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上映作品‐1 "サイレントスニーカー" #10-1

 前話まで読んでいただいた方、あれから3ヶ月もお待たせしてしまいまして申し訳ありません。

 この度なんとか上映作品の10話目を投稿することができました。

 前話まで読まれた方もこれから読まれる方も、楽しんでいただければ幸いです。

 辺りを埋め尽くす爆光にロックハマーは、目を閉じ耳を塞いで光の方に足を向け伏せる。

 ロックハマーが伏せた直後、彼の上を轟音と爆風が通り過ぎる。その間彼は、仲間を助けられなかったことの悔しさで唇をかみ締めていた。


 それからどれくらい経ったのか爆発による音と風が過ぎ去った後、ロックハマーはノロノロと起き上がりユーゴーたちがいた場所へ死に掛けの人間のようにフラフラと歩いていく。

 彼らのことで頭が一杯になっていたのか、後ろから誰かが近づいてきたことに肩を叩かれるまで全く気付かなかった。

「バンゴ……」

 肩を叩かれたロックハマーがその方へ目を向けるとそこにはバンゴがいて、彼を労わるような目で見ていた。

「気にするな、戦場ではよくある話だ。だが、覚悟はしておいた方がいい……」

 そう言うとバンゴは、周りを警戒しつつユーゴー達の方へ駆けていく。

 ロックハマーもバンゴと同様に駆けていくが、彼の一言で少しは気が楽になったのか先程よりは足元がしっかりしていた。


 ロックハマーがユーゴー達の倒れているであろう場所へ着くと、バンゴが何もせずロックハマーを待っていて、そこには男が4人ばかり折り重なるように倒れていた。

 下の方にはユーゴーとカール、それから救出しようとしていた鉱夫が、一番上にはアランが彼らに覆いかぶさるように倒れていた。ということは、先程ロックハマーを追い越していったのはアランだったのだろう。

 仲間の命どころか成り行きとはいえ、手助けしてくれた人の命まで失わせてしまったことにロックハマーは絶望感に囚われガクリと膝を付いた。


「ん?」

 膝を付いたロックハマーの目に倒れているユーゴー達の姿が入った瞬間、何故か妙な違和感に囚われる。

 そこで彼らをよく見ると、爆炎にさらされたはずなのに誰の服も焼けてはいないし、爆風で飛んできた土や埃なども全然かぶってはいなかった。

 さらにもしやと思ってユーゴー達の脈を取ると、何と全員が生きていた。

 何だかわけが分からなくなっていたロックハマーは、答えを求めるように傍らのバンゴを仰ぎ見た。

 するとバンゴは、少し厳しい顔をして口を開く。

「ああ、おそらく、アランが切り札の"結界石"を使ったのだろう。で、その使った当人は急激な魔力の消耗で倒れた、と……」

「"結界石"?」

「ああ、そうだ。それは……」

 訝し気な顔で聞き直すロックハマーに、バンゴは仕方ないといった表情で話し始めた。



 "結界石"とは魔石の一種で、その名の通り使用者の魔力を使いその周りに結界を張り巡らす。

 その形状は盾状のものから円錐形、あるいは箱型と使用者の意思によって決定される。

 その効果は高く、発動中は武器や魔術による攻撃を一切通さない。しかし攻撃そのものは通らないが、それらが結界に当たった事で発生する物理的衝撃はある程度通ってしまう欠点がある。

 その辺は、盾で物理攻撃を受けた時の事をイメージしてもらえると分かりやすいかもしれない。


 故にこの魔石で結界を張る者は、かかる衝撃をある程度緩和されるとはいえ自分で受けねばならず、加えて形状と衝撃の度合いによって必要魔力が半端なく増えるため、とんでもなく体力と魔力を消耗する場合があった。

 そして結界の形状によっては、使用者以外の結界内部にいる者も衝撃を受けてしまう事がある。

 そのため欠陥品呼ばわりされていて、それほど市場に流れてはおらずその存在を知らない者もいるが、2次衝撃以外はほぼ完全に防いでしまうので緊急用として所持する者が意外に多い。



「う……。んあ? まだ生きてるのか、俺?」

 バンゴから"結界石"の話を聞いているうちに、カールが目を覚ました。

「おお、カール、目が覚めたか!」

「ああ。どうやら助かったみたいだな、俺達。ユーゴーがいきなり倒れちまったから、ユーゴーと"薬物投与者(ジャンキー)"をなんとか森まで引っ張ろうとしたけど中々動かせなくて、そうこうしている内に後から誰かに押し倒されたんだ。んで、その直後に1階が爆発したんだけど、そのときはホントに死んだと思ったよ」

「そうだな正直俺もカール達が死んだと思ってしまったが、アランが"結界石"を持っててお前達の盾になってくれたんだ」

 ロックハマーはホッとした顔で頷くと、カール達の上からアランを慎重に横にどかしてカールを引き起こした。

「そうなんだ……。じゃ後でちゃんと礼を言っとかないとな」

「そうだな。だがそれはそれとして、こいつらをどうやって連れて行こうか……」

 全員が生きていてホッとしたのも束の間、森の道に救助した鉱夫を置いてきた事を思い出し、ロックハマー達は困った表情でお互いの顔を見合わせた。


 とりあえずロックハマーがユーゴーをバンゴがアランを背負い、そうしつつその2人が鉱夫の両腕をカールがその足を持って移動することになった。

 では森の道に置いてきた者達をどうするかというと、それはまたそこに着いてから考えるらしい。

 そうこうしながら進んでいると、前方から馬車が走ってくるような音がしてきた。

「まずい、ひとまず森の中へ!」

 先に気付いたバンゴが、後の2人に聞こえる程度に声を抑えて叫ぶ。

 置いてきた鉱夫達のことも気にはなったが、3人はひとまず森の中に入り息を潜めた。

 それから1ミニ(分)ほど過ぎただろうか、2頭立ての荷馬車のようなものが通り過ぎる。

 通り過ぎたそれは、鉱山へ人員を輸送するのに使われる乗合馬車だった。

 その御者台にはアーガイルとメイベルが乗っていて、それを見たカールが思わず飛び出す。

「アーガイル! メイベル!」

「カール! 無事だったんだぁ!」

 アーガイルは背後からの声にピクッと反応して馬車を止め、後ろを振り向きカールの姿を確認すると手綱をメイベルに預けて彼らの元へ飛ぶように走ってきた。

 メイベルは一瞬だけ振り向きカール達を一瞥すると、馬車を広場の方へ進ませる。

 彼女もこっちに来たそうな表情だったが、森の道の中では馬車が転回できる幅がないため仕方がなかった。


「あれ、ユーゴー達は?」

「ああ、実は……」

 カールはアーガイルに二手に分かれてからのことを話した。鉱夫を運んでいる途中でユーゴーが倒れた事、それに気付いたアランが"結界石"で助けてくれた事などを。

「そっかぁ、大変だったんだなぁ。すぐに戻りたかったんだけど、"薬物投与者"達を運ぶための馬車の手配をしなきゃいけなかったから、爆炎が吹き上がったのを見た時はどうしようかと思っちゃったよ」

「でも、ステイさんのとこまで行ったにしては、ずいぶん馬車の手配が早く済んだんだな」

「ああ、アレ? いや実は鉱山事務所のヤツなんだけどね、爆炎が見えたんで急がなきゃと思って黙って借りに行ったんだけど、ペネトロックって人に見つかっちゃってねぇ……」

 アーガイルはそこで一旦言葉を切ると、少し困った顔をして再び話し始めた。

「見つかってどうしようかと思ったけど、半分やけくそで森の向こうに人が何人も倒れていると言ったら何も言わずに馬車を車庫から出してくれてね。それから全員回収した後、治療院の前に繋いでおいてくれたら後は俺がやっておく、って言われちゃってとりあえず礼だけ言って急いできたんだ」

「ふうん。何か引っ掛かりを感じるけど、まぁいいか。道の途中にも鉱夫を置きっぱなしにしているらしいから、さっさと積んで帰ろう」

「ああそれなら、こっちに来るときに転がっていた分は全員乗せておいたよ」

「あ、そう? なら早いとここっちの方も乗せて帰ろうか」

「分かった」

 ちょうど2人が話し終わるくらいで、メイベルの乗った馬車が戻ってきた。





「ユーゴー!」

 カール達の前に馬車を止めるや否やメイベルは御者台から飛び上がり、近くまで来ていたロックハマーの傍に降り立つと、彼の背からまだ意識のないユーゴーを引き剥がす。

「ユーゴー! ユーゴー! さっき俺は死なないって言ったじゃない! 起きて! 起きなさいよぉっ!!……」

 メイベルはロックハマーからユーゴーを引き剥がした途端全力で抱きつき、彼の頬に自分の頬を寄せつつ叫んだ。

「ユーゴーはまだ死んじゃいないってば……。どうしてメイベルってば、ユーゴーが絡むとこんなに"残念な女"になっちまうんだろうねぇ……」

「さあ……。俺の妻はこんな愛情表現はしないから、ちょっと分からんな」

「あれ、あんた嫁さんがいたのかい? にしてもあれだろ、本人が起きていたら絶対こんな態度は見せないってぇやつ」

「そうかもな……」

 彼女の様子にカールとロックハマーは呆れ、いつの間にか復活したアランが処置無しといった顔でバンゴの隣で肩をすくめていた。

 ちなみにアーガイルは、こういうことについては口を挟まない方がよいと判断し、御者台で黙って事が終わるのを待っていた。


 このままほっとけばメイベルがユーゴーに、どこぞの童話のごとくキスするのでは、それどころか押し倒すのではと思わせるまで場が盛り上がった時御者台のアーガイルが叫ぶ。

「皆、早く乗って! 何かとんでもなく嫌な予感がするんだ!!」

 切羽詰まったようなアーガイルの声に何かを感じたのか、誰一人文句を言わずさっさと馬車に乗った。

「皆乗った? んじゃ行くよ。思いっきり飛ばすから、落ちないようにどっかに掴まっててよ! ハァッ!!」

 アーガイルの掛け声とともに走り出す馬車。

 そのあまりの急発進に馬車の床に寝かせてある鉱夫達がバウンドして落ちそうになり、あわててロックハマー達が押さえにかかるものの今度は自分たちが落ちそうになったりしていた。

 さすがにこのままでは危ないと思ったか、カールが抗議の声を上げる。

「おい、どうしたっていうんだよ、アーガイル! 何が何だかわからないけど、もう少しゆっくり出してくれ! もうちょっとで落ちるところだったぞ!」

「ごめん! でも、あのままあそこにいたら、とんでもない目に遭いそうな気がしたんだ。だからここを抜けるまでもう少し我慢してくれ!」

 本当に危機が迫っていたのだろう、アーガイルは抗議の声に一応の詫びを入れるものの一向にスピードを緩めることなく馬車を走らせた。

 馬車がもう少しで森の道を抜けるところまで来たとき、その周囲から駆ける馬の足音と馬車の軋み以外の音が急に消えた。


 そして……。


 轟音と共に突き上げるような衝撃が彼らを襲った。

「うわっ!」

「何が起こったっ?!」

「何よこれ!」

「とにかく、揺れが止まるまでどこかに掴まれ! 立つなよ、落ちるぞ! あと、鉱夫たちも落とすなよ!」

 突然の事に軽くパニックになるカール達3人だったが、バンゴの一言で少し冷静になったかそれとも単に反射的に従っただけなのか、頭を低くしつつ抱え込むように鉱夫たちを固定し揺れに耐える。

 その間アーガイルは馬が暴走しないよう必死に宥めつつ速度を落とさず走らせていたため、後ろの同乗者に気を使う余裕は全くなかった。

 そして馬車が森の道を抜けてすぐ、普通なら確実に横転すると思われるくらいの急角度で左へ曲がる。

 その次の瞬間、道の方から更なる轟音が聞こえ、その入口から先程のを上回るくらいの爆風が吹き出した。


「ふいぃ~、何とか間に合ったかな?」

 アーガイルは曲がってから少し進んだところで馬車を止め、汗でびっしょりの額を拭う。

 その場所には森の道から逸れてはいても森の木々があるだけでなので当然爆風がきたが、木々がある程度の壁になったのか少し強い風が吹いたという程度で済んでいた。

「お~い、みんな大丈夫? 怪我とかない?」

 危機から逃れられて安堵したのか、アーガイルがいつものようなのんびりとした声で安否を問う。

「大丈夫なわけないだろ! いきなり出すから、あちこちぶつけて体中痛いわ!」

「そうねぇ、私もどこかぶつけたみたいでそこかしこが痛いわ。治療費もらおうかしら?」

「え~、そんなぁ……」

「おいおい、そこまでにしとけ。アーガイルが涙目になっているぞ。それにアーガイルの勘が働かなかったら、もしかしたら文句一つすら言えない体になったかもしれんぞ?」

 半ば本気でキレるカールに、その尻馬に乗ってアーガイルをいじるメイベル、彼らを嗜めつつアーガイルをフォローするロックハマー。実のところ、この掛け合いのようなことは彼らの日常茶飯事だったのだが、それを知らないアランとバンゴはただ呆然と彼らを見ていた。

「ん? ああ、俺達の間じゃああいうのは"いつもの事"ってヤツなんで、あまり気にしないでもらえると助かる」

 アランとバンゴの表情に気付いたロックハマーは、少しばつの悪い表情で彼らに説明する。

「ああ、まぁいいんじゃない? 仲がよくて良いと思うよ……」

「……」

 しかし聞いている彼等は、最早どうでもいいような表情で頷くだけだった。





 それからすぐ馬車がその場を離れていく。

 実のところ馬車の上の者達全員が先程の揺れを調べに行きたかったが、倒れた鉱夫たちやユーゴーの事もあってとりあえず治療院への道を急いだ。

 治療院の前にはペネトロックが待っていて、馬車を目にするとこちらへ来るよう手を振っていた。

「おお、来たか。え、9人もいるのか、まぁいいかベッドはあるし……。悪いがそこの2人、そいつらを運ぶのを手伝ってくれ」

 ペネトロックは意外に人数が多いことに一瞬目を丸くするが、すぐにバンゴとロックハマーに鉱夫達を運ぶよう指示し、自分も馬車から鉱夫を運び出す。

「やはり、そうだったか……」

 その間にペネトロックはチラとユーゴーの顔を見て何かを呟くが、それは誰の耳にも入らなかった。


「おう、お疲れさん。む? よく見るとあんた達、皆どっかで見たような顔ばかりだな。まぁ、いいか、別に悪い事しに来たわけじゃなかろうしな……。ん? 事務所の方から人が来たみたいだ、これ以上ここに居て顔が差すといけねぇな、後は俺がやっとくからあんた達は帰んな」

「では、すみませんがよろしく頼みます」

 ペネトロックの言葉にとりあえずカールが代表みたいな形で頭を下げ踵を返すと、あとの3人も彼に頭を下げカールに続いた。

「で、あんた達は何をしているんだ?」

 カール達が去った後、ペネットロックの近くにはまだアランとバンゴが立っていた。

「何、ちょっと調べたいことがあってな。それに俺達はここの鉱夫であんたも傍にいるんだ、顔が差したところで何ほどの事もないさ」

「ああ、それもそうか。んじゃ、ちょいと片付けを手伝ってくれ」

「了解」

 ペネトロックはアランの答えに一つ頷くと、彼らに作業を手伝わせた。





 結局あれからユーゴーは、3ダイ(日)後に目を覚ました。

 一応出血の割には傷もそれほど深いものはなく命に別状はないものの、体力の消耗が激しすぎたのか起きてすぐにはベッドから動けなかったのでさらに入院期間が4ダイ伸びた。


 メイベルはユーゴーが目覚めたことを知ると、仕事もそこそこに喜色満面で彼の元へ駆けつける。

 しかしユーゴーの傍に昼の休憩時間を利用して来たカールとアーガイルを見た途端、その色を引っ込めていつもの冷たいとも見える顔になった。

「あら、あんた達居たの」

 そう言ってメイベルがカールとアーガイルの方を見た瞬間、とんでもなく冷たい風が彼女から吹いてきたような気がして2人は体を震わせる。 

 カールとアーガイルを震え上がらせたあとユーゴーへ向いた瞬間、メイベルの顔が先程のクールなものからここへ来た時ほどではないが2人に向けたよりはずっと柔らかい表情になっていた。

「目が覚めたのね、良かった」

「ああ。ありがとう、メイベル」

 しかしメイベルは、今回の件についての話を一言二言しただけでさっさと帰っていった。


 立ち去るメイベルの後姿を見ていたアーガイルとカールは、ユーゴーのベッドから少し離れたところで顔を突き合わせボソボソと話し始める。

「ありゃあ、これはちょいと間が悪かったかなぁ……」

「はは……。まあ、こればっかりはどうしようもないさ。んで、俺達が来てなけりゃ間違いなく、ヤツの首っ玉にかじりついたことだろうさ。何のかんの言っても、ユーゴーの事一番心配しているのはメイベルだろうしな。でも、アイツはそこまで分かっちゃいないだろうなぁ……」

「ああ、そうかもね。ははは……」

 もはやユーゴーそっちのけでボソボソと話している2人だったが、ユーゴーに背を向けていたため彼が訝しげに2人を見ていたことに気付かなかった。


「おい、何2人でコソコソやってんだ? メイベルがどうとか、俺がどうとか……」

「「うわっ! なんでもない、なんでもないよっ!!」」

 ユーゴーの事を完全に意識から外していた2人は、彼からの声に飛び上がらんほどに驚く。

 そんな彼らの姿を見たユーゴーはしばらく訝しげな表情を崩さなかったが、やがて一つため息をついて2人の方に顔を向けた。

「……ふう。まぁ、いいか。ところでカール、アランやバンゴは"虎鉄屋"によく来るのか?」

「ん? ああ俺は基本厨房だから、客の方まではあまり見られないんだ。けどまぁ、それでも何回か見たことがあるから、割とよく来てるんじゃないかな」

 ユーゴーが何を言いたいのかいまひとつ分からなかったカールは、眉を顰めつつも素直に答えた。

「そうか。じゃ俺が退院した次の日に、あの2人を俺の部屋まで来てもらうように頼んじゃくれないか? 時間はいつもの会合の時間で、あとメンバーも全員集めてくれ」

「ん、分かった。けど、あの2人を呼んでどうするんだ?」

「まぁ、そのとき話すさ。んじゃよろしく頼む。俺はまた一眠りさせてもらうよ」

「ああ分かった、ゆっくり休んでくれ。んじゃ行こうか、アーガイル」

「うん。じゃ、またねユーゴー」

 カールはユーゴーに了承の意を伝えると、アーガイルを促し治療院を後にした。





 ユーゴーが退院した次の日の日付が変わる頃、"鉄龍亭"301号室にて。

 301号室には、ユーゴー等チームメンバー全員とステイ、それにエレナがいた。アランとバンゴは、まだ来ていないようだった。


 エレナはこの場に父親のジェームズがいないことで最悪の事を考えたのか、この部屋に入ってからずっと青い顔をして俯いていた。

 ユーゴーはそんなエレナの心情を理解してはいたが、それをおくびにも出さぬよう努めて無感情に振舞う。

「では、始めようか。まずはエレナさんにお詫びをしなければならない、貴女のお父さんは……」

「やはり、もう……。いえ、なんとなくそんな気がしてはいたんです。ですから、謝らないでください」

 すっかり父親がもう死んでいると思い込んでしまっているエレナが、ユーゴーの話を遮ってその顔をさらに青くして俯くが、その勘違いにユーゴーは慌てて訂正を試みる。

「いや、あの、ちょっと待ってください。気持ちは分かりますが、まずは話を最後まで聞いてもらえませんか? 私達はジェームズさんの救出にこそ失敗しましたが、おそらく彼はまだ生きています」

「……え?」

 なんとか自分の言葉がエレナに通った事に内心ホッとしつつ、ユーゴーは懐から使い古された手帳を取り出して彼女に渡した。

「これは……。これは確かに父の字です」

「私達がジェームズさんが囚われた部屋に救出に入った時、彼は既にどこかへ連れ去られた後でした。それからその部屋で移動先の手がかりを探していたところ、この手帳が出てきたというわけです」

「……そうですか、分かりました。それからこの手帳はあなた方が持っていてください、私が持つよりあなた方の方が有効に扱えるでしょう。私にはこの手紙があるだけで十分です」

 手帳の中から手紙を抜いてユーゴーに渡すエレナ。その顔には先程と比べ、明るい色が戻ってきていた。


「分かりました、手帳はこちらで預からせてもらいます。ところでエレナさんは、これからどうされますか?」

「ここに居てもこれ以上父の事は分からないでしょうから、私はエイボリーに帰ります。一応エイボリーには仕事もありますので」

 ユーゴーは、エレナの言葉に一つ頷くとメイベルの方を向いた。

「分かりました、では念のためエイボリーまで護衛をつけましょう。メイベル、エイボリーまでエレナさんの護衛を頼めるか?」

「いやそんな、私に護衛だなんて……」

「いいわよ、帰るついでだし。私もそろそろ表の仕事に戻らないと、休暇の期限が近いしね。ということで、受けてもらえないかしら」

 "護衛"と聞いたエレナは目を丸くして首を左右に振るが、メイベルはユーゴーに受諾の返事をすると彼女に近づいて微笑む。

「……はあ、ではお願いします」

 さすがに護衛は断るつもりのエレナだったが、ユーゴーだけでなくメイベルからも推されたことで仕方なしといった感じで頷いた。

「さて、エレナさんは出立の準備もありますから、そろそろ部屋に戻りましょうか」

「はい、分かりました。それでは皆さん、どうもありがとうございました」

 ステイに促され、席を立つエレナ。その場で彼女は、なるべく全員が視界に入る方に向いて深々と頭を下げ、傍らで待っていたステイと共に部屋を出ていった。


 エレナとステイが出てから1、2ミニ(分)後、ドアがノックされる。

「ああ、どうぞ入ってくれ」

 ノックの音に入室を促すユーゴー。その声が響ききらぬうちにドアが開き、男が2人入ってきた。アランとバンゴだった。

「よう、そこの"虎鉄屋"の兄ちゃんがぜひ来てくれってんで来てみたけど、こんな流れの鉱夫に何の用があるってんだい?」

 アランは部屋に入るなり、肩をすくめおどけた調子でユーゴーに尋ねた。

「おいおい、ここまで来て騙し合いはなしにしようぜ。なあ、"全てを貫く者(ペネトレーター)"に "破壊の道化師(クラッシュ・クラウン)"さんよ」

「なんだ、俺達のこと知ってたのか。さすがはその名も高い"忍び寄る亡霊(スニーキングゴースト)"ってぇところかな」

 ユーゴーが2人の二つ名を出すと、アランもこの部屋に居る者達の事は分かっているとばかりに彼の二つ名を口にした。

 その瞬間、ユーゴー達とアラン達の間に不穏な空気が流れ、ユーゴーとアランが静かににらみ合う。

 そしてそのにらみ合いがその場の空気の硬化をももたらし、その2人以外の者たちの顔に困惑の色が出始めたとき事態が一変する。


「「フッ、フフッ、ア~ハッハッハ!」」


 2人ほぼ同時にニヤリと笑うと、その場の空気を一掃するような笑い声を上げた。

「いやぁ悪い悪い。俺としては、あんた達のことは分かっているから腹を割って話そうぜってな意味だったんだが、どうやら気に障ったようだな。すまなかった」

「いや、こちらこそ相棒が売り言葉に買い言葉で、挑発するような物言いをしてしまって申し訳ない」

「おい、バンゴ! 今まで黙ってたのに、いきなり出てきて俺の台詞取るんじゃねぇ!」

 ユーゴーが頭を下げると、何故か今までアランの後で黙っていたバンゴが彼の代わりに頭を下げた。

 そんなバンゴの行動にアランがキレて突っ込むと、それがよほど滑稽だったのかユーゴー達の笑いを誘い、一気に場の空気が和らいだものになっていった。


「さて、場も落ち着いたところで今更だが自己紹介でもしとこうか。俺はクライド王国軍・作戦立案部・特殊調査室所属、アラン・スティックスだ。んでこっちが……」

「同じく、バーンハード・ゴーラム。これまで通りバンゴでいい」

 アランがバンゴも紹介しようとするが、さっきと同じ様に彼が言う前に自分で名乗った。しかし今度はアランも何も言わなかった。

 その後ユーゴー達も自己紹介をしていき、全員が終わってすぐアランが口を開いた。

「それで、俺達を呼んだ理由ってのは何なんだ?」

「まず協力してくれた礼を言いたかったのが一つ。もしあんた達が来なければ、カールは死んでしまっていたかもしれない。だから、ありがとう」

 カールの事で頭を下げるユーゴーに、アランは不貞腐れたようにそっぽを向く。もしかすると照れていたのかもしれない。

 しかしそれもすぐに真顔に戻り、今度はアランが頭を下げた。

「いやいや、礼を言うのはこっちも同じだ。救出した鉱夫の中に、こっちの出のヤツが3人いたからな。まだ目は覚めてないがみんな生きてる、まぁこれ以上の結果はないだろう。それに俺達はあんた等ほど調査が進んでなかったからな、便乗できて助かったぜ。で、もう一つってのは?」

「もう一つは、あれからアイマン支社がどうなったが知りたい。今あそこはアルケリア軍の管理下に入っているから、俺たち裏のチームは入れない。それにアラン達のことだ、カール達が帰った後で見にいくくらいはしただろうしな。あとこの件を追うには、クライドとも協力していく必要がある気がするんだ」

 ユーゴーの言葉を最後まで聞いた瞬間、アランが不敵な表情でニヤリと笑う。

「ふん、さすがはユーゴー・ドラゴネスト、いい勘してやがるぜ。俺達があの場所に戻った時……」

 そう言ってアランは、現場に戻った時の事を語り始めた。


 アランとバンゴが現場に戻った時、すでにアイマン支社の建物は完全に崩壊し瓦礫の山になっていた。

 それどころか崩壊は地下にまで及び、ここに繋がっていたであろう坑道も崩落したらしく、建物周りの地面も建物を囲むように陥没していて、瓦礫を撤去しても直下の坑道に辿り着くのは困難だろうと思われた。

 さらに支社前の広場も建物から中央を通り、森へと続くように直線で陥没していた。

 おそらく陥没している所に隠し通路のようなものが通っていて、敵はそこから逃げたであろう事が推測された。

 もしかすると2度目の爆発は、その隠し通路を埋めるためだったのかもしれない。

 しかし陥没箇所は建物跡と同じ様にちょっとやそっとでは掘り返せそうになく、陥没した先の森を少し調べて帰還することにした。

 ただ、その方向の先にしばらく前に閉じた鉱山があるらしく、もしかするとこの下にあったものはそこまで通じているかもしれないと思われた。

 その鉱山の出入り口はクライドとの国境を越えたすぐ先にあり、その意味ではユーゴーの勘が当たっていたのだった。


「まぁ、そんなとこだ。できれば建物の瓦礫の底まで行きたかったんだが、さすがに2人ではアレをどけるのは無理だし、あまりうろついて怪しまれるのもな……。ところで一つ聞きたいんだが、あの鉱夫達は何であんな風になっちまったんだ?」

 ユーゴーとしては、なるべく他国の人間にあの薬の事は言いたくなかったのだが、これからの事を考えて軽く概要だけを語った。無論、開発にカールが関わっていることは伏せたが。

「うげ、あそこでそんなもん使ってたのかよ……。それじゃ爆薬抱えて戦わされてるのと同じゃねぇか! わかった、薬の事はぼかして上に報告する。バンゴもいいな!」

「ああ、こんなものがあると知れたら外交問題だけじゃない、こちら(クライド)の戦争をしたい連中もこれを求めて動き出すかもしれん。それは絶対に避けねばならん」

 2人の言葉に心の内でホッと胸をなでおろすユーゴーだったが、何かを思いついたのか眉をひそめてアランの方に向いた。


「ところで一つ聞きたいんだが、今更かもしれんが今回の事件でクライド側で動いているのはアラン達だけか?」

「ああ、そうだが? あ、そういうことか。今回は行方不明の鉱夫の調査だけだから、バックアップとかはいないよ」

 アランはユーゴーが感じたであろう懸念について答えると一旦口を閉じ、それから少し間をあけてまた話し始めた。

「まぁ本来こんな事は警吏の仕事だが、場所が外国だったからな。警吏が外国で捜査する場合、相手の国にその意向を伝えて且つその国の警吏と合同捜査って形で動かなきゃならんのはお前も知っているだろ? 俺達のいる部署ってのは軍属ではあるが情報集めが主だから、こういう国を跨いだ事件では警吏が出る前に俺達が情報集めをさせられる事が多いんだ。んで、たまたま手が空いていた俺達にお鉢が回ったってぇわけさ」

「なるほど……」

 アランの説明に一応の納得をするユーゴーだったが、彼の眉間のしわはまだ取れなかった。

「……ハハハ、まぁすぐに信用しろってのはムリか。だが俺にしてもバンゴにしても、クライドでアレが使われない限り他人に話すことはしない。それに見ての通り俺達は丸腰でここに来ている、とりあえずこれでちっとは信用してくんねぇかな?」

「そうだな、事が事だけに少し疑い過ぎたのかも知れない。すまなかった」

 ユーゴーの態度に苦笑しつつも下手に出るアランに、ユーゴーはさすがに感じるものがあったのか神妙な顔で自身の態度を詫びた。


「さて、話すことも話したし、俺達はそろそろ帰るわ。鉱夫としての期間はまだ残っているからな、寝坊なんてしちゃ監督官に絞られる」

「ああ、わざわざ来てくれてありがとう。もしエイボリーに来たら"ドラグネット"に寄ってくれ、メシ位は奢らせてもらうさ」

 ユーゴーからの労いの言葉にアランが返事をしようとしたところで、またバンゴが彼に被せるように口を開く。

「お……」

「ああ、エイボリーへ行った際には、ぜひ行かせてもらおう。そこのカールが来てから"虎鉄屋"のメシが美味くなってたから、あんた等が帰ってしまってあの味に会えなくなるのは寂しい」

「だ・か・ら! いきなり出てきて俺の台詞を取るなって、さっきも言っただろうが! ったく……」

「まぁいいじゃないか、それにアランだって彼の料理を気に入っていたではないか。では此度はこれにて失礼する。またいずれ、ユーゴー・ドラゴネスト」

「このやろう無視するなよ、リーダーは俺だっつうのに……!。バンゴ、おい! ぉぃ……ぉ~ぃ」

 バンゴはアランを相手に漫才のような喜劇のようなことを勝手に始め、一頻り喋り終えるとユーゴー達へ一つ頭を下げ部屋を出て行き、アランもその後を追いかけるように出て行った。

 彼らが出て行った後しばらくすると、301号室から微かに笑い声が響いた。





 それから3ダイ後の早朝、エイボリーに向かう街道でユーゴーは不意に立ち止まり来た道を振り返る。

 奇しくもそこはエレナが襲われていた場所で、ユーゴーはそこから見えるアイマンの町を眺めながらあそこであった一連の出来事に思いを馳せていた。

「2マース(月)ちょっとしかいなかったのに、もう1イーズ(年)以上居た気がするな……」

「……だったらもう少し居てもよかったんじゃないか? いきなり何も言わずに辞めるから、皆びっくりしてたぞ」

 ユーゴーが感慨深くだが小さく呟く、するといきなり背中の方から声が響いた。

「え? 何だ!?」

 直前まで何の兆しもなかったことに驚愕しつつ、ユーゴーは背中で相手の気配を探りながらゆっくりと振り向く。いきなり振り向くと、もし相手が敵で近くにいた場合、体を回す時の隙で攻撃を受けるケースがあるからだ。

 振り向き終わったユーゴーが周りを見るがそこには誰も居らず、街道沿いにある森が目に入るだけだった。

 ユーゴーは少し考え込むように軽く俯くがすぐに顔を上げ、人の気配も感じない森の木の内人が隠れそうなものに向かって殺気を放つ。

 その途端、森の中に人の気配が生じ、一本の木の裏から笑い声が上がりのっそりと誰かが出てきた。


「ハッハッハ、探るために殺気を放つか、やるようになったじゃないかユー坊(・・・)!」

「えっ、ペネトロックさん? 何でこんな所におるだか? って今更意味ないか……。それで、何時から気付いてました? カンテツ(・・・・)さん」

 森から出てきたのはペネトロックだった。

 ユーゴーは彼を見ると緊張した表情を少し緩め、口調も偽装していた時のものから普段の口調に変える。

「ユー坊、お前の方こそ俺のことなんざとっくに忘れていると思ってたぜ。まぁあれから20イーズ以上経っちまって、俺も老けたからなぁ。ああ、お前がユー坊と確信したのは、治療院に連れて来られた時かな。第14坑道で会った時や仕事をしている時も似ているとは思ったが、その時はまだ王都の監獄にいると思っていたから確信が持てなかった」

「俺も会った時に何となくそうじゃないかなとは思ったけど、こっちは任務で偽装していたから聞くわけにもいかなくて……。まぁ確信したのは今ですけどね。俺の周りで俺をそう呼んだのは、うちの親父と死んだ叔父、それとカンテツさんだけですから」



 このペネトロック、実は以前ドラゴネスト流の道場に拳術や棒術などの"表"の技を教える師範代として在籍していたのだが、ユーゴーの父ミツヨシの弟でアイマン鉱山の前オーナーでもあるヒョウゴ・リュウガミネと意気投合し後進となるものを育てた後道場を辞してアイマン鉱山へ赴き彼を手伝っていた。

 その後、ヒョウゴが死亡(死因については未だに事故が事件かはっきりしない)し鉱山はオラクル社に買収されるが、ペネトロックは鉱夫として鉱山に残り現在に至る。

 "カンテツ"の名は彼がまだ師範代でなかった時、貫手(拳法の技で拳ではなく指先で相手を突く技)で厚さ10セラ(cm)もある木の板を貫いた事からミツヨシに付けられた。

 ちなみにこの名は東州(あずまのくに)の文字で書くと"貫徹"となり、貫き通すものという意味があるらしい。



 それから2人が昔話に盛り上がっていると、不意にペネトロックが眉をひそめユーゴーに尋ねる。

「そういやぁ、会社の建物と前の広場がとんでもない事になっているんだが、あれはお前たちが?」

「あ~、あれですか。確かに関わってはいますが、俺達がやったわけじゃないですよ。誰とは言えませんが、やったのはおそらく鉱夫失踪事件の犯人達です」

 ユーゴーの回答にペネトロックは眉間のしわを一瞬深くするが、すぐに顔を緩めユーゴーに向き直った。

「そうか……。ああ、引き止めて悪かったな、あいつらには"国許の親御さんが倒れたから、急いで帰った"とでも言っておいてやるよ。まぁまた暇ができたら掘りに来いよ、皆お前のこと気に入っているみたいだからよ」

「あの人達にはそうしていただけると助かります。そうですね、俺もあの雰囲気は好きでしたから、機会があればまたご一緒させていただきます。では」

 ペネトロックの言葉にユーゴーは、胸に暖かいものを感じながらも彼に背を向けエイボリーへ歩いていく。

 それを見送るペネトロックもまた、ユーゴーの背に一つ頷くと踵を返してアイマンへと戻っていった。

 え~と、前話で今回が最終話になると書きましたが、文字数の大幅な増加に伴い最終話は次回に持ち越しとなってしまいました(ついでに書くと、まだ完全に書きあがっていなかったり^^;a)

 でも一応鉱山での事件は今話で終了しまして後は後日談のみになりますので、あながち最終話と言っても間違いはないかもですが……。


 次話は今回ほどお待たせすることはないので、できれば最後までお付き合いいただけますよう、よろしくお願いいたします。


2017/ 3/ 4 鉱山の元オーナーの氏を、”ドラゴネスト”から#1での表記に合わせて"リュウガミネ"に変更。

2017/ 4/24 最後の方のユーゴーをセリフを一部修正。

2018/12/ 1 中程にあるエレナのセリフを一部変更。

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