第10話 ガチャの排出率は、いつだって確率(詐欺)との戦い
【現在DP:3,500】
「ふふふ……素晴らしい数字だわ」
私は、宙に浮かぶウィンドウの数字を見て、恍惚の表情を浮かべていた。
温泉エルフ・エルザが落としていった500ポイント。
そして、魔王軍の使者ガリラスを撃退したボーナスや、その後の細かい雑魚モンスターの駆除で貯まったポイント。
これだけあれば、アレができる。
「ダンくん。ショップを開きなさい」
『へいへい。何買うの? また家具? それとも俺の修理?』
「決まっているでしょう。――『人材確保』よ」
私はビシッと画面を指差した。
魔王軍はいずれ報復に来る。スケさんは優秀だが、所詮は「物理特化」の単体戦力だ。
多数の敵や、魔法使いが来た時に対処できない。
「私が狙うのは、遠距離攻撃ができる魔法職か、あるいは広範囲を制圧できるトラップ・マスターよ」
私は「召喚」タブをタップした。
以前の「ジャンク召喚(5DP)」ではない。
今回は、一つ上のランク。
【ノーマル召喚ガチャ(1回300DP)】
※コモン〜レアまで排出! SR確率3%!
「1回300……。高いわね。私のドレスのクリーニング代より高いわ」
『いや、安いほうだって。ドラゴンとか呼ぶなら5万かかるんだから』
「黙らっしゃい。私はこの『3%』に賭けるのよ」
私の貴族としての勘が告げている。
今の私は「ツイてる」。
この勢いなら、3%のSRどころか、システムエラーでSSRが出るかもしれない。
「10連よ! 3,000DP、全ツッパしますわ!!」
『えええ!? 残りは!? 500しか残んないよ!?』
「宵越しのDPは持たない主義よ! いざ、勝負!!」
私は震える指で【10連召喚】のボタンを叩き込んだ。
――ドゥン!
洞窟内に重厚な音が響く。
魔法陣が展開され、10個の光の玉が飛び出した。
演出が入る。青い光、青い光、青い光……。
「……青ばっかりじゃない」
『あーあ、爆死フラグ……』
光が弾け、召喚されたモンスターたちが姿を現す。
1.スライム(緑):ただの粘液。
2.ゴブリン(老人):腰が曲がっている。
3.大コウモリ:寝てる。
4.タワシ(ミミック):敵を擦るだけ。
5.スライム(青):色が違うだけ。
6.動くツボ:中に何も入ってない。
7.スケルトン(犬):ポチ。
8.毒キノコ:自生してるやつと同じ。
9.ゴブリン(子供):戦力外。
「…………」
『うわぁ……ひっどい。動物園(ふれあい広場)じゃん』
「くっ……! まだよ! 最後の一枠! 確定演出があるはずよ!」
10個目の光の玉。
それは、わずかに他とは違う「金色」の輝きを放っていた。
「来たわ! 金色! SR確定よ!」
『お! マジで!? 何が出る!? ドラゴン!? キマイラ!?』
「さあ、私の騎士となりなさい! 最強のしもべよ!!」
パァァァァァァン!!
光が弾け、その中から現れたのは――。
「……あ……う……」
透き通るような白い肌。
地面に足がつかず、ふわふわと浮遊する体。
ボロボロだが、どこか気品のあるメイド服を身にまとった、長い黒髪の少女。
……の、幽霊だった。
「ひぃっ……! ま、眩しい……! 生きている人が……眩しいですぅ……!」
少女は私と目が合った瞬間、両手で顔を覆い、ガタガタと震えながら空中の隅っこ(天井の角)へ逃げていった。
「……は?」
『……えーと。鑑定結果出たよ』
【種族:バンシー(悲嘆の妖精)】
【レアリティ:SR】
【特性:引きこもり、対人恐怖症、超音波(悲鳴)】
「……ハズレじゃない」
『いや、SRだよ! バンシーって言えば、死を告げる強力な霊体だよ!』
私は天井の角で「帰りたい……もう死んでるけど帰りたい……」とブツブツ呟いている少女を見上げた。
「おい、そこ! 降りてきなさい!」
「ひゃあぁっ! ご、ごめんなさいぃぃ! 私なんかが召喚されてごめんなさいぃぃ! 肥料にでもしてくださいぃぃ!」
「幽霊は肥料にならないわよ! ……ハァ。スケさん!」
「ハッ! 待機中ッス!」
他のハズレモンスター(スライムやゴブリン)を整列させていたスケさんが駆け寄ってくる。
「この陰気な子を教育なさい。せめて挨拶くらいできるように」
「了解ッス! 新入り、まずは筋トレから……あ、肉体がないッスね。メンタルトレーニングから始めるッス!」
スケさんがバンシーに近づこうとした、その時だった。
「く、来るなぁぁぁぁぁっ!! 私なんかに関わると不幸になりますよぉぉぉぉっ!!」
キィィィィィィィィィィィィィン!!!!!
「「「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!?」」」
凄まじい高周波の絶叫が、洞窟内を駆け巡った。
ガラスが割れるような音。
私の三半規管が狂い、立っていられなくなる。
スケさんの骨がバラバラになりかけ、ダンくんの内壁にヒビが入る。
『いっ、痛い痛い! 鼓膜が破れる! 音波兵器だこれ!』
「……っ、うるさぁぁぁぁぁい!!」
私は耳を塞ぎながら叫んだ。
しかし、次の瞬間、あることに気づく。
目の前にあった「動くツボ(召喚された雑魚)」が、今の悲鳴の衝撃波で粉々に砕け散っていたことに。
「……あら?」
悲鳴が止む。
バンシーの少女は、恐怖のあまり白目を剥いて気絶(?)していた。
「ダンくん。今の威力……」
『……やばいね。指向性の音響兵器だ。まともに食らったら、騎士団の鎧の中で内臓が破裂するよ』
私はニヤリと笑った。
使える。
この子、性格は終わっているけれど、火力(声量)は一級品だわ。
「……採用よ」
私は気絶しているバンシーの幽体に近づき、優しく声をかけた。
「名前は……そうね。その陰気な泣き顔に免じて『メラン』と名付けましょう」
「……め、メラン……?」
意識を取り戻した少女がおずおずと聞き返す。
「ええ。貴女の仕事は『掃除』と『来客への挨拶(悲鳴)』よ。私の許可なく泣き叫ぶことは禁止。でも、私が『叫べ』と言ったら、その喉が枯れるまで(霊体だから枯れないけど)絶叫しなさい。いいわね?」
「は、はいぃ……! 殺さないでくれるなら何でもしますぅ……!」
こうして、我がダンジョンに新たな戦力が加わった。
・経営者:私
・建物:ダンくん(やる気なし)
・肉体労働:スケさん(筋肉バカ)
・遠距離砲台:メラン(コミュ障バンシー)
・その他:スライム数匹(生ゴミ処理班)
「……ふっ。だいぶ『組織』らしくなってきたじゃない」
私はボロボロの扇子を開くふりをして、高らかに宣言した。
「全軍、戦闘配備! 魔王軍の報復に備え、このダンジョンを『地獄の遊園地』に作り変えるわよ!」
「「「イエッサー!!(ヒィィィ!)」」」
最強の布陣(?)が完成した。
さあ、かかってらっしゃい魔王軍。
返り討ちにして、身ぐるみ剥いでDPに変えてやるわ!
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