26 白い杯
エドガーは一つひとつ骨董品を取り出し、鑑定書の添付を確認しては、丁寧に写しを取っていった。
ほとんどの品に鑑定書が添えられており、持ち帰りの対象はごくわずかで済みそうだった。
最後の一つ――箱の底に指先が触れた瞬間、彼の動きが止まる。
――まさか。
白い陶器の杯。
螺鈿の細工。底に散る星のような金。
そして、内側に刻まれた、見覚えのある文字列。
持つ手が微かに震えた。
――間違いない。あの日、雪の礼拝堂で見つけた“あの杯”だ。
「……なぜ、ここに」
呟きは震えとともに消える。
「そいつは綺麗な杯だな」
ルシアンの呑気な声は、まるで遠くから聞こえてくるようだった。
「預かりリストに記載を」
「はいはい」
エドガーは深く息を吸い、震える指で慎重に杯を包む。
厚い布でくるみ、木箱に戻すと、手早く封をした。
それからルシアンと共にトマスへ声をかけ、帰路の馬車に乗り込む。
◇◇◇
車窓の外には、夕陽に染まる牧草地が広がっていた。
湿った風が吹き込み、ルシアンの金髪をさらう。
空はすでに藍に沈み、灰色の雲が低く流れていく。
エドガーは沈黙のまま空を見上げていたが、やがて小さく息を吐き、隣の男に声をかけた。
「ルシアン。二人、調べてほしい人物がいる」
ルシアンが窓から視線を戻す。
その群青の瞳に夕焼けの火が映り、かすかに揺れていた。
「もちろん、やるさ。誰と誰だ?」
「一人目は、トマスの祖父――エドワード・リンデル。
どんな人物で、どんな交友関係を持っていたか。
そして、あの白い陶器の杯を、いつ、誰から受け取ったのかを知りたい」
ルシアンは制服の胸ポケットから小さな手帳を取り出し、要件を走り書きする。
「もう一人は?」
「クラウス・リード」
その名を口にした瞬間、エドガーの声がわずかに低くなる。
ルシアンが眉を上げた。
「誰だ?」
「僕の母校――セント・クレア寄宿学校の元学校長だ。
十六年前、突然辞職している。その後の消息を知りたい」
「……で、その男と杯が?」
「関係している。――あれは、彼の手元にあったはずだ」
ルシアンは短く息を吐き、手帳を閉じる。
「お前の母校を探るのか。こりゃ、ちょっと面白くなってきたな」
彼がにやりと笑うと、エドガーは肩をすくめて、苦く笑った。




