■■■ 【サブストーリー】ルーヴ Step001 つまらない日常から大きな変化
つまらない日常だったのよね。
私は男爵家の娘なんだけど、裕福ではないので王城に侍女として働きに出たの。
三女だったから自由にさせて貰えたって言うのもあるんだけどね。
コネ...という訳ではないけど、お父様がお城の知り合いを頼ってくれたので簡単にお城に入る事が出来た。
要領は良かったから、王家に近い所で働く事が出来るようになったんだけど、あまり面白いと思う事はなかったわ。
王家は面白いのかと思っていたけど、色々接触してみた結果は以下の通り。
国王様は内政にはとても強いお方です。だからと言って外交がダメって事はなく、基本なんでも対応出来る素晴らしいお方です。
前国王様の時代からもそうなのですが、国は安定していて他国を寄せ付けない状態になっています。クラスタンプも大人しいですしね。
でも、型に嵌り過ぎていて、面白くない人です。
法皇様は国教であるワクター神神殿の最高権力者です。そのお力は法皇の位に相応しく、魔法も神聖魔法も強力な術を扱えます。
法皇としても能力が高く、信者を強く導く事の出来る素晴らしい方です。
しかし、最強過ぎて信者にも強い事を強要してしまう所があり、面白くない人ですね。
大将軍様はお強いです。国内最強の声も高く、実際国内最強だと思います。
ですが、頭が固くて通り一遍の事を大事にして、変化を嫌っているので、面白くない人です。
前国王様はいまだに影響力を持っていて、基本的には国王様に政を委ねておられますが、国王様が何かと前国王様に相談しているので、まだまだ第一線で活躍されている状態で、「儂、いつになったら引退出来るんじゃろ?」と言っておられます。
が、率先して裏の組織...という事ではないんですが、諜報専門の組織である黒梟を取りまとめていらっしゃったりしています。
変化にも柔軟に対応する、とんでもない方ですが、最強過ぎて、面白くない人です。退屈にはならないけどね。
そこに変な人がやって来たの。
リョウ様っていう、タニア様が連れてきた男の人。
国王様にも法皇様にも大将軍様にも前国王様にも一歩も引かず、堂々と話をしている姿はとても頼もしく見えます。
特に前国王...ニアラブ様との舌戦は見ていてスカッとするものでした。
話を聞いてると、別に王家を蔑ろにしている訳ではないのよね。謁見の間ではちゃんと国王様に膝を折っていましたし、敬意を持つべき場面では言葉遣いもキチンとされています。
その上で、王家の方々に対して一歩も引かないあの態度はドキドキします。とても面白いです。
幸い、私はリョウ様の部屋付きの侍女に選ばれました。
本当はニアラブ様にちょっとお願いしてみたんですが...。
こんな事を言うと、ニアラブ様と危険な関係かと思われそうですが、そんな事はありません。
単にニアラブ様とは、ある程度普通に会話が出来るようになっているからです。もっとも、リョウ様のような話し方は出来ませんが...。
きっかけは、ニアラブ様の「独り言」に思わず反論をしてしまった事から始まったんですが...。
そこからなし崩し的に会話が進んでしまい、ニアラブ様の「独り言」に付き合う事になってしまったんです。
おかげで仕事が面白くなってきたんですけどね。
ともかく、私がニアラブ様と会話をする以上に、ニアラブ様とリョウ様の会話は刺激的な言葉が飛び交っていたのです。
それでいて、ニアラブ様の機嫌を一切損ねない、綱渡りのように見えて、その実しっかりと道を作っての会話でした。
絶対に私では無理です。絶対にニアラブ様に怒られてしまいます。
分かっているのは、知識と精神がニアラブ様と同じ高みに至っていると言う事だけです。
ニアラブ様は今年80歳です。しかしリョウ様はおそらく20代前半でしょうか。あの若さで、ニアラブ様に並ぶのは脅威です。
一泊されるはずの夜、色々と話を聞いてみたいと思っていたのですが、急な事件が発生してしまいました。
あのエバンが暴動を起こそうとしていると...。
ニアラブ様の独り言を聞いているので、エルセリアの領主が暴動を起こす事は知っていたんだけど、まさかこの時に?
結局リョウ様は一泊もせずに首都を離れてしまいました。
正直、とても悲しかった事を覚えています。
リョウ様とタニア様はエルセリアの暴動を止めるとの事で出かけられましたが、本来それは国の...ひいては王家が対応するべき問題です。
それをリョウ様の都合という事で、リョウ様が引き受けられてしまいました。
ワクター神...どうか、暴動阻止はどうでもいいので、リョウ様、タニア様、リア様、ついでにカラーの安全をお願いいたします。
数日後、エルセリアに派遣した軍からの報告が入ってきました。
クラスタンプ軍は壊滅。しかし我が軍は大きな損害は無し。その勝利にはリョウ様が貢献。エバンも大人しく軍に従って首都に入って来たそうです。
いつものようにニアラブ様の執務室。書類整理しているのをただ見ているだけですが、これも私の仕事です。もちろん、お茶の提供などの侍女としての仕事はあるけどね。
「リョウは恐ろしい奴じゃ...」
今日もいつものように独り言が始まります。
「どこがでしょうか」
私はそこに自分の言葉で質問をするというものです。
ニアラブ様は私の会話をして、考え事を整理するようにしているとの事ですが...本当かどうかは私には分からないわね。
「人の心をこじ開けよる...あのエバンが楽しそうにあやつの話をしておったわ...」
「エバン...前エルセリア領主ですか...」
「あ奴は剛の者じゃ。簡単に自分の事を話したりはしない。剛の者らしく自分の言う事を現実にする。相手を取り込む。抑え込むのじゃ」
「大将軍のような方ですか?」
ちょっと違うような気がしたけど、「剛の者」というと大将軍しか思い出せないだけなのよね。
「いや...エバンはどちらかと言うと儂に近いじゃろうな。イブウェルも剛の者じゃが、単純な力や威圧をするだけじゃ。エバンは言葉を駆使する剛の者じゃ」
ニアラブ様は剛の者ではないんじゃない?どちらかと言うと柔の者な気がするわね。なんか混乱するわね。
でも、確かにリョウ様は言葉巧みにニアラブ様と話をしていた記憶があるわ。
「...リョウ様も言葉を駆使する方ですものね...」
「そうじゃな...しかし、リョウはエバンよりももっと危険な奴じゃ...そもそも、あの若さで儂と渡り合うのじゃ。異常じゃ...」
「そんなに危険なのですか?」
「奴が本気になれば、口先でこの国が滅ぶやもしれん...」
「...は?...国が?」
「既にタニアとリアが軍門に下っておる。事実、おぬしもリョウに興味を持っておるじゃろう?」
ここで初めてニアラブ様が私を見る。その目はとても鋭く、嘘を認めないと言っているわね。
「それは否定しませんが、それが国が滅ぶ事とは繋がらないと思いますが?」
しっかりと目を見返しながら答える。
でも、その返答に少し残念そうな顔をして、また書類に目を落としたようです。実際、字を追っていないですし。
なんで残念そうな顔をしたのよ...ちゃんと返答したのに...。
「おぬしは頭が良い。それゆえに興味を持つだけで済んでおるが、ほとんどの者はおぬしほどは頭が良くない。簡単に取り込まれる可能性がある」
「しかし、それだけで国が亡ぶとは思えませんが?」
「では、国民の半分がリョウを支持したとしたら?」
「国民の半分ですか?そんな事ありえないでしょう?」
ニアラブ様のおっしゃる事は分かるけど、極端すぎる話だと思うんだけど?
「そうかの?リョウに実績が付けば、その言動を支持するものが増えよう。いや、もうエルセリアの暴動阻止、クラスタンプ軍の撃退で実績は付いておるか...」
確かに、実績があれば話を聞こうとする人は増えるでしょう。
話を聞く人が増えるという事は、噂が広まり、良くも悪くも名声が広がる。
そこで王家を批判すると、多かれ少なかれ信じる人が出てくる...。
国民の半分はリョウ様に付く...国が二分される?
その事に気が付いた時、私は思わず驚きの表情をしてしまったの。
それを横目で見ていたニアラブ様は、少し満足げな顔をして頷いたわ。
「分かったかの?リョウの恐ろしさが...儂が警戒する理由が...」
「分かりますが...ニアラブ様はリョウ様の事を理解していると思っておりましたが...」
「ある程度はな...しかし、奴は底が知れん。一貫しておるのは『タニアの為』という事だけじゃ」
「でしたら、王家を裏切る事はないのでは?」
タニア様は野に下ったとしても、王家の姫である事は間違いがないのだし。
「王家がタニアを切れば、リョウは王家に敵対するぞ?」
「それは王家とタニア様の問題で...」
「タニアを他国の嫁として差し出す話をしたとする。タニアが了承しなかった場合、リョウはタニアを守る。守る方法が想像できん。守る方法が我が王家を潰すという選択肢を選ぶ可能性もある」
「そんな事...」
「絶対ないと言えるか?」
無いはずです。だって、タニア様はリョウ様と結婚するんですから。そして、私を側室に...ゴホン。
あ、でも...王家がそれを認めなければ...タニア様は...リョウ様は...。
「...分かりません...」
「じゃろうな。儂も分からん」
そう言って、また書類に目を通し始めました。
ニアラブ様は本当にリョウ様を警戒しているんですね...。
私も話を聞いて背筋が寒くなりました...。
私はリョウ様に興味がある。それはきっと男の人としての興味じゃない...ハズ。
ドキドキしているのは本当。だけど、見ていたい、話をしていたい。それだけ。
次に会えるのはいつでしょうね。
って思っていたら、すぐに会える事になりました。
エルセリア領主の就任式に、タニア様とリョウ様が来られる事になりました。
ですが、その連絡をしに行った早馬が帰って来るよりも早く...首都に来ちゃったんです。
今回はタニア様の晴れ舞台という事で、王家が張り切っている所でした。
入念な準備をして...と考えていたんですが、準備しきる前に来ちゃいましたので、王城では大慌てになりました。
「来るのが早すぎる」
「なぜ連絡しなかったのか」
「連絡事項を確認しなかったのか」
「こっちの事も考えろ」
王城内ではこんな話で持ち切りでした。
まぁ仕方ないですね。
私は影響ないですけどね。
ニアラブ様を含め、忙しそうになりました。
私としては、前回リョウ様の事情聴取の時も早馬が帰って来るよりも早く王城に着いたのに、王家の方々も学習能力が無いわよね。
でも、まぁ...リョウ様もそこら辺を考えて欲しいとは思うんですけどね。
ともかく、またリョウ様とお話が出来る事になりました。
ちょっと嬉しいです。
今回も私が部屋付きの侍女として対応出来るようにニアラブ様にお願いしました。
ニアラブ様からの条件は一つ。
「リョウについて調査しろ」
もちろん、二つ返事で了承しました。
だって、楽しそうですもの。
特に今回はクウィル様がぐいぐいと攻めてきたのがドキドキしました。
クウィル様の心は女の子ですが、王子としての矜持を持っている稀有な方です。
きちんと大将軍から剣術を習い、既に上級騎士に匹敵する技量を持っておられます。
また、ニアラブ様からも教育を受けており、戦術や戦略が出来るようになったと聞いています。戦術と戦略の違いも、そもそもそれが何なのかも知らないけどね。
そんな経緯もあり、クウィル様はニアラブ様と話が出来るようになられましたが、流石にリョウ様のようには無理ですけどね。てか、絶対無理か。
ともかく、就任式は無事に終わり、夕食会も滞りなく済みました。
特に夕食会はとても凄かったです。
真っ白な衣装のタニア様と、真っ白な衣装のリョウ様。
まるで結婚式の新郎新婦のようでした。とても綺麗で、とても素敵で、とてもドキドキして、少し胸が締め付けられました。
その後、もう二泊して、タニア様とリョウ様は王城を出られました。
王城を出られる前に、私にスマートフォンという物を渡して行かれました。
これでリョウ様やタニア様と、離れていても会話が出来るそうです。
これは、恐らくですが私をリョウ様の「女」として認められたんだと思います。
あ、この場合の「女」は性的な意味ではなく、近くに居ても良い「女」って事ね。エルセリアと首都は遠いけど、このスマートフォンというのが近づけてくれるの!
ともかく、リョウ様の近くって絶対面白そうなんですもの!!
さて、リョウ様が帰られたので、リョウ様についての報告をニアラブ様にしましょう。
まず、タニア様を大切にしているという事は本当である事。
その言動が全てを物語っていますし、この件についてはニアラブ様も認識しているので、これ以上の説明は不要だと思います。
次に、優しすぎる事。
クラスタンプ軍の中で酷い境遇にあった奴隷の少女を救い、保護している事がその証明です。
また、カラーに聞くと、彼女たちの為に怒り、クラスタンプ軍を壊滅させた事を聞きました。
そして意外とって言うとアレなんですが、かなり周りを良く見ている事。
ご存じの通り、クウィル様の手を見て、レイピアの握りが合っていない事に気が付き、クウィル様と仲良くなられました。
会話術も凄いです。
これもニアラブ様もご存じかと思いますが、何気ない会話をする中で情報を引き出し、瞬時に理解し、更なる情報を引き出す能力。
カリナとの会話で、彼女から色んな情報を引き出してしまいました。黒梟の人ですよ?信じられますか?
あと、これは意外でしたが、武力も凄いです。
街中での事は既に聞いておられると思いますが、リョウ様から溢れ出た魔力と殺気。はっきり言って怖かったです。本当に失禁するかと思いました。
あれ程の魔力と殺気を放つことが出来るという事は、当然武力も相応に持っておられると思います。
サイクロプスの足を寸断したという話は事実だと考えられます。
一番の脅威は、適応力でしょう。
どこの誰に会っても、瞬時にその人に合わせてしまいます。シャーリー様もリョウ様と話をしていて楽しかったとおっしゃっていましたし。
最後に、これは私の感じた事であり、検証も確認もしていないのですが、女性に対しては一歩も二歩も距離をおいています。
なんとなくですが、近づこうとすると一定の距離を空けて離れてしまうというか...手で触れる距離までは近づけるけど、それ以上はどうしても近づけないのです。
そして、それはタニア様に対する態度も一緒のようでした。
これがそういう結果になるか分かりませんが、あまり良い結果にならないんじゃないかと思います。
根拠はありません。いわゆる「女の勘」という奴ですので。
ともかく、リョウ様は面白い方です。
これからも楽しませていただこうと思います!




