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魔法を信じるかい? ― マッドサイエンティストの異世界旅行  作者: 黒々猫
■■■■■■ 第6章 やるならちゃんとやりましょう
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■■■ Step051 砦を改良してみよう!

セミアとレミだが、砦で侍女として迎え入れる事になった。


そもそも奴隷として生かされていたのだが、雇い主であったアブマークが戦場で倒れた為、所有権が途切れたのだ。

奴隷に対する厳密な取り決めはあるらしいのだが正直、あってないようなものらしい。

とにかく、彼女たちを保護する事に何も問題はないそうだ。


いや、別の意味の問題が発生していたのだが...。



クラスタンプを追撃し、セミアとレミを救出して、疲れ切って倒れるように眠った翌朝、目覚めると両手が動かない。


あ~...昨日はキャリーが部屋まで連れてきてくれたので、また悪戯しているんだろう。

しかし両手が動かないのはなぜだ?

しかも良い匂いがする...。


恐る恐る首を動かして右腕を見る。

セミアが右腕に乗りかかるように寝ている。

なるほど...動かない訳だ。


あれ?なんでだ?そもそもキャリーはどこ行った?

あ~...いや、いつもキャリーが隣で寝ているという意味ではないんだが...。


っていう事は?と思いつつ左腕を見る。

レミが寝ている。

こっちはしっかりと左腕に抱き着いている。


おいおい...二人はカラーに任せたはずだぞ?あとタニアにも。


「おはようございます。ご主人様」


部屋の隅のソファーに座っていたカラーがベッドに歩み寄って来た。

ゴーレムだから睡眠の必要が無いという事で、私の侍女兼護衛として、夜は同じ部屋で全く動かず座っているのだ。

昨日まではクラスタンプ軍の襲撃に備えてタニアの部屋で護衛をしていたのだが、もう大丈夫だと判断したのだろう。



いや、とりあえずこの状況を確認しなければだな。


「おはようカラー。早速だけど、これはどういう状況なんだ?」

「彼女たちを保護したのはご主人様ですので、彼女たちはご主人様に仕える事になりました。そしてご主人様が寝る場所を与えなかったのですから、一緒に寝るように言っただけですが?」


意味が分らん。


「なぜそうなった?」

「彼女たちが望みました」


は?もっと意味が分らん。


「彼女たちはもう奴隷ではないし、私に仕える必要もないのだが?」

「では、彼女たちを放り出すという事でしょうか?」


なんでそうなる?


「いやいや、せっかく助けたのに放り出してどうするよ?」

「そうですよね。なのでご主人様が保護してください」

「え?俺?」


しまった?思わず素に戻ってしまった。


「いやいや、ここはタニアが良いんじゃないのか?俺はダメだろう?」

「なぜダメなのですか?」

「男だから」

「なぜ男ではダメなのですか?」

「この子たちの境遇を考えてみ?男に仕えるのは可哀そうだろ?」

「なるほど。おっしゃりたい事は分かりますが、この子たちは自らご主人様を選びました。諦めてください」


諦めてって...。


改めて右腕のセミアを見る。


私たちの会話で起きてしまったようで、今は黙って俺を見上げており、その目には涙が溜まっている。

慌てて左腕を見るとレミも起きていて、こちらは声もなく泣いていた。


この時点で俺は降参した。



改めて二人と話す。


昨夜はカラーがお風呂に入れてくれたそうだ。

救出時の事もあり、二人はカラーに懐いたようだな。カラーも面倒見が良いようで、甲斐甲斐しく世話を焼いているみたいだし。


その後、軽く夜食を食べた後に少し話をしたんだそう。


二人はやはり姉妹だそうで、母親はクラスタンプの男爵家に仕えていた侍女だったらしい。

そこで男爵に目を付けられ、生まれたのがセミアとレミだ。


男爵の妻は、セミアが生まれた時はなんとか許せたのだが、レミの時に大激怒したらしい。

結果、母親は男爵を誘惑した罪により奴隷に落とされた。二人の娘も一緒だ。


この世界では至って普通なんだそうだ。

そういう意味では、エバンとミフルの関係は珍しいのだろう。


奴隷に落とされた際、男爵は二人の娘を買い取った。

母親は流石に難しかったらしい。

その後の消息は全く分からないんだそう。


しばらくは妻に内緒で育てていたのだが、先日その事がばれてしまい、奴隷商人に引き渡され、軍の出発の前日にアブマークに買い取られたとの事。


クラスタンプ国内では奴隷の売買が盛んらしく、人さらいも横行しているんだそうだ。

世も末だな。


で、今後の話になった際に俺に仕えたいと言う意向があり、タニア達も了承したらしい。

私の寝ている間に...。



「ともかく分かった。二人は私の庇護下に置く事は承知したよ」

「ありがとうございます!ご主人様!!」

「ありがとうございます!」


物凄く喜んでくれたが、心中はかなり複雑だ。

女の子の奴隷なんて、どうしたら良いんだよ!


聞けばセミアは19歳でタニアと同い年。見た目は16歳ぐらいなんだが...。

レミは16歳でリアと葵と同い年だそうだ。こちらは14歳と普通に間違うんだけど...。


これは、おそらく栄養状態の問題だろうな。

ちゃんと食べさせてもらえていないので、成長が遅くなっているのかも知れない。


ともかく、ご主人様と呼ばれるのはカラーだけで十分だな。

だが、恐らく言い方を気を付けないとまた泣かれる可能性がある。こういうのは異世界もので学んだぞ。本当かどうかは不明だがな。

マジ泣かれるのは心臓に悪いので必ず回避だ!


「よし。じゃあ、最初にちょっとお願いがあるんだが?」

「はい!なんでもおっしゃってください!!」

「なんでも!!」

「ご主人様って言わずに、お兄様って呼んで欲しいんだけど...良いかい?」


本当は「リョウお兄ちゃん」とかにしたいのだが、彼女たちの事も考えてここら辺で妥協して欲しい。

葵が私を「お兄様」と呼んでいるので、まだ慣れているというのもある。


「お兄様ですか...」

「お兄様...」


二人とも考え込んでいるな。


「ご主人様をご主人様と呼べるのは私だけなのです。なので二人はご主人様を『お兄様』と呼びなさい。そして私の事は『お姉様』です」


おい!後方支援は助かるが、そもそも私が許可したのではなく、カラーが断固としてご主人様と呼んでいるだけだろ?

そもそも、お姉様って何?


「分かりました。ご主人...あ...お兄様...」

「お...お兄様」


だが、カラーの一言で決めたらしい。


「話は終わりましたか?」


ドアが開き、キャリーが入ってくる。

どうやら、ドアの外で聞き耳を立てていたようだな。

まぁ、別に構わないが...。


「あぁ終わった。ただ、実際問題としてこの子達をどうしようか...」


とたんに怯え始める二人。

え?なんで?


戸惑っていると、カラーが私を可哀そうな目で見ながら説明してくれた。


「はぁ~...ご主人様。何を悩んでいるかは私は分かりますが、この子達は自分たちの未来が不明になるような言動が一番怖いのですから、そういう事はこの子達の前ではおっしゃらないでください」


あ~!!そういう事か!!

また放り出されると思ってしまうんだな。


「ごめんごめん!私の言う『どうしようか』は、君たちにどういう仕事をしてもらうか考えないとって事だから」


そういうと二人は安心したようだ。

明らかに胸をなでおろした。


「そういう事ですか。私たちは色々と教え込まれております。ごしゅ...お兄様の身の回りの世話はなんでも出来ますよ」

「なんでも出来ます!」


なるほど。じゃあここはキャリーに頼もう。

おそらく、そのつもりで聞き耳を立てていたはずだしな。


「分かった。じゃあキャリー、この子達を一旦預けるから、色々と教えてあげて欲しいんだけど任せても良いかい?」

「承知いたしました」


キャリーがにっこり笑って請け負ってくれた。

ここは丸投げで良いだろう。


「じゃあ、このお姉ちゃんに色々と教えてもらってくれ」


ちなみにキャリーは19歳でタニアとセミアと同い年だ。

お姉ちゃんではないのだが、そこはご愛敬。


「分かりました。じゃあキャリーさん。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「任せてね。じゃあ、まずはこの部屋の事を説明するわ。あ、リョウ様。食事の用意が出来ているとの事です」

「分かった」


さて、キャリーに任せておけば問題ないだろう。

着替えて食堂に...着替え...。


はっとしてキャリーを見る。

ニヤリ笑いをしながら流し目で私を見ている。なるほど。私の着替えを二人に見せようという魂胆か!!


あ~二日前から着替えていないな。下着も替えないと気持ち悪いし。

ちょっと夜霧に行って、軽くシャワーを浴びてから食堂に向かおう。


「ちょっと夜霧に寄ってから食堂に行くよ。キャリーは二人をよろしくね~」

「え?ここで着替えないのですか?」

「着替えは夜霧にもあるからな。大丈夫だよ~」

「なんでぇ~??」


キャリーの叫びを背中で聞きながら、部屋を出た。



食堂に入ると、みんな食事が終わったようで紅茶を飲んでいる。

いや、ミームはまだ食べているな。


「リョウ。今朝は遅かったな。どうしたんだ?」


タニアは紅茶を飲みながら聞いてきた。


「あぁ。改めてあの子達と話をしていたんだ。あと、数日風呂に入っていなかったからな。シャワーを浴びてきた」

「そう言えば、ここ数日は本当に忙しかったからな。それに昨日はかなり疲弊していたようだし」


普段の徹夜であればあまり影響は出ないんだが、戦闘したし、そもそも精神的に疲弊していたからな。


「まぁな。ともかくこれでクラスタンプ軍を追い出したな。あとはタニアが領主を辞めるまで頑張るだけだ」

「そうだな。だが実際問題として、そんなにすぐに次の領主は決まらないようだぞ?」

「そうなの?」

「あぁ。まぁ、その辺りの話は後で執務室でしようか。私たちは先に執務室に行っておく。また後でな」

「わかった。食べたら行くよ」



食事が終わってタニアの執務室に赴いた。

中に入ると、見知らぬ...事はないな。見知った顔が並んでいた。


「よう。来たな」

「かなり活躍したようね」

「しかし、本当に無茶をされる人ですね」

「まぁまぁ、皆さん。それぐらいで...」


順番にローディス騎馬兵団将軍、フリュリー魔法兵団将軍、ファイ大隊長、そしてお馴染みパストング大隊長だ。


今回の暴動事件の主要メンバーが集まってしまったな。


「将軍方、こちらに来られてたのですね」

「ちょっと用事が出来たのでな。そうしたら副官殿が単身追撃に出向いたと言うではないか」


と、ローディス将軍。

用事というのはなんだろう?


「いや、エバンの件があってな。ともかくここまでやって来たのだ」


そうだった。

事の首謀者の処分が残っていたか...。


「陛下からは首都に連れてくるようにと言われているのだ。クラスタンプ軍の事が落ち着いたのであれば、このままエバンを引き取るが?」


それは有り難いが、それを決めるのは私ではない。


タニアを見ると少し考えているようだ。

考えるまでもないとは思うのだがな。


「分かった。エバンは引き渡そう。だが、その前にエバンと話をしたい。少し待ってもらっても良いか?」

「それは構いませんが...では、そこに私も同席しても?」


ローディス将軍は護衛のつもりなんだろうな。


「構わん。エバンとの話は昼からにしようと思う。話し合いをする際には連絡するから、それまでは砦でゆっくりしておいてくれ。そうそう、リョウも同伴してくれ」

「私も?」

「私の副官だろう?当然だ」

「そうだったな。承知した」


エバンの件は次のステージに移ったな。

護衛ローディス将軍で十分だろうけど、私も一応星砕丸と拳銃を持っていこう。まぁ、個人的にはエバンについては問題ないと思うけどね。


「そういえば、次の領主が決まらないっていうのはどういう話だ?」

「それは単純に、クラスタンプに付け狙われるエルセリア領主というものに、皆が尻込みしているからだ」


とは将軍のお言葉だ。


「ここって、そんなに面倒な所なんですか?」

「面倒だっただろう?」


何を言っている。というような顔で見られた。


「はい...そうでした...」


現在進行中で面倒だわ...。



昼過ぎ、タニアに連れられてローディス将軍と一緒にエバンの部屋に入った。


部屋には大き目のテーブルがあり、エバンが座って待っていた。


「これはこれはタニア様。ご機嫌麗しゅう」


席から立ち上がり、軽くお辞儀をしながら挨拶をする。

その表情は憑き物が落ちたという雰囲気だ。


「エバン。あの日以来だな。元気そうでなによりだ」

「そこの男のおかげでしてな。あれはタニア様の差し金ですかな?」


と、私を睨むエバン。いやマジでその睨みだけで人が殺せそうなんですが?


「いや?リョウ...私の副官が勝手に動いただけだ。私は何もしておらんよ」

「リョウ...と言うのですか。それにローディス将軍も一緒とは...」

「久しいなエバン。お前を首都に連れて行く為に迎えに来たのだ」

「それは、お役目ご苦労」

「ふん...言いよるわ」


やはり二人は知り合いなんだろう。

年齢はエバンの方が上だが、腐れ縁という感じか。


「して、タニア様。私に聞きたい事があるとか...。今回の暴動の理由とかでしょうか?」


そういや私も詳細な理由を聞いていなかったな。


「いや。それはあの時に聞いたからもういい」


え?あれで良いのか?もうちょっと心の機微とか興味ないの?


「では、何を?」

「このエルセリアを長年治めてきたのはエバンだ。多少の問題はあったようだが、特に大きな問題もなく先日まで治めてきていたのは、どういう風にしていたのかを教えてほしいと思ってな」


流石、タニアだな。

何もかもが前向きな所が良い所だ。


「ほほう...私の治め方ですか...。いや、正直あまり参考にはなりませんぞ?はっきり申し上げて力業と言っても良い方法ですぞ?」

「それは聞いてからの話だ。そもそも私は領主というものに対して一切の知識がない。方法も知らない。まずは知る事だと考えているのだ。それに、力業も方法の一つであろう?」

「確かにおっしゃる通りですな。私の話で良ければお話致します」


そうして小一時間程タニアはエバンと会話した。


砦内での人員配置、食料の備蓄と配置、出入りの商人への対応、周辺の村や街への連携、クラスタンプへの対応。そして、領主の心得。


「領主の権限は、その土地に置いて絶大です。暴動を起こそうとした儂が言うのもおかしな話ですが、己を戒めなければ勤まりませぬ。儂には意味が分かりませんでしたが、父は『鏡を持て』と言っておりました。恐らくタニア様にとっての副官殿のような者を指しているのでしょう。それと、領民の言う事は話半分以下で聞く必要がありますぞ。本当に困っている事を見抜いて、他の事の解決は領民で解決させるのです。領主として治めてはいますが、親ではありませんからな」


エバンは短い時間でその他色々と話をしてくれた。


「なるほどな。なかなか有意義な話で助かった。礼を言う」

「いえいえ。タニア様のお役に立てたのであれば喜ばしい事ですぞ」


しかし、これがあのエバンか?私と話をした時はまだまだ悪の気配が漂っていたのに、これではただの好々爺だな。


「タニア様もお忙しいでしょう。あとはそちらの副官殿に伝えておきますゆえ」


...おい。


「そうなのか?ではリョウ、エバンからもう少し話を聞いておいてくれ」

「あ~...分かったよ」


タニアとローディス将軍が部屋から出ていく。

部屋には私とエバンだけだ。


「なぜ私を残した」


軽くエバンを睨む。

余計な仕事を増やして欲しくはないんだがな。


「もちろん、領主の裏の話をしたいと思ったからだが?」


確かにタニアに話した内容は「表」の話だな。


「はぁ~...あんた、変わったな」


もういいや。ここは腹を割って話をしよう。

どうやら、エバンもそれを望んでいるようだしな。


「何を言う。儂は何も変わっておらんよ。元に戻っただけじゃ。ほれ、以前おぬしが儂に『悪であれ』と言ったではないか」

「それはそれでややこしいんだけどな...」


個人的には楽しそうな話ではなさそうで、ちょっと憂鬱だが、せっかくだからもうちょっと話を聞いておいてやろう。



改めてテーブルに着く。


「なんじゃ。嫌そうじゃの」

「あんたとの会話は面白くなさそうだからな」

「当たり前じゃ。そもそも儂も面白いとは思っとらんわい」

「でしょうね」

「相変わらず可愛くない奴じゃの...まぁ良いわ。正直儂にはあまり時間がないからのう。嫌でも付き合ってもらうぞ」


将軍が連れて行くと言ってたからな。

はっきり言って、処刑まで10日もないだろうな。


「はぁ...わかったよ。記録を録らせてもらっても良いか?」

「構わん。好きにせい」


懐からメモ帳とボールペンを出すのと、スマートフォンの録音機能を起動させる。

目の前にスマートフォンを出したが、何も言わない。私の事に関しては一切無視を決め込んでくれたようだ。有難いがな。


「さて、まずはこの砦の防衛についてじゃが、知っての通りクラスタンプに対しては穴だらけじゃ。理由は分かっておるな?」

「元々この砦はクラスタンプが建てたからな。抜け道を含め、脆弱な所は筒抜けって事だろう?」

「そうじゃ。抜け道は10本ほどあるそうじゃ。じゃが把握できているのは3本だけじゃ」

「3本も分かっているのか?」


地道な調査をして把握したんだろう。


「なんじゃ?おぬしはまだ分からんかったのか?」

「あのなぁ...砦に入ってから数日しか経ってないんだぞ?無理に決まっているだろう?」

「安心せい。嫌がらせじゃ」

「ひでぇ...」


このおっさん...やりづらい...


「まるでお爺様...ニアラブ様を相手してるみたいだぜ」

「ニアラブ様を知っておるのか?」

「あぁ、先日首都に行った際に話をしたぞ」

「そうか。おぬしもニアラブ様に負けた口じゃな」


とニヤリ笑いを浮かべこちらを見やる。

うん。確かに最初はね。


「いや?最後の最後で言い返してやったぞ?」

「なに?ニアラブ様にか?...おぬし、ホントにむちゃくちゃじゃな」

「あんたに言われとうないわい」


本当にこの国の年長者は...本気で話をし始めると面倒この上ないな。嫌いじゃないが...。


「で、儂が把握している抜け道については儂の部屋の本棚にある。探せ」

「もうちょっと正確な場所を教えてくれないのか?」

「嫌がらせの一環じゃ。そもそも抜け道よりももっと大きな問題があるぞ?」

「大量の兵士を駐屯させる能力がないって事か?」

「なんじゃ?それも知っておったのか?」


そもそも、それは体験済み。


「今回クラスタンプ軍が2,000に対して、こっちは城壁があるとしても800しか駐屯させる事が出来なかったからな。これは籠城するにしても致命的だ。今回の先遣隊も砦には入れなかったしな」

「それは儂の前の領主、父上が砦の周りの土地を貴族共に提供したが原因じゃ」

「それはなぜだ?」

「当時は貴族がそれぞれに兵士を持っておったからの。その兵士を含めて戦力に出来たんじゃが、貴族共は兵士を持たぬようになった。結果、砦の兵力は落ちたのじゃ」


なるほど。時代の流れという事か。


「父上の考えでは兵力分散となるが、平時の管理負担が減るからのう。じゃが、今となって意味がない。土地を返還させるのが良かろう」

「そういう事を言うって事は、あんたと一緒にクラスタンプに加担した貴族を教えてくれるって事で認識は合っているのか?」


おそらく、土地返還を容易にする為にも教えてもらえると思っているのだが?


「...ほんっっっとうに、可愛くないのう!!」


エバンは文句を言いながらも、何人かの貴族の名前を挙げる。


「名前は良いが、証拠はどうするんだよ?裏切りの証拠が無いと意味のない情報だぞ?」

「それこそ儂の本棚を漁るんじゃな。まぁ頑張れ」

「分ったよ...で、それはエルセリアだけなのか?」

「それはどういう意味じゃ?」

「あんたの管轄はコープル村とチェーベン川の河口にあるカタランスと聞いている。そこはどうなんだ?」

「抜け目がないのう...コープル村は息のかかった騎士を派遣しておいたからの。それ以外は普通の住民じゃ。カタランスは儂の意に沿った商人がおる」

「商人か...少々面倒だな」

「ヤーラム商会とベス商会が、儂の意向に沿って動いておった」

「...その商会は大きいのか?エルセリアにも店があるとか?」

「調べろ」

「はい先生」

「...」


うわ...めっちゃ嫌そうな顔。

だが、次の瞬間m非常に悪い顔で身を乗り出して来た。


「儂を先生と呼ぶと言う事は、儂を逃がしてくれ、と言えば逃がしてくれるんじゃな?」

「安心しろ。あんたは『反面教師』だ」

「本当に...なるほど...ニアラブ様も手を焼いたわけじゃ」


苦々しい言葉とは別に、その顔は楽しそうだ。

ひょっとしてニアラブ様が困っている顔を想像しているのかも知れないな。


「知識や老獪さでは負けるかも知れないが、口は負けないぞ?」


自慢にはならないとは思っているがな。


「ふ...若いのぉ...」


腕を組みながら私の顔を一瞥する。

その表情は、少し憂いているようだ。


「年長者としてこれだけは言っておこうか。確かに口論での勝ち負けはおぬしの勝ちじゃろうよ。じゃが、経験の差は覆せないものなのじゃ。口論で勝った負けたと一喜一憂している時点で若いのじゃ。本質は口論の勝ち負けではない」


...確かにそうだな。エバンの言っている事は正しい。


「すまない。エバンの言う通り、私が思いあがっていたようだ。注意して頂いた事を感謝する」


座ったままだが素直に頭を下げる。

エバンとは話しやすさも手伝っていたが、確かに増長していたな。


「はぁ...本当にやりにくい奴じゃのう。まぁ良い。次はエルセリアの商人に関しての話じゃ。これはどこにも残しておらんからの。ちゃんと覚えておけよ」


そういうと、商人の話を色々と話をしてくれたのだった。



一通り話を聞いた後、ちょっとだけ休憩した。

まぁ、新しい紅茶を頼んだだけではあるが、その時に思った事をエバンに聞いてみた。


「...なぁ、ちょっと良いか?」

「なんじゃ?」

「なぜ、色々と教えてくれるんだ?言わなきゃ、それこそあんたにとって『ざまぁみろ』って事になるんだぞ?」

「儂が嘘を言っている可能性があるんじゃが?」

「確かにある。が、それは可能性の問題というだけだ。調べる方向性が分かれば明らかになる。あんたの話はどうせ全て調べるんだ。結果として真実に辿り着く」

「では問題あるまい」

「いや、そうじゃなくて...あんたは処刑されるんだ。もうこの世界はどうでも良いんじゃないのか?」

「はぁ?おぬしは儂にこう言ったんじゃぞ?『最後まで戦え』と」

「確かに言ったが、それとこれは関係ないだろう?」

「何を言うか。儂は元エルセリア領主じゃ。領地の管理は滞りなく行わなければならんのじゃ。生きる事は戦いなのじゃ。であれば、最後まで戦うのみぞ」

「なるほど。分かった。そういう事ならよろしく頼む」


その後、商人への対応の注意点、周辺の街や村の情報、貧民街の状況、裏社会の説明、砦に関する問題点、兵士への対応と心構えなどを聞いた。


しかし、これは本当に至れり尽くせりだな。


「さて、これで一通り伝える事は伝えたわい」

「あんた、良くこんなにも覚えているな」

「おぬし、儂をバカにしとるのか?」

「そんな事はない。資料もなく、これほどの情報を常に把握しているというのはすごい才能だと思っただけだ」

「何を言うかと思えば...。おぬしは分かっておるであろう?領主は過酷な地位じゃ。であれば、これぐらい出来て当たり前というものじゃ」


確かにそうかもな。

だが、エバンは本当に優秀な領主であったという事が分った。


「色々と助かった。これはタニアにもちゃんと伝えておく」

「そこは任せるが、内容によってはおぬしが動くべきものもあるんじゃぞ?」

「当然だな。裏方は全部私が対応する」

「それで良い」

「だが、あんたは全部自分でやったんだよな?」

「当たり前じゃ。儂は領主じゃぞ」

「失礼いたしました」


心からの畏怖と尊敬を込めて、頭を下げた。

エバンは優秀な領主であったのだ。


「もっとも、息子のテキナにも覚えてもらおうとしたんじゃが、あれはダメじゃった。急いだのはそれも理由の一つじゃったかもな」


ちょっとその辺りも聞いてみたいと思ったが、雰囲気としては何も聞けなかった。

聞いたところで「確認せよ」と先生は言うのだろう。



話も終わったので、部屋を出ようとして扉に手をかけた瞬間、思い出したことがあったので、エバンに聞いてみた。


「なぁ最後に聞きたい事があるんだが...良いか?」

「なんじゃ」

「テキナに一言伝える事はあるか?あと...ミフルにも」

「ない」

「そうか...分かった」


ドアを開き、部屋を出て閉じようとした瞬間、エバンがつぶやいた。


「感謝する」


それが、私が聞いた、エバンの最後の言葉となった。



さて、エバンからの情報を得たので、まずは砦内の対応をしていこう。

マジで抜け道は危険だからな。


ゲートを潜って研究室に入り、自宅に戻る。

そして、玄関横の荷物置き場に入る。


研究用の大型荷物は、いつも玄関横の荷物置き場に積まれている。数日前にネット注文をしておいたのだ。

小さいものはユリが私の部屋に入れてくれたりするが、重い物は運ぶのは大変だからな。


ちなみに、もうゴールデンウィークも終わっており、自宅には誰もいない。ユリも輝も葵も学校だ。

しかし、他所の娘さんが普通に家に居るっていうのは、親公認とは言え...。


ともかく、荷物置き場には大きな荷物が3つほど。

そこそこ重たいので、一つずつ研究室に持ち込む。


運び終わって一箱開封すると、中からは監視カメラがぎっしり。

残りの二箱には色んな部品が入っている。


これで何をするのかと言えば、砦内を監視する為の監視カメラを作るのだ。

電源は各階に魔力電力変換バッテリーを設置し、そこから供給。私の部屋に監視用PCを設置して、そこで集中管理をする。


機械の設定は簡単なのだが、問題は配線だよな。

ここはパストングも巻き込んで人海戦術で対応しよう。一人で配線すると普通に来年までかかりそうだしな。


まずは魔力電力変換バッテリーを作らなきゃだな。

砦の入り口がある1階と、執務室やタニアの部屋等がある4階にまずは設置しよう。

作り掛けの魔力電力変換バッテリーがあるので、簡単に用意出来るな。


脳内でカメラの設置場所を考えながら、作業を進めていった。


あ、ユリ達に電話解禁の連絡を入れなきゃな。



夕方になり、執務室に戻る。

魔力電力変換バッテリーは2つ完成した。

明日から設置作業だな。


「リョウ。どこに行ってたんだ?」


部屋に入るなりタニアが声を掛けてきた。


「あぁ、エバンから色々話を聞いたからな。ちょっと急ぐ作業が出来たんで研究室に籠っていたんだ」

「そうなのか。それで作業は進んだのか?」

「今のところ順調だ」

「そうか。で、何をしているんだ?まさか私に教えてくれないとかはないよな?」

「当然、ちゃんと説明するよ」

「それは私も聞いて良い話ですか?」

「パストングも聞いて欲しい内容だ」


もっとも、この部屋にはリアもカラーもミームも居るから、丁度いい。


そんな訳でみんなに砦の監視を行う事を説明した。

当然、エバンが言っていた抜け道の話もした上でだ。


「なるほど。まさか10本も抜け道があるとはな...」

「本当ですね。まずは先日の抜け道を確認してみましょう」


タニアが考え込むように言えばパストングが明日の予定を決めたようだ。

まぁ、ミフルが通ったであろう抜け道を確認したら、ひょっとすれば新しい抜け道発見になるかも知れないしな。


「じゃあ、アタシたちはお姉様の部屋の本を調べようかな?」

「そうだな。当然だが私も一緒に調べよう。シャインやキャリー...そうだ、セミアとレミにも手伝ってもらおう」

「私も手伝うよ」


リアはタニアの部屋の本棚の捜索をするそうだ。

本棚はかなり大きいようなので、人海戦術にしたいんだろうな。タニアが思いつくままに人名を挙げる。

そこにミームが立候補した感じだ。


「よし。これで7人。十分だな」


十分と言ったタニアだが、良く知ったメンバーが集まったので、おしゃべりで進まないんだろうなと邪推してしまうな。

セミアとレミに頑張ってもらおう。


「じゃあ、カラーは私を手伝ってくれ。色々と覚えて欲しい事もあるからな」

「承知しました。ご主人様」


カラーは色々覚えるのが速いからな。

その内、輝を抜いてしまうんじゃないかと思う。


「そうだ。エバンはエルセリアを発ったぞ」

「あぁ、噂で聞いたよ」


エバンは私との会話の後、ローディス将軍に連れられてエルセリアを出て行ったそうだ。

タニアは移送に立ち会ったんだそう。


エバンは私が部屋から出た以降、一言も口を開かなかったそうだ。

伝えるべき事は全て伝えた。という事なんだろう。


「リョウを呼ぼうかと聞いたが、首を振るだけでな」


とはタニアの言葉だ。



さて、明日からも忙しいぞ。

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