第4話 運命
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10月9日 AM 5:50
長野県上田市内のとある洋館。
その洋館は何百年もの間、天皇の側近としてこの国を守護してきた柳原家の歴代当主によって建てられたとされている。
今、その洋館の2階の奥に位置する部屋の中に隠されていた階段を、柳原家現当主である雪乃が慎重に降りていた。
「ここは……。」
彼女が階段を降りた先の部屋には明かりの類が一切無いため、彼女の目に部屋の細部は映らなかった。
「書斎かしら……。」
しかし、少しほこり臭いものの微かに香る本の匂いから、ここが書斎であると推測していた。
そんな状況の中、少しでも情報を得ようと部屋を見回していた雪乃の目が再び正面を向いた時だった。
「っ!?何っ!?」
突然、外から部屋の中に猛烈な風が吹き込みその勢いで窓が開いた。
そして、部屋の中にいた彼女が息が出来なくなるほどの強烈な風は、部屋に置いてある書類なども吹き飛ばしてしまった。
その風が部屋に吹き込んだ後、先程までの嵐が嘘のように辺りがシーン……と静まり返る中、宙に舞った紙がパサパサと床に落ちる音だけが部屋の中に響いた。
「……。一体、さっきの風は何?」
突然の強風に目を閉じていた彼女がゆっくりと目を開けると窓の外から一筋の光が差し込んでいた。
「やっぱり……。だけど、こんな所に書斎があったなんて……どうりで見つからないわけね……。」
部屋の中に光が差し込んだことで改めて自分のいる部屋が書斎であることが分かった彼女は正面の本棚の前にあるデスクに近づいた。
すると、先程までは雨の音や風の音で聞こえなかったかすかな寝息が彼女の耳に入った。
「そう、そういうこと……。君、こんなところにいたのね。」
彼女の視線の先には真っ白な産着に包まれた赤子が椅子の上に置かれていた。
彼女は赤子を起こさないように椅子の後ろに回り込みそっと赤子を抱き上げる。
「あ……。」
急に動いたせいで目を覚ましてしまったのだろう。
ゆっくりと目を開けた赤子と赤子の顔を覗き込むようにしていた彼女、2人の視線が交錯する。
一体、何秒そのままの状態が続いていたのだろうか。
「綺麗……。」
まるで時が止まったかのように、固まっていた彼女が呟いた。
同時に彼女は驚いていた。
赤子の髪が一切穢れのない、透き通るような銀色であったことから日本人ではないことは予想していたものの、そのあまりにも美しく見る者の心を掴んで離さない鮮やかな青い瞳に。
そして、優れた容姿だけでなく生まれて間もないはずの赤子が見ず知らずの人間に見つめられても一切泣くことのないその胆力に。
「……。君、お母さんはどこに行ったの?」
彼女自身も赤子が喋ることはないと理解しているはずなのに、彼女が指を目の前に持っていくとそれを両手で楽しそうに包み込む赤子に向って話しかけていた。
「……。」
自分の指を赤子の好きなようにさせたまま、何かを考えるように黙り込む彼女。
そんな彼女を後押しするように柔らかい風が彼女の髪を揺らす。
そして、彼女は赤子の目を見据え、
「私とあなたには血の繋がりはない。」
優しく諭すように語りかけ、
「けれど、きっとあなたの母親だけでなく、私の部下もあなたを守り抜いた。」
一歩ずつ、
「今は言葉は分からないかもしれないわ。」
一歩ずつ、ではあるけれど……
「けれど、これだけは分かりなさい。」
確かに歩み寄る。
「今から……。今から、私があなたの母親よ。」
この出会いが偶然などではなく、
「あなたは、今から柳原家次期当主。そうね、紫、」
運命であると信じて……。
「あなたの名前は、柳原紫よ。」
こうして、後に数奇な運命を辿ることになる彼女と彼は出会ったのだった。
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「紫。我ながら女の子にぴったりの可愛い名前ね。」
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主人公はもうすぐ出てきますので、お待ちください。




