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魔法を信じるかい? ― マッドサイエンティストの異世界旅行  作者: 黒々猫
■■■■■■ 第8章 マッドは厄介事の代名詞
103/103

■■■ Step080 マッドサイエンティストの相手は可哀想な末路が見える

翌日、朝からカラーと一緒にカタランスに移動する為の準備を始める。


とは言え、我々の準備は昨日の内にほぼ終わっている。


「今回はリョウとカラーだけなのに夜霧を持っていくんだな」


タニアが出発前に見送りに来てくれた。


「あぁ、今回はちょっと色々とあってな。最近は夜霧を使う女性も少なくなったからな」


今までは夜霧を女性がお風呂やトイレで使用していたのだが、砦本邸に女性用お風呂が完成した事により、使用率が一気に0に近くなったのだ。

実はお風呂と一緒にトイレも作ったのだ。もちろん、ボットンではない!水洗式トイレだ!流す水には、お風呂の排水を利用するようにしているので、全く問題ない。さらにちゃんと下水処理もしてある。もっとも、お風呂の排水処理と纏めているんだけどな。


「確かにそうだな。私はたまにシャワーを使わせてもらっていたが、ほとんどの者は夜霧を使っていないだろう。今では砦本邸にお風呂も厠もあるからな。リョウには大変感謝していたぞ。特に...その...つ...月のもの...が来た者は非常に喜んでいた」


あ~...ウォッシュレットね。ユリにトイレの話をした時に「絶対にウォッシュレットにせなあかんで!!」と強く言われたので導入したんだが...。ま、喜んでくれているなら問題ない。


「そうなんだ。ちょっと掃除が大変かも知れないがな」

「いや、もう普通の厠は使えないぐらいになっているぞ。そもそも汚れが付きにくいとか...」

「本体は陶器だからな。水洗いも問題ないから掃除も簡単だろうし」

「そんな事言ってたな」

「タニア様、世間話をしてたらリョウ様が出発出来ませんよ?」

「おっと。それはすまない」


と、キャリーが口を挟んできた。まぁ、確かにこのままだといつまで経っても出発出来ないな。

タニアもそれをさらっと受け流している。


「いや、別に良いさ。今日中にカタランスに到着するのが目的だからな。電龍だったら問題ない」

「しかし...リョウとカラーだけで大丈夫なのか?」


心配性だな、タニアは。


「大丈夫だよ。今回は制圧が目的で、その為に200人の騎士を先にカタランスに送っているんだ。全体で500人を超える騎士を相手に出来るほどの戦力を、町長側が持っているとは思えないし、そのような様子もない」


スパイ衛星『千里眼』で確認していたが、町長側が戦力を確保しているようには見えなかった。既に確保している、という可能性も無くはないが、タニアと私がカタランスに行った後も動きが無かったので、可能性はかなり低いだろうな。


「そうか。じゃあ、カタランスが終わったら、慰労会でもするか?」

「慰労会か...いいねぇ」

「準備はこっちでしておく。リョウとカラーは帰って来るだけで良いからな」

「あぁ、分かった」

「タニアも気を付けるのですよ。キャリー、タニアをお願いします」

「任せて、カラー。リョウ様に貰ったショートソードでイチコロにしてみせるわ!」


キャリーは腰に下げていたショートソードを鞘ごと掲げる。

メイド服の邪魔にならないようにショートソードにし、違和感の無いように色々飾りを付けておいたのだ。

結果、キャリーは肌身離さず、ショートソードを下げている。


砦で唯一の戦闘職も兼ねるメイドさんだ。違った、戦闘狂侍女だ。


「お兄様!ご無事で!!」

「お兄様!ご無事で!!」

「お兄様...あの...どうぞ、ご無事で」


可愛い妹たちに見送られるのも良いね。


ちなみにエルゼはまだ歩けないので、車いすに乗っている。


「私たちはここから支援しますので、ご安心ください」

「ドローンの扱いにもかなり慣れましたからな。遠隔操作も問題ないですよ」


黒猫隊長ことカリナとミルダンが声を掛けてくれる。

明日の制圧戦の際に、ドローンで戦況確認をしてくれる事になっているのだ。


「助かる。明日は頼むぞ」

「お任せを。それと、侵入者の動向も確認しています。昨日エルセリアに入りましたが、1組ずつ別々の宿に泊まってますね。念入りな事です」


隊長に正式に任命されたからか、カリナがきびきびと報告してくれる。


「全部見られているのにな。で、接触はどれぐらいで?」

「今日は様子見ですね。一応、それぞれの組に1名ずつ付けています」

「バレないのか?」

「我々が黒梟である事をお忘れで?」


カリナの背後に立っていたミルダンが低い声で苦情を言ってきた。

待って怖いから!!


「すまん...素人考えだった」

「いえ...逆に素直に謝られると調子が狂うのですが...」


と、今度は別の意味の苦情が来たぞ...って、知らんがな。


「善処するよ。基本的には昨日話した内容で動いてくれれば問題ない。黒猫隊長、よろしく頼むぞ」

「承知しました...って、もう名前で呼んでくれないんですね...」


カリナがさめざめとウソ泣きをする。よく考えたらこいつも私たちの空気に染まりきってしまったな。私の監視のハズだが大丈夫か?


「隊長のお守りはしておきますよ」

「頼む。で、他のみんなはお留守番を頼むな」


と、タニア、リア、ミーム、ユリ、セミアとレミとエルゼを見ながら言う。


「任せてよ!それよりもリョウ...心配はしてないんだけど...アタシぐらいは連れて行ってもいいんじゃない?」

「どっちか言えば、リアよりも私じゃないのかい?」

「はは...リアもミームもありがとう。だけど、今回は騎士たちに頑張ってもらうつもりだ。騎士の不始末を付けに行くんだからな」

「それもそうか...じゃあ、頑張りな」


リアとミームがなんだかんだで心配してくれるのは有り難いな。


「了くん、気ぃ付けや。了くんは時々大事な事が抜けるんやから...」

「心配する気持ちは有り難いが、フラグっぽいから止めてくれ」

「フラグ?」

「タニアちゃん、あとで教えてあげるわ」


いや、ユリのそれもフラグだからね。


「勘弁してくれ...ま、砦は頼んだ。行ってくるよ」


私とカラーは電龍に乗り込み、夜霧を牽引してカタランスに向かう。


総出で見送りされるとは...嬉しいが恥ずかしくもあるな。

だが、無事に帰って来るようにしなきゃと思わせてくれるのは有り難い。


「リョウ~!もう女を連れてくるなよぉ~!!」


ミームの不要な一言が背後から襲い掛かる。


「うるせ~!!」


色々台無しになったじゃねぇか!!



エルセリアを出て、街道を外れて電龍を走らせる。

こんなでっかいキャンピングカーを街道で走らせたら邪魔だからな。


事前に千里眼で計測しておいた走りやすいルートを走っている。

そこそこ凸凹しているが、サスペンションを効かせた電龍と夜霧にとっては問題ない。

この分だと、昼過ぎにはカタランスに到着するだろうな。


「ご主人様、今日はどうされるのですか?」


側車があるのに、相変わらず私の後ろに座っているカラー。私の背後が空く事はもう無いのだろうか?


「夕方前に町長の屋敷に行こうと思っているんだ」

「は?そんな事して意味があるのですか?わざわざ敵の手の中に飛び込むのですか?」


カラーの声のトーンが低くなる。ちょっと恐いぞ...。


「町長には国から解任された事を伝えないとダメだからな。それを伝えに行くんだ」

「そんなもの、取り押さえた後でいいじゃないですか」


一理あるが、それではダメなんだよ。


「そうはいかない。国から解任通知があったという事を伝える事は、政治的にも大事な事だ。伝える前に取り押さえたりしたら、タニアの政治手腕を問われてしまう」

「そういうものなのですか?」

「そういうものなのです。ですので、私の護衛をしっかりとお願いしますよ、カラーさん」

「分かりました。仕方ありませんね、私にお任せください」


どうやらカラーの機嫌が直ったようだ。なぜ直ったのかは分からないのだが...。


移動は順調で、途中でお昼を食べて、昼過ぎにはカタランスに到着した。



「思ったよりも早い到着ですね。到着は明日の早朝かと思っておりましたが...」


騎士駐屯所でカタランス方面騎士団の指揮官、ブルフ・スーロンとの面談をしたのだが、なんか...変な目で見られている?


「あぁ、首都からこれが届いたんでね。町長に今日中に伝えなきゃと思ってね」

「はぁ...って、町長解任命令書!?...え~っと...陛下が動かれたのですか?」


とても驚いているな。そこまで大事になっているとは思っていなかったようだ。

ま、私としても陛下がそういうものを用意してくれるとは思ってなかったんだよね。単に状況説明をニアラブ様にしてただけだからな。


「そうだね。もう言ってもいいかな...実はニアラブ様に直接意見を言えるようになっていてだね...」

「は?前国王様ですか?なんで?どういう事なんですか?」

「あ~...ほら、タニアって王家の姫じゃないか。その関係で...」

「あ、タニア様と婚約されたのですね」


どうしてそうなる!?


「なんでやねん!してないわ!!」


言ってから思った。タニアが居なくて良かった~...。って、なんでだ?


「なんでやねん?って意味は分かりますが、どちらの言葉ですか?」

「あ~...私の国の方言だ...ともかく、婚約はない。それは確実に覚えておいて欲しいのと、変な噂を流さないように注意しろ。これは命令だ」

「承知致しました」


まさか「タニアとの婚約」という話をされるとは思わなかった。変な噂は問題が発生する可能性があるからな。ここはこの場で阻止しなければ!!


「ともかく、急だが町長の屋敷に行く事になった。まずは町長に早急に面談を取り付けて、人員を選抜して欲しい」

「今からですか...出来ればもっと早くに伝えて欲しかったです...」

「...すまん...」


そりゃそうだよね。申し訳ない。


「いえ...ちなみに、この命令書はいつそちらに届いたのですか?」

「昨日だ」

「昨日!?...それは...仕方ないですね...分かりました...面談の取り付けなどは、さすがにすぐには無理ですので少々お待ちください」


そりゃそうだよね。申し訳ない。


「分かった。じゃあちょっと先に港を見たいのだが、構わないか?」

「構いませんよ。では、案内を付けます」

「あと明日の事もあるから、今日持ってきた夜霧を港に設置したい。問題はないかな?」

「は?夜霧って、あのでかい奴ですか?どこに設置するおつもりで?」


出来れば見晴らしの良い所が良いんだけど、そういう場所があるかどうか分からない。まさか桟橋に設置する訳にはいかないしな。


「あぁ。出来れば海に近い場所に設置したいんだが、場所はあるか?」

「あると思いますが...案内するものと話をして決めてくださいね。何をするのか知りませんが...」


ブルフはあまり協力的じゃないな。まぁ仕方ないか。


「明日の事に絡む事だから、面倒な事にはならないから安心してくれ」

「本当ですよね?頼みますよ?」


なんか変に警戒されているな。なんでだ?


ともかく、案内の騎士について行き、港に到着した。


「副官殿、ここが今は使われていない桟橋の入り口です」

「なるほど、ありがとう。ちなみに使われていない理由は?」

「はぁ、下をご覧になれば分かると思いますが、船が沈んでまして、まだ撤去出来ていないんですよ」

「あ、そうなんだ...」


まさかの船の墓場だったか。


桟橋の入り口に立って周りを見渡すと、港が一望できる良い場所だった。


「ここに色々と設備を置きたいのだが、問題ないか?」

「大丈夫ですよ。実はここに新しく駐屯所を建てようという話にもなっているので、問題はありません」

「あ、そうなんだ...確かにここは広いし、港を見渡す事が出来る...良い場所じゃないか」


なるほど。ここなら良い場所だ。桟橋の下の沈没船を撤去すれば海上の警備も出来るんじゃないか?

港の端の方だが、交通に不便があるような感じでもない。


「そう言っていただけると助かります」

「じゃあ、ちょっとここを使わせてもらうよ」

「はい、どうぞ。では私はこれで...」


案内してくれた騎士は自分の持ち場に戻って行った。

道は覚えたから戻るのは問題ない。もっとも、衛星地図があるから迷子になる事はないんだけどな。


さて、ブルフからの連絡があるまで、ここで明日の準備をしよう。

ここには夜霧も持ってきているから、道具は揃っている。


まず、砦から持ち出した300mほどのロープを六本用意し、それぞれ巻き上げ機に通した上で、巻き上げ機を係船柱にしっかりと固定する。

係船柱は船を係留する為に使うものなので、かなり頑丈だ。


「ご主人様、お手伝いします」

「ありがとう、助かるよ」


カラーの手も借りて、ロープを全て設置出来た。


「じゃあ、今度はこれを設置しようか」

「これは...何ですか?」

「これは『銛銃』っていう奴だ。で、これが銛って奴だ」

「銃っていう事は、ご主人様が持っているあの小さな弾が出る拳銃みたいなものなのですか?」


さすがに私を一番近くで見ていたカラーだな。理解が早くて助かる。


「そうだね。ただ拳銃は爆発力で弾を撃ち出すけど、これは機械的な仕組みで撃ち出すんだよ。そして、この銛の後ろにロープを括り付けるんだ」

「どうしてですか?」

「この銛で逃げる船を撃って、逃げられないようにするんだよ。銛が船に刺さったら、この巻き上げ機でロープを巻き上げて船を引き寄せるんだ」

「なるほど」

「まさか泳いで逃げる事はないだろうからな」


さすがにこれで人間を撃ったら即死だろうからな。今回は出来るだけ生かして捕らえたいんだよな。


「泳いで逃げたらどうするんですか?」

「その場合はドローンで追跡して、上陸した所を捕まえるだけだ」

「はぁ~...本当に一網打尽にするんですね」

「ここは徹底的にしとかないとな」


当然、全員とはいかないかも知れないが、目標はしっかりと定めておかなければな。


「正直、相手が可哀そうです」

「褒められたと思っておくよ」

「褒めてますからね」

「あ...そうなんだ...いや、ありがとう」


そんな会話をしていたら、騎士がやってきて準備が整ったと伝えてくれた。


さぁ、茶番の始まりだな。



町長の屋敷の前はかなり物々しい状況だ。見るからに素行不良な者たちが10人ぐらい固まっている。

恐らく、私が来た事を伝えた為、威圧のつもりで町長派の腕自慢を集めたのだろう。ペレンもいるな。


一応、私の護衛として騎士を15人ほど連れてきている。っていうか、ブルフが付けてくれた。

人数だけならこちらが上なのだが、連中は怯みもせず、私の前に立ちはだかる。


「おい!てめぇ!何しに来やがった!!」


ペレンが吠えるが一切恐ろしくない。

ちなみに、以前左足の甲を拳銃で撃った後遺症か、左足を引きずっている。しかし、この状況なので全く可哀そうだとは思わないな。


「町長に陛下の命令を伝えに来た」

「な...陛下の...う...嘘つけ!!」


子どもじゃあるまいし、そんなウソは付かないぞ?


「私がエルセリア領主、タニア・ソフリートの副官である事は、ここの騎士たちが証明してくれる。そして、領主に国王の命令書が届く事に不思議はないだろう?邪魔をするならば王命に背く者たちと判断し、お前たちを容赦なく排除する。道を開けろ」

「く...くそっ!」


町長は大事だが、国王に逆らう程の根性はないという事か。

エバンのやった事は褒められる事ではないが、こいつらは小物だな。大物になってもらっても困るが...。


門前でひと悶着あったが、割とすんなり屋敷に入る事が出来た。



「これはこれは、エルセリア領主の副官殿。本日はどのようなご用件で?」


応接間に通され、そこから約1時間待たされた。

ま、嫌がらせのつもりなんだろう。が、想定内なので問題なし。逆に色々と準備を進める事が出来た。


「いや、忙しい所悪かったな。すぐに用事が終わるので、よろしく頼む」

「そうなのですか?そう言えば王命が下ったとか...私に関係する事なのでしょうか?」

「『町長に陛下の命令を伝えに来た』と事前に通達があったはずだが?覚えていないのか?」

「申し訳ありません。実務に関連しない事は覚えていられないものでして...」


物は言い様だな。涼しい顔をしているようだが、目が少し泳いでいる。腹芸は下手なのか、『王命』にビビっているのか...。おそらく後者だろう。


「なるほど...王命を拝命する事が実務でないと言い切るその根性は、相当に腐っているようだな」

「くっ!」


今までの流れから、良い方向の王命ではない事は薄々承知していたんだろう。では、改めて承知してもらおうか。


「まぁそんな事はどうでもいい。王命を伝える。『カタランス町長アスナル・ベロドン、貴殿をカタランス町長から解任する』。以上だ」

「な!?それは...本当に陛下の言葉なのですか?」

「ここに陛下の署名、国璽が捺された命令書がある」


と、懐から丸めた羊皮紙の書類を見せる。


「...見せて頂いても?」

「構わんよ。ちなみに、それを紛失した所で命令は変わらん。陛下は此度の事にかなり憤慨しておられたからな。命令書が必要なら何枚でも書いて下さるそうだぞ」


全くの嘘だけどね。

ともかく、命令書を渡してやる。


ちなみに、実際に書かれている内容はこうだ。



カタランス町長アスナル・ベロドンを、その任から解任するものとする。

理由はカタランスにおいて、町長の責を全うせず、私欲のままに政を行った事によるものである。

カタランスを含むジョーチェ法皇国内で居住は許可するが、今後、政に関わる一切の職に就く事を禁じる。



ジョーチェ法皇国国王ルイクス・ソラ・バルバクス

ジョーチェ法皇国法皇タスバーク・ソフリート・バルバクス

ジョーチェ法皇国大将軍イブウェル・ノブル・バルバクス

ジョーチェ法皇国前国王ニアラブ・ラル・バルバクス



いやぁ~...まさか国の重鎮が揃って署名しているとは思わなかったんだよね。

しかし、これで王家の怒りを肌で感じたんじゃないか?


事実、アスナルはワザとじゃないかと思えるほどに命令書を持つ両手が震えている。

それだけ震えていたら読めないだろ?



「こ...これは...本当に陛下が...?」

「当たり前だろう?で、そろそろ返してくれないか、それ。まぁ記念に持っておきたいなら別に良いが?」

「い...いらん!返す!!」


投げ返してきやがった。まぁ気持ちは分かる。同情しないがな。


「では陛下の意向は伝えた。町長代理は一旦カタランス騎士団で対応する事とする」

「私は...いつまで町長なのだ?」

「王命を伝えたのだ。であれば、今この場をもってだ。アスナル、お前はもう町長ではない」

「そ...そんな...」

「だが、ここはお前の屋敷だから、このまま住み続ける事に何の問題もない。どこに住むかは自由だ」


そう言い残して部屋を出る。


さて、アスナルがどう動くか...見ものだな。



町長の屋敷を出て、港に戻る。

明日の準備をしないといけないからな。


銛銃と巻き上げ機を夜霧に接続し、夜霧の管理AI『アリス』から操作出来る事を確認。エルセリアで待機しているカリナたち、黒猫部隊と一緒にドローンの遠隔操作を確認。


それから、町長屋敷に仕掛けた盗聴器や小型ドローンから、町長の動きを把握した。


実は、町長屋敷に入った時、盗聴器と小型ドローンをあちこちに設置したのだ。正直、かなり面倒な事態になっている。


ブルフには、夕食後に主要な騎士を連れて港に設置した夜霧まで来るように伝えてある。

カタランスに到着した際に大まかな作戦は立てていたが、最終確認の為に集まってもらう事にしていた。悪い意味でちょうど良かった。


「これが夜霧ですか...すごいですね...」


ブルフが夜霧に入り、きょろきょろしている。ま、天井にはLED照明。目の前には大型ディスプレイ。他にも機械的な構造物が目立つ車内を初めて見る人間なら、情報量が多すぎて処理オーバーになる事確実だな。

ブルフが連れてきた騎士たち2人も目を丸くしている。


「来てくれて良かったよ。落ち着かないかも知れないが、ここだったら説明が簡単なんだよ。すまないが勘弁してくれ」

「いえ...うわさに聞いていましたから、一度お伺いさせてもらえればと思っていたのですよ。お気になさらずに」

「そうなのか...って、夜霧の噂がここまで?」

「えぇ。数名の騎士と、アラノスからですが、副官殿の持ち物は便利だが理解できない、と...」


マジかぁ~...。まぁ、エルセリアから情報交換の騎士が行き来しているからな。こういう情報も伝わるか。

アラノスはマリア関連で、夜霧も使っていたようだからな。


「そうなんだ...。それはともかく、あれから分かった事を説明するから座ってくれ。そうそう、ここでは自由に意見を言ってくれて構わないぞ。その方が私も助かるからな」

「分かりました。善処します」


善処ね...ま、仕方ない。


ともかく、あれから町長屋敷から得た情報を説明した。


まず、明日は予定通りクラスタンプ諜報員がクラスタンプへ逃亡する為、船に移動するそうだ。

そして、屋敷内に囚われている女性たちも、一緒に船に乗せられるそうだ。


町長一家だが、アスナルの奥さん、娘さん、息子さんは、2日前にエルセリアの別邸に移動したそうだ。

どうやら、200名が到着したのを見て、すぐに移動させたようだ。


あと、白い粉の売人はアスナルの子飼いの詐欺師だそうだ。元々裏社会の人間だったのをアスナルが引き抜いたらしい。


アスナル自身も、一緒に船に乗って逃亡する予定だそうだ。


「その情報...本当なのですか?」


ブルフが恐る恐る聞いてくる。


「事実だ。そうだな...『アリス』、該当する音声データの再生を頼む」

「承知しました」

「うぉ!?今のは!?」

「あ、お化けとかアンデッドとかじゃないから安心してくれ。ともかく、再生を頼む」


小型ドローンから町長の執務室に投げ込まれた盗聴器から拾った音声が流される。


ちなみに、この小型ドローンはアリスによって操作されている。さすがに室内でドローンを飛ばすには黒猫部隊では難しいからな。


「確かに町長の声ですな...なるほど...事態は把握しました」


ブルフが理解したようなので、良かったよ。こういう事は実物を見てもらう...この場合は聞いてもらうか...が一番だな。


「で、明日の作戦だが、町長側に50人、港に100人、街中に残り全部というのは変わりなしだ。明日は港を封鎖する。入港はともかく、出港は一切認めない。その為の100人とする」

「そうですね。それが良いでしょう」

「100人を10人1組に編成し、1組で船着き場一つを担当してもらおう。船着き場は7つあるので、残った3組は支援と港の入口の封鎖に当ててくれ」

「承知しました。こちらのダラスが港の担当ですので、対応出来ると思います」

「そうなの?じゃあ、編成は任せる。よろしく頼むよ」

「はい。お任せください」


と、ダラスが返事をする。野太い声の、大柄な男だ。見るからにパワープレイヤーだと判断出来る騎士だ。


「で、町長の方なんだけど、こっちは50人は多い気がするかも知れないが、囚われている女性がいるらしいからな。その人たちを保護する意味でも人数は多い方が良い。あと、町長派のバカ...冒険者もいるし、向こうに寝返った騎士もいる。一番大変なのはやはり町長屋敷の方だと思う」

「確かに...13人の騎士は手練れではないですが、手強いのは間違いないのですからな...」

「出来れば無傷で捕らえたいんだが...あ、そうだ!」


と、夜霧の壁の収納扉を開けて目的のものを探す。


「え~っと...あ、あった。これだこれ...えっと...あ、20個あるな」

目的のものを見つけて、3人の場所に戻る。

コンテナの中に入ったものを3人が覗き込む。


「これは...なんでしょうか?」

「これは『投網銃』という奴で、この筒状のものを相手に向けて、この引き金を引くと、ここから投網が出てくるようになっているんだ」

「投網ですか?あの、漁師が使う...」

「そうだよ。これで相手の騎士とかを捕まえてしまえば良いんじゃないか?この網は簡単に切れないから十分使えるぞ」


お互い傷がつかなければそれが一番だからな。


「有難いですが...良いのですか?これは秘密兵器と言っても良いものですが...」

「こんなもの、秘密にするようなものじゃないよ。安全に使えるならどんどん使ってくれ」

「ありがとうございます。では、町長の屋敷の担当のエダウンに持たせます」

「うん。よろしく頼む」

「いえ、こちらこそ助かります。お任せください」


とエダウンが返事する。こちらは落ち着いた声の、引き締まった身体の男だ。


「で、作戦開始についてだが、夜明けと共に開始しよう。変な取り巻きが来ると面倒だからな。こういう面倒な事はすぐに終わらせるに限る」

「分かりました。すぐに戻って手配します」


ブルフがすぐに請け負ってくれた。ここは悪いが騎士たちの運営は全部任せてしまおう。


「そうだ、町長の屋敷にはミフルがいるハズだから、注意してくれ。投網銃を使うのが良いかと思うが、ミフルには警戒されて通用しない可能性があるな。最悪取り逃がしてしまうかも知れないが、それはそれで良しとしよう」

「いいのですか?」


エダウンが聞いてきた。自分の担当になるので、気になったのだろう。


「無事にミフルを取り押さえられたら良いけど、取り押さえられなかった上に、騎士を数人やられたってなれば、ただただ痛いだけだからな。今回の目的は町長を取り押さえる事だ。大事の前の小事には目をつぶろう」

「分かりました...」


少し悔しそうだな。私としてもミフルはここで取り押さえたいとは思っているのだが、そこに固執すると目的が達成できない可能性がある。


「あと、町長の屋敷に踏み込む名目は、女性が囚われているという事での行動であると宣言する事。こちらに正当性がある事を証明するんだ」

「なるほど...しかし、本当に女性が捕らわれているのですか?」

「実際に地下の一室に囚われている。アリス、映像を」


私の指示で、ディスプレイに牢屋へ押し込まれている女性が10名ほど映し出された。

これも小型ドローンで捉えたものだ。


「これは...酷いですな...」

「まさかこんな事になっているとは...」

「騎士団として...情けないです...」


このような事はさすがに見過ごせないのだろう。

それこそ『騎士とは』を問われる事になる。


「ともかく、女性が実際にいるんだ。問題はない」

「分かりました。任務は必ず成功させます」

「よろしく頼む。あ、あと連絡についてだが、お前たち3人に1機ずつドローンを付ける」

「は?ドローンですか?」

「そうだ。これなんだが...」


と、私の意図を汲み取り、アリスが室内に設置しておいた1機の小型ドローンを飛ばす。

3人がかすかなプロペラ音を察知し、そちらを見る。


今まで見た事のないものが空中に浮かんでいるのを見て、大いに驚く。


「これは!?なんですか!?」

「これがドローンだ。各人の状況確認もそうだが、連携も重要だと思うんだ。だから、これで会話が出来るようにする」

「会話ですか!?」

「そうだ。町長を捕らえた、ミフルが逃げた、船が出た、などなど、色んな情報を出来るだけ早く共有しないと問題が発生するだろうからな」

「言っている意味は分かりますが...想像できません...」


でしょうね。それは分かる。


「先ほど、君たちは『アリス』の声を聴いただろう?あと、町長の会話も聞いた。あんな感じで声だけが聞こえてくる、という事を理解しておいてくれれば、まずは良いよ」

「...それが、このドローンから聞こえてくると?」

「そうだ。あと、このドローンに向かって話しかけてくれれば、この4人...いや、他にも数人いるのだが、ともかく会話が出来る」

「はぁ...分かりました...」

「他の騎士には『副官の使い魔が街中を飛んでいる』とでも言っておいてくれ。斬られたら敵わないからな」

「確かにそうですな。伝えるようにしましょう」


よし。これでドローンを飛ばしても攻撃される事はないな。たぶん...。


「それから、街中の警備だが、それはブルフが担当するんだよな?」

「はい。そのつもりです」

「おそらく、ブルフの担当が一番大変になると思う。町長一派がどこまでの組織なのか、一切分かっていないから、あちこちで暴動があると思う。特に貧民街では、火事が発生したりする可能性がある」

「それは...事実なのですか?」

「いや、そういう会話は町長の屋敷からは聞けなかった。が、町長の屋敷に突入すれば、それに呼応して連中があちこちで問題を起こす事が予想される。その予想の中に、貧民街の火事がある」


これは本当に単なる予測なだけなんだがな。


「他には?」

「冒険者の暴動、騎士駐屯所への放火は予想されるな。とにかく、火事は多数の死傷者が出るからな。事前に止めるのが優先事項になる」

「なるほど...その話だと、派遣された200人は非常に助かりますね」

「あと、住民を味方につける事も考えようか」

「住民を味方に?」


3人の頭上に?マークが出る。いや、実際に出ている訳ではないが、そんな感じの反応をした。


「実際に火事が発生したら、一番困るのは住民だ。なので、住民の避難と安全確保、火事の消火を率先して行う。同時に、消火の助力を乞う。そして、放火する奴を見つけたら教えてもらうようにする。街全体で監視するようにするんだ」

「そんな事が出来ますでしょうか...」


ダラスが半信半疑な顔で聞いてきた。ま、そうだろうな。私も半信半疑だからな。

だが、それを私が言う訳にはいかないな。


「それはさすがに分からないよ。でも、自分たちの街が破壊されるのは、住民としては困るだろう?だから、協力してくれると思うぞ。ただ、言い方は気を付けないとな」

「どういう事ですか?」

「間違っても『手伝え』って命令したらダメだ。『街を護る為に手伝ってくれ』って頼むんだ。街の為だったら手伝ってくれる住民はいるはずだし、そういう人が居れば、他にも手伝ってくれる人が出てくる」

「そういうものですか?」

「たぶんな。だが、上手くいくと思うよ?」


自信は無いが、効果はあると思うしな。全員が町長派とは限らないからな。


「確かにおっしゃる通りですな。そのように伝えておきます」

「うん、よろしく」


さて、これでかなり内容を詰める事ができた。


あとは明日だが...ま、なんとかなるだろう。


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