1.運命のドラフト会議
続編は思い付きで書く事があるので、時系列が前後する事があります。
ただ、卒業前と卒業後はしっかり分けたいと思います。
2012年10月25日。
新人選手選択会議(通称ドラフト会議)の当日を迎えた俺達は、富士谷高校の体育館に一堂に会していた。
「両方1位あるんじゃね?」
「ないっすよ。無難に2位と4位とかじゃないっすかね」
「ふむ……それは俺が2位という認識でいいんだな?」
「負けず嫌い……」
久々に集まった選手達は、心なしか浮かれているように見える。
野球部が全員集まるのは岐阜国体以来。3年生の殆どは受験勉強に追われていて、野球部に顔を出す機会は殆ど無かった。
その中で――ほぼ毎日のように練習していた俺と堂上剛士は異端児と言えるだろう。
富士谷高校からはこの2人が志願届を提出した。
鈴木は東日本の某鉄道会社に内定済み。もちろん野球部での採用で、実のところ大会前から話が出ていたらしい。
他のメンバーはマネージャー含め全員進学。
渡辺は就職の予定だったが、名星大学から声が掛かり急遽進路を変えたらしい。
名星は二部リーグながらも上位常連で、一部昇格に力を入れているチームだ。
この手の大学にとって、実績があり進路が決まっていない二遊間というのは、非常に魅力的だったのかもしれない。
あとは野本も声が掛かっていたらしい……が、明神大学を狙っている彼は、普通に受験する道を選んでいた。
「2人はどのチームに行きたいとかある?」
「ない。1位ならどこでも構わん」
野本の問いかけに、堂上は即座に言葉を返す。
やはり話題になるのは希望球団。野球をやっている人間の大半は、憧れのチームや選手が存在するもの。
ただ堂上はそうではないみたいで、球団よりも順位が気になる様子だった。
「柏原くんは?」
「俺もないんだけど……」
そして実のところ俺も希望球団はない。
昔から高校野球の方が好きだったし、入ったチームを好きになろうというスタンスだった。
そう、俺にはないんだが……。
「絶っ対に東京か埼玉っ!!」
そう言葉を挟んできたのは、俺の天使こと金城琴穂だった。
何を言おう、もし地方の球団に飛ばされてしまうと、遠距離恋愛を余儀なくされてしまう
寂しがりで甘えん坊の彼女は、それを良しとしてくれなかった。
「琴穂ちゃん……」
「まぁ横浜とか千葉ならいいけど……他なら絶対に大学進学だよっ!」
「今から取ってくれる大学あるん?」
「ほぼ4割の賭けっすね」
在京球団は全5チーム。
プロ野球チームの総数は12チームなので、単純計算だと約4割の確率で在京球団に使命される。
まぁ地方だから断るという事はしないけど、できれば琴穂の近くに居たいのは事実だった。
「別に良くね? 遠征の時に会えるだろ」
尚、堂上と交際3ヵ月の夏美は、特に気にしていない様子だった。
プロ野球は約4割が在京球団。必然的に関東方向への遠征は多い。
ウエスタンリーグに幽閉されなければ、それなりの頻度で関東には戻って来れる。
「なっちゃんはさぁ、どーのえが野手っぽいからそんなこと言えるんだよ……」
「いや分からんだろ。てか関係なくね?」
「あるっ。先発ピッチャーは1週間に1回しか投げないんだよっ? たまたまホームの試合が続いたら……」
「もう先発ローテで投げる話かよ」
「かっしーさんならありえそうで困る」
もはや本人より恋人の方が気が気ではない状況。
そんな姿を、すっかり元気になった彼女も見守っていた。
「あはは、かっしー専属のマネージャーさんみたいだね~」
瀬川恵はニヤニヤしながら言葉を溢している。
生きるか死ぬか……なんて話をしていたのも昔の話。9月こそ休みがちだったものの、今は普通に毎日登校している。
ただ、一度抜けてしまった髪はまだベリーショートらしく、普段は金髪ロングのウィッグで誤魔化していた。
「そろそろ始まりますよー」
「お、来たか!」
「わくわく……!」
金野の一声で、生徒達は画面に視線を向けた。
そろそろ一巡目の指名が始まるようだ。とはいっても、正史通りであれば結果は知っているけれど。
『……第一巡選択希望選手 横浜 木田哲人 内野手 都大三高』
先ずはセリーグ最下位の横浜から。正史通り木田哲人が指名された。
やはり彼の評価は別格だ。春夏連覇こそ逃したけれど、才能に対する評価は変わらない。
『第一巡選択希望選手 大阪 宇治原繁 投手 都大三高』
続けてパリーグ最下位の大阪は、最速165キロ右腕の宇治原を指名した。
165キロを投げるのだから1位になるのも当然か。これも正史通りの指名であり、未来を知る人間としては特筆する事はない。
「やっぱこの2人は1位かー」
「どっちも3球団くらいかな?」
「でしょうね。この2人は競合でしょう」
富士谷の面々も驚く様子はない。
木田や宇治原の凄さは肌で体感してきた。彼らが競合1位なのは当然だと思っている。
ただ、彼の想定の遥か上を行く"クソドラフト"は、まだ幕を開けたばかりなのだ。
『第一巡選択希望選手 兵庫 宇治原繁 投手 都大三高』
「おお、またかよ」
「よく考えたら宇治原さん滋賀ですし、関西のチームは放っておかないでしょう」
兵庫のチームも宇治原を指名。
人気球団ながらも順位が低迷する中で、地元のスターを取りに行った。
『第一巡選択希望選手 千葉 木田哲人 内野手 都大三高』
『第一巡選択希望選手 広島 木田哲人 内野手 都大三高』
「ん……?」
千葉、広島も木田哲人をチョイス。
此処まで来ると、選手達もようやく真実に気付いてきた。
何を言おう、正史の1巡目は「木田7球団、宇治原5球団」だったのだ。
勿論、これは分離ドラフトではない。大学生、社会人も含めた上で選ばれている。
どのチームも一本釣りすら狙わず、史上最強の高校生に惹かれてしまった。
これこそが「都大三高史上最強伝説」の集大成。
半数以上の選手は進学を選んでくれたものの、この2人がドラフトまでジャックしたのが本来の歴史である。
『第一巡選択希望選手 仙台 宇治原繁 投手 都大三高』
「えぇ……」
「三高の選手しか指名されてねぇ」
「クソっすね。ハズレ1位まで見なくていいっすよこれ」
この2人がダントツなのは分かりきっていた事。
それは今回も変わらないし、一巡目は正史通り進んでいくだろう。
と、そう思った次の瞬間――。
『第一巡選択希望選手 新宿 柏原竜也 投手 富士谷高』
「!!」
俺の名前が呼ばれて、生徒達はビクッと反応した。
「きたー!」
「うおおおおおおおおおお!!」
「柏原おめ!!」
思わぬ1位指名に、拍手と歓喜の声が巻き起こる。
新宿はスカウトの古橋さんがよく見に来ていた。
他にも恵の姉と交際したりと、色々と縁があった中で、一本釣りに踏み切ったのだろう。
「やった、新宿だっ! もう指名されなくていいよっ……!」
「琴穂ちゃん……」
この結果には琴穂も大満足のようで、表情から不安が消えていた。
あとは堂上が指名されるかどうか。そして――玉突きでどう結果が変わるかであろう。
何を言おう、本来7球団競合の木田哲人は、新宿が引き当てる予定だったのだ。
これにより今後の指名が変化する。未来を知る者としては、密かに楽しみな要素だった。
『……北海道 宇治原繁 投手 都大三高』
「他は三高かー」
「これ堂上もハズレ1位あるんじゃね?」
「ふむ……」
結局、新宿以外の一巡目指名は正史通り。
抽選の結果、木田哲人は福岡、宇治原は正史と同じ北海道が交渉権を獲得した。
「ハズレ1位どうだろうなー」
「ここから先は流石に大社も混ざってきますからね。堂上さんは4位くらいだと思うっすよ」
「ふむ……」
ここから先は所謂ハズレ1位の指名。
大社の人間は割愛するとして、接触のあった高校生だけ注目していく。
『第一巡選択希望選手 文京 松岡周平 内野手 関越一高』
『第一巡選択希望選手 埼玉 高成光秀 投手 前橋英徳高』
『第一巡選択希望選手 名古屋 根市翔 内野手 大阪王蔭高』
ハズレ1位で指名された高校生は計3名。
東京の球児が4人指名されたと考えたら、今年の東京が凄まじくハイレベルだったのが分かる。
尚、その他は大学生が5人、社会人が1人指名された。
「棚ちゃんの彼氏も1位だっ!」
「松岡ファースト専なのにすげーよなぁ」
「根市はショートかー」
「こいつらに勝った俺もワンチャン指名あった説ない??」
「ねぇよバカ」
そんな感じで1巡目が終了。
未だに堂上の名前はなし。恐らく指名はされるだろうけど、体育館には再び緊張が走りつつある。
『第二巡選択希望選手 兵庫 歳川秀樹 投手 聖輝学院高』
先ず顔見知りで指名されたのは聖輝学院の歳川。
やはり三振の取れるピッチャーは需要が高い。
尤も、正史ではあまり活躍しなかったのだけれど。
『第二巡選択希望選手 千葉 篠原祐樹 外野手 都大三高』
都大三高の篠原も2位指名。
肩を壊していてもこの順位なのだから、打撃と足は相当買われているに違いない。
実際、正史でも指名打者やレフトとして活躍していた。
『第一巡選択希望選手 広島 新井誠也 内野手 二本学舎大附高』
東京選抜で共闘した新井も2位。
堂上よりも目立たなかった選手の指名に、少しずつ重い雰囲気が漂ってくる。
結局、2位指名された顔見知りは3名だけ。
その他にも接触がない高校生は指名されたが、堂上の名前は挙がらなかった。
やはり下位指名、或は指名漏れなのだろうか。
そんな空気になりつつあった、次の瞬間だった。
『第三巡選択希望選手 名古屋 堂上剛士 外野手 富士谷高』
「おおー!!」
「きたああああああああ!!」
これも何かの縁というべきか。
母方の故郷があり、弟の直将が住んでいる愛知の球団に指名された。
「ふむ……3位か」
「上位指名だぞ! 普通に喜べ!」
「納得いかん。新井や歳川より俺の方が活躍していただろう」
「相変わらずの負けず嫌い……」
堂上は不服そうだったけど、これで無事に二人とも指名された。
ようやく気楽に見届けられる。
『第三巡選択希望選手 新宿 木更津健太 都大三高』
「お~」
「あいつ柏原と同じチームかよ!」
木更津は俺と同じ新宿が指名。
正史では下位指名にキレて辞退した彼だが、ギリギリ上位指名に滑り込んだ。
これで野球を続けるのだろうか。本人にしか分からないな。
『第三巡選択希望選手 広島 土村康人 関越一高』
土村は正史通り広島へ。同じリーグだし接触は避けられない。
まぁ、流石に大人になれば少しは大人しく……はならないだろうな。
その後、勝吉(都大亀ヶ丘)が5位で指名された。
ここまで東京の高校生が指名されるのも珍しい。
ほぼ正史通りとはいえ、心なしか他の地域からの指名が少ない気がする。
「有名どころはだいたい指名されたなー」
「あれ、堂前は?」
「進学っすよ」
「意外と進学の人多いよね」
これで主要な所はだいたい指名された。
ちなみに瀬川徹平や鴨下は進学ないし就職予定。大越、宮城、久保の他に、早田実業の大宮、三高で指名されていない面々も進学を表明している。
その中で、指名されていない人間と言えば――。
「涼ちゃん指名されないね~」
「ああー」
「あんだけ打っても指名なしかよ」
「身長かなぁ」
転生を誰よりも熟知した男・相沢涼馬である。
彼は成績こそ申し分ないが、人生周回によるアドバンテージが大きい。
素質を見るプロのスカウト達は、彼が東京でしか通用しないと分かっているのだろう。
「いやいや、下位なら指名されるって」
「あの相沢だぜ?」
相沢は東京でなら木田と同クラスのミート力を誇る。
高校通算も50本くらい打っていたし、ポジションも三遊間と申し分ない。
しかし――。
「ああ、終わっちゃった」
「育成指名すらなしか……」
最後まで名前が挙がる事がなく、育成を含めた指名が終了した。
相沢以外だと高山都大の小野寺も指名漏れ。これは正史通りだけど、プロの世界は狭き門だと痛感させられる。
ただ、俺はその狭き門を潜り抜けた。
これはゴールではなくスタートライン。
自分がどこまで通用するか。そして――シンプルに生活と家庭の為に、プロの世界でも活躍したい。
「さて……明日からは敵同士だな」
「気がはえーよ。せめて来年からって言えし」
尚、堂上は相変わらず闘争心を全面に出していた。
2年半共闘した彼とも今後は敵同士。新しいステージへの期待を胸に、残りの学生生活を楽しみたいと思う。
次回はだいぶ先になります。
ゆっくりお付き合い頂けたらと思います……!