第5話 そして、彼女は気づく。
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「フフフ~ン、フフフ~ン」
1階の隠し部屋で見つけた赤子を紫と名付け、柳原家の次期当主として育てることを決めた私は自分に子どもが出来たという喜びと、あ~これでお見合いなんてめんどくさいことをしなくていいんだ~という解放感に酔いしれていた。
「フンフン、フ、フンフ~ン。」
大体、何故この年齢になっても次期当主、つまり世継ぎを産むだけのためにお見合いを強制されなければならないのか。
正直、心底理解出来なかった。
というか、力のある者が当主になればいい、それが柳原家のやり方だと思っていた。
まあ、今までは跡継ぎのことで悩まされたけれど、今はこの子がいるから悩む必要も無くなり、こうやって紫を抱きながら鼻歌まじりに小躍りが出来るほど、精神状態も楽になっていた。
「ー!姉上っ!」
「っ!当主っ!当主は何処にっ!」
と、私がそんなことを考えている間に馨が重治を連れて戻ってきたようで、2階が騒がしくなった。
私は2人にこれ以上心配をかけるわけにはいかないと思い、紫を抱えながら階段を上がる。
「おい、馨!あの奥、あそこから下に降りられるんじゃない……か?」
「下に?まさか、そんなはず……は?」
そして今まさに、下の部屋から上がってきた私を見た馨と重治は理解が追い付かなかったのか、呆けていた。
しかし、直ぐに気を取り直し
「姉上っ!」「当主っ!」
「「ご無事でっ!」」
私の前で臣下の礼をとる2人。
あれ、この娘に気づいていない?
と思いつつ、先ずは2人に労いの言葉をかけようと……。
「あう!」……あれ?
「……え?」馨が顔を上げて私を見る。そして、紫を見て止まる。
「しかし、姉上がご無事で何よりです。」何故か、下を向いたまま嬉しそうに話す重治。
「あう。」……。私は黙っている。
「……。」固まる馨。
「ええ、そうなんです。警察等への連絡に時間がかかってしまって。遅れてしまい申し訳ありません。」
「あう~う。」
「あの……。当主?」やめなさい。馨。そんな目で私を見ないで。
「しかし、一体ここで何が起きたんでしょうかね。」
「あ~う。」
「これ、いつまで続くんですか?」
「おい、馨。さっきから何をしている。臣下の礼を取れ……あれ、姉上?何故、笑っておられるので?というか、その赤子は……?」
「おフンっ、ごめんなさい。えっと、この子は私の娘。柳原家次期当主。以上。」
「「……。いやいやっ!」」
「姉上っ!以上。じゃないです!大体、どこから拾ってきたんですか?」
「どこからって、下にいたから……?」
「そんな野生のゴリラを見つけたみたいなノリで言わないでください!!」
「野生のゴリラと同じなんて失礼なことを言わないで。重治、この子は女の子よ。」
「お二人とも話がそれています。……当主、その子は例の赤子ですか?」
「ええ、そうよ。」
「……私の部下を殺したかもしれない女の娘を、柳原家の次期当主にすると?」
「それは違うわ。馨。彼女は殺していない。」
「何を根拠に……。」
「この子の産着。あなたならどこかで見たはずよ。」
「産着……。」
「姉上、その産着は柳原家の……。何故、それがここに……。」
普段の馨なら直ぐに気づいたはずだけど……。
まだ、彼らの死を受け入れられていないのだろう。
「彼らは彼女に殺されたんじゃない、彼女と協力してこの子を誰かから守った。柳原家の家紋のついた産着。これがここにあるということが何よりの証拠よ。」
私自身、彼女が何をしたのか。どこに行ったのか。すべてがわかるわけではない。
ただ、彼らがこの子を守ろうとしたことだけは確かだった。
馨の目が私を見据える。
そして、彼はお腹にため込んだ様々な感情を吐き出すように話し出した。
「……。分かりました。私もこの子を次期当主として支えていくと誓います。」
「無論、俺も誓います。」
「2人ともありがとう。頼んだわよ。」
こうして、紫は正式に柳原家の養子になったのだった。
「それと、先ほどから気になっていたのですが。」
「何?馨。」
「当主。この子。男の子です。」
「「……。え?」」
「だから、紫という名前は……。」
ま、まあ。間違うことは誰にでもある……。そう信じたい。
それに男の子でも紫という名前の子もいる……はずだし。
別に誤魔化すわけではないけど、私はこの子には紫という名前が相応しい気がした。
いずれ、誰もが畏れ、そして、誰からも慕われる子になって欲しい。
そう、この時私は強く思った。
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やっと主人公が登場しました。
柳原 紫。
歴とした男の子です。
物語の編成上、次話からいきなり、成長しますが。
過去編は必ず、ありますので。
お楽しみに。




