お嬢様と庶民の恋
あたしは可愛い。とにかく可愛い。くりっとした大きな目に長い睫毛。陶器みたいに白くてすべすべの肌。癖のある猫毛は艶があり柔らかく、絵本のなかに出てくるお姫様のようにふわふわだ。両親は蝶よ花よとあたしを愛でて甘やかし、あたしはあたしよりも可愛いものなんて存在しないものなのだと思い込んでしまっていた。現にクラスの男子からは高嶺の花扱いされ、告白も日常茶飯時、女子からは妬みを買ったが元来の気の強さでそんなものは気にならなかった。
そんなあたしが初めての恋を捧げたのが、隣のクラスの山田くんだった。山田くんは眉目秀麗で成績もよく、控えめな性格の本を愛する男だった。真面目で女子に優しく、図書室で邂逅した時、高い位置にある本を無言で取ってくれるという定番のシチュエーションに、恋に対する免疫力がなかったあたしはころっと絆され心臓を射抜かれた。
それからあたしは山田くんに猛アプローチした。隣のクラスなので会いに行かなければ話せないし、顔も見れない。最初の頃、隣のクラスのドアから「山田くん、お話したいことがあるの」と呼べばぎょっとした表情になり、走って逃げられた。逃げられると追いかけたくなるのが性分で、あたしは会いに行けばその都度逃げる山田くんを追いかけた。山田くんは必死に逃げたが、そのうち諦め捕まってくれた。追いかけるあたしと逃げる山田くんはいつしか有名になり、目立つのが苦手な山田くんは辟易していた。可愛いあたしに追いかけられて、男子は喜ぶものじゃないのかしらととんちんかんなことを考えたながらもやっと捕まってくれた山田くんとなんでもいいから話したくて、とりあえず昼休みはお弁当を一緒に食べたいと言って無理やり約束した。
それから昼休み、毎日は嫌だと言われて一日おきにランチをした。体育館裏のベンチに座り、あたしは止まらない蛇口の水のようにぺらぺらとお喋りした。山田くんはつまらなさそうだったが、この時のあたしは気づかなかった。好きな人と一緒にいることが嬉しくて舞い上がっていて、相手の気持ちとか表情とか全く目に入っていなかったのだ。それなのにあたしは山田くんに告白した。ランチをするようになって二週間。気持ちが抑えられず好き、と伝えてデートしたい、と素直な想いを伝えた。山田くんは少し考えわかった、と返事をしてくれた。あたしは有頂天になった。初恋で初彼だ。その日の夜はデートのことで頭がいっぱいになってしまった。




