1 霧の街オルドンの秋の日
《理を求める者へ》
我は剣にて国を起こし、理にて民を導く者なり。
忠誠を我が誓約に結ぶ者、アラステアよ――
お前と共に歩んだ歳月は、戦火に咲いた花の如く尊し。
泥と血の中で見た夕陽は、悲しくも美しかった。
我はお前の運命を壊し、友としてその罪を負う。
だが詫びはせぬ。
理を求める者は、悔いを抱いて歩まねばならぬゆえに。
誠を知れ、理を恐るるな。
道は終わりなき霧の中にある。
歩みを止めるな、アラステア。
我が魂は、お前の理と共にある。
――初代国王アーサー・ヴァレンタイン一世
◇
霧の街、王都オルドン。
アルストリア王国の首都は、今日も霧に沈んでいた。
朝の鐘が、霧よりも薄い金の音を街に落とす。
晩秋のオルドンは、空気の輪郭が硬く、吐く息がすぐに形になる。
王立裁定院の白亜の塔の上には、夜の名残の雲がまだひとかけら、黒く浮かんでいた。
石畳を歩く靴音が、落ち葉を踏んでわずかに鈍る。
通りにはまだ人影が少なく、煙突から上がる煤煙が霧に溶けて消える。
彼――法務官エドガー・レイブンズは、黒の外套の襟を立て、手にした書類鞄を軽く握り直した。
背にひとつで縛った長い黒髪が揺れ、群青の瞳が静かな街を追う。
この季節の冷気が、彼の頬にそっと触れた。
鉄門の前に立つと、見慣れた石像の天秤が霜に覆われていた。
彼は一瞬立ち止まり、指先で霜を払う。
指に触れた冷たさが、妙に懐かしく思えた。
――あの冬も、こんな冷たさだった。
思考の端に、何かがふっとよぎる。
霧の湖。
寄宿舎の鐘。
そして少年たちの笑い声。
エドガーの口元が、ほんのわずかに柔らかくなった。
開け放たれている鉄扉。
職員たちが、そこに次々と吸い込まれていく。
エドガーも一歩、踏み出した。
いつも通りの朝、いつも通りの仕事。
空のどこかで鳴く渡り鳥の声。
秋の空は、ずいぶんと澄んでいる。




