■■■ Step004 平穏ならざる会話から急転直下の問題発生
ここから物語が動いてきます。
了とタニアの大阪×異世界の冒険がここから始まります。
次回は2026年2月28日(土)15:00 にStep005を投稿予定です。
さて、お互いの世界を行き来して、お互いの知的好奇心を満たす事についてはお互い了承できた。
そこで、実際にどうするかの話になったのだ。
「まずはリョウをこの世界について案内しよう」
「それはありがたい」
「しかし、順応性が異様に高いような?」
あと、順応性に関しては思い当たる節が沢山あるな。
「順応性については、タニアに嘘を言っても仕方がないので正直に話すが、我々の世界ではこういう『異世界に行く』物語が多くてな」
特に日本だけなのかもしれないがな。
個人的には「女子高生が召喚されて、日帰りで異世界旅行をする」というのがお勧めだ。
「ほう!?では、別の者がこちらの世界に来ている可能性があるという事か?」
どうやらタニアは実際に行き来した者がいて、それを物語にしていると思ったようだ。
「いや、違うぞ?それらの物語はあくまでも想像しての物語だ」
「そうなのか...残念だ...」
一口紅茶を口に含み、首を振りつつソファーに沈む。それほど残念なんだろうか?
「ところで、この世界でのリョウの立ち位置なのだが...」
「おっと、そうだな。本当にこの世界の事は何も分からないので、タニアに丸投げになってしまうんだが...」
ここは異世界。大変申し訳ないがタニアに頼るしかないのだ。
もちろんタニアが地球に来る時は、私が全面的にサポートするし、手を抜くつもりはないのだが。
こんな美人を連れて歩く...う~ん...男として優越感はあるのだが、はっきり言って問題がありすぎるな。私個人の生活環境的な話で...。
と、私が取り留めのない事を考えている間に、色々考えていたのだろう。タニアは的確に私の立場について説明をしてくれた。
「よし。リョウは私の魔術の実験を補助する為に雇われた魔術師の見習いとしよう」
「なるほど。それは妙案だな」
「私に対して対等の立場であるのは先ほども言ったが友人だからという事で問題はない」
見習いで友人っていうのはちょっとややこしいな。
「魔術師の見習いというのはリョウの衣装が魔術師らしく見えるからというのもあるが、私の近くにいるには、それが一番無難だからというものもある」
「確かにそうだろうな。で、そうするとして、問題点はあるのか?」
タニアが魔術師であるので、魔術師関係の職業であるとした方が良いのはなんとなく予想はつくのだが、問題がありそうな表情だな。
まずはタニア先生の講義を聞いてからにしよう。
「もちろんある。リョウは魔法や魔術に対して、絶対的に知識と実績が足りていないという事だ」
一応『魔術大全』を読破するにあたって、当然だが魔法は扱えるようにはなっている。
が、熟練するほどではないしな。
そもそも、タニアと比べるとまだまだ初心者の領域のはずだ。
「まぁ確かにそうだな」
「さっきの話では魔術に対して全くの無知ではないと思うが、そちらの世界では魔法が一般的ではないのだろう?」
要は、見習いにしても実力が足らないっていう事を言いたい訳だな。
実力か...それは確かに分からないな。
しかし、タニアのセリフと表情を見ると、私に魔術を教えようとしてくれているようだ。
「あ~...そうか...しかし、魔術師見習い以外はタニアのそばに居るのは難しくなるか...そうだよな...」
私が言い淀んだのを見たタニアが、今度は少しだけ笑いを含みながら睨んできた。
「なんだ?勉強が嫌なのか?」
どうやら、先生がちょっと生徒を嗜めている...というものだと思われる。
勉強は確かに嫌いだが、この場合はちょっと違う。
「いや、違うんだ。さっきも言ったが魔術についてはある程度知っている」
『魔術大全』があったからな。
「あちらの世界で実験をするぐらいだから基礎は分かっているつもりだ。もっとも、この世界の理論と一緒かどうかは分からないがね」
「なに?基礎理論が違うだと!?」
いきなり腰を浮かせ、食いついてきた。
ちょっと!顔が近い!興奮しているのか顔が赤いし、息も荒い。こちらに吐息がかかってくる。
...あ、いい匂いがするな...。いやいや、私も落ち着け!!
「慌てない!後でお互いの理論を確認してみれば良いだろう!」
「あ、すまない...続けてくれ」
恥ずかしそうに座り直すタニア。
「で、あちらの理論で良いのであれば、簡単な魔法ぐらいは発動する事ができるようになっているんだ。こんな風にな...」
と、人差し指を天井に向けて指し、その指先に米粒程度の大きさの小さな炎を「ぽっ」と灯してみる。
あちらでは変に呪文を唱えると「痛い人」認定されそうだから、無詠唱で発動できるようにしたのだ。
ボォフウッ!!
魔法を発動した瞬間、自分の指先に拳大ほどの炎が立ち昇り、空気を焦がして消滅した。指先を中心に空気が焦げた匂いだけが残った。
顔の近くだったので、すこし髪の毛が焦げたかも知れないな。
「...あれ?...」
米粒ってこんなんだったっけ?
「...おい...今のはなんだ?」
先生の目が怖い。ここはきちんと説明しなければ減点されるだろう。何を減点されるのかは分からないが...。
「指先にちょろっと炎を灯そうかと...」
「あれがリョウの言う『ちょろっと』なのか?」
まだ目が怖いです。タニア先生。
「いや...だから米...は無いか?麦の粒ぐらいのつもりだったんだが...」
この世界に米粒があるかは分からないからな。
「全く大きさが違うぞ?...しかも...無詠唱だと?」
なんとなくだが、理論的もこちらの世界の魔術と魔術大全は違うようだ。
あと、「なぜこちらでは威力が上がるのか」の問題だが...。推察は出来るが、今は後回しだ。
目の前の鼻息荒い女性をなんとかしないと、こっちも鼻息が荒くなってしまう。
「魔法の規模が大きくなった事については今は分からない。推察は色々できるが、それを証明するにはまだまだ時間が必要だ」
「むぅ...わかった。とにかく本当は『ちょろっと』の規模だったのが拳より少し大きいぐらいになったのだけは事実なのだな?」
ボフンと勢いよくソファーに座り直し、こちらを睨む。
座り込んだ瞬間、胸が大きく揺れたのを見ていた事については黙っていよう。
「そうだ。炎があれほど明確に大きくなった事はない。そして『無詠唱』はそれほど難しくはないぞ?」
タニアの顔がすごく嬉しそうだ。『無詠唱』はタニアの研究の一つのテーマなのかもな。
「そうなのか!こちらでは難しいので誰も出来ないのだぞ?ちなみに私も出来ないんだぞ?簡単なんだな?」
「簡単なんて言ってないぞ?『それほど難しくはない』だ」
「難しくないなら今すぐ私にも出来るのか!?」
えらい食いつきようだな。それほど無詠唱はすごい事なんだと認識した。
「もう一度言うが『それほど難しくはない』だ。それなりの難易度はあるし、恐らくだが人によってはとても難しいかも知れない」
「人によっては?」
「魔術もすぐに覚えれる人と、なかなか覚えれない人がいるんじゃないのか?そういうのと一緒だと思うぞ?」
「あ~...確かにそれは『人による』だな...」
タニアは顎に指を当てて考え込んでいた。
ここはタニアの考えがまとまるまで待っていよう。まずは残った紅茶を飲み干す。いやぁ、なかなかに美味かったな。お代わりが欲しい所だ。
「わかった。リョウは私の『魔術の研鑽の同志にして友人』という事にしよう。その無詠唱に関しては当分封印しておいて欲しい。さすがにそれはまずいのでな」
「分かった...しかし、この魔法に関しては『ファイア』とだけしか言わないが、それでも問題ないか?」
こっちの魔法理論もちゃんと確認しておかないとな。
「呪文がそもそも違うな...まぁ、私たちとは別系統の魔法なので、お互いの魔術交流を目的に一時的に私の補佐をしてもらっている事にしよう」
「承知した」
しかし、魔法の規模が地球とは違うというのを事前に知る事が出来て良かったとしておこう。
もっとも、すべてがそうなのかはちゃんと検証をしなければならないが...。
「あとは...そうだな、私の個人的な知り合いとしておきたいので、どこかの貴族の三男坊とかが遊びで魔術をかじって...みたいな?」
突然、首をかしげてかわいく聞いてくる。「みたいな?」って...まぁ、こういうのは異世界でもあるのだろうが...。
「なんなんだ?その『みたいな』って...」
顔に上がった熱をごまかすために顔に手を当てつつ首を振りながら俯いてみる。
その行動にあまり疑問を持たなかったのか、興味がないのか説明が続く。
「特定の土地ごとに魔術学校があり、そこで基本的な魔術に対する教育を受けることができるのだ」
なるほど、魔術学校ね。
「同じ呪文でも魔術師によってバラつきがあってな。若年者でも熟練の領域に立つものもいる」
「タニアは年若くして熟練者なのだな?」
見た限りでは20歳前後だな。
「そうだ。首都の魔術学校に8歳で入り、12歳ですべての教科を習得した。卒業してから7年経つが、今でもその最年少記録は誰にも破られていない」
「なるほど。今は19歳なのか。若いな」
「まぁ、魔術師としては若くはないが、魔工師としてはかなり若いはずだ」
大きい胸を張って、自慢げに言う。
私が単純に若いと思った事を、魔工師として若いと受け取ったようだが、問題はない。
では、次の質問だ。
「先ほど私をどこぞの貴族の三男坊に...とか言っていたが、あれは?」
「貴族は嗜みとして魔術を覚える傾向がある。私も貴族の娘なのでな」
「なるほど。だから貴族の三男坊か...しかし、私は自分の世界では平民だぞ?すぐにばれると思うぞ」
完全無欠のド平民だ。
しかも大学を卒業してからは自宅で研究に明け暮れ、ニートやパラサイトという訳ではないが、社会でまともな仕事をしている訳ではない...。
いや、待てよ?貴族の三男坊も似たようなものか?
「そうなのか?そのような洒落た格好をしているから貴族だとばかり...」
タニアが言いかけたその瞬間、「バン!」と大きな音を立てて背後のドアが勢いよく開く、と同時に声が響く。
「お姉様!!」
「のわぁぁあぁっ!!!!」
完全に油断していたので、かなり驚いてしまい、変な絶叫をしてしまった...。
あ、ティーカップは無事だった。




