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001 幼女の不便さ

 どうしたものか、考えようとするも、寝惚けた頭で考えても仕方ない。洗面所で顔を洗えればと、周りの状況を確認。

 殺風景な部屋。物もほとんどない。生活するのに必要な最低限の家具、それ以外の物は見える範囲存在しない。買ったばかりの家でも、もうちょっとある。

 この部屋にはこれ以上、ないことが分かった。


 ドアノブまで遠い。出ようと手を伸ばした矢先、身長があまりにも足りなかった。130センチ未満、見た目小学校低学年ぐらいだから、妥当っちゃ妥当。ただ、完全に閉まってたら、積んでいたかもしれない。


 隙間から手を入れドアを開ける。きぃ、木が軋む音に体を震わせ、思わず声が出そうになる。心臓がドキリとした。

 肉体に精神が持っていかれる、というやつだろうか。怖さの要素もない場面でも、身構えてしまうあたり、自身が幼女になってしまった事実が突きつけられる。


 廊下へ顔だけ出す。ふい、ふいと、頭を左右に振って、ぱっと見て安全を確認。特に問題はなさそう。

 冷たい風が肌を撫でる。秋よりの寒さ、凍えるほど冷えてはいないが、幼い体には堪える。薄い布を纏っているだけの状態じゃ、いずれ風邪をひく。上着が欲しい。


 低い視点から見えるものは少ない。途方もなく伸びている一本道、右も左も終わりが見えない。

 直感的にまずは右を選択。ひたすらに歩き続ける。

 自分が出た部屋と、類似した部屋が何個も見つかる。変わり映えしない景色に、ここはひょっとして宿屋ではないか、という予想に辿り着く。


 それにしても人がいない。しっかりと閉じられている部屋しか見つからず、確認のしようもないが、なんとなく気配が感じられない。廃墟にでも、僕は捨てられたのか。


 やがて行き止まるが、成果はなし。入れそうな部屋も、結局見つからなかった。

 踵を返し、来た道を戻る。左方向におそらく、玄関にまで繋がる道がある。この先、枝分かれして、キッチンとか、リビングとかが、どこかにあるはず。


 目標確定。洗面所は見つからなそうだが、歩いたおかげで頭が少し覚めた。

 ちょうどいいので、自分の置かれている状況を、歩きながら考えてみる。


 結論自体は早くつく。死んだと思ったら、性別変わって生きていた、ただそれだけ。

 友人が読んでいた本。その一つに、転生というジャンルがあった。現世で死に、異世界で記憶を引き継いだ形で、新たに生を受ける。大抵、そこで主人公はチート能力だとかを、神から貰い受ける。


 あってないし、貰っていない。記憶がないだけで、そういった体験があったのかもしれないが、覚えていない以上、否定の材料に含まれる。でも事実、知らない世界に、全てが変わった体で生きてるからなぁ。

 転生してる、っぽい。うーん、わからない。


 ひとまず仮定、現在異世界に転生している形で話を進める。その場合、ここはファンタジー世界だと考えればいいのか。

 モンスターの一つ、魔法の一つでも目にすれば、ほぼ百パーセント、ファンタジーな世界だと確定できる。なんにせよ、情報が圧倒的に足りない。


 ........たしか、異世界に来た主人公が最初にやっている、アレ。いまの自分なら出来るかもしれない。


 えっと。


 「......ステー、タス...?」


 透明な石板のような物に、自分の個人情報が記入されている。プロフィール画面に近いものが、目の前に現れ、現れ....現れ、ない。あれ、読み間違えた?

 十中八九そうじゃないかと睨んでいたけれど、当てはまらなそう。異世界じゃないんだとしたら、性別が変わって、輪廻転生しただけなのか。


 剣と魔法の世界、少し憧れていたんだけど、やっぱり自分には縁遠い話だった。残念。


 頭を悩ましていると、広がった場所に出た。今度は行き止まりじゃなくて、いろんな道がある。

 リビング、広い廊下、迷宮の中腹。場所名分からず、例えを上げるが、それっぽいのが思いつかない。そんな場所も、相変わらず物がなく、かえってそれが清潔感を感じさせる。


 一周回って、綺麗?

 

 時計が飾ってあったので見ると、八時過ぎ。窓から見えるのは、太陽ではなくて月。午後か、暗くもなるし、もっと冷え込んでくる。早急に上着、もしくは一日過ごすための、お布団。出た部屋には、何故だか無かった。


 目標は一時達成、またなにか発見が欲しい。適当に部屋を徘徊し始め、どこかに現状打開のキーはないかを、探索する。てくてく、てくてくと。

 しかし約三分後、異変が起こる。


 「....はぁ........ふぅ.....すぅ、はぁ......」


 息が苦しくなり始めた、あまりにも体力がない。小学校低学年くらいとはいえ、流石になさすぎる。

 体力以外にもご飯。お腹は奇跡的にまだ空いていないが、活動する以上、エネルギーも消費する。空腹も、いずれ必ずやってくる。

 体力も、エネルギーもないのは、少しまずい。


 二部屋回ったところでちょっと休憩を取る。座り込み、息を整え、次への準備をする。

 酸素が脳へ行き届きづらい。視界がボヤーっとしていて、歩き疲れて(百メートル未満)眠くなってきた。


 これ寝たらまずいだろうな、分かってはいるものの、人間は欲求には勝ちづらい生き物。だんだん、瞼が閉じていく。

 完全に閉じる前に最後に見たのは、殺風景な場所に似つかわしくない、一匹のスライム................え。


 「なんかいるっ」


 ふにょん、ふにょんと揺れる、超メジャーなモンスター。いるのを認識すると同時、先程の否定を覆す。ここは異世界、ファンタジーな世界。そこへ転生してきたのだと。


 「.........かわいい」


 一定のリズムで、ふにょん、ふにょんと、その場で揺れてジャンプしている。目はないのに、こちらを不思議そうに見つめているのが、ありありと想像できてしまう。

 なんだか、無邪気な子供に見えてきた。好奇心旺盛、思い立つ前には既に行動している。それを楽しそうに、面白そうにしているのを見るのが好きで、よく保育園幼稚園の手伝いをしにーー


 「ーーあ、やっば」


 むずむずとしてきた。体が疼く。痒いところに手が届かないような、耐えられない感覚。

 胸から湧き出る感情。押さえつけようにも、対象がいる以上、止められない。


 足が動く。一歩ずつ、一歩ずつ、スライムへと近付く。

 なんの警戒心も抱かずに、飛び跳ねていたスライムも、僕の行動に驚いてか、形を変形させる。

 ふにゅり。人間で言うところの、首を傾けるポーズに酷似していた。ちょっと待って、ほんとうにかわいいっ。


 両手を前へ、指を伸ばす。溢れ出る()()を抑えきれずに、僕は思うがまま






 「ああかわいいですね、元気ですか?辛くは、誰かにいじめられてはいませんか?その柔らかボディを叩かれたり、切られたりしていませんか?なにかあったら必ず言うんですよ?あ、言えませんよね、そしたら()の方を見てください。何も言わずともわかってあげますよ、あなたを世界で一番理解できるのは私ですからね、他の誰かには譲ってはあげませんよ?ああもうそれにしてもなんて愛くるしいんでしょう。どれだけ私にこんな感情を抱かせるのですか?罪です、有罪、私と永遠に過ごす罰を与えます。嫌がりませんよね、嫌ではありませんよね。大丈夫です、あなたは何もせず、ぬくぬくとしていてください。すべては私が、排泄も、食事も、運動も何もかもをやってあげますからね。死ぬまであなたが一人でいることはありません、常に私が一緒にいてーーー」





 三十分後、僕は部屋で悶えた。


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