244話 契約その2
悪魔たちを契約させるための演説を行うための文言を考えた日の夕方、俺たちはいつも通りの夕食を食べていた。でも、一つ違うのはカサムラーがいないことだ。なんとカサムラーは部屋でずっと眠っているのだ。これほど長時間寝ているということは、おそらく夜もまともに眠れなかったのだろうなと思った。
「ねぇパパ、あの悪魔のおじちゃんどこに行ったの?」
クフォンが夕食を食べながら俺に問うてきた。俺は特に隠すこともないなと思いそのまま伝えた。
「悪魔のおじちゃんはね、とっても疲れちゃってるからおやすみしてるの。クフォンも昼間遊んだら夜にはぐっすり寝ちゃうでしょ? それと一緒だよ」
「ふーん」
俺はクフォンを安心させるように言った。クフォンはあまり納得はできていないが、なんとなくは理解できたのか適当に返事をしたようだった。
「パパの言う通り悪魔のおじちゃんはぐっすり寝ちゃってるの。だから、あんまりはしゃいじゃダメだよ。悪魔のおじちゃんが起きちゃうから」
「はーい」
クルネの言葉にクフォンは元気にでも、いつもよりは静かめに返事をした。そこから夕食の間の話題は演説のことやカサムラーのことでもちきりだった。俺とリベルたちが考えた演説はいつ行われるのかなど話していたが、俺たちもそれは分からないのでいつになるかはカサムラー次第だと話しておいた。これ以上カサムラーに心労を負わせるわけにはいかず、なるべく今回の件に対するみんなからの質問などはないように聞いておいた。夕食を食べ終えてもカサムラーは起きて来ずそのまま寝かせてあげておいた。
翌日、朝食を食べていると浮かない足取りでカサムラーがダイニングにやってきた。俺たちはおはようと挨拶をするとカサムラーは大きなあくびをしてからおはようと返してくれた。昨日よりは幾分か疲れがなくなったのか、ぐっすり眠れたからか顔色は良くなっていた。でも、まだ同胞たちが自分の演説を聞いて契約してくれるかどうか心配そうにしているのが足取りや目の開き具合、息遣いで何となく分かった。カサムラーに何か声をかけるのはみんなにそのことを間接的に伝えることになってしまうのでやめておいた。朝食を食べている間、誰も何も話さずカサムラーを気遣っているのが伝わってきた。そんな時、クフォンが言った。
「悪魔のおじちゃん、昨日はぐっすり眠れた?」
「あぁぐっすり眠れたよ。おじちゃん元気一杯だ」
クフォンの問いにカサムラーは気丈に振る舞った。子どもに辛い顔をするのは流石に大人として相応しくないという考えがあるのか、なるべく元気そうに笑顔で返事をした。大人の辛いところだなと実感した瞬間だった。だからこそ、辛さを打ち明けられる俺たちがカサムラーの助けになれるようにしないなと思った。朝食を食べ終えリンとクフォンを外で遊ばせるためにリヴとクルネが部屋を後にすると俺たちはカサムラーの話を聞いた。体調を心配したり演説の不安を取り除くために俺たちに出来ることはなんでも言ってくれなどと声をかけた。
「ありがとう。みんなのこと頼らせてもらうよ」
カサムラーの表情は柔らかくなり俺たちは少しだけ安心した。それからの俺たちは忙しかった。悪魔の国内に演説をする旨の張り紙をしたり演説する場所を選定したり、カサムラーのメンタルケアなど様々なことをやった。数日間演説の用意でバタバタしていたが、なんとか用意を終え後はカサムラーにバトンタッチするだけとなった。
ついに演説当日となった。カサムラーは落ち着いてはいるが、きっと内心では不安でたまらないだろう。俺は少しでも落ち着けるように暖かいコーヒーを淹れてあげた。カサムラーは演説の時間までゆっくり心を落ち着かせた。コーヒーも飲んでくれ少しは力になれたと思いたい。演説の時間となったので俺たちは屋敷から演説の場所まで移動した。演説の場所は集会所を利用することにした。収容人数もかなりの数で、アクセスも良い場所にあるのでちょうど良いのだ。俺たちが集会所に着くと、集会所から溢れ出すほどの悪魔たちが集まっていた。その光景に驚いたが、カサムラーは落ち着かせるための深呼吸を数回していた。
「俺たちもいるから大丈夫だぞ」
「あぁ……」
俺たちは裏口から集会所に入り演説用に用意しておいた演壇に登った。俺たちは袖に待機してカサムラーが中央に立つと騒がしかった悪魔たちが静まった。それを確認したカサムラーは話し始めた。俺は風魔法で悪魔の国中に聞こえるようにしておいた。この場にいない悪魔にもこの演説を聞いてもらうためだ。
「皆に集まってもらったのは、我ら悪魔の運命を左右する出来事が起ころうとしているためだ。その出来事とは、魔神復活だ」
カサムラーの言葉にその場にいた悪魔たちは動揺と焦りからオロオロしていた。でも、カサムラーは場の雰囲気を良い意味で壊すように言った。
「魔神如きがなんだ! 我ら悪魔は魔神に屈するような種族か? 違う! 我らは誰にも縛られぬ孤高で誇り高い悪魔だ! 魔神に屈するような種族ではない! そのために我と契約を交わして欲しい。悪魔としてのプライドを踏み躙られ死ぬか、我と契約を交わし魔神に一矢報いるか選べ!」
「「「うおおお! ! !」」」
その場の雰囲気は一変し皆が魔神と戦うことを決意した。それからカサムラーはその場にいた悪魔全員と契約をした。その後すぐに国中から悪魔たちがやってきてカサムラーは困惑していた。俺が風魔法で演説を国中に聞こえるようにしたと言ったらなんとも言えない表情をした。一人でも多くの悪魔と契約して救える数を増やせることは良いことだが、一気に集会所に悪魔たちが集まってしまい収拾がつかないことが問題となった。さらに、カサムラーの演説を聞いた淫魔たちまでやってきてしまい、集会所は混沌とした場所となってしまった。何とか捌き切れたがものすごい人数に俺たちは疲労困憊となりその日のエネルギー全てを使い切り、集会所のソファで泥のように眠ってしまった。
次回もお楽しみに




