9 月光の礼拝堂
夜。どこか遠くで梟の声が響いた。
寄宿舎の灯りはすでに落とされ、手元の小さなランプだけが頼りだった。
霧の中に月が浮かび、枝の影が長く伸びている。折れた枝が枯れ葉の上に落ちるたび、二人はびくりと肩を震わせた。
寄り添うように並木道を駆け抜ける。
先に見える礼拝堂の尖塔が霧に呑まれ、月が青く滲んだ。吐く息は白く上り、つま先と指先の感覚がすでに薄い。
裏手に回ると、トマスがそっと扉の取っ手を押した。
ぎぃ、と鈍い音を立てて扉が開く。二人は息をひそめて中へ滑り込む。
掃除用具の棚を抜け、もう一つの扉に手をかける。
目を合わせてうなずき合い、ゆっくりと押し開けた。
――静寂。
淡い月明かりがステンドグラスを透かし、青と白の光が床を斜めに横切っていた。
四隅は闇に沈み、中央の長椅子だけがぼんやりと滲んだ光を受けている。
冬の礼拝堂は冷たい空気に満ち、わずかに蝋と古い木の匂いが漂っていた。
トマスは早速中を歩き回り、長椅子を押したり床を叩いたりしている。
エドガーは息を整え、ゆっくりと中央に進んだ。
昼間、礼拝堂全体を包んでいた色彩はなく、今は月の青白い光だけが世界を満たしていた。
エドガーはランプを祭壇に置き、天を仰ぐ。
――何かが違う。
同じ礼拝堂なのに、昼と夜とで何かが決定的に異なる。
光を受ける壁を見つめる。
ステンドグラスを通した月光は青と白の帯を描き、赤はどこにもなかった。
彼はゆっくりと歩み寄り、壁に手を伸ばした――
その瞬間。
ガチャリ。
重たい音を立てて、正面扉が開いた。
「こらっ! 消灯時間は過ぎているのに、なぜここにいるんだ!」
ランプを掲げた教師が立っていた。
トマスは悲鳴を上げて隅へ逃げ込むが、灯りの中ではまる見えだ。
エドガーは小さくため息をつき、静かに頭を下げた。
「……ごめんなさい」
◇◇◇
結局、二人は一晩、懲罰部屋で過ごすことになった。
教師が「風邪をひくな」と毛布を二枚だけ置いていったあと、エドガーは小さな石造りの部屋を見回した。
高い位置に小さな窓、錆びついた鉄格子。
古いストーブが一つ、かろうじて赤い火を保っている。
窓の隙間からは冷たい風が吹き込み、外の霧の匂いがした。
トマスがストーブに手をかざしている。
エドガーは床に毛布を広げ、その上に座り、もう一枚を二人で被った。
「男二人でこんなに密着するなんて……」
「トマス、ママが恋しいのかい? でも、こうするのが恒温動物の理にかなってるよ」
「君って、そういうところ割り切ってるよね」
「寒さで人は死ぬんだぞ?」
トマスがため息をつき、眼鏡が白く曇る。
「……結局、何も見つけられなかったね」
「うん。でも、礼拝堂をもう少し見てみたい」
エドガーの群青の瞳がストーブの炎を映して揺らめく。
「なにか掴めそうな気がしたんだ」
「明日も行こう」
「そうだね」
トマスがくすっと笑った。
「でもさ、秀才のエドガー・レイブンズが懲罰部屋にいるなんて、すごいね」
「……笑うなよ」
「ははっ、僕たち懲罰部屋の常連になるかも」
「それは遠慮したい」
二人は顔を見合わせ、声を上げて笑った。
ストーブが小さく、コン……コン……と鳴る。
まるで一緒に笑っているようだった。




