2.俺のラストイニング
だいぶサボってました
2012年9月上旬。
甲子園での激闘が終わったのも束の間、俺はU-18日本代表に選出されていた。
これだけ投打で活躍すれば当然だ。投手としては勿論辞退したけど、野手としても戦力にカウントされていたらしく、お言葉に甘えて同行するに至った。
ただ正直なところ、モチベーションは高くない。
投手としては投げられないし、打球を受けた脇腹も打撲している。
ベストパフォーマンスを出せない以上、俺にとっては記念参加のようなものだった。
ちなみに、富士谷からは堂上も選出されている。
関越一高からは周平と土村、都大三高からは木田と木更津に加えて堂前まで召集され、東京から7人も選出される形となった。
尚、宇治原は大事を取って辞退。決勝であれだけ165キロを連発したのだから、肩を痛めるのも仕方ないと言える。
その他は前橋英徳の高成や大阪王蔭の根市など、甲子園で活躍したドラフト候補組が殆どだ。
そんな王道メンバーで迎えたU-18ベースボールワールドカップは、結果から言うと初の優勝で終わった。
当然と言えば当然か。
精密機器の堂前や完成度No.1の高成を、読心術に長けた木更津がリードする。
これだけでも反則級の強さだし、中軸は木田・周平・堂上の並びだ。
一応、俺も指名打者で6番を打っているし、勝てない方がおかしいまである。
そんなこんなで、U-18ワールドカップは見所も無く、淡々と優勝して幕を閉じた。
※
9月末、俺達にとって最後の大会になる「ぎふ清流国体(高等学校硬式野球の部)」が開催された。
全12チームで開催される本当の意味の集大成。選手権で優勝した富士谷は当然ながら選ばれている。
その他にも、前橋英徳(群馬)、大阪王蔭(大阪)、聖輝学院(福島)、都大蔵王(山形)、海北(北海道)、明秀義塾(高知)、新潟明誠(新潟)、別所大豊明(大分)、鳥取領北(鳥取)、高山都大(岐阜)、瀧川二(兵庫)などが、地域性を考慮されて選出された。
尚、選出は基本的に上位進出校優先だが、東京2校になる為か、準優勝の関越一高は選出されなかった。
こればかりは仕方ない。国体は当時12枠(現在は8枠)の中で、選抜以上に地域性が考慮されるので、同都道府県から2校は現実的ではないのだ。
勿論、この大会への熱は各校共に高くない。
9回同点の場合は抽選で勝敗を決めるし、雨天順延が絡めば日程を全て消化しないまま打ち切られるし、下級生は秋季大会も控えているので、チームによってはベストメンバーを組まない事もあるくらいだ。
所詮はその程度の大会であり、富士谷も一般受験組はブランクを抱えて挑む事となった。
「どんな大会であれど敗北は許されん」
「そうですか……」
「どのーえはブレね〜な〜」
そんな中、やたらと意気込んでいるのは堂上である。
今大会は必然的に堂上が軸。自分が実質エースで迎える全国大会という事もあり、やたらと気合が入っていた。
という事で先ずは初戦、富士谷は1回戦免除で2回戦から。
相手は地元枠での出場で、選手権では縁の無かった高山都大となった。
高山都大には小野寺というドラフト候補がいる。
最速148キロ、打っても主砲の典型的な力自慢だ。
まさに堂上と似たもの同士であり、二刀流同士の意地のぶつかり合いになった。
この試合でも堂上は151キロ、小野寺は147キロを記録。
打ってもお互いにホームランを打つなど、ドラフト候補同士が互角の力を披露している。
その中で明暗を分けたのは――やはりと言うべきか、津上や鈴木、そして俺の存在だった。
都大高山は岐阜の名門校。
ただ、この世代は小野寺頼りな部分が強く、選手層という意味ではやや落ちる。
4番の前後を打つ打者の力量差が顕著に出て、この試合は富士谷に軍配が上がる事となった。
都大高山010 000 010=2
都富士谷200 300 01x=6
【高】小野寺―山田
【富】堂上、吉岡、芳賀―駒崎
続く準決勝は大阪王蔭。
神宮、選抜と準優勝しており、実力は折り紙つきの相手だ。
勝ちに行くなら暫定フルメンバーは必須。この試合も堂上で……と行きたい所だったが、ここで畦上監督は中橋を先発に指名した。
力強い打線に対して、技巧派左腕で翻弄する算段。
また、秋季大会も控えているので、下級生投手を調整させる意味もある。
選手権では大失敗した投手中橋だが、結果から言うと最低限の試合は作れた。
大阪王蔭の強力打線に対して、5回3失点というギリギリ見れる数字。
夏と比べたら遥かに上出来だ。投手力が弱いと言われていた新チームも、少しばかり希望が持てたのではないだろうか。
6回からは堂上がリリーフして4回無失点。打線も柿本と根市を攻略し、逆転勝ちで決勝戦に駒を進めた。
都富士谷000 100 031=5
大阪王蔭002 010 000=3
【富】中橋、堂上―近藤
【大】柿本、根市―森沢
そして迎えた決勝戦、対岸から勝ち上がってきたのは、瀬川家の因縁もある聖輝学院だった。
ちなみに、前橋英徳は高成以外の投手が打たれて負けている。
エンジョイ大会という部分で、控え投手達に華を持たせたようだ。
散々優勝できないと言われている東北勢だが、国体や神宮大会では優勝している歴史を持つ。
つまるところ、この大会でジンクスは発動しない。逆に言えば、瀬川徹平の熱も高くない大会だった。
この試合も堂上が先発。聖輝学院も歳川が先発し、お互いに本気で優勝を取りに行っている。
今回は特に投手陣の気迫が凄く、両者0進行のまま後半戦に突入した。
国体に延長はない。もし引き分けで試合が終了すれば、両者優勝という形で処理される。
俺は別にそれでも良かったのだが――それに待ったを掛けたのは、やはり空前絶後の負けず嫌いだった。
「おおー!」
「これは決まった!!」
「さす堂」
9回表、堂上のスリーランが炸裂。
お互いに歯痒い攻撃が続いた中で、試合を決定付ける一振りだった。
その裏、最終回も引き続き堂上がマウンドへ。
平野、八百坂は連続三振。大泉と瀬川には意地を見せられ、二死一三塁で4番の栗城を迎える。
スタンドの向こう側には山が見える、自然豊かな川沿いの長良川球場で、俺はファーストミットを片手に一塁の守備に着いていた。
「ツーアウト〜!」
「あと1つ!」
綺麗で広く、静かなグラウンドに、鈴木や京田の声が響く。
正史と同じファーストで迎える最後の試合。3つ違いを挙げるとするなら、ここが東京ではないという事、勝って終わるという事、そして――関越一高ではなく、富士谷の仲間に囲まれているという事だった。
これが本当に最後の高校野球になる。
2度の人生を捧げた青春が、今まさに終わろうとしていた。
「(くそっ、上げちまった……!)」
堂上が放った初球、栗城は盛大に打ち損じると、高々と上がったフライが此方に上がった。
俺はゆっくり落下地点に入る。そして緩やかに落下してくる白球を掴むと――俺は高校野球に決別を告げた。
都富士谷000 000 003=3
聖輝学院000 000 000=0
【富】堂上―近藤
【聖】歳川―大松




