〜修行前夜
大変おくれました。深く世界を見て回るのに時間を取られました。
「特訓?と言いますと、具体的にはどんな…...」
「ん〜、まず魔力操作を覚えてもらうわ。それから体術、魔法細工。そして、魔法に魔術。まぁ、とりあえずはそんな感じかしら」
(魔法に魔術か、漫画やアニメだけのものだと思っていたが、まさか、本当に存在するとは…。少し楽しみだ)
「分かりました。あと、一つ聞きたいことが」
「何かしら?」
「全て習得するにはどのくらいかかるんですか?」
そう、俺が今一番知りたいことはどれほどの時間を要するかと言うこと。俺たちが元の世界に帰る上で、その技術を習得するための時間は重要になってくる。
「そうね、素人が始めたとして考えると、十年はかかるんじゃないかしら?」
「そ、そんなに!?」
魔白が驚嘆の声をあげる。
(十年か、俺はてっきりもっと早く帰れるかと思っていたが、これは本格的にヤバイ。いや、全て習得したからと言って魔王を倒せるという確証はない。そもそも、魔王とも言われている存在をそう易々見つけられるはずもない。早計だったな)
この時雪十の頭は幻想物の映像遊戯を想像してしまっていた。
人間は状況を想定するために自身の記憶の中で似た様な状況を提示し、それと現時点を比較している。この状況を"雪十の"元世のものと比較したら一番近いものはゲームだった。それを頭のどこかで照らし合わせてしまっていた。若さ故か、それが理想だったのか。幻想と現実を僅かながら混同してしまったのだ。その思考が十年と言う月日を長く感じさせていた。そのくらい時間が必要なのは当然と言えば当然なはず。
しかし、十年とはあくまでロイカ=ミランダその人の主観であり、素人が魔王を討伐出来るようになるには人生をかけても1割りにも満たないという。
それを十年......それほどにまでも縮めてしまう程、ロイカ=ミランダという人物は世間よりかけ離れ、かつ強大な力をもつ人間であった。
「でも、思ったより早く習得できるかもしれないわよ?」
「本当ですか!?」
「ええ、あなたたちからは、今までに感じたことのないほどの力を感じるわ。特に雪十くん、あなたの魔力は尋常じゃないわ。......うん!十分に期待できそうね」
ロイカは、雪十を見定める様に頷いた。
(俺にそれほどの魔力があるのか?魔力といわれても良く分からないが。まぁ、何となく嬉しいな。だが、調子にのることだけはしない様にしよう、きっと痛い目を見るだろう。あの時の様に......。)
「それで、ロイカさん。いつから特訓を始めるのですか?できれば早めに始めたいのですが」
「うーん。じゃあ、明日からでどう?雪十くんの傷は治癒魔法でもう完治しているはずだから」
「分かりました。一応確認するけど、それでいいよな?真白」
「ええ、いいわよ。私も早く元の世界に帰りたいもの」
(やっぱりそうだよな。できるだけ早く魔王を倒せるほどの術を習得しなければ。でも、それは決して簡単なことじゃないはずだ。...…覚悟を決めないと。)
「じゃあ、今日はゆっくり休んでね。明日からはゆっくり休む時間は、ないと思った方がいいわ」
(ふと窓から外を覗いたら、いつの間にか陽が落ちかけていた。まるでうねる蛇の様に橙色の光が空を駆ける。)
「はい。分かりました。雪十を救って頂いた上に、何から何までありがとうございます」
「いいのよ。それより、あなた達の部屋に案内するわね。ちょうど二階に二つ空き部屋があるのよ。ついて来て」
「「はい」」
(俺たちは、ロイカさんに部屋まで案内された。俺の部屋は、階段を上ってすぐの右手側。真白の部屋は、俺の部屋の向かい側だ。)
「部屋は自由に使っていいわ。でも、"事"をする時は、言ってね。閉音にしておくから」
「事?って、どう言う意味ですか?」
「ゆ、雪十とは、そんなに関係じゃありません!......まだ」
「冗談よ冗談。でも、"まだ"っていうのはどういう事かしらね?ふふふ」
「な、べ、別に、特別な意味はありません!」
「なぁ、真白。事ってなんだ?お前は意味わかってるんだろ?」
「もう!鈍感男はいいの!......そんなことより、自分の部屋を見てきたら?」
「ああ、そうだな。どんな部屋なのか気になるし」
「あ、そうそう。夕食の前にお風呂に入ってらっしゃい。ちなみに、家は地下に温泉が湧いてるのよ。しっかり温まってね」
な、なに、温泉まであるのかこの家は、さすがに俺の家でも温泉はないぞ。
「家に温泉が湧いてるなんて羨ましいわね」
「そうだな、毎日温泉に入れるなんて、羨ましいなぁ」
真白の意見に賛同する。
「ちなみに効能はね……なんだと思う?」
「効能ですか?......そうですね、肩こり解消とかですか?」
「それがね、色々ありすぎて私にもわからないのよね〜」
("人に聞いといて自分でもわからないのかよ!"と、心の中で思ったが口にはしなかった。)
「そ、そうなんですか」
「でも、いつも、入ると体のあちこちがほぐされていくような、何とも言えない気分になるのよね〜」
それは、随分とあやふやな表現だな
「それと、怪我も治るし、魔力も回復するし、さらに美容効果まであるし、まさに万能というしかなのよね」
「そうなんですか。でも、美容効果があるってどうしてわかったんですか?」
「どうしてって、私がこんなに綺麗なんだもの!」
「そ、そうですね〜」
(確かに綺麗だ。でもそれを自分で言うのか......)
「あ、雪十くん。今失礼なこと考えてたでしょ!」
「ははは、そんなことないですよー」
(何で人の考えてることがわかるんだ。この人エスパーか?いや、魔法使いか。
そんなやり取りをしていると階段から足音が聞こえてきた。)
「あの、ロイカ。そろそろ食事の準備をしたいので、手伝って頂けますか?」
「あ、もうそんな時間なのね。そうだわ、お風呂は地下に降りて、階段の右手側をまっすぐ進むとあるわ。あと、着替えはこっちの方で用意しておくから、気にしないでね。じゃあ、またあとでね」
「「はい」」
そう言うと、急ぎ足で階段を降りて行った。
「真白、先に入ってこいよ。俺はあとでいいから」
「うん、じゃあ入ってくるわ。」
(真白は足早に階段を降りて行った。温泉が楽しみなのだろうか?何となく声が弾んでいた気がした。)
梃子を回し部屋の扉を開ける。
(部屋はタンスと机、それにベッドぐらいしかないまさにシンプルな部屋だ。家具はすべて木製で、木の光沢がなかなか高価そうだ。しかも日当たり良好。昼寝にはいい部屋だ。)
部屋を見終えると、雪十は無造作にベッドに寝転がり寛ぐ。
「ふぅ。このベッド、この位の時代にしてはかなり寝心地がいいな。見たところ終世に近いが、ロイカさんの家は元の世界でも別荘として使われる家位には整っているな」
(......さて、これからどうしたものか。魔法というものの存在、この世界についての情報、元の世界に帰るための手段、考えなくてはいけないことが、多すぎる。
しかし、それ以前に真白のことが心配だ。いろんなことが一度に起きて、戸惑っているはずだ。)
「しっかりしないとな......」
ー地下温泉ー
「えーと、ここかしら?」
分厚い木の板で、できた扉の先は、よく旅館の温泉にあるような感じの十畳くらいの脱衣所だった。
「脱衣所だけでこんなに広いのね。雪十の家の脱衣所の半分くらいかしら?」
でも、雪十の家の脱衣所、あそこは広すぎよ。
「とりあえず、ここを使おうかしら」
お風呂に近い場所で、服を脱ぎ、脱いだ服をたたんで籠に入れ、もともと籠の中に入っていたタオルをもち、お風呂に続く引き戸を開ける
「やっぱりお風呂も広いわね…」
さっきの脱衣所なんて比じゃないくらいに広いわ。まさに大浴場ね。
「しかし、ほんと広いわね〜。いろんな温泉があるし、折角だから全部入ってみたいわね。っとその前に体洗わなくちゃ」
辺りを見回すと、現代のシャワーのようなものがあった。といっても、透明なクリスタルでできたシャワーヘッドの部分だけがかかっていて、下の方に赤い石のレバーと青いレバーが備わっていた。
「”ホース”が無くてもお湯出るのかしら?」
赤い石のレバーを軽く捻る。すると、シャワーヘッドのような形をしたクリスタルが光り、そこからお湯が出てきた。
「ほんとに出たわ。どういう原理なのかしら?......やっぱりこれも魔法の力なのかしらね。まぁ、とりあえず体を洗って、お風呂にゆっくり浸かりましょ♪ふんふふん♪」
鼻歌交じりに湯を浴び始める。
(この世界にもシャンプーやリンスもあるのね。使わせてもらおうっと。)
真白は香水が入っていそうなお洒落な"ガラス"の容器を手に取り、その中にあるシャンプーと思しき液体を髪につけ、髪の毛を洗う。
「ふんふん、ふふんふん、お〜んせ〜ん」
髪の毛や体を洗い終わり、拭布で前を隠しながら、大きな石が辺りを囲っている湯場歩より、身が足からゆっくりと入っていき肩までしっかりとつかる。
「はぁ〜、気持ちいい。体の疲れが全て癒やされていくような心地だわ。それと、ロイカさんの言ってた通り、体じゅうのあちこちがほぐされていくような感覚になるわね」
あ〜いつまでも入っていたいわ〜。家にこんな温泉があるなんて、ロイカさんが羨ましいわね。
湯につかりながら、これからのことについて考える。
異世界、ね。とんでもない所に来ちゃったわね。しかも、元の世界に戻るには最低十年は、かかるっていうし、それに、確実に帰れるっていう確証は無いし、本当にこれからどうしたらいいのかしら......はぁ〜...。
深いため息をつく。
いけない、ネガティヴになっちゃダメだわ!ロイカさんが特訓してくれるって言ってたし、きっと元の世界にもちゃんと戻れるわ!
「よし!」
気合いを入れザバッ、と勢いよく立ち上がる。
〜その頃雪十は〜
「 いち早くこの世界から抜け出すためにも、まずはこれからの計画を立てないとだな...。」
う〜ん。計画といっても、この世界について何も知らないからな、まずはロイカさんにこの世界について、もっと詳しく教えてもらおう。さっき教えてもらったことはこの世界の一端でしかないだろうしな。
しかし、特訓についても大まかなことしか教えて貰ってないし、そもそも俺にこなせるのだろうか?ロイカさんの話だと、俺たちには力があるとか言ってたけど。本当に大丈夫なのか?...。
「あー!くそ!懸念しか生まれない!...はぁ〜、計画を立てるどころじゃないな ...」
とりあえず今日はしっかり休むか...。
考えるのを一旦やめたところで、廊下から足音がして、扉が開く。
「雪十、お待たせ。いいお湯だったわよ。雪十も入ってきたら?」
真白は普段着なさそうな、きなり色のなネグリジェっぽいものを着ていた。
「あぁ、わかった」
軽く会話を済ませて風呂場にむかう。
「えっと確か、地下に降りて右手側を真っ直ぐっと、あ、ここか」
扉を開きながら、ふと先ほどの事を思い出す。
真白ってあんな服持ってたっけ?いや、そもそもあれは寝間着か、じゃああれはロイカさんが用意したものなのだろうか。随分と真白に似合ってたな。
「お、結構広い脱衣所だな。ん〜温泉か、随分久しぶりだな」
浴場に近い方の脱衣カゴに服を畳んで入れ、浴場へ向かった。
「うん、個人でこんな広い風呂はいらないな。まぁ、俺が言うのも何だけど」
雪十家のお風呂は、この温泉の広さより広いくらいだが、余裕で40畳はあるのだ。
「さてと、ゆっくり浸かってきますか」
〜〜数十分後〜〜
「はぁ〜、良い湯だった。やっぱり温泉ってのは良いもんだな」
浴場から出て、備付のタオルで体を拭く。服を着ようとカゴの中を見ると、着ていた服はなく、代わりに、普通の寝間着が入っていた。
下着は無く、周りを見回すと、入り口の方に緑の光を放つ石がついた木箱が見えたので、近寄って開けてみると、さっきまで身につけていた下着と服が丁寧にたたんであり、洗濯、乾燥までしてあるようだった。
「便利な機能だな。でも、この機能があるならわざわざ寝間着を用意してもらわなくてよかったのに。後でお礼を言っておこう」
下着と寝間着を着て、一階に上がった。
「あら、雪十くん。ちょうどよかったわ。いま呼びに行こうと思っていたところよ」
「なにかあったんですか?」
「いいえ、ただ、あともう少しでご飯ができるから、上がってきて、って言いに行こうとしてただけよ」
「そうだったんですか。わざわざありがとうございます」
命を救ってくれた上に、お風呂に、ご飯、それに細かいことまでしてくれている。まさに、至れり尽くせりだな。
「どういたしまして。あと、髪も乾かさなきゃね」
そういえば、真白の髪はお風呂上がりにもかかわらず、しっかり乾いてたな。
「お願いします」
「いくわよ」
ロイカさんは、手のひらを俺の顔にかざした。
「はい。おわりよ。さぁ、もうご飯ができてるはずよ。行きましょう」
「え...」
何かをしたとも思えないほどのごく僅かな時間のできごとおだった。気づけば髪の毛は乾き、湿り気の一つもなかった。
「こんな一瞬で...魔法ってすごいな...」
そう、小さく呟き、魔法のすごさを痛感した。
「ん?どうしたの?雪十くん」
「あ、いえ。なんでもありません」
疑問応え、足早に、ロイカさんの後をついて行き、リビングに行くと、真白とリオナちゃんが料理の盛り付けをしているところだった。
「あ、雪十。もう、お風呂長いわよ〜」
「悪い、気持ちよくてついな。それより手伝おうか?」
「えぇ、お願い」
盛り付けを手伝いにキッチンに立つ。しかし、高級料亭にでも出そうなくらいの豪華な食事だな。
「この料理って、ロイカさんが作ったんですか?」
「いいえ、それはリオナが作った料理よ」
「こんな豪華な料理を作れるなんて、リオナちゃんは料理が上手なんだね」
「いえ、それほどでも...。ですが、久しぶりのお客様なので、腕によりをかけて作りました。あと、真白さん手伝っていただき、有難うございます」
リオナちゃんが真白にぺこりと頭を下げる。
「お礼なんていいわよ。別に大したことはしてないんだから」
「じゃあ、料理を机に運んでくれる?」
「はい」
雑談をしているうちに盛り付けが終わり、ロイカさんの指示でテーブルに料理を運ぶ。
〜〜
料理を運び終わり席に着く。
「さぁ、冷めないうちに頂きましょ!」
「そうですね」
俺と真白はいつものように手を合わせる。
「「いただきます」」
フォークとナイフを手にとり料理に手を付けようとした時、ふとロイカさん達を見ると、疑問と驚きが混在したような表情をしていた。
「どうしたんですか?」
「いえ、別に大したことはないんだけど。私たちの知っている作法とは少し違うのね」
どうやら、食前の挨拶の仕方に驚いていたようだ。
「そうなんですか?お、僕たちの国では食事の前には”いただきます。”食後には”御馳走様。”と言います。因みにここではどういう作法があるんですか?」
「そうね、まず食前には、”自然の恵みと、人々の知恵に感謝します。”そう言って食事を始めるわね。食後には、”私たちの血と肉になりし生命に感謝します。”と言って食事を終えるわ」
「へぇー、そうなんですね。世界?が違っても、食物や人に感謝するのわあまり変わらないのね」
「みたいだな」
「まぁ、殆どの人は、食前も食後も”スィーノールア”で統一してるわね」
やっぱり、世界が違えば、わずかな違いや独自性が生まれてくるんだな。この世界を生きていく上で常識を知っておくのは、重要なことだ。しっかり勉強しないと。
「スィーノールア?何かの祈りでしょうか?」
「えぇ、物凄く昔から続いてる祈りだから、詳しいことは分からないのだけれど、私が見た古文書によれば、古い神様の名前らしいわ」
「神様ですか...」
俺たちの身に起きたことも、その神様に関係しているのかもな...。ふっ、まさかな。
自分のバカな考えを人蹴りする。
「ロイカ、料理が冷めちゃいます」
「あ、そうよね。つい話しに夢中になっちゃって。詳しい話はまた後で。さあ、頂きましょう。」
俺たちは、それぞれの礼で、食事を始めた。
「「御馳走様」」
食事を終え満腹感に浸る。
それにしても、今まで食べた中で一二を争うくらい美味しかった。特にステーキがうまかったな〜。食感は牛肉に似ていたけど、味はしつこくなくて軽く食べられた。それに、サラダとボルシチに似たスープもうまかった。
うむ、実に贅沢な食事だった。いつも、家では一人で食べる事が多かったし、ご飯も簡単な物しか作ってなかったからな。誰かと一緒に食べる食事は、暖かい...。
「さて、食事も終わったし、お風呂でも入ってこようかしら。あ、その前に後片付けしなくちゃ」
「俺たちがやっておきますから、気にせず入ってきてください」
「あら、良いの?」
「はい。な、真白」
「えぇ、お世話になりっぱなしじゃ、気が引けるもの」
「じゃあ、遠慮なく。リオナも手伝ってあげてね」
「はい。勿論です」
リオナちゃんにそう告げると、廊下への扉を開け、お風呂場に向かった。
「では、雪十さん。食器を台所に運んで来てもらえますか?真白さんは机を拭いて頂けると助かります」
「えぇ、分かったわ」
リオナちゃんの指示で食器を台所に運び、真白はテーブルを拭く。
「後はこちらでやっておくので大丈夫ですよ」
「え、あ、はい。でも、食器洗いとか、まだ手伝えることがあったら遠慮なく言ってください」
「いえ、大丈夫です。食器洗いは魔具でできますし。仕舞うのも魔動で、できますから」
「そうですか。分かりました」
するとリオナちゃんは、俺が運んで来た食器を、流しの下にある引出しに入れた後、ティーポットを出しお茶を入れる準備をした。
「あ、座って待っていて大丈夫ですよ、すぐできるので」
「雪十、そっちはもう終わったの?」
そこでちょうど、テーブルを拭き終わった真白に話しかけられた。
「うん?あぁ、一応な」
「一応?最後までしっかり手伝わなきゃダメよ?」
「いや、あまり手伝えることが無くてな。食洗も仕舞うのも全部自動化されているみたいでな。...そう言えば、リオナちゃんは、魔動って言ってたな」
「へぇー、それってやっぱり、魔法を使ってるってことなのかしらね」
「あぁ、そうだろうな」
真白と立ち話をしてると、後ろからリオナちゃんが声をかけてきた。
「それについては、お茶をしながら話しましょう。ご飯を食べてすぐですが、一応茶菓子も用意しました」
「えぇ、それじゃあ、いただくわ」
「ありがとう。リオナちゃん」
リオナちゃんのあとを追い、席に着く。
「では、まず何から話しましょうか?」
リオナちゃんは紅茶を口にしてから、俺たちの疑問に答えるべく口を開く。
「じゃ、じゃあ。"魔動"ってなんなのか教えてもらえるかしら。魔法に関わる事なのはわかるのだけれど...」
「そうですね、"魔動"っていうのは、簡単に言えば魔力供給によって、動作や現象を自動化したものです。正確に言えば、特定の現象を起こす魔法を、魔石などの触媒に固定して、魔力供給によってそれを準永久化する。それが魔動です」
準永久化、か、なるほど。魔力がエネルギー源だから、魔力を永久的に自動確保するシステムが無ければ、永久化はできないか。流石に、魔法でも、永久機関を作るのは簡単じゃないのか。いや、しかし...
「でも、見たところエネルギーを保存するような場所は見当たらなかったけど。俺の勘なんだが、凖と言っても、ほぼ永久機関に成功してるんじゃないか?」
「ん、その、えねるぎー?というものは、何か分かりませんが、凖永久機関については雪十さんのいうとおりです。確かに、"ほぼ"、完成していますが。この装置は、まだ試験段階かつ、世の中のことを考えると、本国にも協力を仰ぐことすらできませんからね 。装置が完成しても暫くは、内密にしておく必要がありそうです」
なるほどな。和製英語みたいな単語は通じないのか...。また貴重な情報が得られたな。それにしても一般に公開することを渋るのはわかるが...。
「あの、一般への公開を避けるのはわかるけど、どうして自分の国にまで内密にしてるんだ?」
「まぁ、珍しい事ではあるませんが。ここだけの話、本国の貴族や議員の中に、他国の密偵が紛れているんですよ」
「密偵、って、かなりの大ごとじゃないの!どうしてそのままにしておくのよ。そんなんじゃ、国の情報がダダ漏れになるじゃない」
「確かに真白の言ってる事はわかるが、国にも何か、泳がせておくなりの考えがあるんじゃないか?。例えば、有事における情報撹乱のための布石とか」
「雪十さん。そんなにパッと思いつくなんて、あなた、元の世界では軍人か何かだったんですか?」
「いや、父さんが元軍人なだけだよ。小さい頃にうんざりするほどいろんな話を聞かされたから、そのせいだろうな」
まぁ、元軍人って言っても、公的には、だがな。
「そうですか。話を戻しますけど、ハッキリ言って雪十さんが言ったとおりです。その他であげると、有事の時には情報を絞り出すこともできますし、場合によっては交渉材料にもなりますね。なので、本国は現状維持、ということになってますね」
「なるほどな」
「それに、例え、信頼できる人間と言っても、何処からか漏れる可能性もあるので、永久魔動装置を対処出来るものを開発してから出ないと、国にすら、報告や開発協力要請も出せないんです」
「リオナちゃんはそんなに幼いのに、いろんなことを知っててすごいわね」
「お、幼い...。ま、まぁ、そう見えますよね...」
「え、あの、御免なさい。見た目からして10歳くらいだと思って」
「いや、いいんです。正直言って、精霊の中でもちっちゃいほうなんです...」
ふと思った。そうすると、今幾つなんだ?と
「その、嫌ならいいんだが、今幾つか教えてくれないか?」
「小声)ちょっ、雪十、なんでそんな事聞くのよ。さっきのやりとり聞いてなかったの?」
「でも、気になるだろ?」
「気になるからって、聞いて良いことと悪いことがあるでしょ。ごめんね、リオナちゃん」
「いえ、大丈夫です。年齢を聞かれることには、それほど抵抗はありませんから」
「そう?それなら良かったわ。雪十も、軽々しく人の年齢を聞かないこと。特に女性には十分に注意してから聞くのよ。いい?」
「はい、分かりました。ごめん、なさい。」
ついいつもの癖で、質問をしてしまった。もっとよく考えて行動するべきだった。
「 まぁ、今回はリオナちゃんの許しが出たから、深く咎めたりはしないわ。じゃあ、リオナちゃん教えてくれる?」
「はい。私の年齢は、人で言うと114歳です」
「え、114歳!?嘘でしょ!?まさかね...」
「だけど、精霊って言うくらいだし、それが普通なんじゃないのか?」
「嘘ではありません。それに、精霊の中では若い方ですから、真白さんの言ったと通り、幼いって言う表現も間違っていません。けど...」
「「けど?」」
「10歳って言われたことには、少し驚きました。人間から見るとそんなに幼く見えるんですか?」
「えぇ、多分ほとんどの人はそう思うと思うわ」
「そもそも、精霊ってどれ位で大人になるんだ?114歳でまだ若いってことは、大人の精霊はもっと年齢が高いってことだろ?」
「そうですね、基本的には、400〜500歳くらいで、成霊と言うことになっていますね。」
「なるほど。しかし、400〜500って大雑把すぎないか?」
「人から見ると確かにそうですが、私達には、それが普通のことなんです。それに、成人といっても形だけのようなものなんですよ」
「と言うと?」
「精霊や他の長寿、在存の生命は、年齢なんて特に気にしません。ですが、その中で問題となるのが個人の能力における基準点です。
人間のように、『幾つまでに、規定の学習を終える』と言うような規程がされていませんでした。ですので、『この年齢ならば、この位の事は出来る』などと言う、格付けが出来ずにいました」
「そこで、『成霊』って言う事ね」
「はい。『成霊』とは、人間でいう資格とほぼ等しく、仕事や社会制度にも大きく影響します。これを、得る為には、ある試験を受けなければなりません」
「試験?それって一体どんなものなんだ?」
「きっと、ものすごく過酷なものよ」
「それはですね」
「「それは?」」
「それは......。面接です」
「「面接?」」
予想もしなかった答えに、驚きと疑問を覚え、真白と顔を見合わせてしまった。
「はい。そうなんです。全くこの上なく、恐ろしいものなんです」
「面接っていうとあれか?試験官の質問に受け答えする」
「はい」
「相手の過ちを直接責める」
「それは面折です。って何を言わせるんですか!」
「あはは、ごめんね。つい」
真白のギャグセンスには、少し驚かされた。悪い意味で
「とにかく。私達、精霊の間では地獄の関門とも言われているほど、恐ろしい試験なんです!」
「そんなに恐ろしい面接って、一体どんな面接なんだ?」
「この恐怖の面接の内容は...」
と、リオナちゃんが、言いかけたところに。
「あなた達、まだ起きてたの?明日は早いんだから早く寝ないとダメじゃない。リオナにはちゃんと言っておいたでしょう?」
「すみません。つい話しに夢中になってしまって。御免なさい雪十さん真白さん、伝えるの忘れてました」
「いいのよ、こちらこそゴメンね、いろいろ質問責めにしちゃって」
「いえ、ひさしぶりにいっぱい話せて楽しかったです。」
「さぁ、あなた達部屋に戻ってゆっくり休んで頂戴。明日からは過酷な修行を始めさせてもらうわよ」
「「はい。お休みなさい」」
「えぇ、お休み」
「お休みなさい」
ロイカさんとリオナちゃんに挨拶をして、真白と一緒に二階へ上がり、それぞれに部屋に向かう。
「今日はいろんな事が知れたな。な、真白」
「えぇ、そうね。でも、これからは、もっと沢山の事を知って、覚えなきゃいけないわね」
「そうだな。じゃあ、お休み、真白」
「お休み、雪十」
自分の部屋に入り、俺はすぐさまベッドに横になって、明日に向けての期待と不安を感じながら、瞼を閉じた。
ブクマをしていただくと。大変ありがたいです。モチベーションも上がります