000 ぷろろーぐ
タイトルいいの欲しい。ネーミングセンスがない自分が恨めしい。
突然性別が変わればいいのに。なんのけなしに呟いた一言は、誰の耳にも届かず流れ行く。友達が問いかけてきたが、それとなく誤魔化してその場を去った。
友人関係は広く浅く。事務員さんから、OBの方々まで。学校内であれば、全員が知り合い以上、親友未満。老若男女、いろんな人と僕は会話する。
雑談、駄弁、猥談、種類問わず。一番多いのは、相談。問題解決の手伝いを僕は、よくしていた。
一日に数十件。小規模から、ちょっとした企業サイズまで、幅広くやっていた。報酬はお金ではなく、その場その場の感情。喜怒哀楽が激しく動き、それを間近で常に見れるのは褒美でしかない。
傲慢ではあるが、僕が相談者を助けている、頼みの綱になっている。頼りにされている、そう思うと、えもいわれぬ快感が襲ってくる。変態チックだが、それが堪らなく好きだった。
言い表すのなら、母性。他の人よりも何倍も強い方なんだと思う。
知り合い以上、親友未満で止めているのは、ここが理由。距離が近付くにつれて、自分の中に「ダメにしたい」、「自分抜きで生きられないようにしたい」のような、独占欲が芽生え始める。
理由はわからない。自然とその思考が身につき、性別問わず、年齢問わず、距離感を少しでもミスすると、あの考えが脳を支配するようになる。
厄介なのが、人と接することを止めたとき。制御出来ないからと、誰とも話さなくなると、おかしくなる。自棄になって引き篭もったあの時。一週間足らず、ぱたりと意識が途絶えた。
後日、目が覚めると、赤ちゃんと化した妹の姿があった。自身の布団、一緒に寝ており、言語を喋らず、服も着ずに下着だけ。何があったのか訳もわからず、硬直した。
なんとか一ヶ月かけて元に戻したが、本人に記憶が残っており、三日間部屋から出なかった。
自分と話すときに、約1/10の確率で赤ちゃん化する。甘えたような声、理性を失った行動、片鱗が見え隠れしていた。
治療薬。大勢の人を助け、悩みを取り除き、いろんな感情を見ることで、なんとか治めている。妹の二の舞を作らないよう、頑張っていた。
慣れるうちに、表情、行動、言動。様々な箇所から、その人物が悩みを持っていないかを、見抜けるようになった。その分、あると分かると、解決せずにはいられない奇病に変わってしまったが。
助けになれない、どうにもできない。自分の中からその要因を排除できるよう、多種多様努力で補える部分は全てどうにかした。出来ないではなく、出来るように変えた。
力になれないのは、それだけで凄まじいストレスになる。何回かそういうことがあったが、いずれもいつもの倍、他相談を解決しないと気持ち悪かった。
限りなく努力でゼロに近付けた。それでも無理なことはいくつかあり、それはもう慣れるしかなかった。
相談は同性が多かった。女性はやはり、相談相手が異性というだけで、難しいものはあった。割合でいうと、男性7割、女性3割程度。歳が上がるにつれ、割合は並行していったが。
同性の悩み。男子生徒に一番多かった悩みは、『彼女が出来ない/欲しい』であった。
思春期、好きな人の一人や二人はいるであろう年頃。こればかりは僕でも、どうしようもなかった。
女装なんて奇策もあったが、採用されたのはたったの数件。こんな体質のせいもあってか、好き合う感覚が麻痺。そこらへんはあんまり気にしていなかった。
もって、一ヶ月。短くて三日。似合っていなかったのかと、当時の自分は悩み、女装の。化粧やらの技術だけは、やたら増した覚えがある。
助けたい、でも自分は対象外。体質のせいでストレス増加、解消のために相談を大量に受ける。また出てくる、自分には出来ない、の無限ループ。
悩みに悩み抜いた末、出てきたのが冒頭。
体質はずっと持っているから分かる。たぶん、こいつは永遠に付き纏い続けるストーカー。逃げ場は何処にもない。
だからせめて、ストレスの元凶であるこいつ。ここをどうにかしたかった。
女性になったら、なったで、悩みは増えるだろう。単純に月の問題だとか、肉体の差だとか。恐れているのが母性本能が強くなってしまうこと。ありうる。男性ですらコレなのに、女性になったら、桁が違ってくるのではと戦々恐々たしている。
男性の、女性関係の問題は解決しやすくなるのかもしれないが、その分。わかりやすく、ダメ人間製造機に自分がなってしまうと考えると、狂気の沙汰じゃない。
ただあくまでも想像。可能性云々ではなくて、SFチックな話。考えるだけならタダ。体質の誤魔化しで、時間潰しに考えた妄想。誰だって、暇潰しに適当なことを考える。だから、それで終わる、はずだった。
直前の記憶。加速を続けたトラックによる人身事故の相手が、自分になった。勢いよく押したから、おばあちゃん、無事だといいんだけど。
たぶん、その時に轢かれて死んだ。痛みも感じなかったから、即死。自分一人で済んだなら、いいんだが。
目が覚めると、おかしい。あれに助かるわけがない。じゃあ、いま目が開いているのはなんで?
立ち上がり、やけに低い視点を気にしながら、置いてあった姿見に自分をうつす。
「...........ちっちゃい」
立っていたのは、不機嫌そうな顔で姿見を睨む幼女の姿。
ーー想像が、現実へと化けた瞬間であった。