17 雪の下の行方
「“日の始まり”……これは太陽の位置のことかな?」
エドガーは碑文の紙を見つめ、独り言のように呟く。
「“日の始まりを苛み”……東の反対、西かもしれない。
“最も高み”は南。“進まん”……つまり西へ三十歩、南へ五十歩――そういうことか?」
黒曜石の碑の前で顔を上げる。
薄雲の向こうに、冬の太陽がぼんやりと透けていた。雪が斜めに降りはじめ、光を白く散らしている。
「礼拝堂を出たのは二時頃。今は三時くらいかな……」
小さく息を吐く。
「コンパスがあればなぁ……。まぁ、大体でやってみよう」
彼は慎重に向きを定め、西に三十歩、南に五十歩を数えながら歩き出す。
雪に靴が沈み、踏み出すたびにキュッと音が鳴る。
「一、二、三……」
森の中は静まり返り、聞こえるのは風と雪の音だけ。
木々の影が斜めに伸び、あたりには倒木と苔と枯葉。
たどり着いた先でしゃがみ込んで雪を払うも、ただ冷たい土がそこにあるばかりだった。
「……違うな。方角がずれてるのか、それとも解釈が間違ってるのか」
指先がかじかみ、息を吹きかけながらエドガーは黒い碑の場所へ戻る。
紙を広げ、もう一度文字を追った。
◇◇◇
二つが合わさる時、理の道は正しき数を告げる。
王は日の始まりを苛み三十を、
王は最も高みにあるそれを好み五十を進まん。
その先に進みし者に真の祈りが与えらるる。
◇◇◇
「……“王”?」
エドガーは顔を上げ、ハッとして声を上げた。
「トマス! 初代国王の身長、覚えてるか?」
雪で遊んでいた二人が慌てて駆けてくる。
「翻訳できたのか? さすが秀才」
「初代国王? たしか、当時にしては背が高かったって……六フィート三インチくらいって書いてあったよ」
エドガーは額に手を当て、考え込む。
「六フィート三インチ……僕が四フィート七インチだから、およそ一・四倍。つまり――三十歩の一・四倍、四十二歩。そして五十歩の一・四倍で七十歩」
紙を握りしめ、また雪を踏み出す。
「一、二、三……」
「ちょっと待ってよ、何かわかったの?」
トマスが追い、シェイドも肩をすくめながらついていく。
やがてエドガーが急に止まり、しゃがみ込んだ。
「ここだ……。何かあるかな」
二人もしゃがみ込み、三人は手で雪をかき分けた。
指先は凍てつき、白い息が三つの影を包む。
「方角も距離も正確じゃない。だからこのあたり一帯を探そう」
そのとき、シェイドが手を止めた。
「……なあ、ここだけ湿ってる」
エドガーが駆け寄る。確かに、シェイドがいたあたりの地面の一部だけが、しっとりと濡れていた。
触れると薄い氷が張り、他の場所よりも暖かい気がする。
「湧き水かもしれない」
呟いたエドガーに、トマスの目が輝く。
「じゃあ、小さい方の湖があった跡だよ!」
シェイドが、湿った地面のその先に目を凝らす。
「見ろ、細い筋がある。水が流れてる」
「追ってみよう」
三人は雪を掻き、ほとんど這うようにして細い水筋を追いかけた。
冷たい風の中で、ランプの炎が頼りなく揺れる。
「見て!」
トマスが叫ぶ。
森の先、地面が低い崖のように落ち込んでいた。
ごく細い水筋は、崖沿いに下っているように見える。
「すごい……!」
トマスが勢いよく駆け出す。
「待て、トマス!」
エドガーの声も届かず、彼は崖を軽く飛び降りた。
「本当にあいつは……!」
シェイドが舌打ちして走り出し、エドガーも慌てて後を追う。
だが崖の縁に着いた瞬間、シェイドがピタリと足を止めた。
成人男性の身長ほどの高さの崖から落ちた水は、細い滝となり、その先には小さな水たまりを作っている。
水は凍らず、透明な音を立てて地面に落ちていた。
崖上で、シェイドがぐるりとあたりを見回す。
「……トマスが、いない」
「え?」
エドガーも崖から身を乗り出して下を覗く。
雪に覆われた地面の一部には土が見え、そこに小さな水たまりがあるだけ。
トマスの姿は――どこにも、なかった。




