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フェイクウィッチ  作者: 焼肉一番


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まがい物

「はぁっ……はぁっ……はぁ……もて……」


 その激しい光と音の中でハルは先ほどと同じ姿勢のまま、苦し気に障壁を保っていた。


「ハル……! 大丈夫?!」


「んうう……!」


 ハルの立膝が崩れる。

 両手を上げながら障壁と雷がバリバリとぶつかり合っているのを見ると、その瞬間に障壁の緑が淡くなった様だった。

 その障壁の中に居る兵士や民衆は何が起きているのか分からない恐怖で、ただただ頭を抱えて縮こまったり、何に祈っているのか、両手を胸の前で組むくらいしか出来ないでいる。


「クソッ……!」


 ハルが汚い言葉を使うのは珍しい。

 きっともう限界なのだ、リアンはそう思い、ハルに覆い被さった。


「リアン……! 限界なんだ! 遠くへ行ってくれ!」


「知ってる。だからこうした。あんたより頑丈なんだから!」


「ダメだリアン! もうっ……!」


 バンッ! と障壁の緑が弾け、その衝撃でハルもリアンも吹っ飛んだ。だが、そこに清浄の雷も落ちなかった。と、言うより、かなり障壁に威力を殺されていた雷は、ハルに覆い被さったリアンに当たって消えたのだ。


「あぐぁっ……!」


 さすがのリアンも、魔女になって以来初めて死ぬ思いをした。全身を貫く痛みに耐えられず、地面に這いつくばる。その隣りにハルも吹っ飛んで来たが、雷の衝撃はすべてリアンが受けてくれたお陰で、あばらのヒビくらいで済んだ様だ。


「リアン……、リアン! 大丈夫かい?」


「あ……うっ……」


 マズい事に、吹っ飛んだのはハルとリアンだけ。遠巻きに見ていた、結果ハルに守られた民衆や兵士は無事であった。もちろん死人が出なかった事は喜ばしい。だがこの状況を利用しようと、バルコニーから見ていたフロディはすぐさまこう叫んだ。


「見たか民よ! これこそが魔女ダナの力である! まがい物の魔女は敗れた! 当然である! あの様な偽物に心動かされた愚か者には、清浄の雷が落とされるであろう!」


 動けないまま、何をバカなとリアンは思う。信じるも信じないもなしに、さっきまとめて民衆ごと消しさろうとしたくせに。守ったのはハルだと言うのに。


「しかし! か弱き民の心を惑わしたのは! この様なまがい物の魔女を作り出した崖上の悪魔なのだ!」


「……ぐっ……! フロディ……!」


 何が起きているのか分からない民衆にとって、銀髪の魔女を従え、大神殿のバルコニーでそう叫ぶ司祭の言葉は十分信じるに足るものだった。少なくとも、地面に這いつくばってる黒髪のリアンよりは何倍も。

 二百年も人々はダナ教を盲信して来たのだ。早く信じるものを返して欲しいのだ。フロディは自分が正義だと疑わなかったが、あながち民衆の信じるものを与えてやる事は間違いではないのかも知れない。その証拠に……。


「あの者を捕らえよ!!! さすればダナの加護があらん!!!」


 フロディの哮りに、ダナ教兵士はもちろん、民衆は一斉に従ってしまったのだ。

 わっ! と二人を目掛けて人々が走り出す。どやどやと地面が揺れ、色んな声が渦巻いた。


「俺が捕らえる!」


「私の手柄だ!」


「ダナの為にー!!」


 四方からたった一人を目掛けて。

 リアンは動けない。今度はハルがリアンを守らなければ、二人とも、たぶんこの場でなぶり殺されるだろう。


「くっ……」


 ハルはもう一度緑の障壁を作り出す。だが先程のものに比べればだいぶ小さい。なんとか二人が入れる分だけの大きさだ。それで十分だったからではない。それしか作れなかったのだ。

 剣や槍が、障壁を破らんと何度も振り下ろされる。魔術でこじ開けようとする者もいれば、小石を握ってそれを叩き付ける者までいる。寄ってたかって……的は小さな障壁だ。俺に任せろ、いや私がと下らない争いも生まれる。

 リアンはハルに抱えられ、障壁で蹲りながらその醜い光景に耐えるしかない。人々の怒号でさえ、障壁に穴が開きそうに醜い。

 そしてその光景を醜いと思ったのは、フロディも同じだった。


「埒が明きませんね……。まして民衆同士が争うなど……」


 やれやれと頭を抱えてミゼールに向き直る。


「我がダナよ……哀れな民衆を救ってやって欲しい……」


「あーう?」


 フロディの言葉を理解したのかは怪しいが、ミゼールはふわりとハル達の前へと舞い降りた。

 てくてくと、まるで子供の散歩の様にただ歩くと、周りを囲んでいた民衆が道を開ける。そうしてハルの障壁の前へ立つと、バンと障壁に両の掌を付けて中を覗き見る様な仕草を見せる。

 障壁の中から、真っ赤でうつろなミゼールの瞳を見ると、ハルは堪らなくなって声を絞り出した。


「……ミゼール……」


 その声に反応したのか、ミゼールは中にハルを見付け……。


「あうー……あー!」


 突然魔力を放出させて障壁を破壊した。


「!」


 まるでガラスのコップが割れる様に、おもむろにパンと割れてなくなったのだ。


「ぎゃぁっ!」


「うわぁぁっ!」


 中に居たリアンとハルはただ剥き身になっただけだが、周りに居た民衆はかなりの勢いでふっ飛ばされ……もしかしたら死人が出たかも知れないと思わせる威力だった。


「なんて事を……優しかったミゼールがこんな……、こんな……!」


 嘆き悲しむハルの顔を不思議そうに覗き込むミゼール。

 リアンが周りを見渡すと、かなりの人数が瀕死の状態に陥っている様だった。悶え苦しむ声がそこここから聞こえてくる。巻き込まれなかった人々が駆け付け介抱を始めるが、誰も何がどうなってこうなったのかは理解していない。まして民衆がダナだと信じるミゼールのせいだとは……。

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