■■■ 【サブストーリー】エルゼ Step001 私の可愛い弟
私の幸せは7歳までだった。
私のお母さんは、私が7歳の時に死んじゃった。
だから、今のお母様はお母さんじゃないの。
お母さんが死んじゃった後、お父さんは女の人と結婚したの。とても若い女の人だったわ。
お父さんは忙しくて、家に居ない事が多いからって、新しいお母さんを...って言ってた。
お父さんは仕事がとても忙しくて、家に帰って来ない事も多かったわ。
でも、私のお家はそれなりに裕福だったみたい。お家には何人かのお手伝いさんがいたから。
だけど、お母様はお家の仕事を私にさせたわ。
お母様は私をお手伝いさんのように思っているのかしら。私に命令して掃除や洗濯や水汲みをさせるの。
ただ、お父さんが家にいる時はお手伝いさんからお父さんの子どもに戻れた。
それだけが、私の幸せな時間だった。
私が8歳になった時、弟が生まれたの。
ちょっと嬉しかった。お母様が私の相手をする時間がなくなったから。
そして、とても嬉しかった。私に弟が出来たから。
幸せじゃないけど、最悪でもない日常になったの。
私が12歳になった時、お母様が私に料理を教えてくれるようになった。
ちょっとだけ嬉しい。これで最悪は一人で生きていけると思ったから。
でも、お父さんと別れるのは嫌だった。だから、もうちょっとだけ頑張ろうと思うの。
弟は4歳になっていた。
私の後をちょこちょこと付いて来るの。本当に可愛い。
だけど、弟を抱きしめられない。お母様が怒るから。でも、弟はそんな事は分からないから、私に抱きつくの。さすがにそれは止められないみたい。
私が14歳になった時、変な話を聞く様になったわ。
「また来た」って街の人が言ってた。
何の事か全く分からないけど、街の人たちがとても不安になっているのが分かる。
弟は6歳になっていた。
沢山しゃべるようになったわ。私に沢山お話をしてくれるの。本当に可愛い。
私が弟の事を可愛がっている事は認められたみたい。だから、今は弟を抱きしめても怒られなくなった。
その日の晩、私は家事から解放されたわ。
お料理をお母様が作ってくれた。とても美味しかったけど、とても気持ちが悪かった。
私はもう用無しだ、毒でも入れられているのかと思ったの。
でも、同じ料理をお母様も弟も食べていたので、気持ち悪いと思いながら料理を食べたの。
これが最初で最後のお母様の料理だったわ。
自分の部屋に戻ると、そこに真っ白い顔の気持ち悪い男が一人立っていたわ。最近、話に聞いたヴァンパイアと同じ、真っ白な顔。
「お嬢さん、迎えにきたよ」
その時、分かった。
...私は...ヴァンパイアに...売られたんだ...。
もう...弟に...会えないんだ...。
私はこの時、絶望の余り気を失ったみたい。
次に目が覚めたのはベッドの上だったわ。それも埃っぽい、色のない部屋。見えるのは白と灰色。
気が付いたのは、首筋を噛まれた痛みから。
男が私に覆いかぶさって、首筋に歯を立てていたの。
あぁ...やっぱり、こいつはヴァンパイアだったんだ...。
私はヴァンパイアに血を吸われた事によって、奴の奴隷になってしまっている...私が人間である事が大事なのだろう。からだの自由を奪われているけど、心までは従わされていない。安堵の半面、おぞましさで気が狂いそうになる。いっそ、殺して欲しい。
最低限の食事だけを与えられ、五日に一度血を吸われる。そんな時間の止まった日々が流れていく。
血を吸われる度にヴァンパイアの影響を少しずつ受けるみたい。エルゼという私の意識が遠のいていく...私が...私でなくなっていく...。
その後も、簡単な食事...水と果物だけを与えられて、私はどれぐらいの時間生きたのだろう...。
昼と夜も分からない、白と灰色の世界で、私は血を吸われるためだけに生きる事になった...。
もう、本当にお父さんと弟には会えないんだ...。
そう思っても涙も出ない。
お願い。早く殺して...。
次に気が付いた時も、やっぱりベッドの上だったわ。
でも、色がある。ちゃんと木の色が見える。模様も見える。赤、青、緑、黄色...。
ここはどこ?
良く分からないけど、とても落ち着く...あぁ...分かった。ここは神様の世界なんだ。やっと、死ねたんだ...。
首が動いたので横を見ると、顔に丸い透明なガラスを二つ付けた黒髪の綺麗な女神様が私を見て喜んでいた。さすが女神様ね。女神の言葉だから、何を言っているのか分からないです。
その後ろには、金色の女神様...私、やっぱり神様の世界に来たんだ...嬉しいけど...お父さんと弟には二度と会えない事を理解した...。
私は声も出せず、静かに泣いた。
女神様たちは、何も言わず、ベッドの両端から私の手を握ってくれた。
その手はとても暖かかった。死んだのに、生きていると感じた。神様の世界は綺麗で、不思議なのね。
しばらくすると、とても可愛い女の子二人と、綺麗な女の人が入って来た。
ここは女性だけの神様の世界!?
「ふわっ!目を覚ましたのね!?」
「目を覚ましたのね!?」
女の子二人がものすごく喜んでいる。
勢いよくベッドの傍にやってきて、私の顔を覗き込んできた。
勢いにびっくりしたけど、とても暖かい気持ちが分かる。
嬉しくなって、また泣いた。
落ち着いたので、後から来た綺麗な女の人...キャリーさんと話をしたの。
黒髪の女神様はユリさんで、金色の女神様はカラーさんっていうお姉さんだった。
そして、女の子はセミアさんとレミさん。二人は姉妹なんだそう。
キャリーさんが教えてくれたの。私はあいつ...テクスから助けられたんだそう。
カラーさんのご主人様...リョウ様という人がテクスを滅ぼしてくれたんだって。
テクスはヴァンパイアだったわ。
「言う事を聞かないとヴァンパイアの餌にするわよ」という、聞き慣れた、聞きたくない台詞。そして、お母様が私を脅して言う事を聞かせる時の台詞。お母さんはそんな事、言わなかったのに...。
それはともかく、ヴァンパイアは闇の神であり、クラスタンプの万の軍勢でも倒せない悪魔のような魔物だと、そう聞いていた。
実際に、大昔に軍隊が滅ぼそうとしたそうなんだけど、全滅したって聞いたわ。
それなのに、ヴァンパイアを一人で滅ぼしたというリョウ様...。一体どれほど恐ろしい人なのか...。
と、思っていたけど全然怖くなかった。
ユリさんが部屋から出て行ってしばらくしたら、そのリョウ様が部屋に入って来たの。
私を見て、とても優しい顔で、自分の事を「中身は『近所のお兄ちゃん』」って言ってたの。
お父さんと弟以外の男は、もう嫌だと思っていたのに、リョウ様は全然嫌じゃなかった。不思議。
なによりも、セミアがとても嬉しそうに「お兄様」を褒めるの。レミが横でうんうんと頷くの。周りのお姉様たちが、ちょっとだけ困った顔をしているけど、嬉しそうに笑っているの。リョウ様は...とても困った顔をしているの...でも優しい顔...。
優しい。怖くない。安心する。
そして、リョウ様は言ったわ。
「セミアとレミの友達になって」って...。
もちろん、二人の友達になりたいと思ったの。
そして、友達になった。今、とっても幸せなの。
それから、毎日じゃないけどリョウ様は私に会いに来てくれるの。
もちろん、タニア様も、ユリ様も、リア様も、ミーム様も、カラーお姉様も。
キャリーさんとセミアとレミは、私のお世話をしてくれるので、いつも誰かが私のそばにいてくれるの。
生きているので、色々あって...恥ずかしいんだけど...でも、本当に感謝してるの。
まだ自分で立ち上がる事は出来ないけど、手は使えるようになったので、ある程度身の回りの事が出来るようになったのは嬉しい。
リョウ様は、まずは歩けるようにって、色んなものを持ってきてくれたわ。
今は「歩行器」?っていうものを使って、歩く練習をしているの。
立たせてもらった後、しばらくの間なら立っていられるようになったわ。
まだ足が出ないから、歩くのにはまだ時間がかかりそう。ちょっと悔しい。
でも、ユリ様が、
「大丈夫。急ぎたいんは分かるんやけど、急いでも時間がかかるんよ。やったら、楽しく訓練するんがえぇと思わへん?」
って言ってくれた。ちょっと分かりにくい言葉だったけど、意味は分かった。
確かにそうかも。
だから、出来るようになった事をリョウ様にお伝えするようにしたの。
リョウ様は、とても嬉しそうに聞いてくれるの。
そして、最後にこう言ってくれるの。
「エルゼが明日、出来る事が増えるかも知れない。増えないかも知れない。でも、十日したら絶対出来る事が増えていると思うんだ。だから、ちょっとずつで良いからね。エルゼは今、赤ちゃんから一気に成長しているようなものなんだから」
って。
赤ちゃんはちょっと酷いと思ったけど、それでもユリ様と同じ事を優しく言ってくれているのが分かる。
赤ちゃんって言われて、ちょっと弟を思い出しちゃった。けど、大丈夫。それこそ、会える時に歩けなかったら、ちょっと嫌かも。
だから、今は歩けるように頑張るの。
お父さんと弟に会いたいと思うわ。生きているんだもの。会いたいの。
でも、今は言わなくても良いと思っている。だって、リョウ様は絶対に私を大切にしてくれるって信じれるから。
だから、今、一番の願いは...。




