#11 工業都市ドルマー
工業都市ドルマー。
自律型アーミーギアの生産量は、大陸でもトップクラスだ。
訪れるのは十数年ぶりになる。
あの頃よりも、随分と街が大きくなっているようだ。
「ここに、テトラ=パトラさんがいるんですね」
ユウナは胸元に手を入れ、ペンダントを握りしめた。
「……えっ?」
小さく声を漏らす。
「どうかしたか?」
ユウナはゆっくりと右手を上げ、目の前にそびえる大きな煙突を指さした。
「あそこに、テトラ=パトラさんがいます……」
「……なんで分かるんだ?」
「アンサーさんが、そう言って……」
「……ユウナ。それを握ったとき、何か思わなかったか?」
「えっ! ……えっと、テトラ=パトラさんが見つかりますようにって……」
『ある程度の距離まで近づけば、連絡します! どうぞー!』
あのとき、アンサーが言っていたのは、こういうことか……
「話が早くて助かるな。行くぞ、ユウナ」
「はっ、はい」
黒煙を吐き続ける、あのデカい煙突を目指して歩き出す。
通りの両側には、赤茶けた煉瓦造りの建物が並んでいた。
壁には太い配管が這い、建物と建物の間を渡っている。継ぎ目から漏れる白い蒸気が、足元まで流れてきた。
頭上で金属の軋む音がする。
見上げると、通りを跨ぐ鉄の橋の上を、荷物を積んだ台車がゆっくりと進んでいた。車輪が継ぎ目を越えるたび、ガタン、ガタンと音が落ちてくる。
昔も騒がしい街だったが、今は上まで使っているのか。
「……すごいですね」
ユウナが台車の行方を目で追っていた。
「よそ見してると、ぶつかるぞ」
「あっ、すみません」
ユウナが慌てて前を向く。そのすぐ横を、煤で顔を汚した男たちが通り過ぎていった。
皆、袖を捲り、重そうな靴を履いている。手に下げた金属製の箱が、歩調に合わせて揺れていた。
開け放たれた工場の扉から、赤い光が見える。
中では何かを叩く音が、一定の間隔で響いていた。その奥に、腕のないアーミーギアが何体も並んでいる。
ユウナの歩みが、わずかに遅くなった。
「出来上がる前のやつだ。動かんよ」
「……分かってます」
そう言いながらも、扉が見えなくなるまで横目で見ていた。
石畳には荷車の轍が黒く残り、道の端には鉄屑や折れた歯車が積まれている。
油と煤の臭い。
ときおり流れてくる、熱を含んだ空気。
その中に、肉を焼く匂いが混じっていた。
通りの角に、小さな屋台が出ている。鉄板の上で焼かれた肉を、親父が手早くパンに挟んでいた。
……腹が減ったな。
煙突を見る。
屋台を見る。
「ナツカゲさん?」
「……いや。行くぞ」
煙突は、まだ何本もの屋根の向こうにそびえていた。
近くで見れば、さぞデカいんだろうな。
俺たちは行き交う荷車を避けながら、通りの奥へと進んだ。
「私がここにいること、テトラ=パトラさんはもう知っているのでしょうか?」
ユウナが不安そうな顔で俺を見る。
「アンサーが各ペンダントにいるとするなら、その可能性は高いな……」
「そうですよね……」
ユウナは祈るように、胸の前で両手を握り合わせた。
「しかし、テトラ=パトラがペンダントに聞いていないなら、こちらから接触できる。交渉の余地はあるはずだ」
「……どういうことですか?」
「メレー曰く、好戦的な性格ではないらしいからな。継承戦のことが頭になきゃ、他の王子についてペンダントに聞くこともないだろ」
「なるほど」
ユウナの顔が少し明るくなる。
全部、俺の憶測だ。
この街に来た時点で、テトラ=パトラにバレているかもしれない。
それに、秋津に入ってきたアーミーギア。
あれは恐らく、テトラ=パトラが遣わしたものだろう。
装備からして、ユウナを捕らえるだけのつもりだったと思うが……
俺は左腰に差した刀の柄を、強く握った。
大きな煙突のそびえる工場の前に着いた。
大扉へと続く一本道。その両側には、アーミーギアが整列していた。
「ユウナ……俺から離れるな」
「えっ?」
「テトラ=パトラには、もうバレているようだ」
アーミーギアが一斉に拍手を始めた。
金属同士がぶつかる音が、道の両側から響く。
ユウナが俺の背に隠れた。
「随分と舐めた真似をしてくれるな」
俺は煙草をくわえ、火をつけた。
煙を吐き、背後のユウナに声をかける。
「俺がいる。安心しろ」
「はい。心配なんてしてません」
「上出来だ」
俺たちは鳴り続ける拍手の中、工場の大扉へと歩き出した。




