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姫様勘弁してよっ! ~異世界戦国奇譚~  作者: 木庭秋水
第四章
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第百八十一話 二水の町再生計画 でござる その一

 まあ何にせよ、妖艶な葉月さんと青い魅力の美空ちゃんが、今日の接客担当のようだ。由利ちゃんは厨の方で頑張っているのだろう。出てくる気配がない。折角だから、目の前でへばっている根性なしどもにあの魔乳を見せて活を入れてやりたかったが、それは叶わないようである。少々残念だが、また次の機会という事になりそうだ。


 まあでも、リビドーの充填は葉月さんで十分すぎる程出来るし、美空ちゃんで可愛い少女を愛でる喜びも満たせる。問題はない。この店は、相変わらずの盤石な布陣を誇っている。


 その綺麗な踊り子さんたちだが、注文された品を俺たちに出し終わると、場を汚すことなく、お愛想を振りまきながら裏へと下がっていった。この辺りも、見事なものだといつも思う。なんというか、空気を読むのが非常に上手い。商売人という事を差し引いても、大した物だ。プロなんだなあと感心させられる。


 そして彼女らが下がっていった所で、ゼイハアと荒い息を吐いてへばっていた太助らも、ようやく息が整い終わったようだった。のそのそっと動き始めた。太助、吉次は団子を囓り始め、八雲は運ばれてきた煎茶を喉に通して、小さく丸い息を吐く。


 美人を楽しむ為に、わざわざここに連れてきてやったというのに、こん馬鹿チンどもは……。


 俺的には、そう思わざるを得ない。


 行った事がないから絶対そうだとは断言できないが、これってクラブみたいな所に行って、女の子無視して只管呑んで喰ってするようなものではなかろうか。最低な客だと思うのだが。


 まあ、健全な茶店を、クラブと一緒くたにするというのもどうかとは思うが、どうにもそんな気がしてならなかった。


 そして、そんな事を考えつつジト目で太助らを見ていれば、


「で、武様。綺麗どころが下がっていった所で質問なんですが、こんなに買い込んで、今度はいったい何をするつもりなんです?」


 と、与平が興味津々といった感じで聞いてきた。


 こいつは、いつも通りしっかりと楽しんでいた。俺が町に出てくる時は、大概信吾ら三人のうちの誰かは護衛としてついてくるので、その度に付き合わせているから慣れてきたのだろう。


「まだ、もう少し買うぞ? 肉の仕入れも頼まなくちゃならんしな」


「肉の仕入れ?」


「ああ、前に鳥串を焼いていたおっちゃんに聞いてな。獣屋(けものや)っていうの? 肉を取り扱っている店が、この町にもあるらしいんだ」


「へぇ-、ここにも獣屋あるんだ」


 与平は、俺の答えに少し興味を示した。多分猟師をしていた頃は、ここのではないだろうが獣屋を利用していたのだろう。


 つか、お前。獣屋の存在知っていたのなら、さっさと教えろよ――と思わずにはいられなかった。おかげで山狩りまでする羽目になったんだぞ、俺は。ほんと、面白い事好きな性格をしていると思う。


 だが、とりあえずそれは置いておく。俺は普通に、


「らしいぞ。千賀の奴も肉好きみたいだしな。色々作ってみようかとね。ま、何をするのかは、商品……ってか料理に、もう少し目処がついたら発表するから、こうご期待ってところだな。楽しみにしていろ。つか、お前らは強制参加だから、遠からず分かる。安心しろよ」


 と答えた。が、


「安心しろって……ってか、どうせ言っても聞かないんだから、まあ、それはいいです。でもせめて、何に強制参加させられるのかぐらいは教えて下さいよ」


 与平はわざとらしく溜息を吐いてみせながら、食い下がった。食べかけの団子の串を振りながら、片目をつぶってこちらを見てくる。


「『祭り』をするそうですよ、与平さん」


 八雲が、奴らしいやんわりとした口調で、与平に言った。


「祭り?」


 与平は、横から口を出してきた八雲の方を見る。すると、


「俺と茜を姫様に会わせた時に、姫様と約束したんですよ」


 と、八雲の横に腰掛けていた太助も参加してきた。


「祭りかあ。そういや、今年は俺たち剣山に籠もってたから、町の秋祭りにも出れなかったしなあ」


 更にその横――長椅子の端に腰掛けていた吉次も、碗を傾け喉を鳴らしながら、どこかしみじみと言う。


「まったく……、このおしゃべりどもめ。もう少しもったいぶってから話そうと思ってたのに。でも、ま、そういうこった、与平。千賀の奴が祭りに行きたいと言い出してな。でも、流石に連れて行けないじゃん? だから、そんなら館ん中で開いてやろうかと、な」


「また無茶な事を……。そこは姫様に我慢してもらうとか」


「いや、もう散々我慢させてしまったという背景があってだな、今回は我慢しろとは言えんのよ。打つ手なしならやむをえんが、多少無茶だろうが打つ手が残っているからなあ。爺さんや伝七郎に話はすでに通してあるし、開く事自体は問題ない。爺さんには呆れられ、伝七郎には苦笑いをされたがな。あとは、せめて損益がトントンになるように頑張るだけだ」


 俺はやけくそ気味にハハハと無理やり笑ってみせた。


 そして、そんな俺に与平は無慈悲な一言。


「いつもみたく、無茶じゃない事にしたいだけじゃないっすか」


 ただその顔は、辛辣な言葉に反して笑っていた。




 その後しばらく茶を飲みながら、どんな風に祭りを開こうとしているのか、そして、そこで出す為に開発する商品――料理を二水に持っていくつもりだという事などを、雑談がてら、特に太助らに向かって話していった。


 せっかく新商品を開発(というか、電子箱の知識をほり返して再現してやろうというだけではあるが)しようというのに、たった一回の祭りで終わらせてしまうのはもったいなさすぎる。手を抜いてやっても、真剣にやっても、手間がかかる事には変わりがないのだ。これを流用しない手はない。


 それに、そういう物をコツコツと貯めていけば、二水の町の独自カラーになっていく。そして、そういう特色というものは、多くの場合は人を引きつけるようになるのである。


 そういった努力を積み重ねていく事が大事なのだと、俺は皆に熱く語って聞かせた。


 突然真面目な話になってしまったが、話して聞かせる良い機会だった。


 俺は、二水の町が再生する為には、まず『塩の町』の名前を捨てる事だと考えている。あの町がその名に固執する限り未来はないだろう――そう思っていた。


 とは言え、言うのは容易いが、これは中々難しい。町の人間にとって、あれはもうすでに富の象徴でもあるからだ。たとえそれが、今現在町を駄目にしているとしてもだ。


 そんなものを捨てさせねばならないのだから、そりゃあ容易である筈がない。


 では、どうしなくてはいけないのか。


 まずは何を置いても収益だ。町に富を取り戻さなくてはいけない。


 それができなければ、ただ「塩に拘るな」と言ったところで、誰も耳を傾けてなどくれないだろう。当然である。稼ぎもなしに、どうやってやっていくつもりだと言われたら、それまでだ。


 だから俺は、町の『宿場町』化を考えていた。


 街道の交差点という、絶好の立地条件を二水の町が持ち合わせているのは見過ごせない。それを生かさない手はないだろう。


 ただ、前提条件として、先々継直を倒し、金崎をなんとかする必要はある。旅路の安全が保証されていない道を誰が通りたがるのか。


 しかし水島は、国是として継直打倒を掲げているし、現状から見て金崎との共存はまずあり得ない。故に、俺たちに未来があるとすれば、この二つの前提条件は自然とクリアされる事になる。だから、これはあまり問題ではなかった。


 となると、その次である。安全が十分に確保されれば、旅人や商人の足を今使っている道から二水の方に向けさせる物が必要になるのだ。


 安全があり、人々の興味を引く物があれば、徐々にではあろうが自然と二水を通過する人間の数も増えてくる。


 だからその為の『ネタ』として、あの町で『畜産』を研究しようと思っていた。名物料理の材料にする為に。それを地産地消するのである。物流がまだまだ未発達な為、消費地と生産地が近くないと厳しいという現実を鑑みても、現段階の案としては実に妥当だと思う。


『肉』というあまり人々が口にしない食材を、安定生産し供給していく。そして、それらを使った料理などを含め、名物料理などを順次開発し旅人を呼ぶ。どこに出るにも都合のいい立地、そして良く整備された道と、道中の安全……これがあるならば、後は胃袋をくすぐってやれば旅人の足は向くし、そこにしかない珍しい品があれば商人の足も向くようになる。


 そうして人が集まるようになれば、当然町に金が落ちるようになる。物流の要衝にもなるだろう。経済的にも水島にとって重要な町へとなっていくのだ。


 これが、俺の二水再建計画の概要だった。


 俺はそれを太助たちに語っていった。


 この計画を、本当の意味で理解してもらう為に。『自分たちの居場所は自分たちで勝ち取る』という事を学んでもらう為に。


 それに現状を考えると二水の町は、位置的に継直・金崎攻略するのに前線を支える最適な町である。おまけに両者を攻略した後は二水付近の国境は消滅し、藤ヶ崎は背後、それもすぐ近くに大きな貯蔵庫を抱えるような形になる。


 二水が発展してくれれば、水島にどれ程の利益がもたらされるのか計り知れない。


 だから語り始めれば、その言葉にも次第に熱が籠もっていった。

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