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フェイクウィッチ  作者: 焼肉一番


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赤い瞳の

「さて……ここからどうするんだいリアン?」


 民衆が恐れて距離を取ってくれたので小声でハルがリアンにそう相談する。


「何も考えてないけど……」


「えっ? 君が良いから行こうって……僕はちゃんと作戦考えようって言ったじゃないか」


「これって戦争? 政治? どっちにしろあたしは分かんないわよ。ハルは詳しいの?」


 分からない事を考えるよりはとにかく行動、リアンの生き方だ。


「詳しいワケないよ……研究しかして来なかった……」


「オッケー、じゃ言いたい事は言ったし、とりあえずダナ教の出方を見るしかないんじゃないの?」


「そ……それもそうだね」


 様々な知識は圧倒的だがこう言う時の判断力、決断力が皆無のハル。リアンはそんなハルをまた従わせる形になる。


「この騒ぎはもう分かってるでしょうけど、あたし本部まで行って雷落とすぞって言うわ」


「なら僕も行く……。て言うかそれ僕が言うよ。もっと良い脅しになる」


 これはリアンの演技が下手だからだけではない。魔女が作り出されるものだと言うのはダナ教の幹部には承知の事実だが、その魔女を連れているのが、かつてダナ教の天才魔法科学者だったハロルド・ジュールだとすれば……清浄の雷を撃てる魔女を作れて当然なのだ。それより問題は魔女がリアンだとバレる事の方だろう。


「君はダナ教の現役兵士なんだから。君の知り合いが気付いたらややこしい事になる。あくまで君はダナ教に怒って目覚めた古の魔女、ダナを貫かなきゃならない」


「あら平気よ、友達少ないしこれもあるし」


 言いながらルシェのお手製かつらをポンと叩く。器用に作ってあるがあくまでもルシェの遊び道具だ。芝居に使われるような本格的な物ではないが……、リアンは妙にそれを信頼した。


「さっさと行って……あたし達の味方を増やしましょ!」



 リアン達が時計塔広場で民衆とダナ教兵士の小競り合いに巻き込まれていた頃、この騒ぎはダナ教幹部の耳に幾許もなく届いた。


「バカな……本当に漆黒の翼で空を飛んだと?」


「はっ!!」


 その知らせを聞いた司祭、フロディ・スラはわなわなと震えた。本物の魔女が現れたと思う程フロディの幹部としてのキャリアは浅くない。すぐにハルが頭に浮かんだ。

 まさか、あのハルがこんな大胆な行動に出るとは思っていなかったフロディは、拳を握って奥歯をギリと鳴らせる。


「おのれ……!」


 魔女ダナなど居ない。偶像だ。民は騙されている。フロディがそう言えば、その言葉はそのまま、二百年続いたダナ教に返って来る。ハルの手の内が分かっていてもデュナミスを完成させていないダナ教には打つ手がないのだ。


「おのれハロルドおぉぉぉ!! よもや教団から逃げ出しただけでなく我々を潰しに掛かるとは!」


「ひ……!」


 感情のままに声を荒げ、執務机の上の書類やらを弾き飛ばすフロディに、何も知らない一介の兵士が怯えた声を出す。フロディは取り繕う事もせずにその兵士に次の命令を下した。


「魔研の責任者にデュナミスを持って来いと言え! 粗悪でも良い! 出来損ないでも良い! とにかくすぐ精製して持ってくるんだ!」


「デュッ……、え?」


「デュ! ナ! ミ! ス! だ!! 言えば分かる!! ニナにも知らせろ!」


「はっ!!」


 魔研とはかつてハルが居たダナ教の研究組織だ。当時はハルとニナ、数人の助手しか居なかったが今はかなりの大所帯になっていてダナ教の人間であれば知れた組織だ。もちろん、魔研の最終目的は知られてはいないが。

 今、魔研では毎日粗悪なデュナミスが生み出され山積みになっている状態であった。

 ハルのレシピを手に入れた事で、あとはもう手順通りに作るだけだと言うのにそれが極めて難しいのだ。優秀な魔法科学者がデュナミスの精製にあたっても、精製者の魔力を込める段階で上手く行かない。


「何でも良い……一撃でも良い……とにかく、先に清浄の雷を落としてやる……。その一撃でミゼールが壊れても良い……今! 今デュナミスが必要だ……!」


 魔研の責任者は粗悪なデュナミスをミゼールに使う事の危険性を散々説明して来た。だが今使わずしていつ使うと言う話しだ。のるか反るかになるがハルに対抗出来る何かを出さなければ今までの研究が……、いや、ダナ教のすべてがなくなる。


「さぁミゼール……、覚醒の時だ……」



 時計塔広場を北上し、リアン達はダナ教本部へと向かっていた。リアンの翼で。


「大丈夫かいリアン本当に落ちないかい重くないかい無理ならもう歩いて行こう?!」


「ちょっと! あたふたしてるの下から見られたらどうするのよ、堂々としててよ!」


「堂々とって言ったって……」


 ハルを支えているのはリアンの腕力だ。両脇を抱えて、ハルはされるがままブラブラぶら下がって運ばれているだけである。こんな風に運ばれるのは子供だけだ。堂々と出来る筈もない。


「古の魔女ダナ様に運んでもらえるなんてあんただけなのよ、ハル」


「ああ……そう考えると少し胸を張れそうだよ」


 そう言って大人しくなったハルを抱えたまま、リアンも前を見据えた。ダナ教本部である真っ白な大神殿が満月の明かりを反射して輝いている。綺麗だと思った。

 その美しい大神殿の中心、一番背の高い鐘塔の更に上に、ふいに何かが浮かんで月明かりを遮る。


「……? ハル、あそこ……」


 何か浮いてる……と、言う間もなく、それはこっちにやって来た。まるで月明かりを裂く様な猛烈なスピードで。


「!!」


 ハルをぶら下げたまま、空中で固まるリアン。それは一気にリアンのまん前まで来ると、鼻先が付くくらいまで接近しては赤い瞳でリアンを見詰めた。


「はっ……みっ……ミゼール……!??」


「そんな……! そんな……!!」


 赤い瞳のそれは、ミゼールだった。

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