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無双少女よ、刀を振るえっ!  作者: 速水 心太
第2章:『黄の神』機械編
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第23話 「聖戦の真実」

 ムーラリアの城にある会議室では、俺たちの報告を聞いた赤の神の怒号が響き渡っていた。


 「魔人と戦っただと!? 本当なんだろうな小娘ぇ!」


 イライラが収まらないのか、デカい右手で俺の顔をムギュッと掴んでくる。さすがに手加減しており全く痛くはないのだが、すげぇ腹立つ。


 「本当じゃ。奴はュラーラと名乗っておった」

 「チッ、厄介な事になった!」


 赤の神はバッと俺から手を離し、自分の椅子に腕を組みながら座る。ュラーラの名を聞き、黒の神の眼が僅かに見開かれる。


 「咲夜よ。その魔人は本当にュラーラと名乗ったのか?」

 「うむ。確かじゃ」

 「ふぅむ……。これはワシらが思っていた以上に『災厄』の時が近づいておるのかもしれんのう。蒼の神よ、どう思う?」

 

 黒の神の問いかけに、静かに俺たちの報告に耳を傾けていた蒼の神が答える。


 「魔人達が復活しているのは間違いないでしょう。……問題は『災厄』の時がすぐそこにまで迫っていることです。明らかに時期が早すぎます」

 「……あの、少しいいですか?」

 「どうしました? ベアトリクス」


 おずおずと、遠慮がちにベアトリクスが挙手をする。


 「一体『災厄』とは何なのですか? 私たちに伝承として伝わっているあの『災厄』のことですか?」

 「……そうですね、ベアトリクスたちには話しておきましょう」


 そう言うと、蒼の神はまっすぐに俺たちを見据えてくる。その神々しさに、思わず部屋が緊張に包まれた。


 「かつて私たち神と魔人との間に起きた戦争、『聖戦』のことは皆さんもご存じでしょう?」

 「は、はい。神の手によって魔人が滅ぼされたと」


 ベアの言葉に黒と赤の神が苦い顔を浮かべ、蒼の神がゆっくりと首を横に振った。


 「魔人は滅ぼしていません。いえ、出来なかったのです。彼等の強さは神々に匹敵し、我々側も3人の神が犠牲になりました」

 「え? 神が殺されたのですか!?」

 「はい、結果的に魔人を滅ぼす事は叶わず、私たちは封印という手段を用い魔人たちを異界へと封じ込めたのです。そして、『災厄』とはその封印が解かれる時の事を指します」


 蒼の神から語られる衝撃的な事実。『聖戦』で魔人は滅ぼされずに封印されただけ。しかも3人もの神が殺されただと……。

 

 「封印がいずれ解かれることは私たちも予期していました。【神技】使いとは再び『聖戦』が始まった時、万が一私たちが魔人に敗れた際の最後の砦として与えられたスキル、いわば保険なのです」

 「殺された神というのは?」


 蒼の神のそばで静かに話を聞いていたクラウディオが、思わず口を挟む。どうやらクラウディオですら、この真実を聞かされてはいなかったらしい。


 「殺された神は黄、翠、紫の3人の神です。現在それぞれの領土に君臨している神たちは、その生まれ変わりです」

 

 蒼の神が語り終えたのと同時に、赤の神が両手で強く円卓のテーブルを叩く。


 「そんな事はどうでも良い! 問題は魔人共をどう駆逐するかだ!」

 「そうですね。サクヤの話ではュラーラは『純血の魔人』と名乗り、出来損ないと言い放った男の魔人は紫の領土を故郷と言ったそうですね?」

 「うむ。わらわはあの男の魔人が嘘を吐いたとは思えぬ」

 

 俺の言葉を聞いた蒼の神が、口元に手を添え思案にふける。


 「ふむ。『純血の魔人』がどういう意味なのかは分かりませんが、魔晶の材料となった男の魔人についてはよく調査をした方がいいでしょう。なにせ、『聖戦』では魔人たちはゴーレムを使役するなんて事はしていませんでした。魔人以外の協力者がいる可能性が高そうです」

 

 確かに、機械式のゴーレムなんて『聖戦』が起きた時代には存在すらしなかっただろう。今思い返してみれば、ュラーラは銃についても知らなそうだった。

 となれば、魔人たちに入れ知恵している人物がいるのだろう。


 「……なら、私たちの次の任務は紫の領土の調査?」


 ジークフレンの言葉に、蒼の神は首を振る。


 「いいえ。紫の領土については私たちが様子を見てみます。もし魔人の住処となっていれば危険すぎますからね。貴方たちは代わりに、(みどり )の領土に行って頂きましょうか。丁度かわいい客人もいることですし」


 優しくほほ笑みながら、蒼の神が会議室の扉へと視線を送る。

 どうしたんだ? 蒼の神の視線を追い扉へと顔を向けると、そこには外で待たせておいたハズの妖精の少女がいた。


 「――――!」


 俺たちの視線を受けた妖精の少女は慌てて俺の肩の上まで飛んできて、恥ずかしそうに俺の髪で自分の体を隠した。

 その動きに、部屋の中は和やかな雰囲気になる。


 「おほっ! 妖精族とは珍しいのう」


 黒の神が身を乗り出し俺の肩に乗っている妖精族へと顔を近づける。傍から見れば黒の神は妖精を観察している風に見えるだろう。だが俺からはバッチリと分かる。このエロジジイ、鼻の下伸ばしながら横目で俺の胸を覗き込んでやがる。


 「妖精族は本来翠の領土から外に出る事はありません。なぜここに?」

 「ムーラリアに来る道中、盗賊に捕まっていたトコロを助けたのじゃ」

 「……妙ですね。翠の領土はエルフと妖精たちによって、他の領土から完全に独立している島国です。盗賊が翠の領土から妖精を攫って来るなんて芸当、不可能のように感じますが……。この妖精の身に何があったのでしょう……。『インフィニティ・ギャングスタ』ですか。注意しておいた方が良さそうですね」


 「――――……」


 プルプルと俺の髪を掴みながら、怯えたように妖精は赤の神を見ている。その様子を見て、蒼の神はプッと噴き出した。


 「妖精は言葉を話せない代わりに、悪意を感じ取る能力があります。赤の神、貴方の本質が見抜かれているようですね」

 「チッ、くだらん」


 クスクスと蒼の神が笑い、愉快そうに黒の神も後に続く。


 「ホッホッ、お主も眉間にしわ寄せてないでワシのようにおおらかになるとええ。さすれば妖精とも仲良くなれるじゃろう」

 「……フンッ、俺の目には黒の神、貴様も随分嫌われている様に見えるがな」

 「ほ?」


 赤の神の言う通り、黒の神を滅茶苦茶冷たい目で妖精が見ている。黒の神を見下している時の蒼の神の目にそっくりである。

 たまらず蒼の神が少し声を上げて笑いだした。


 「うふふっ、黒の神。貴方のスケベ心も見抜かれているのですよ」

 「ぐぬぬ……。ま、まぁ構わんもん。ワシには咲夜がおるもん」

 「え、わらわも黒の神はお断りじゃ……」

 「ほ?」


 ズーンと、黒の神は完全にテーブルに顔を突っ伏し動かなくなった。こんな弱いメンタルで、本当に神として大丈夫なのだろうかこのジジイ。


 「とにかく、ベアトリクスたちは翠の領土に向かってください。あそこは長寿のエルフと妖精の住まう場所です。『聖戦』時代から生きている者もいるでしょう。魔人について話を聞いてみてはいかがですか? 海を渡る為の船もこちらで用意させましょう」

 

 会議の末、次なる目的地は俺に懐いてくれている妖精の少女の故郷、翠の領土となった。

 翠の領土は、中立を宣言しており他の領土へ一切干渉しない。かつ安定した気候で災害も少なく、食料等にも困らないことからこの世の楽園と呼ばれていたりもする。

 

 それはひとえに、エルフたちが他所からの侵入者を追い返しているからだ。その希少性からエルフや妖精を狙う悪人は多い。だが、そういった連中はエルフの弓によって島に上陸するよりも早く、船ごと海に沈められる。


 今回の翠の領土への調査、何やら一波乱ありそうだと俺は感じていた。

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