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没落令嬢、ダンジョンと結婚(契約)してしまった件~死に場所を探して入った穴が、意外と感度のいい旦那様でした~  作者: beens
第1章 泥だらけの靴で踏み荒らせ!

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第9話 町内会(魔王軍)がみかじめ料を取りに来た件

 【現在DP:3,500】

 私はホクホク顔でウィンドウを眺めていた。

 あの後、エルフのエルザが置いていった「感動」と、彼女が森に帰って広めた「噂」のおかげで、ここ数日、ポツポツと好奇心旺盛な小動物や下級モンスターが来店(罠にかかりに来)したのだ。

 おかげで、念願だった「ティーセット一式(白磁)」と「最高級茶葉アッサム」を購入できた。

「優雅だわ……。これぞ『ダンジョン・ライフ』よ」

『あのさ、ベアトリス。優雅なのはいいけど、排水溝の工事まだ? 俺の股関節(地下水脈)あたりが、ずっと湿っぽくて気持ち悪いんだけど』

「我慢なさい。湿気はお肌の味方よ」

「マスター! 自分、茶葉の出し殻でスクラブ洗顔を試してみたッス! 骨がツルツルになったッス!」

「……それはよかったわね(棒)」

 平和だ。

 泥と暴力にまみれた日々が嘘のよう。

 私がロイヤルミルクティーの芳醇な香りを肺いっぱいに吸い込んだ、その時だった。

 ピンポーン。

『……え?』

「……今の音、なに?」

 洞窟の入り口から、間の抜けた――しかし、明らかに「文明的な」呼び出し音が響いた。

 罠の発動音ではない。誰かが意図的に鳴らした音だ。

『やばい。ベアトリス、やばいのが来た』

「何よ、慌てて。またエルフのお客様?」

『違う! この魔力波長……「同業者」だ! しかも、かなり格上の!』

 ダンくんがガタガタと震えだし、ティーカップの中身がこぼれそうになる。

 私は不機嫌に眉を寄せ、入り口のモニター(視界共有)を開いた。

 そこには、一人の男が立っていた。

 黒いスーツ――によく似た甲殻質の皮膚を持ち、背中にはコウモリのような翼。

 そして鼻には、インテリジェンスを感じさせる銀縁眼鏡をかけた、悪魔だ。

「……ごめんください。こちらは『新規開業ダンジョン』の事務所で合っておりますでしょうか?」

 丁寧な口調。だが、その目は笑っていない。

 完全に「取り立て」に来た極道の目だ。

「……ダンくん、居留守は使える?」

『無理! 向こうは「ダンジョン探知魔法」を使ってる! 俺がここに存在してることバレバレだから!』

「チッ……。スケさん、応対なさい」

「サー! セールスお断りの看板で殴ってくるッスか!?」

「いえ、まずは話を聞くのよ。……私も行くわ」

 私たちは「鏡面エリア(エントランス)」へと向かった。

 悪魔の男は、私たちが姿を現すと、慇懃無礼に一礼した。

「お初にお目にかかります。私、魔王軍・第7支部、地域振興課の『ガリラス』と申します」

「……魔王軍?」

 私は扇子(まだ買ってないので手袋)で口元を隠し、冷ややかに返した。

「そのような胡散臭い団体とお付き合いした覚えはありませんけれど?」

「ハハハ、手厳しい。ですが奥様、この一帯は我らが魔王様の『縄張り(シマ)』でしてね」

 ガリラスは眼鏡の位置を中指で押し上げた。

「先日より、ここから強力な魔力反応……具体的には『温泉』と『スイーツ』の反応が観測されまして。調査に参った次第です。……して、営業許可証はお持ちですかな?」

「許可証?」

「ええ。ダンジョンを運営するには、魔王軍への『登録』と、月々の『組合費(上納金)』が必要です。相場は売り上げの3割といったところですかねぇ」

 3割。

 ふざけている。私がどれだけ苦労してDPを稼いでいると思っているの?

 私の安眠ベッドと、食欲グルメのために血と汗を流した結晶を、どこの馬の骨とも知れない……いや、骨はスケさんだわ……とにかく、掠め取ろうなどと。

『ど、どうするベアトリス!? 魔王軍に逆らったら、俺、解体されて埋め立て地にされちゃうよ!? 払おうよ!』

「黙らっしゃい」

 私は一歩前に出た。

 元公爵令嬢として、数々の夜会で「貴族のマウント合戦」を勝ち抜いてきた私を舐めないでほしい。

「あら、奇遇ですわね。私もお尋ねしたかったのですけれど」

「……ほう?」

「貴方たちこそ、私の土地ここに足を踏み入れる『入湯税』と『通行料』は、お支払いですの?」

「は?」

 ガリラスの笑顔が固まった。

「ここは私、ベアトリス・フォン・ローゼンバーグの私有地マイホームです。魔王様だか町内会長だか存じませんが、勝手に『縄張り』などと主張されても困りますわ」

「なっ……貴様、人間風情が魔王軍に――」

「それに! その靴!」

 私はビシッと、ガリラスの足元を指差した。

「土足厳禁ですわよ! 先ほどスケさんがワックスがけ(粘液コーティング)したばかりの床を、汚い革靴で踏まないでいただけます!?」

「……え、そこ?」

「常識知らずの蛮族はこれだから困りますわ。出直してらっしゃい! 次に来るときは、手土産の一つと、上履き持参でね!」

 私の剣幕に、ガリラスが一瞬たじろいだ。

 その隙を見逃す私ではない。

「スケさん! この無礼なお客様を『お帰り』させて!」

「了解ッス! お客様、出口はこちらッス! 強制退去ドロップキックのお時間ッス!!」

 スケさんが、ガリラスの背後に回り込み、プロレス技の要領で羽交い締めにした。

「き、貴様ら! ただで済むと思っているのか! 魔王軍に盾突くなど――」

「うるさいッス! 会員規約違反ッス! 廊下は走らない、大声を出さない、カツアゲしない!」

「ぐわぁぁぁぁ!?」

 スケさんの骨とは思えない怪力で、ガリラスはボールのように投げ飛ばされた。

 彼は「覚えてろよぉぉぉ!!」という、三流悪役の捨て台詞を残して、空の彼方(崖の下)へと消えていった。

「……ふん。口ほどにもない」

 私は髪を払いのけ、鼻を鳴らした。

『あーあ……やっちゃった……。終わった……俺のダンジョンライフ終わった……』

「何を泣いているの。売られた喧嘩は買う。そして倍額で請求書をつけて送り返す。それが私の流儀よ」

 私は震えるダンくんの壁(内壁)を撫でてやった。

「安心なさい。魔王軍が総出で来ようと、ここには最強の『おもてなし(防衛システム)』があるわ。……ね?」

『え、何その笑顔。怖いんだけど。絶対ロクなこと考えてないでしょ』

 私の脳裏には、既に新しい「設備投資」の計画が浮かんでいた。

 魔王軍が来るというなら、彼らご自慢のモンスターたちも、すべて私の「DP供給源」に変えてやるまでよ。

「さあ、忙しくなるわよ! 次は『従業員モンスター宿舎』の建設ね!」

 こうして、私たちは魔王軍という巨大組織に、真正面から喧嘩を売ることになったのだった。

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