■■■ Step011 のどかな草原でマッドを決める
いよいよ了がマッドサイエンティストとして暴走しはじめます。
異世界って縛りがないのでいいですよね~www
お馬さんと電龍の競争も終わり、もう少し進んだ所に小川が流れていたので、そこで馬を休ませながら小休止となった。
結構走らせたのでのどが渇いていたのだろう。すぐに小川に行き、がぶがぶと水を飲んでいた。
今は、近くの木に繋いだ状態にしてあり、その場の草をゆっくり食んでいる。
我々も川の近くの草原にシートを敷いてみんなで座る。ちなみにシートは私が用意したものだ。
そして、これも私が持参してきた電気ポットで小川の水でお湯を沸かして、インスタントコーヒーを淹れて一息ついているところだ。
当然水質チェックはしてある。有害な物質は検出されず、良質な水である事は確認済みだ。
ちなみに、電気ポットでお湯を沸かしたのだが、3人は非常に驚いて「いったい、どういう魔工なのだ?」と激しく聞かれた。
一応原理を簡単に説明しておいた。が、おそらくタニアでさえも分かってはいないだろうな。そもそも、この世界は「科学」というものが未発達なのだ。我々の世界でも1000年程過去に戻って電気ポットを見せれば同じような事になるだろうがな。
その騒ぎも一段落し、ゆっくりとコーヒーの湯気を顎に当てていると、リアが私を突いてきた。
我に返ってリアを見ると、
「ねぇ、アレ、アタシに頂戴」
と、近くに停車してある電龍を指さし、ねだってきた。
「それは無理」
即答。
「私は?」
「ミームも無理だよ。これは馬に乗る以上に難しいの」
「私はどうだ?」
「タニアは...理論と理屈を覚えれば乗れる...かも?」
色々と呑み込みの早いタニアであれば、おそらく1ケ月にしないうちに乗りこなしそうな気がする。
あくまでも「気がする」だけなのだが...
「なるほど。では、残りの道中にでも色々と教えてもらえれば明日にでも乗れるのか?」
「いや、さすがにそれは無理だと思うぞ?」
「そうなのか?それは残念だ」
とても残念そうな顔で一言漏らす。う~ん...友としてはなんとかしてやりたいな。
「まぁ、帰るときにでもちょっとだけ乗ってみるか?」
単に動かすだけであれば、私が側車からある程度コントロールしてやれば、乗れない事もないだろうし。
と、思って軽くOKを出したのだが...
「本当だな!?約束だぞ!!」
急に隣に座っていたタニアがグワーッと迫ってきた。当然私の反応としては、
「のわあぁぁぁぁあぁぁ!!!」
近い近い!!慌てて身を引かなければ顔と顔が接触する所だった...。
しかし、座っているので身を引くにしても限度があるし、タニアの方を離そうにも下手に手を出すと女性特有の場所に触れてしまいそうなので、これ以上は動くこともできない。
とにかく、タニアを落ち着かせなければ私が落ち着かないのだが、タニアは鼻息荒く、ちょっとずつ間を詰めてきていたので、
「分かった!約束したから!落ち着け!!顔が近い!!」
一生懸命に静止の声を上げる。もう少しで鼻と鼻が触れそうな勢いだったが、私の静止の声で我に返ったようだ。
「はっ!...きゃあぁぁあぁぁ!!」
私との距離が0に近い事が認識できたのだろう。今度は「ズザザアアァァァ!!」という音と共に、初期位置よりも多めに距離を取った。
離れる直前の顔は耳まで真っ赤になってたな。まぁ、私もさすがに同様の状況だろうけどな。
「す...すまない...」
「いや...私は問題は無い...」
非常にドキドキさせられたという問題はあるのだが...
「やっぱり...お姉様とリョウって...仲が良すぎると思う」
「私もそう思うな」
リアとミームはポツリとつぶやいていたが、果たしてそうなんだろうか?
「そ...そうか?まぁ、仲が悪いよりかは良いだろう?」
相変わらず、的を大きく外した意見のタニアだが、概ね私も同意見だな。
しかし、その真っ赤な顔でそう言っても説得力は皆無だぞ。まぁ、顔が赤いのは私も一緒だろうがな。
「まぁ、そうだな。それよりも、ここでちょっとやっておきたい事があるのだが...」
「む...話を変えてきたわね」
ここは無理やりにでも変えなければならない場面だ。それに、実際にやっておきたい事もある。
「私の実験の延長で、ここでロケットを打ち上げる」
普通は驚く所だが、ここは異世界だ。ロケット打ち上げと聞いても誰も驚かない。
「あくまで無視するのね...」
というミームのつぶやきが精いっぱいだ。
なので、ここはあえて強行突破をするのみ!!
「という事で、『電龍、昇竜スタンバイ』」
立ち上がり、手元の杖で電龍を指し示し、命令を下す。
電龍は私の音声を受信し自動的に起動、ゆっくりと私たちから離れていく。
「ちょっと!!バイクが勝手に動いてるよ!?」
「大丈夫だ。私たちから安全な所まで離れるだけだ」
「安全な場所?」
「そうだ。これからはちょっとだけ危険な実験が行うのでな。その為にも私たちに被害が出ないように電龍が距離を取っているんだ」
そんな説明をしている間に電龍がかなり離れた所に停車。
電龍の左側に設置していた超小型ロケットが屹立し、発射体勢を取る。
大気圏外に超小型人工衛星を打ち出す為の2段式打ち上げロケット『昇竜』である。
しかも、小さいながらも1段目だけで大気圏外まで飛ばすことが出来るのだ。
1段目は宇宙空間で切り離され、自動制御で大気圏に再突入し、燃え尽きるようになっている安全仕様だ。
2段目で衛星軌道の高度を上昇、そこで超小型人工衛星を射出し1段目同様に大気圏に再突入。
打ち出された人工衛星は静止衛星として運用する為、電龍とコンタクトを取りながら、この惑星の赤道を自動で検出し、直上にとどまるように設定してある。
人工衛星にはGPS・通信・地上観測のカメラ機能を搭載。名付けて『千里眼』。
ちなみに、GPS機能を有効に利用しようとする場合は、衛星が4つ必要になる為、昇竜には千里眼を2基積んでいる。
電龍の反対側にも昇竜を積んでいるので合計4基を打ち上げるのだ。
さて、発射体勢に入った昇竜を見て、3人の女性は立ち上がって後ずさっている。
そりゃまぁそうだろうな。今は昇竜の噴射口からは白い煙が出ており、かすかに「しゅ~...」という音も聞こえる。
ロケット内の推力用魔法陣が正常に稼働し、燃料の水素と反応して打ち上げ準備に入ったのだ。
「え?なに?なにが始まるの?」
リアがいつものように最初に質問をしてくる。細かい説明をしてもどうせ分からないだろうから、単刀直入で答えておこう。
「これから、この『昇竜』を打ち上げるのだ」
「打ち上げ!?打ち上げってなに!?」
「百聞は一見に如かず!!」
「...なるほどな」
と、これはタニア。
さて、では最終確認と行こうか。
「電龍、システムチェック実行」
『システム、オールチェック...オールグリーン』
手に持ったタブレットからAIのボイスが聞こえてくる。
3人が驚いてこちらを見ているが、今は相手をしている状況ではない。
「最終打ち上げ確認、問題なし。最終ロック解除。打ち上げ開始10秒前」
『打ち上げシステム、最終ロック解除。カウントダウンを開始します。......5...4...』
「え?なになに?」
リアが我慢できずに聞いてくるが、答えは先ほどと同じだ。
「黙って見ていろ」
『1...0!イグニッション!!』
その瞬間、昇竜の噴射口が光り輝き、轟音と共に昇竜が最初はゆっくり上昇を始める。
噴射口から急速に上昇する為のエネルギーがほとばしり出て、辺りに轟音を響かせる。
「「「きゃああぁぁぁあああぁぁぁああ!!!!!」」」
轟音の中、3人の女性の悲鳴がそれぞれ聞こえる。馬たちもさすがに驚いて後ろ脚で立ち上がって嘶いているが構ってはいられない。
昇竜は急速に速度を上げながら、ほぼまっすぐに上昇する。
あっという間に視界からは見えなくなり、昇竜が通った場所には白い噴煙が残りだけになった。
私も含め、4人はその煙をしばらく見上げていた。
これ、日本でやると問題があるので、なかなか出来ない実験だったのだが、ここでは色々な野外実験が出来るな。楽しい。
しかし...きっと近隣では何かと噂になっているだろうな...打ち上げなんて、この世界では絶対にないだろうから。
「...は...速い...けど...なにこれ?」
「もう...見えなくなったけど...どこに行ったの?」
「さっきも言ったが、これが打ち上げだ。今は...まだ上昇している途中だな」
衛星軌道に上がるまではあと5分ぐらいかかるのだ。
「さて、電龍。もう1つの昇竜を準備しろ」
『昇竜...スタンバイします』
電龍がもう1基のロケット「昇竜」を準備し始めたのを見て、リアが慌てだす。
「え?さっきのがもう1つあるの?」
「そう、もう1回だ...電龍、システムチェック実行」
『システム、オールチェック...オールグリーン』
先ほどと同じ手順で昇竜の打ち上げプロセスをなぞる。つい先ほども見ていたので彼女たちも黙って様子を見ているようだ。
「最終打ち上げ確認、問題なし。最終ロック解除。打ち上げ開始10秒前」
『打ち上げシステム、最終ロック解除。カウントダウンを開始します。......5...4...3...2...1...0!イグニッション!!』
昇竜の噴射口が光り輝き、轟音と共に昇竜が上昇を始める。
噴射口から眩しく輝くロケットを上昇させるエネルギーと轟音は発せられる。
「「「きゃああぁぁぁあああぁぁぁああ!!!!!」」」
2回目の打ち上げでも女性達は慣れないようだ。まぁ、私も慣れる事はないのだから仕方ないだろうな。
今回も先ほどと同様、昇竜は急速に速度を上げながら、ほぼまっすぐに上昇する。
「それにしても、すごいわね。ロケット...だっけ?あれ、どこに行ったのよ?」
上を見上げながらリアが質問してきた。
「え~っと、空の向こう側に『宇宙』という空間があって、そこに行ったんだ」
「『宇宙』?そこは神様がいる場所?天上の世界ではないの?」
『宇宙』という未知の単語を聞いたリアが、ビックリした表情で私を見る。
見ると、他の2人も同じように私を見ている。
そりゃまぁ、ビックリするよな~...。
あと、この世界は神々が実在する世界だ。例に漏れず雲の上とかに神々の世界があると信じられているんだろう。
「残念ながら宇宙には神様はいないはずだ。何もない所だからな。そして、神様のいる場所は私も分からないな」
「あ~...そうだよね~」
しばらく4人で2本の煙の後を眺めていた。
『1st昇竜、成層圏を脱出しました。第1段ロケットを切り離します』
静かだった空間に、電龍の報告が入ってくる。
やっと1つ目の昇竜が成層圏を脱出したらしい。
『第1段ロケット切り離し成功。第2段ロケットイグニッション...成功しました』
「ねぇ、電龍はなんて言ってるの?」
私と電龍の間の会話は日本語で行っているからな。
皆はどういう会話をしているのかは分かってないはずだ。
「ん?あぁ、最初の昇竜が宇宙に到着したって言ってるんだ」
「へ~...」
そのまま、リアはまた空を見上げる。
空の向こうに宇宙がある。
という事を知らないはずだが、何を想っているんだろうか。
『第2段ロケットの外部センサーより惑星の赤道を確認。あと2分で所定の位置に到達します』
この星が物理法則を完全に無視したファンタジー仕様だと困るよな。と思っていたが、普通の惑星だったようだ。
たまに平面世界だったり、正六面体だったり、球体の内側だったり、柱の上だったりするからな。
『続いて2nd昇竜ですが、こちらも問題なく上昇中。あと1分で成層圏を抜けます』
「よし。そのまま予定通りに千里眼を射出し、ダイヤモンド隊形を取らせて静止させろ」
『命令受領。実行に移します』
これで一通りの打ち上げ作業が完了した。
気が付くと体が強張っていた。どうやら私もかなり緊張していたようだ。
ゆっくり深呼吸をして緊張をほぐす。うむ、良い実験であった。
「で...これはどういう実験なのだ?」
その様子を見計らってタニアが声をかけてきた。
そりゃそういう質問をするだろうな。何も説明せずにいきなり打ち上げを始めたのだから。
「実験の目的は上空から地上の様子を見る事が出来ないか?という確認をする実験だ。その実験の延長で今回の討伐依頼の助けにしようと思ってな。そのための人工衛星...『千里眼』を先ほど打ち上げたのだ」
千里眼はGPS機能と監視機能を備えている所謂『スパイ衛星』だ。他の機能としては、納屋の中に立てたアンテナを中継して、研究所と通信できるようにするのだが、これは言わなくても良い事だな。
「洞窟の中までは流石に見る事は出来ないが、外の様子であれば見る事が出来る。これでサイクロプスを見つけられないかと」
「そんな事が出来るの?」
「たぶんだがな。電龍、戻っておいで」
素直に命令に従って私の目の前まで戻ってくる電龍。
それを見ていたリアが私のそばに来て背中を突く。
「ねえねえ、電龍ってリョウの言う事しか聞いてくれないの?」
「当然」
「どうして?」
「あのねぇ...例えばマールスが電龍のように格段に足も速く、人の言う事を正確に理解して行動出来るとしよう。で、どんな人でも、例えば悪人でもいう事を聞いて、何でも言う通りにしてしまう。それはとても困ると思わないか?」
「困る...わね」
まだちょっとピンと来てない感じだな。
「他にも、自分の知らない誰かの用事を勝手に使ってしまうとか。で、君が本当にマールスに用事がある時には近くにいなくて用事が出来ないとなると...困らないか?」
「非常に困る...わね」
だんだん困ってきた感じだな。
「特に電龍は先ほども見た通り危険な道具も積んでいる。そういうものが誰彼構わず言う事を聞くのは非常に問題だろ?」
「...確かに...でも、アタシとかお姉様だったら知らない人じゃないからいいんじゃない?」
「私が含まれてないけど...」
それはリアの言う通り。
そして、ミームはいつも通り。
「確かにタニアやリアは知らない人ではないから良いのかも...と思うだろうが、やっぱりダメ」
「なんでよ」
「私が含まれてないけど...」
「マールスでもちゃんとお世話をしなくてはならないだろ?。リアに電龍のお世話が出来るのか?」
「うぅ~...無理...」
さすがに理解出来たようだな。
昔の輝を見ているようだ。
「なかなか素直だな。まぁ、そういう事なので、私の言う事しか聞かせる事は無いし、誰かの言う事を聞くようにするつもりも無い」
「お姉様でも?」
「タニアでもだ」
ここはさすがに譲れないからな。
「やっぱり私が含まれてないけど...」
安定のミーム。実に良いね。
ま、ここいらでリアを助けてあげましょうかね。
「ただ、電龍は無理のない『お願い』ぐらいは聞いてくれるよ」
「お願い?」
「例えば『側車に座らせて欲しい』だとか、『話し相手をして欲しい』だとかはね」
個人的にはこの世界の思考のサンプルが取れるというのがあって、実質Win-Winなんだよね。
「お話が出来るの!?」
『千里眼が所定の位置に到達。位置固定。静止衛星モードに移行します』
「ほら、声が聞こえただろう?簡単な会話であれば出来るぞ」
「あ...声が出ているのは分かるんだけど、何を言っているのか全く分かんない...」
細かい指示は日本語の方が適しているからという理由で、今までは日本語で会話をしていたんだが、
「あぁ、それは私の母国語だからな。当然分からないだろう。でも電龍は、リアの言葉も分かるし話す事も出来るから問題ないぞ」
家のメインコンピュータには魔術書を解析する為にAIで読み込ませたりさせて学習させていた。
そのデータを電龍のAIにも移植しておいたので、私と同様にこの世界の言語が分かるのだ。
「まぁ、それはともかくだ。先ほど打ち上げた『昇竜』の中に『千里眼』という道具が入っていたと説明したな。『千里眼』から見えるものをこれで見る事が出来る。で、これを使ってサイクロプスを見つけようと思っているんだ」
と、電龍からタブレットを取り出し、電源をON。いくつか操作をして千里眼からの映像をタブレットに映し出す。
リアと色々しゃべっている間に昇竜の直上で静止したようだ。
「え?...あんなに離れた...っていうかここからは全然見えないんだけど...」
リアが上を見上げて千里眼を探す。が、当然見えるわけがない。
「『百聞は一見に如かず』だ。ちょっと待ってろ」
千里眼に直下の我々を写すように指示をする。
我々の上空はちょうど雲が無く、我々の姿を見るには問題ないと思われる...と、見えてきた。
「ほら、これが千里眼から見える我々の姿だ」
タブレットのディスプレイをリアに見せる。リアルタイムで映し出されているので、タブレットをのぞき込むリアの姿や、のぞき込むリアに近づいてくるタニアとミームの姿、落ち着きなくうろうろしている馬もディスプレイには映し出されていた。
「わわ!!すごい!!」
「おぉ...本当だ。鏡以外で自分の姿をこのように見るというのは変な感じだな」
「お姉様が上を向いたので、顔が見えましたわ!」
「なに?そうなのか?」
「あ、タニアが下を向いた」
「リア、ちょっと上を向いてみてくれ」
「はい、お姉様」
「おぉ!本当だ。リアの顔が見える!」
「え?本当?」
「だから、自分が下を向いたら見えないって...」
そんな感じで和気あいあいと談笑をする3人。ふむ、これは休憩が長引きそうだ...。




