表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/30

6 秀才と乱暴者


 昼食のあと、早く食べ終えたエドガーは一人で中庭に出た。

 最近いつも一緒にいるトマスは食べるのが遅いので、昼は特に待たないことにしている。


 石の回廊を抜け、枯れ芝を踏んでベンチに寄ると、背後から声が飛んだ。


「おい、秀才!」


 エドガーは軽く後ろを向いたが、すぐにベンチに視線を戻した。


「おい、秀才! お前だよ、呼んでるんだから返事しろ!」


 黒髪を揺らして渋々振り返ると、金の髪に黄色のマフラーを巻いた少年――シェイド・カーマインが腕を組んで立っていた。


「知らなかったら申し訳ないけど、僕の名前は“秀才”じゃないんだ。

 それとも、僕じゃない誰かのこと?

 君の名前は?」


「クラスメイトの名前も覚えてないのか?」

 シェイドが顔を真っ赤にして近づいてくる。


 エドガーはゆっくりと後ろに下がった。


「君は僕の名前を知らないみたいだったから、お互いに自己紹介が必要かと思ってね」

「俺はシェイド・カーマインだ! お前はエドガー・レイブンズだろ!?」

「御名答。

 なんだ、知ってるじゃないか。最初からエドガーって呼んでくれれば返事したのに」


「口が減らないやつだな!

 ふん、お前、最近トマスと仲良くしてるんだって?

 あんなやつといたらバカがうつるぞ」


 エドガーは眉をひそめた。

 シェイドの顔にはあからさまな嘲りが浮かんでいる。


「僕が誰と仲良くしようが、君には関係ないだろう」

 エドガーが肩をすくめて言うと、シェイドは鼻を鳴らした。

「学年一の秀才が、あんな変わり者とつるんでるなんて風紀が乱れる」


 冬の風が、本を持つエドガーの手を冷たくしていく。

 黒い髪がさらりと揺れた。

「そんなことで乱れるような風紀なら、もとから壊れてるよ」


 じり、とエドガーが場所を変えると、シェイドも距離を詰めてくる。

「お前、トマスの変人ぶりを見ても何も思わないのか?」


 エドガーはちらと校舎の方を見た。

 赤煉瓦の壁の向こう、職員室の窓に担任のセオドア・ハーグリーヴズの姿がある。


「彼が変人? 君のほうじゃなくて?」

「俺なわけないだろ!」


 その次の瞬間、エドガーはしゃがみ込み――

「わぁぁああああ!!!」


 突然の大声に、シェイドは肩を震わせて固まった。

「え……?」


「シェイド君ひどいよ! どうして僕を叩くんだい!? 僕が何をしたっていうのさ!

 ひどいよ!!」


 顔を覆い、鼻をすするエドガーを呆然と見つめるシェイド。


「こら! カーマイン君! また君か!」

 職員室の裏口から、セオドアが鬼の形相で駆けてきた。


「えっ!? ち、違っ……!」


 セオドアはエドガーを庇うように立ち、腰に手を当ててシェイドを睨む。

「真面目なレイブンズ君を叩くなんて、どういうことだね!」


 エドガーはセオドアのウエストコートの裾をそっと摘む。

「先生、ぼ、僕、課題をやりたいんだ……」


 弱々しく言うと、セオドアは一度だけ振り返り、優しい声で告げた。

「そうか。レイブンズ君は先に戻ってなさい」


 エドガーは頷き、立ち上がる。

 そしてセオドアの影に隠れながら、シェイドに向かってぴょこんと舌を出した。


「あいつ……!」

 シェイドが怒って踏み出しかけたところを、セオドアが肩をつかむ。

「こら、カーマイン君!」


 エドガーは二人を背に、駆け出した。

 冷たい風が前髪を上げ、額が露わになる。

 あまりの冷たさに思わず息を吐く。


 白い吐息が、冬の空へゆっくりと溶けていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ