9 第四の拷問
俺様は子供達と数日旅をして、エルフの森にたどりつく。
うっそうとした森林は砦のようなもので、外敵の侵入をずっと防いできた。
大盗賊団すら避ける場所なので、ここより安全な場所はない。
馬車をゆっくり進ませると、木の上から警告される。
「止まれ! これ以上は何人たりとも立ち入ることは許さん!」
「イキリだ! 嫁か長老に会わせてくれ!」
「……そのまま待て」
俺様は上を見て叫ぶ。
ボソボソと声が聞こえ、誰かが呼びに行ったようだ。
基本エルフは人に姿を見せようとはしない。
手の内をさらしたくないのと、気位が高く他の種族より上だと思っているからだ。
しばらくすると、声がかけられる。久々に聞く長老の声だ。
「この場を去られよイキリ殿。お主には世話になったが、娘は会いたくないそうじゃ。それと世界の災いになったお主を、森に入れるわけにはいかん!」
「……俺様が災い?」
「左様、チートという力が良くも悪くも、世界の秩序を保っていたのじゃ。チートがなくなったせいで、人々は争いを始めた。エルフ族は関わりたくもない!」
「……ああそうか、抑止力のチートを失った俺様が元凶か……ならば、せめて子供達だけでも助けてくれ! 子供らは関係ない! 俺様はここを去るから、頼む!」
「……よかろう。孫娘の兄弟だ。成人するまではエルフ族が預かる」
「ありがとう、それで十分だ。お前達、母親の分も長く生きろよ!」
「お父さん!」
俺様は馬車を降りて、森から走り去る。
エルフ長老は約束を守り、子供らを保護してくれた。
だが数日後……。
第四の拷問、絶望。
「やめろ、やめろ! やめてくれー!!!」
別れた子供達が気になって、毎日のように千里眼鏡で見ていた所……エルフの森は炎に包まれていた。
山火事の原因は放火だ。
何千人もの難民がエルフの森に押し寄せてきて、これらの人々をエルフ族は受け入れなかったので、争いになったのだ。
エルフは森を人に荒らされるのを、良しとはしない。
難民達も生きるためには、森の恵みは必要だった。
許可なしで森に入った人間は、エルフに次々と射殺される。
これに腹を立てた者が、森に火を放った。火の手は一気に燃え広がる。
山火事は人の手で鎮火できるものではない。燃える物がなくなるまで何日も続く。
後に残るのは真っ黒な山と死骸だけだ。
「ぎゃああああああああ!」
「ゲホッ、ゲホ、ゲホ!」
絶叫を上げて、エルフも人間も等しく炎に焼かれていった。
もしくは煙で呼吸ができなくなり、死んでいく。
これでは誰一人として生き残れない……子供らも。
「うあああああああー!」
俺様は千里眼鏡を叩き壊し、大声を上げて泣いた。
どうしてこうなった? エルフの森は安全じゃなかったのか?
他人に頼った俺様が悪いのか?
自問自答を繰り返しても、現実は変わらなかった。
悔やんでも、悔やみきれない。
自分の体を痛めつけられるより辛い、苦しい、悲しい。
死んだ嫁達にもう顔向けはできない。いくら謝っても許してはもらえまい。
俺様が子供らの代わりに、死ねば良かったのだ!
俺様はチートどころか、嫁と子供――家族全てを失った……。
天涯孤独の身となる。
……いつまで泣いていただろう? もはや生きる意味もなし……。
もうろうとした意識の中、俺様はどこかに向かって歩いていた。




