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10 第五の拷問

 ……夢を見ていた。


 嫁達の出会いと戦いの日々……子供達と楽しく過ごしたあの日……。


 幸せな平和な時間はもう帰ってはこない……全ては幻。


 ふと我に返った時、俺様は小さな漁村にたどりついていた。


 潮の香りが鼻をつく。


 ここも荒れ果てており、村人は残っているようだが、隠れたまま出てこない。


 恐れられようが、今更どうでも良かった。


 浜辺に向かい小舟を見て、あることを思いつく。


「舟をもらうぞ」


 俺様は舟小屋に向けて金貨を放る。


 もっとも現在いまは金に価値がないので、誰も取りにこようとはしない。


 タダで舟をもらうのは悪いと思ったから、代金として払っただけだ。



「そーれ!」


 俺様は舟を一人で押し出し、オールを漕いで海にくりだす。


 この異世界――島から逃げ出したくなったのだ。


 途中で遭難して死んでもかまわない。


 思い出してみると、海賊退治に近海で暴れ回った記憶しかない。


 水平線の先には何があるのだろう?


 どうせ死ぬなら行き着くとこまで行ってやろう。もはや失う物は何もないのだから。


 最後の冒険として悪くない。だが……

  


「進めない! 何だこの透明な壁は!? 向こうにも人がいる!?」


 数キロ進んだあたりで、小舟は前に進めなくなる。


 しかも俺と似た人間が、目の前にいて喋っているのだが、何も聞こえてこない。


 薄い壁は頑丈で破れそうもなかった。壁が海を……いや世界を囲むように続いている。


 恐らく海の中にもあるだろう。


「これは一体……」 


 ここは閉鎖空間なのか? ……質問に答えてくれる神はいないようだ。



 今になってこの異世界に疑問がわく。


 万能チートに浮かれていたので、気にもしてなかった。


 世界設定は、俺様が最強だった『ペイトゥーウィン・オンライン』ゲームそのもの。


 社畜の果てに、体を壊してリストラされた俺様がやりこんだゲーム。


 あとはテンプレ展開で、トラックに轢かれ神に出会い、チートをもらった。


 あまりにも、ご都合主義すぎる……おかしい。

 


「動くな!」


「はっ!」


 いつの間にか一隻の海賊船に近づかれていた。


 海賊達の服はボロボロで武器も銛だけなので、漁民くずれだろう。


 俺様は海賊船に強引に乗せられる。脅されはしたが乱暴はされなかった。


「どこに行くんだ?」


「黙ってろ!」


 やがて海賊船は、大渦のある場所へとたどり着く。



 第五の拷問、生贄いけにえ


「海神様の怒りを静めるのに、お前を捧げる」


「……そうか」


 人柱などよくある話だ。


 迷信にすぎないが、魔女狩りと同じで誰かのせいにしないと、気が収まらないのだろう。


 土地は荒れ果てて、不漁ともなれば生きる気力も失せる。


 子供を亡くした俺様も、生きがいはなかった。


 海賊船のへりに細い板がせり出されている。


 ここを歩いて渡れば、銛で突かれ海に突き落とされるはずだ。


 人の言いなりにはなりたくないので、俺様は走って自ら海に飛び込む!



「あっ、コラ!」


「うおっ!」


 海賊達が慌てるのも束の間、巨大な白鯨が海賊船を襲った。


 こいつが海神か!?


「うわああああー!」


 船は体当たりされて壊され、海賊達は白鯨の口に飲み込まれていく。


 なぜか俺様は無視されて、食われることはなかった。


 よく見れば白鯨の背にあのリラがいて、ニタニタと笑っていた。


 全てはアイツの手のひらの上か……一つだけ分かったことがある。


 リラは俺様を殺さずに、苦しめ続ける気らしい。理由は分からないが。


 ……それから気を失った俺様は、浜辺に打ち上げられていた。

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