232話 地下室
もう一度地下室の位置を確認するために風魔法を使った。地下室同士の位置はかなり間隔が離れて作られているため一日で全ての地下室に潜入することは困難だろう。ひとまず一番近い地下室に向かうことにした。
その地下室はそれほど離れておらず、闘技場の裏手にあるようだった。闘技場の裏は家が多くどこの家に地下室があるのか分からなかった。地下室の位置を確認するためにもう一度風魔法を使った。どうやら三階建ての家の下に地下室があるようだった。どうやって潜入しようかと考えていると、中から複数の男の声が聞こえてきた。俺たちはすぐに身を隠しその男たちが去るのを待っている間にどうやって潜入するか考えた。と言っても良い案は思いつかず姿を変えて潜入するしか思いつかなかった。男たちの声が遠ざかっていくのを感じながら考えているとヒューが言った。
「ちょうどここの窓が開いてるからここから入るぞ」
その窓を見てみると窓の隙間は二十センチも開いておらず、どうやって入るのかと言おうとしたその時、ヒューはネズミに姿を変えた。そして、風魔法で自分を浮かし窓枠に登った。
「早く行くぞ」
俺はヒューの言葉に覚悟を決めてネズミに猫被りした。そして、ヒューと同じ方法で窓枠に登り中に入った。中は普通の家となっており何らおかしなところはなかった。俺たちは家の中に人がいないかどうか分からないためバレないように細心の注意を払いながら地下室に続く階段を探した。そんな時聞き覚えのある声が聞こえてきた。それはイオーだった。イオーと別れる前に聞いていた家と同じ三階建てだったことに今気づいた。とりあえず今はそんなことより隠れなければならない。ひとまずタンスの下に隙間があったためそこに隠れた。
「いやーほんと僕が勧誘した二人が優秀で助かるよ。これで手当て貰えるんだから役得だなー」
「お前ばっかりずりーって。俺にだって手当てくれよー」
「お前も手当て出てるだろ。それに、お前は僕たちをここまで連れてくるだけなんだから手当てが少なくて当然だろ」
会話の内容的にイオーと御者の会話だろう。魔神教団は優秀な人材を集めるために手当てを出しているのだろう。そこまでして集める理由があるのかどうか気になったが、今は地下室に潜入することが先だと切り替えた。イオーたちはどこかの部屋に入りそこで話し込んでいるようだった。俺たちは今のうちに地下室に続く階段を探した。俺たちは回り階段を見つけた。その回り階段は下にも続いておりこれで地下室に行けると確信し、俺たちは慎重に地下室に降りた。
そこは地下室というにはあまりにもお粗末だった。地肌が剥き出しとなっており、家を支える基礎が剥き出しとなっていた。地下室というより洞窟と言った方が合っているかも知れないと思うほど場所だった。今は誰もいないのか明かりはついておらずかなり暗かった。俺とヒューでなければ辺りに何があるのか見えないほどだ。もしかしたら誰かいるかも知れないと警戒しながら進んで行くと、アリの巣の様に複数の部屋があるのが分かった。俺たちは一番手前の部屋から順に見ていくことにした。
一番手前の部屋には机と椅子など何やら記録を残しているような雰囲気があった。手前から二番目の部屋には短剣や鞭といった拷問器具のような物が複数あった。俺たちはただならないことが行われていることを確信し手分けして部屋を探し回った。手前側の部屋には特に何も無く俺たちは一番奥の部屋に向かった。一番奥の部屋はかなり広く作られており、その部屋は牢屋となっていた。中には獣人の子どもや女性が囚われており、みんな牢屋の隅で互いを守るように集まっていた。その様子を見ていられなくなり俺は牢屋の中に入った。そして俺は、可愛らしい子犬に姿を変えて囚われているみんなに警戒されないように近づいた。みんなかなり疲弊しているのか俺が近づいても何の反応も示さなかった。このままではマズイと思った俺はどうにかしようと思い行動に移そうとしたが、ヒューが止めた。
「時期尚早すぎる。もっと計画を練らないと」
「でも……」
俺は感情に任せすぎていたことを反省した。ここのみんなを救えたとしても、他に九つも同じような所がある。全部にここのような囚われた人たちがいるとは限らないが、ここでここのみんなを逃すために行動に移したら他の囚われた人たちが犠牲になるかも知れない。その可能性を失念していた。俺は救いたい気持ちをグッと堪えてその場を後にした。俺たちはイオーたちにバレることなく家を脱出し次の地下室がある所に向かった。次の地下室がある所も三階建ての家となっており、三階建ての家が目印なのだと理解した。俺たちはイオーの家の時より大胆に行動することにした。俺はチャヤと同じ種族になり影を移動してみた。これでバレないのならチャヤにも手伝ってもらえるかを判断するためだ。思いの外楽々と地下室を捜索できたためチャヤにも手伝ってもらえると判断した。ここには囚われている人はいなかった。
ヒューには別の場所に先に向かってもらっていたため、俺はチャヤにも地下室探しを手伝ってもらうために事情を説明して探してもらった。順調に探し回って後一つとなった。幸いなことにイオーの所にしか囚われていた人はおらず、ここにも囚われている人はいないことを願った。ここもチャヤと同じ種族は一切バレることはなく地下室まで進めた。俺たちは誰も囚われているなと思っていると、地下室の奥に牢屋があった。俺たちは真っ先に牢屋に向かった。俺はその牢屋で衝撃の人物と出会った。なんとリヴとクルネだった。ダンジョンで別れて以降ずっと出会っていなかったのに、すぐにリヴとクルネだと理解できた。二人はぐったりしており俺はすぐに光魔法を使おうとした。
「やめておけ」
ヒューが俺を止めた。俺がヒューに何でだよと言いかかろうとした時ヒューがポーションを差し出した。光魔法だと魔力感知に長けている奴がいた場合バレてしまうが、ポーションならバレることはない。俺はそこまで頭が回っておらず、ヒューに感謝を伝えて二人にポーションを飲ませた。そのポーションは子爵領でネリーから買った物で、いつヒューがファンタジーリュックからくすねたのか分からないが、今は感謝した。すぐに二人の顔色は良くなり、今までの疲労感からか寝息をたてた。俺たちが二人を助けている時、後ろから子どもが話しかけてきた。
「お母さん助けてくれたの……?」
「ママ大丈夫……?」
二人は男の子と女の子で、年齢は五歳程度だった。俺はリヴとクルネに子どもがいたのかと驚愕したが、今はそんな時じゃないと二人を落ち着かせた。
「大丈夫だよ。もう心配いらないからね」
そう言うと二人は嬉しそうに涙を流して俺に抱きついてきた。今ばかりは人間の姿に戻っておいて良かったと思った。二人は落ち着いたのかリヴとクルネの近くで眠りについた。ヒューは俺がリヴとクルネを特別大事そうにしていたのに疑問を思ったのか俺たちの関係について聞いてきた。俺はヒューに簡潔に説明し、今はここからみんなを助けるのが先だと作戦を立てることにした。そこで俺たちは思い切った作戦を決行することにした。それはヒューがドラゴンとして魔神教団本拠地を襲い、その間に俺とチャヤで囚われていたみんなを救い出し逃げるというものだ。こんな作戦が上手くいくのかと心配だったが、それしかないと思った俺たちはすぐに実行することにした。どうせ、本拠地はヒューによってメチャクチャにされるのだから先にリヴとクルネを連れて出しても問題ないだろうと思ったが、ヒューが暴れ出すのを待つことにした。
しばらくすると、街の人たちが次々と声を上げてどこかに走り去って行った。この家にいた人も出て行くのをチャヤに確認させ、俺は四人を風魔法で抱えてそのまま飛んだ。イオーの家に着いた俺はすぐに地下室に移動しその場にいた全員を救い出す覚悟を決めた。その場にいる人数は十人を超えており、街に人がほとんどいないことを考慮しても十人は救い出せないと思った。俺は一か八かの賭けに出ることにした。俺はテレポートを使えないかどうか試すことにした。今まで移動には全て風魔法を使ってきたことから力量は十分だと判断しての決断だ。俺は頭の中でカサムラーの屋敷を思い浮かべ、そこに全員でテレポートするイメージをした。前世でテレポートは何度も見てきたためイメージは完璧だった。そして、俺は魔力をかなり注ぎ込みテレポートを発動させた。なんとテレポートは一発で成功した。俺はこの事に歓喜したが、ヒューがまだ魔神教団本拠地で暴れていることを思い出し、チャヤにみんなを任せて、もう一度テレポートを使い魔神教団本拠地に戻ってきた。
ヒューはかなり暴れており魔神教団本拠地は見るも無惨な光景になっていた。ヒューは一切傷ついておらず、このまま暴れさせても良いかと思ったその時、カサムラーの魔力と同等の嫌な感じがした。ヒューはそのことに気づいていなかった。ヒューなら無事に帰って来られるだろうと俺の直感が言っていたが、何かあってはいけないと判断し、俺はヒューの真後ろにテレポートで回り込み再びカサムラーの屋敷にテレポートした。ヒューは何が起こったのか理解できていないようだった。俺はそんなヒューに笑っていると意識が遠のいて行くのを感じた。調子に乗りすぎてテレポートを連発し過ぎたことにより魔力切れになったのだろう。俺は自分の愚かさを笑いながら意識が途切れるのを感じた。
次回もお楽しみに




