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落ちる

俺はどこに居るのだろう。





何をしているのだろう。


痛い。



重い。



消える。



そんな言葉ばかりが浮かんでくる。本来ここまで進めば怖くないはずなのに。なぜだろう。


キスもした、手も繋いだ。



なのに、………なぜ。


なぜこんなにも………痛いの?


私って何?誰のための俺?消えてしまえたら楽だろうか。親からは「良いんじゃないか?」と言われている。


でも、このまま結婚して子供ができたとしたら、きっと「子供の名前を決めさせろ」とか「幼稚園は、ここに入れなさい」とか言われるのだろう。


子供ができなかったら、優斗に「こんな出来損ないでごめんね」と親が謝るのだろう。そんな未来を見るくらいなら消えてしまいたい。



「大丈夫」


と、人は言う。



「大きくて丈夫」


たしかに『大丈夫』だろう。だが、丈夫って男を表す言葉では無かっただろうか。美丈夫とか言うしな。


なら、男でなくなった俺は『大丈夫』ではないのだろう。


そう言えば、昔から『大丈夫』では無かった。身長158センチ、握力右25キロ、左20キロ。男と言うには余りにも貧弱な肉体。


大きな丈夫では無く、『小丈夫』だろう。俺の人生、このまま小康状態のまま進んでいくのだろうか。それではだめではないか?


俺はどこに向かっているのだろう。就職は?結婚は?子育てどこでするの?本当に優斗でいいの?


でも、優斗じゃないと不安で、優斗がいないと誰が私をわかるの?


たしかに友達はいた。親友も、幼馴染もいる。でも、深すぎる話をしたのは優斗が初めてで、2人で積み重ねた2年間は思った以上に重たくて。



どうすればいいのだろう。


「おはよ。ちょっと外の空気吸いに出たい」

優斗にそう話しかけ、返事も聞かずに駆け出していた。幸いというべきか雨が降っていた。これでどれ程泣き腫らしても雨のせいで濡れたと言えるだろう。


走り慣れたいつもの道。でも、歩いてみると少し遠い。優斗の家以外にも行ける場所はあるはずだ。


そして行き着いたのは実家の墓。優斗の家からは1時間ぐらい歩いただろうか。本当は返事を返したい。でも、今は、空に慟哭を解き放ちたい。



「ばあちゃん、俺だよ……わかるかな?……わかるわけないよね。……わかってる。だって体が違うから。ねぇ、今、そっちに行ったら怒る?」


1人で墓の前で涙に濡れながら問いかける私は変な人だろう。実際、「なんで墓で泣いてるの?」とか「気持ち悪っ」とか「今なら抱けるんじゃね?」とか聞こえてくる。


これじゃダメだ。そして、出した結論は夢幻桜久遠の死亡届を出しに行こうというものだった。


『俺』は死ぬ。新たな『私』を刻むために。


これまでの俺には何があった?


中学のイジメかぁ。あの時も親は何も知らなかった。いじめっ子からの急な謝罪で知ったことだろう。中学に入った時、英語ができて褒められた。この時も褒められた記憶がない。


高校になり、初めてのテストで英語だけなら学年2位だった。でも、褒めてもらえた記憶がない。もしくは褒められたのだろうが、やれ英検だ、TOEICだと、すぐに次を求められた。


小学校6年間の苦労の何割を親は知っているだろう。多分半分も知りはしない。親なのに何でわからないの?親って子供のこと全てわかるものじゃないの?


20数年過ごしていれば全部わかるはずなのに。だって俺は優斗のことを行動原理は全部知っている。アイツは人を優先しすぎてる。アイツも俺と同じ、自分自身がない人間に見える。


だが最近は「アニキを守るのが俺」という役割に縛られてそうだ。本当にアイツの人生それでいいのか?俺が縛られるのは別にいい。


だって今までずっと縛られていたから。20年も50年も対して変わらない。46億年の地球の歴史から比べればほんの一瞬のことだから。江戸時代が長いと言えど、46億年の地球の歴史からすると200年なんて3秒にも満たないだろう。


俺が生まれようが死のうが46億年の地球の歴史から比べれば、どうでもいいことだろう。地球の歴史基準で考えてしまう、この価値観はどこから来たのだろう。


コレが俺だと言うのなら、世界の残酷さを知りすぎている。たかが20数年のこの生命で何がなせたのだろうか。


俺は現状生きている。でも、今この瞬間死なない保証がどこにある?人は生まれた瞬間『死ぬ』ことが決まる。ならば、生まれなければ不幸がない。


葬式だって高いから。


俺の葬式するとしたらどのぐらいかかるだろう。遺産は?相続税は?全部優斗に回るのか?


アイツは良いやつだ。ただ、1つアイツのだめなところを知っている。アイツはグッズを買いすぎる。そして部屋が汚い。


さらに、服装がダサい。だめだろうよ。頑張れよ。きっと、夢とうまくいかなくなったあの時みたいになるのかな。


あの時も結婚を考えていた。そもそも付き合うことが結婚だという価値観だった。付き合うなら墓に入る覚悟あるのが当たり前だと思っていた。


それって異常なのか?どうせ46億年の地球の歴史から考えれば付き合う期間なんて一瞬だし、人の人生も一瞬だ。だから結婚と付き合うことはイコールだろう。



やめたい。逃げたい。


  


見上げた空は、晴れているのに、俺の上だけ、まだ……雨が降っていた。



「帰るぞ。俺たちの家に。風邪引くぞ」


バカ……それはお前だろ。なんで、わかるんだよ。また、親父か?


ボロボロなのはアンタだろうよ、優斗。なんで長袖1枚で来てんだよ。寒いだろ。アホか。


でも俺はこう言った。



「まだだ。お前は、ここに入る覚悟があるか?俺は、まだ、お前の家の墓に入る覚悟ができてない。嫁姑問題とかお前の親父さんと話が合うかとか気になるから。お前の母親が亡くなったのは知ってる。でも……、言い訳してほしくない」


墓を指差す私に優斗は「俺も……まだ…かもな。でも、アニキが困ってるのを見過ごしたくない。かっこいいヒーローになりたいから」と返してくる。


「俺はヒーローなんてゴメンだね。本当のヒーローってのは悪役だからな。俺は世界平和のために自分が死のうとする人間だぞ?ヒーロー程度で支えきれるか?」


「それは……わからん。でも、お前が間違ってヤバくなりそうな時は殴ってでも止める。それがヒーローだろ?」


「なら、俺はそのヒーローを守る悪役になる。俺は予定調和ッつーのが、……でぇっ!きれぇだ!調和するなら崩したくなるのがワシってぇ、こった。一筋で通らぬ縄ならば三筋通して絡めるのがワシよ。なんなら通らない縄なら括って、結んで投げてヤラぁ!!」


「相変わらず、アニキはアニキだな。強すぎるんだよ。守らせろよ」


「ちげぇねぇ。でも、それが俺よ」


いつの間にか空は晴れ上がっていた。俺の顔も腫れ上がっていた。


とりあえず、未来も上げるしか無さそうだ。


上がれ、Stand up , stand the pain, and don't surrender.


立って耐えて諦めない。


信念の剣が股に生えた気がした。








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