還して1マース(月)後、"ドラグネット"にて。
この店は基本的に立ち飲みで、店内ホールには立ち飲み用のテーブル(4人用)が4つほどあり、壁のところどころには長さ50セラ(cm)x幅30セラの板が、1リム(m)程の間隔で店の内側を囲うように取り付けられていて1~2人用のテーブルとして機能していた。
一応座って飲むためのスツールもあり、それはカウンター前に6つほどある。
カール達がアイマンに行っていたため3マース近く店を開けていなかったが、開けた途端開店を待ちわびていた客が詰め掛けすぐにいつもの喧騒が甦った。
この日も"ドラグネット"は盛況だった。
ホールで賑やかに飲む者や壁際で静かに飲む者、それぞれが自分のスタイルで飲んでいて、その中を女性が一人注文を取ったり出来上がった品を出したりとくるくる走り回っている。
「お~い、ペールの大ジョッキ2つくれ」
「はい~、ただいまお持ちします!」
「おい、姉ちゃん。こっちは香草入り腸詰め2人前頼むなぁ」
「は~い。すみませんが、腸詰めはただいま茹でている最中ですので少し時間をいただいてもいいですか?」
「マスター、腸詰めまだですか~!」
「悪い、あと5ミニ(分)ほど待ってくれ! ああ、1番テーブルの注文分が上がってるから先に持っていってくれ!」
「はいっ!」
先程から忙しそうに走り回っている女性はエレナだった。ちなみに、言わずもがなだがマスターとはカールのことである。
エレナは下街区にある診療所で看護師として働いているが、あの事件の後路地裏にある上に周りにゴロツキが屯する場所にあるこの店を自力で探し出し、押しかけ従業員として入り込んできた。
当人曰く、自分の父親に一番近い場所がここだそうで、ここで働いていればいずれ父親の情報も入ってくると踏んでの事らしい。
さすがにカールもそれには頭を悩ませたが他のメンバーとも相談した結果、未遂とはいえあのような事がまた起きるかもしれないということ、もし断っても彼女が勝手に動いてもしもの事になる可能性もあるため保護の意味もあって雇うことにした。
そして現在、昼は看護師、夜はここの従業員として働いているが、どちらもフルで働くというのは体に良くないという事でここには人手がいるファイ(金曜日)・サダン(土曜日)の日のみの出勤となっている。
余談だがこの"香草入り腸詰"はここの名物で、腸詰そのものは王都で普通に売られているものだが、中に混ぜ込む香草のブレンド割合がカールのオリジナルのもので、いろんな職人たちが真似しようとしたが未だに誰も成功していないためここでしか食べられないものとなっていた。
「へえ、実は結構お買い得だったんじゃないか、彼女」
大ジョッキのペールを呷りながらユーゴーが、ちらりとエレナを見てからカウンター越しにカールへ話しかける。
店内は酔客で賑わっているのだが、カウンター前に座っているのはユーゴーとメイベルの2人だけだった。
実はメイベルのことについては大概の常連が知っており、彼女がユーゴーと一緒にいる時は皆気を使ってなるべく2人だけになるよう仕向けていた。
ちなみにアーガイルとロックハマーは自分の表稼業の事が気になるらしく、ここで夕食を摂った後早々に帰っていった。
「ああそうだな、彼女が動き回ってくれているおかげで、こっちも料理に集中できて助かってるよ」
「そうね、私やアーガイルが居合わせている時は手伝ったりもしたけど、ほとんど一人でやってたからね。雇ってよかったんじゃない?」
ちょうど腸詰の茹で上がり待ちで手の空いたカールがユーゴーの言葉に頷き、メイベルもユーゴーに同意した。
「そういやぁ、あの件あとどうすんだ? 引き続き調査するのか?」
「さあなぁ。あの件は行方不明者が発見できたことで、一応終わった事になっているから何とも言えんよ。報告書は提出したが、続行しろとはまだ言ってきてない。まぁ、続けられるなら続けたいところではあるがな」
仕事の話をしだしたカールとユーゴーに、メイベルが殊更明るい声で割って入る。
「ねぇ2人とも、一応でも終わったというのなら、今はそんな話はいいじゃない。ここは飲みましょ、ね」
「そうだな、やるかどうかの事を今言っても意味ないか……。んじゃカール、お代わりをもらえるか?」
「私にはそこのブランシェ"カミーユ"を」
「ほいほい、ちょっと待ってな」
メイベルの言葉に自身も頷きつつ、カールは注文の酒を用意していった。
それからしばらく3人で他愛無い話に興じていたが、注文がきたためカールがそちらに専念しなければならず、思いがけずこの場は2人きりになった。
いかに恋愛事に疎いユーゴーであっても、いくらチームメイトとはいえ妙齢の女性と2人になるというのはいささか照れるらしく、またメイベルも何の前触れも無く2人になったため心が追いつかず、結果2人して口を閉ざしてしまった。
こうなってしまうとさすがにどちらも自分から話を切り出すことができず、しばらく2人して自分の酒に目を落としてチビチビと飲んでいたが、やがてパッと顔を上げると意を決したような表情でメイベルがユーゴーの方を向き声を抑えて話し始める。
「あの、ユーゴー? ちょっといいかしら」
「なんだ?」
メイベルの声にパッと顔を上げるユーゴー。その表情はなんとなくホッとしていた様だった。
「自分で仕事の話はやめましょうと言っておいてなんだけど、何故あの人達はあんな事をしたのかなって。実験だからといってわざわざあんな所でしなくても、もっと他人に知られずにする方法だってあるはずと思うのだけれど」
ユーゴーは一瞬何かを思い起こすかのように眉をしかめて目をそらすが、すぐに目を戻し口を開く。
「さあな、と言いたいところだが、何となくこうではないかと思う事はある」
ユーゴーの言葉にメイベルは、何も言わず目で話の続きを促した。
「おそらく、あれはこちらに対するデモンストレーションだったんじゃないか。自分達はアレを持っている、アレを使っていつでもこの国を混乱に陥れることができる、そういうことを言いたいがためのものだったんじゃないかと思う。そして最終的には、今の陛下を降ろして自分がその玉座に座るために……。まぁ、これは敵の親玉が本当にあの方だったらの話だけどな」
ユーゴーの話を聞き終えたメイベルは、愕然とした表情で彼の顔を見つめる。
「でも、もしそうだったとしたら、また内せ……!?」
メイベルの口から出た言葉に、ユーゴーはそれ以上言うなとばかりに彼女に向けて手を上げた。
カウンターの向こう側で調理を行っていたカールも聞き耳を立てていたのか、彼女の話に彼の背がびくっと軽く跳ねた。
メイベルとカールの様子にユーゴーは、少し呆れた様子でため息をつき口を開く。
「それこそ、さあな、だ。これはあくまで俺の推論であって、実際にはどうか分からないさ。よしんばそうであったとしても、そうならないようにするのが俺たちの仕事だろう」
「そうね、それが私たちの仕事だものね。でもあの頃は酷かった。私が護衛についていたところはなんとかなったけど、貴族で下街区に家を持っていたところや1番街の商家なんて、焼き討ちにあった上に当主や息子なんかは吊るし上げの上殺されて、奥方や娘も陵辱の上に殺されたなんて結構あったから……」
「そうか……。そのあたりになると俺は国境に飛ばされてたからなぁ、焼き討ちの話は聞いていたがそこまでとは思わなかった……」
"ドラグネット"のホールでは酔客たちが楽しげに騒いでいたが、カウンターの辺りではいつの間にかそこだけ隔絶されたように暗い雰囲気が漂っていた。
実はメイベルが生まれた家もドラゴネスト流とは違う斥候術の宗家の一つで、内戦の少し前にその道場で頭首を含め彼女の家族3人が死亡する事件があった。
それが元で道場は閉鎖し流派は解散という憂き目にあい、彼女は即自活しなければいけない状況に陥る。
その後今の仕事に就くまでメイベルは培った技を用い、大商人や貴族の子女向けのボディガードや探偵みたいな事をして糊口を凌いでいた。
そして内戦が終結した後しばらくして、国内で秘密裏に特殊軍務チームを作るという情報をキャッチした際、そのメンバーの一人にユーゴーがいると知るやいなや指揮官である"大佐"を捜し出し、彼の前で自分を売り込んでメンバーの座を掴み現在に至る。
そんな雰囲気の中、カールが仏頂面して2人それぞれの前にグラスを置く。
そのグラスの中には、ミントグリーンとピンクの酒が2層に分かれて入っていた。
「2人ともなに暗い話してんの、ここは楽しく酒を飲むところだぜ? こいつは俺の奢りだ、これ飲んだら出て行くか、まぁ出ていかなくてもいいが、これ以上店を暗くしないでくれ」
「ああ、すまない」
「ごめんなさい」
カールの言葉に2人は素直に謝り、その様子にカールは一つ頷きニンマリと笑って2人に話しかける。
「まぁいいさ。それよりもぬるくならない内にそれ飲んでみてくれ。下1番街にあるバーのバーテンダー、ミンティア・ピノーク氏から教わったレシピでな、どちらも単体で飲むとまぁ普通のカクテルって感じなんだけど、混ぜて飲むとそれがぶっ飛んだ代物に変わるんだ。味がぶっ飛んでいるわけじゃなくて、まぁ百聞は一見にしかずでまず飲んでくれ」
カールの表情から何か胡散臭いものを感じたユーゴー達だったが、先程の事もあり2人はお互いに目配せして頷き合うと、再びグラス目を向け意を決したような顔で一口飲んだ。
「ん? 何か思ったより悪くないな。シェローの甘みとムンタの清涼感がマッチして、これは中な……」
「そうね、これはこれで悪くないわ。でもカールの言う"ぶっ飛んだ"って感じと……」
思ったより味がまともだったのか概ね好意的な評価を下す2人だったが、次の一口を飲みグラスを置いた瞬間2人ともグラスを置いたポーズのままで硬直した。
2人のそんな様子を見たカールはニヤニヤしつつ、カウンター裏に置いていた砂時計をひっくり返し溜まっていた注文に取り掛かった。
そして、3ミニ(分)後。
「んあっ! 何だったんだ、今のは」
「はっ! 私、今何を……?」
硬直の解けた2人はお互いに顔を見合わせてからカウンターの方へ向くと、カールがニヤニヤして彼らを見ていた。
「ジャスト3ミニ、いい夢見れたか?」
「おい、カール! お前、俺達に何飲ませた!?」
「……なるほど、"ぶっ飛んだ"というのはこういう事ね。死んだはずの家族が傍にいて、私が自分の赤ん坊を抱いているなんて……」
ユーゴーの怒りの声もどこ吹く風と受け流し、カールはニヤニヤした顔を崩さない。
ユーゴーがカールに食って掛かる傍ら、メイベルはブツブツと呟きつつなぜかうっとりとしていた。
「別に悪いものなんか飲ませちゃいないさ、何故かあの組み合わせで作るとああなるんだ。何ならさっきのヤツを別々に作ってやるから、飲んでみるか?」
ユーゴーが少し落ち着いたところを見計らい、カールが先程からの表情を崩さないままユーゴーたちに提案した。
「そうね、じゃ、それもいただこうかしら」
「あいよ。ユーゴー、お前も飲むだろ?」
「……当たり前だ」
メイベルは何かを期待しているような目で、ユーゴーは憮然とした表情で返事を返すと、カールは先程より少し真面目な顔で頷きカウンター下の棚からシェーカーを取り出した。
それから待つこと数ミニ、2人の前にベースになったカクテルが置かれた。
「あ……」
「ほんと、別々に飲むと何も起こらないのね……」
「だろ? でも、ピノーク氏の作ったやつはもっと美味しかったんだよなぁ。本気で修行に行こうかなぁ……」
2人の感想にカールはドヤ顔になるが、すぐに彼の目はここではない遠くを見る眼差しになっていた。
「そうだな。今すぐは無理でも、そんなに遠くないうちに行ける様になるさ」
「そうか? なら、これがもっと早く取れるようにしないとな」
ユーゴーの言葉に、カールが首筋を軽くなでながら少し沈んだ感じで呟く。
カールの様子にいらぬことを言ってしまったと心の内で後悔するユーゴーだったが、彼が暗くなりながらも諦めていない表情を見て取り、態度に出さずホッと胸をなでおろした。
「マスター、1番の料理まだですか~」
「あ~、まだアレが茹で上がってねぇ! 3番のができているから先にそれ持ってってくれ!」
夜も更けてきたのだがまだ客足は途切れず、またカールが調理の方で忙しくなったためユーゴー達ははからずもまた2人で飲んでいる状態になっていた。
普段なら忙しいときはメイベルも手伝っていたのだが、エレナがいることとユーゴーと隣り合わせにいることで彼と飲むことを最優先とし、それ以外は自分の意識から排除していた。
しばらくすると店内で飲んでいる酔客達も酒が程よく回って落ち着いてきたのか、あれだけ騒がしかった店から喧騒が止み、喧騒の代わりといっていいのか何やらゴソゴソする音がユーゴー達の耳に響いてくる。
だがカウンターの方から見えているはずのカールが何も言わないのだから、こちらからあえて突っ込む必要はないと感じたユーゴーは無視を決め込んだ。
そうして後ろの事は気にせず飲んでいると、背後で急に歓声が上がる。
いきなりの声に驚いたユーゴー達は何事かと振り向くが、すぐそばに人垣ができていてその視線はすべて店の中央に向けられていた。
ユーゴーが人垣の視線の方へ目を向けると中央には立ち飲み用のテーブルが1つあり、それを挟んで悔しそうな顔した男と嬉しそうな顔をした男、それにテーブルの向こう側に司会か審判っぽい雰囲気の男が立っていた。
そして司会の男は嬉しそうな顔の男に近づき、彼の右腕を取ってスッと上へと引き上げ、勝利者としてその名を宣言した。
「勝者、……!」
また歓声が上がった。
「エレナ、今日は上がっていいよ」
「あ、はい。お疲れ様でした」
そのあたりになると酔客もホールの方に夢中になり、時折喉が渇いた観客が飲み物を取りに来る程度でカールは一人でも何とかなるし夜も更けてきたためエレナを帰した。
余談だが、ここの入り口は路地裏に面しているが、裏口は夜でも人通りの多いメインストリートに面しているため彼女一人でも無事に帰ることができた。
ちなみに彼女の家は、裏口から出て5ミニも歩かない場所にあるらしい。
「おい、カール、あそこで何をやっているんだ?」
ホールの歓声に何が起こったか全く分からなかったユーゴーは、カウンターから見ていたカールに声を潜めて聞いた。
「ああ、あれ? あれはあそこで腕相撲をやっているのさ。ちょっと前にな、何かちょっとした事で喧嘩寸前までいった奴らがいてさ、そのままじゃ困るから仲裁に入ったけどどっちも引かなくてね。んじゃってんで、腕相撲で勝負を付けさせたら、それ見てた連中がいつの間にかやり始めちゃって結局ここが会場みたいになっちゃったんだよねぇ。まぁ、あいつら勝手にやりだすけど後ちゃんと片付けるし、下手に喧嘩になって店の中を壊されるよりはましだと思って黙認してるけどさ」
「なるほど、そういうことならそのまま何も言わないほうがいいだろうな」
カールの話に頷いたユーゴーは、自分のグラスを傾けながら呟く。
するとそれまで黙って2人の話を聞いていたメイベルが、甘えるようにユーゴーの肩へしな垂れかかる。
メイベルの様子を見ていたカールは、彼女に"ごゆっくり"と言わんばかりに一瞥し、その場から離れグラス磨きやら洗い物などをし始めた。
「でも、これって世の中が平和だからできることよね。だったら私たちがしてきた事は、無駄では無かったってことなのかしらね?」
「そうだな。実際に俺達のやってきたことが、今の平和に直結しているかどうかなんてのは判らない。けど俺は、俺達はあいつらやエレナが笑顔で生きていけるようにするだけだ。それでいいんじゃないか?」
「そうよね、つまらないこと言っちゃったみたいね。ごめんなさい」
「いや、いいさ」
ユーゴーの言葉を最後に2人の間に沈黙が訪れる。
しかしメイベルはユーゴーに寄り添っているだけで何だか幸せそうなので、沈黙が気になって彼等の方を見たカールだったが何も言わず作業を続けた。
それからしばらく、カウンター周りとホールがそれぞれ別の空間と化していた。
ユーゴーとメイベルがカウンター席で二人の世界を形成しようとしていた時、ホールではいつもとは少し違う熱気が渦巻いていた。
「これで8連勝だっ! もうこの男を倒そうという猛者はいないのかぁ!?」
今回はかなり強い奴が来ているらしく、司会の男の声がさらに高揚していた。
その男は身長が190セラほどで、全身の筋肉がかなりバランスよく鍛え上げられていて、プロの格闘家といっても差し支えない体をしていた。
「ふん! 次はこの俺がその鼻っ柱をへし折ってくれるわ!」
誰かが負けるとまた別の誰かが名乗りを上げ、ホールに更なる熱気が吹き荒れる。
ユーゴーはその様子を背中で感じていて、自分の中にもその熱が移り格闘バカの血がにわかに騒いできた。
しかし、あまり目立つことはしたくなかったのと、隣のメイベルを放ったらかしてまでと思い背後の事は無視していた。
そして、更なる歓声が上がる。
「おお! 勝った、また勝ったぞ!! これで19連勝、ついに、ついにここでの連勝記録に並ぶものが出たぞっ!! さぁこのまま前人未到の20連勝の達成するのか、それとも彼の20連勝を止める勇者が出るのか!? どちらにせよ今日のヒーローはソイツだぁぁぁぁっ!!」
連勝記録が伸びるかどうかの場面に司会の男は、これ以上やると倒れるのではと思えるくらいに高揚し、場を更にヒートアップさせていた。
「うおっしゃあ! こいつは俺が止めてやるぜっ!!」
人垣の中から、横と縦がほぼ同サイズながら弛んだところがどこにも見えない男が現れ、勝者に挑戦状を叩きつける。
だが、挑戦された方は相手の方をチラリと見ると、とんでもないことを言い出した。
「残念だが、お前では俺の相手には力不足だ。それに20連勝目の相手はもう決めている。その後でよければ相手をしてやる」
男は挑戦者に淡々と伝えると、人垣をかき分けその者へと近づいていく。
そして、その男が行く先の方を見た観客が一斉にどよめいた。
そこにはメイベルに寄り掛かれながら酒を飲むユーゴーがいたからだった。
男の行動に、ユーゴーの事を知っている客たちがヒソヒソと話しだす。
「おい、あいつ、ユーゴーさんの事知らないのか?」
「多分……。アイツはここで何回か見ているけど、その時は大抵アニキはいなかったし」
「おいおい、アニキって……。お前いつからそんな仲になったんだ?」
「いや、俺が勝手に言ってるだけ」
「あのなぁ……。まぁあの人の事だから、知られても怒りはしないだろうけどよ」
「そんなことはさて置き、本気で勝つつもりかなぁ、アイツ……」
「さあな。だが……」
客同士の会話の途中で、別の客が話に割って入ってきた。司会の男だった。
「でもよ、久しぶりにユーゴーさんの技が見られるかもしれないぜ。実は、なるべくあの人がいない時を狙って会を開いてたんだ。何せあの人が立ったら、ここいる誰が相手になってもおそらく勝てないだろうからな」
「「ああ、なるほど」」
割って入られた客達は、司会の言葉にノータイムで頷いた。
男が大股でユーゴーへと近づいていく。
ユーゴーはその接近に気付いてはいたが、寄り掛かるメイベルに嫌な顔をさせるのも何となく嫌だったので無視していた。
実のところユーゴーにとって、嫉妬かと思える程度の緩い殺気を手の届く範囲外から出してくる相手などどうとでもできる、というのもあったが。
ちなみにメイベルは普段ならおそらくユーゴーよりも早く接近に気付いたであろうが、彼と楽しむためにそういった感覚は全部無視していたため男の接近にまったく気付いていなかった。
「ねえ、ユーゴー。この後、ヒ……。きゃっ!」
ユーゴーにアプローチをかけつつさらに寄り掛かろうとしたメイベルは、最後の"マ"を言おうとした瞬間彼が急に立ち上がったために支えを失い咄嗟にカウンターの縁にパッとしがみつく。
「なんなのよ、もぉっ!」
メイベルが体勢を整えて振り向くと、ユーゴーと同じくらいの背の男が無言で睨み合っていた。
実際のところは睨んでいるのは男の方で、ユーゴーの方は少し困った顔で男の視線を受け流していたが。
しばらく睨み合いが続くかと思われたが、不意に絡んできた男の方が口を開く。
「おまえがユーゴーだな? あそこで俺と勝負しろ」
男はユーゴーから視線を外さず後ろ向きにホール中央のテーブルを指し示し、好色そうな目をメイベルに向けた。
「そして俺が勝ったら、その女をもらう」
男の次の一言に騒然となる酔客達。
しかしユーゴーの方はそれに怒るどころか、少し呆れた表情になり一つため息をついてから言葉を返す。
「はぁ……。彼女は物じゃないけどな。いいだろう、勝負してやるよ。……まぁ俺が負けても、お前がメイベルをどうにかできるとは思わんがな」
ユーゴーは男に承諾の返事をしてホール中央へと向かう。さすがに最後の一言は口の中で呟くにとどめていたが。
この辺りでは最強と言われつつも一度も参加したことが無いユーゴーと、最多連勝記録を狙う男との対戦カードに、ホールは今まで誰も感じたことが無い熱気に包まれていた。
「さあ、ついに、ついに、この時がやってまいりました! 前人未到の記録達成&最強の男に打ち勝つか、はたまた最強が最強たらんと挑戦者をギッタギタにのしてしまうのかぁ?! いよいよだ! いよいよ、最強が決まる戦いが始まるぜぇぇぇ!!」
いつもは一歩下がった形で試合を盛り上げるはずの司会も、今回だけは観客の一人のようになってしまい、これまで以上にハイテンションになっていた。
テーブルを挟んで対峙する2人。
ホールの盛り上がりをよそに、ユーゴーはどことなく気だるげに男を見ていた。
男の方はというと先程の好色そうな目はどこへやら、瞳の奥に闘志を燃やしつつ真っ直ぐにユーゴーを見つめていたが、不意に少し表情を緩め頭を下げる。
「先程は失礼なことを言って、すまなかった。あれは、ああ言えば必ず乗ってくると踏んだ上での方便だった」
「そうかい。でも俺としちゃあ戦うことは嫌いじゃないんでな、普通に誘ってくれてもよかったんだぜ?」
ユーゴーは男の謝罪に、気にしていないという風に手を振り顔を引き締めた。
謝罪してスッキリしたのか、彼の闘志がさらに燃え上がったのを見たからだった
「そうなのか? 俺もここには何度か来ているが、噂は聞くものの姿を見ることはなかったから、てっきりこういう事があまり好きではないと思っていた」
「ふうん、なるほど。まぁ今から何を言っても始まらん。兎にも角にも俺達は会っちまったんだ、御託はそこまでにしてさっさと戦ろうか」
2人はユーゴーの言葉を合図に、テーブルに右肘を置いた。
2人がそれぞれの右手を組ませると、司会の男がやってきて組んだ手の上に自分の右手を置いた。
「分かっているだろうが、相手の腕を相手側へ押しこむ事や手前への引き寄せ、肘をテーブルから離せば即反則負けだからな」
さっきのテンションが嘘のように、司会の男は事務的に2人に注意を促した。
その瞬間、周りの観客達は2人の背中から熱気が立ち昇ったように感じ、彼らの体もそれに当てられたかのごとくさらに熱くなっていく。
そんな中でも司会の男は淡々と進めようとするが、真っ赤に染まった頬がそれを裏切っていた。
そして、戦いの鐘は鳴る。
「レディ? ファイト!!」
開始の声が響いた瞬間、観客がどよめく。
いきなりユーゴーの腕が半ばまで押し込まれたからだ。しかし次の瞬間、更なるどよめきが生まれる。
このままでは押し込まれると思われたユーゴーの腕が、一気に押し返し逆に男の腕をあと少しというところまで押し込んだのだ。
実は開始直後にユーゴーはほんの少し力を抜き、押されるまま相手の腕を引き込んだのだった。
それにより男は肩透かしを食らう感じで力を流され、流されきった直後ユーゴーに押し返されたのだ
。
しかし男の方もギリギリまで耐え渾身の力を振り絞り、相手の腕を巻上げる感じで腕を中立の位置まで持っていく。
この一瞬の攻防に観客たちは更にヒートアップし、その歓声は隣近所からクレームが来てもおかしくないくらい大きく上がった。
実際歓声が上がった瞬間、裏口が面している表通りでは、通りがかった者が何人も何事かと足を止めたらしい。
それからはユーゴーが引き込もうとしても男がそれに乗らず、また男の方も相手の力を利用する手を使い始めたため、完全に力と力の勝負になっていった。
そういうことでしばらく普通に押し合い圧し合いが続いていたが、また腕が中立の位置に来たところで急に男の表情が固まり脂汗を流す。
ユーゴーはそれを逃さず、思い切り相手の腕を叩きつけた。
その瞬間ホールから音が消え、間を置かず司会が寄ってきてユーゴーの腕を振り上げる。
「勝者、ユーゴー!!」
司会が勝者の名を告げた瞬間、ホールに歓声が爆発した。
負けた男はというと歓声が爆発した瞬間、その場で力尽きたというようにへたり込んだ。
ユーゴーはしばらく観客たちにもみくちゃにされていたが、座り込んだ男が目に入り観客達の輪から抜けて彼の方へ向かい自分も膝を落として目を合わせた。
すると男はスッキリした中に幾分悔しさが混ざった表情で、ユーゴーにしか聞こえない程度の声で話しかける。
「ああ、やっぱりアンタがユーゴー・ドラゴネスト、"忍び寄る亡霊"だったんだな……」
「何っ! 何故その名を!? お前は一体……」
一般人なら知ることの無い二つ名を告げられたことで、思わずうろたえるユーゴー。
そんな彼の様子に男は、苦笑しつつまた口を開く。
「内戦中に軍にいた奴で、特に斥候兵の間でアンタの名を知らない者なんていないさ。それに、俺の首元をよく見てみろよ」
「ん? ……!」
男の言葉にユーゴーが目を向けると、そこには自分と同じ首輪が付いていた。
「ま、そういうこった。以後よろしくな。にしてもやっぱりアンタ強いな、でも最後のアレは一体なんだい? 今度会ったら教えてくれよな。…………さて、俺からも勝者を称えさせてもらおうか」
男はそう言うとゆっくりと立ち上がり、そのついでにユーゴーの腕を引っ張り上げた。また歓声が上がった。
それからすぐ男はユーゴーの腕を放すと、カールに飲み代を払ってさっさと出て行った。
ユーゴーは男が出て行った後、カウンターに戻って飲み直そうとすると誰かに後ろから彼の肩を掴まれる。
ユーゴーが振り向いた先には、先程男に挑戦を拒まれた筋肉男がいた。
「今度は俺と勝負してくれ!」
筋肉男の挑戦に客たちの歓声が上がり、嫌そうな顔になるユーゴーだったが、結局歓声に押される感じでホール中央に向かう。
それからしばらくユーゴーへの挑戦者は引きも切らず押し寄せ、最初は嫌々だった彼も次第にハイになってきたのか自分から挑戦者を募りだしホールは彼vs彼以外の客という闘技場と化した。
ユーゴーがバトルに夢中になってしまったため、一人グラスを空け続けるメイベルに少し心配そうな顔でカールが話しかける。
「あ~あ、止まらなくなっちゃったよ、アイツ……。どうやら、フラれちまったみたいだなぁ、メイベル。相当飲んだようだし、今日はもう帰ったほうがいいんじゃない?」
「うっさいわねぇ……。ここは酒を飲ませるところで、説教するところじゃないでしょ。んじゃ今度はそこのレマ"ディルカバ"をロックでちょうだい」
ユーゴーに放ったらかされて不貞腐れたメイベルは、心配そうなカールの声に耳を貸そうとせず更に強い酒を注文した。
「おいおい、"ディルカバ"をロックでか? そりゃ、ちょっとキツいんでないかい? 今まで散々飲んだのに、さすがにそれはやめた方がいい。後が辛いよ。もしどうしてもっていうなら、せめて水割りかジュース割りにした方がいいって」
「いいから、言うとおりに出しなさい!」
半ばキレたメイベルにカールは無言で肩をすくめ、彼女のオーダー通りに酒を注ぐ。
「そうそう、最初から出せばいいのよ、出せば」
メイベルはカールからグラスを受け取り一気に飲み干すと、グラスをテーブルに置いて両手で抱え込むように持ち、グラスに覆いかぶさるように頭を下げて聞こえるかどうかの声で呟く。
「………………………………………………………くすん、ユーゴーのバカ……」
そんな彼女の様子にカールは、チラリとユーゴーの方を見つつ何とも言えない顔でため息をついた。
が、その3ミニ後、カールは自分の情動に後悔した。
テーブルに突っ伏すように顔を伏せていたメイベルだったが、いきなりがばっと顔をあげるとカールに空のグラスを突き出した。
「カール、お代わりちょうだい! こうなったら今日はとことん飲むわよ、もうユーゴーなんて知らないんだから! カール、アンタも付き合いなさいよね!!」
「ええっ! ちょっ、まっ……。はぁ……、ほらよ。…………………………ったく、さっきの俺の思いを返してくれ……」
「今度はねぇ、アレ出して!」
開き直ったメイベルに感情が追いつかずカールは先程よりも酷い仏頂面でグラスを置くが、彼女の方は彼のそんな様子を一切気にすることもなくグラスを空けていく。
そんな彼女にカールは、半ば呆れ半ば諦めた表情で酒を出していった。
「おらぁ! どんどんこいやぁ!!」
その頃ユーゴーはカウンターでそんなやり取りが行われているとは露知らず(というか完全にメイベルの事は忘れていた)、負けても負けても"動く死体"のように襲い掛かる挑戦者にますますハイになってホールの中央で叫び声をあげていた。
裏にうごめく策謀や男女の悲喜など色々あれど、すべてを飲み込みエイボリーの夜は更けていく。
エンドロールBGM :映画「赤い眼鏡」よりエンディング・タイトル
https://www.youtube.com/watch?v=51lP88d2i_c
(こちらのイメージですので、この辺はご自分の好きなBGMを流してくださいませ)
>キャスト(というより、イメージCV ^^;a)←何かに引っ掛かるようなら消します。
ユーゴー・ドラゴネスト - 森川 智之
カーライル(カール)・ディーマスト - 福山 潤
メイベル・レインフォール - 沢城 みゆき
ウォルガン・A・ロックハマー - 石塚 運昇
アーガイル・ファルスター - 山口 勝平
"大佐" - 土師 孝也
シャリア・ブルズアイ - 子安 武人
クライン・グランバトラー - 麦人
ゴルディアス・アーケイオス - 田中 正彦
ミツヨシ・ドラゴネスト - 藤原 啓治
ジュウロウ・ドラゴネスト - 浪川 大輔
ローガン(カンテツ)・ペネトロック - 大塚 明夫
ステイマン・オーバーナイト - 飯塚 昭三
ジェームズ・マインスミス - 稲田 徹
エレナ・マインスミス - 芹澤 優
アラン・スティックス - 関 智一
バーンハード(バンゴ)・ゴーラム - 小山 剛志
>スタッフ
原作 :杵真特殊映像 映像事業部 営業1課
脚本 :山地 文雄(営業1課)
音楽 :杵真特殊映像 映像技術部 音響課
撮影・編集 :杵真特殊映像 映像技術部 撮影課
制作進行 :杵真特殊映像 総務部
広報 :杵真特殊映像 映像事業部 営業2課
監督・演出 :酔勢 倒録
制作 :株式会社 杵真特殊映像
「えっ? 山地って、もしかして……」
スタッフロールを見ていた水瀬は、字幕に流れていた脚本者の名前に思わず呟いた。
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>後書き
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。
この話を投稿後、順次設定集なるものも投稿いたしますので、よかったらそちらもどうぞ。
ちなみに、物語中に出てきた"魔石"や"白光石"の解説もそちらに載せております。
あと#9で出た技の"穿牙滅生"についてですが、#9の後書きに載せておきます(これを書いている時点では載っていない)のでもし気になっていた方がおられましたら覗いてみてくださいませ。
ではまた、別の話でお目にかかりましょう。
2018/4/20 文中の読点の位置を一部修正。




