17 雪の下の行方
「“日の始まり”……これは太陽の位置のことか?」
エドガーは碑文の紙を見つめ、独り言のように呟く。
「“日の始まりを苛み”……東の反対、西かもしれない。
“最も高み”は南。“進まん”……つまり西へ30歩、南へ50歩――そういうことか?」
黒曜石の碑の前で顔を上げる。
薄雲の向こうに、冬の太陽がぼんやりと透けていた。雪が斜めに降り、光を白く散らしている。
「礼拝堂を出たのは二時頃。今は三時くらいだな……」
小さく息を吐く。
「コンパスがあればな。まぁ、大体でやってみよう」
彼は慎重に向きを定め、西に30
歩、南に50歩を数えながら歩き出す。
雪に靴が沈み、踏み出すたびにキュッと音が鳴る。
「一、二、三……」
森の中は静まり返り、聞こえるのは風と雪の音だけ。
木々の影が斜めに伸び、あたりには倒木と苔と枯葉。
しゃがみ込んで雪を払うも、ただ冷たい土が広がるばかりだった。
「……違う。方角がずれてるのか、それとも解釈が間違ってるのか」
指先がかじかみ、息を吹きかけながらエドガーは黒い碑の場所へ戻る。
紙を広げ、もう一度文字を追った。
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二つが合わさる時、理の道は正しき数を告げる。
王は日の始まりを苛み三十を、
王は最も高みにあるそれを好み五十を進まん。
その先に進みし者に真の祈りが与えらるる。
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「……“王”?」
エドガーは顔を上げ、ひらめいたように声を上げた。
「トマス! 初代国王の身長、覚えてるか?」
雪で遊んでいた二人が慌てて駆けてくる。
「翻訳できたのか? さすが秀才」
「初代国王? たしか、当時にしては背が高かったって……190センチくらいって書いてあったよ」
エドガーは額に手を当て、考え込む。
「190……僕が140だから、およそ1.4倍。つまり――30歩の1.4倍、42歩。そして50歩の1.4倍で70歩」
紙を握りしめ、また雪を踏み出す。
「一、二、三……」
「ちょっと待ってよ、何かわかったの?」
トマスが追い、シェイドも肩をすくめながらついていく。
やがてエドガーが急に止まり、しゃがみ込んだ。
「ここだ……何かある」
三人は手で雪をかき分けた。
指先は凍てつき、白い息が三つの影を包む。
「方角も距離も正確じゃない。だからこのあたり一帯を探そう」
そのとき、シェイドが手を止めた。
「……なあ、ここだけ湿ってる」
エドガーが駆け寄る。確かに、地面の一部がしっとりと濡れていた。
触れると薄い氷が張り、他の場所よりも暖かい気がする。
「湧き水かもしれない」
呟いたエドガーに、トマスの目が輝く。
「じゃあ、小さい方の湖があった跡だよ!」
シェイドがその先に目を凝らす。
「見ろ、細い筋がある。水が流れてる」
「追ってみよう」
三人は雪を掻き、ほとんど這うようにして細い水筋を追いかけた。
冷たい風の中で、ランプの炎が頼りなく揺れる。
「見て!」
トマスが叫ぶ。
森の先、地面がわずかに崖のように落ち込んでいた。
そこから細い滝が流れ、小さな水たまりを作っている。
水は凍らず、透明な音を立てて地面に落ちていた。
「すごい……!」
トマスが勢いよく駆け出す。
「待て、トマス!」
エドガーの声も届かず、彼は崖を軽く飛び降りた。
「本当にあいつは……!」
シェイドが舌打ちして走り出し、エドガーも慌てて後を追う。
だが崖の縁に着いた瞬間、シェイドがピタリと足を止めた。
「……トマスが、いない」
「え?」
エドガーが身を乗り出して下を覗く。
雪に覆われた地面には、小さな水たまりがあるだけだった。
トマスの姿は――どこにも、なかった。




