14 冬季休暇初日
冬季休暇の初日、校舎はひどく静まり返っていた。
高い天井に声が吸い込まれ、靴が冷たい木板の廊下を打つ音がやけに響く。
明かりは落とされ、壁のランプだけが小さく揺れていた。
ほとんどの教室ではストーブの火も消え、空気はきんと張りつめている。
窓の外では粉雪がちらちらと舞い、凍てつく硝子に淡い光が反射していた。
エドガーは指先を赤くしながら息を吹きかけ、外套の裾を翻して特別教室へと急いだ。
冬季休暇中、寄宿舎に残った“残留組”には午前だけ特別授業がある。
昼食後から消灯までは自由時間――それが彼らにとって、待ちに待った「探検の時間」だった。
教室に入ると、ベアトリス・ケンプトン教師が石炭ストーブの前に立っていた。
何人かの生徒はすでに席に着き、ストーブの赤い火に手をかざしている。
「おはようございます」
「おはよう、レイブンズ君。今日も寒くて嫌になっちゃうね」
ベアトリスは、やわらかな栗毛をきっちり撫でつけてまとめているが、声にはのんびりとした響きがあった。
セオドアのような熱血型とは正反対の教師で、どこか母親のような落ち着きを感じさせる。
エドガーが席に着き、筆記用具を並べていると、シェイドが後ろの席に腰を下ろした。
「おはよ、秀才」
「僕の名前は秀才じゃないよ。おはよう、シェイド」
二人が笑い合うと、窓にびっしりと張りついた水滴がかすかに揺れた。
鐘の音が鳴り、トマスが息を切らせて教室に飛び込んできた。
「間に合った!」
息を白くして隣に座り、ニコッと笑う。
ベアトリスはそれを見ても眉ひとつ動かさず、ゆったりと教壇に上がった。
「今年もこんなもんかね。今日は古典文学な」
残っているのは十数人。
雪に閉ざされた地方の子ども、孤児、そして帰る家を持たない者たち。
エドガーたちのように“自分の意思で残った”生徒はほとんどいなかった。
チョークが黒板を滑る音が、広い教室に静かに響いた。
◇◇◇
昼食時、広い食堂はがらんとしていた。
人数の減った生徒たちは、教師や使用人たちと一緒に固まって食事をとる。
湯気の立たないスープは薄く、味気なかったが、それでも笑い声が少しだけ温もりを与えていた。
「覚悟しておいたほうがいいぞ」
ベアトリスがスープをかき混ぜながら言う。
「何をですか?」
「この食事が毎日続く。スープの味がちょっと変わるだけで、ほぼ一緒だ」
去年も残留したという上級生たちが一斉に笑い出した。
「クリスマスだけ豪華になるんだ」
「それだけが楽しみさ」「ほんとに!」
雪の降る窓の外とは対照的に、食堂の中は穏やかな笑いに包まれていた。
◇
昼食後、ほとんどの生徒は暖炉のある共用室で読書やチェス、手紙書きに勤しむ。
だがエドガーたちは別の場所――礼拝堂の使用許可を取り、「経典を読む」という名目で向かっていた。
礼拝堂は冬の光に包まれ、冷えきった空気が静かに満ちている。
古い木の匂いと蝋燭の芯の焦げた香りが混じり、どこか落ち着く空間だった。
「寮の先輩に聞いたんだ。先生の見回りの時間は決まってるらしい。
今日はその時間を探ろう」
エドガーが声を潜めると、トマスとシェイドは頷いた。
三人は聖書を机の上に広げ、その下でカードを切る。
外で足音がして、彼らは一斉にカードを隠し、ページをめくるふりをした。
扉が開き、見回りの教師が顔をのぞかせる。
三人の姿を見ると、軽く手を上げ、そのまま去っていった。
「今、何時?」
トマスが囁く。
「一時半だ」
「じゃあ、もう来ないな」
シェイドが小声で笑い、またカードを並べ始めた。
その後、夕食の鐘が鳴るまで、誰も現れなかった。
窓の外では、雪が音もなく積もっていく。
白い光が礼拝堂の床に落ち、三人の影を淡く伸ばしていた。
――いよいよ明日。
地下の扉の先へ。




