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第二部:共有の物語 ―内省が言葉になる― 第13話 「その夜」

その夜、七人はカフェ「あおい」に集まっていた。何の約束もなかった。でも、なぜか全員が集まっていた。


いつものように、それぞれがそれぞれの席に座る。向かいの席には、「何か」の気配がある。


沙織が、公園の老人の話をした。


「この前、公園でおじいさんに会ったんです。この辺りの話をしてました。噂の村とか、昔は神社だったとか。でも、よく考えたら……あの人、最初からいなかったのかもしれない」


光莉がうなずいた。「私も、沙織さんからその話を聞いて、気になって調べてみたんです。でも、結局わからなかった。誰も実際に見た人はいないみたいで」


「でも、噂はあるんだよね」


「ええ。誰かが『聞いたことがある』って言って、また誰かに話す。その連続で、『いるらしい』ということが、なんとなくそこにある。それが、この場所の『何か』なのかもしれません」


純が言った。「私も、取材先で似たようなことを聞きました。『言葉は、思わぬところで思わぬ形で届く』って。届く人もいれば、届かない人もいる。届いても、それが救いにならないこともある。そして、誰にも届かないこともある」


康介が言った。


「田中も、あのスピーチを聞いて、むしろ苦しくなったようです。言葉は、誰にでも同じように届くわけではないんですね。届かない人もいる。届いても、それが救いにならない人もいる。でも……最近、会社で少し変わったみたいです。あの後、ふとした瞬間に『わからないままでも、いいのかもしれない』と独り言を呟いていたと、別の部下が教えてくれました。届かなかったはずの言葉が、どこかで薄く残っていたのかもしれません」


光莉は、みんなの言葉を聞きながら、ノートに書き留めていた。そして、顔を上げた。


「私たちは、知らないところで繋がっていた。誰も意図していなかった。でも、それがこの場所の仕組みなんですね。ここで『降りてきた』ものは、やがて『口から出る』ようになる。そして、それが誰かに『降りていく』。誰も意図していないのに、連鎖する。それが、この場所の仕組みなんです。でも、その連鎖から外れる人もいる。田中さんは、最後までここに来なかった。彼にとって、この場所は何も響かなかった。それは、なぜなんだろう。届く人と届かない人の違いは、何なんだろう」


誰も答えられなかった。


ただ、向かいの席の気配が、微かに揺れた。誰も見えない。でも、確かにそこにいる。


その揺れは、まるで「わからないまま、それでいい」と答えているように感じられた。


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