第3話 さらなるお茶会
王子様は家族ぐるみで婚約者(候補)たちと仲良くなりました。
そのせいか、男女の仲というよりは、もはや家族のそれという間柄です。やっぱりお嫁さんにはピンとこないままでした。
ーー倦怠期ですか?
そんな時、やっぱり王様の気まぐれで、大きなお茶会が開かれるのでした。
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女の子がいっぱいいる、とマティアスは思いました。右を見ても左を見ても、美しい、可愛い、女の子ばかり。ーー水準が高い。
王様はマティアスと同じくらいの年齢の女の子を、30人ほど招待したようです。ーー相変わらず、一流の嫌がらせですね。
マティアスはもう14歳。来年は、学園に入学します。子どもから大人に近付き、精通もありました。
そんなマティアスは可愛い女の子たちに囲まれて、大規模なお茶会が始まりました。
「マティアス様、お菓子はいかがですか?」
「マティアス様、お茶をどうぞ」
「マティアス様、ああ、なんて素敵なんでしょう…」
「マティアス様は、どんな女性がお好みですか?」
「マティアス様、お庭を散歩いたしませんか?」
「いいえ、マティアス様、わたくしと…」
これは何だ?とマティアスは目を白黒させます。
かつてない女の子からのすり寄りに、マティアスは胸を熱くさせました。
ーーえ?僕、すっごいチヤホヤされてる…。
女の子が寄ってたかって僕を褒め称える。僕の歓心を買おうとしている。僕って、格好いいの?!僕って、モテるの?!
日頃、婚約者(候補)の3人は、マティアスを褒めたりもてはやしたりしないのです。だから、マティアスは自分の容姿に自信を持つことが出来ませんでした。ーーまして、リリアーナは絶世の美女ですから。
マティアスは麗しい顔に満面の笑みを浮かべて、ご令嬢方に伝えました。
「皆さんとても美しくて…。何だか緊張して上手くお話し出来ません」
「まあ、マティアス様ったら…。お上手ですわ…」
と、マティアスがちょっと褒めただけで、女の子は皆うっとりした表情でマティアスを見つめるのです。マティアスは嬉しくて舞い上がりました。マティアスは女の子たちを可愛がりたくて仕方ありませんでした。
マティアスの昂揚はマックスです。
「では、庭を散策しましょうか。皆さんのように美しい薔薇が咲き誇っていますよ」
「はい、マティアス様」
女の子たちは楚々とマティアスに付いていきました。
そしてその場に残ったのは、婚約者(候補)3人娘と、ディーノです。
「…マティアス様、チヤホヤされたかったのですわねぇ…」
「へー、そうなんだ」
「あんな嬉しそうな殿下を、初めてみました」
3人3様の感想。
「あんな女より、オルガの方が良いのにな」
「そうかな?あたしより、はるかにあの子たちの方が可愛いだろ」
「僕は苦手だね。きゃあきゃあうるさくて」
兄さんも馬鹿だなとディーノは言いました。この3人は、頭軽くて口が上手いだけの女たちより、ずっと上等な女性なのだとディーノは思っているのです。
ーー残念ながら、マティアスは口車に乗せられて、ほいほい女の子たちに釣られてしまったけれど。
「あれ、婚約者(候補)として、許していいの?」
「よろしいのではなくて?結局、マティアス様が誰を選ぼうと自由なのですから」
「ああ…。父上は気まぐれだから…」
ディーノはうんざりしました。ーーそれなら、オルガは僕がもらっても良いんじゃない?とチャンス到来に、少しディーノの心が弾みます。
「リリアーナはよろしいんですの?」
「え?」
「マティアス様、取られてしまいましてよ?」
「うーん。殿下が幸せなら、その方が良いと思います。私はどちらでも」
リリアーナに力みはありません。心からそう思っている様子です。
フィオレは思いました。婚約者(候補)が全員マティアスとの結婚を「どっちでもいい」と考えているから、マティアスは他の女に目移りしてしまうのだ、と。
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婚約者(候補)3人以外とのお茶会は、さらに回数を重ねました。マティアスはモテることにすっかり慣らされ、お茶会を大層愉しみにするようになりました。
お茶会の間、3人娘はそれぞれ適当におしゃべりした後、フィオレはフランカと、オルガはディーノとそれぞれ別れて遊びに行っています。リリアーナ?リリアーナは独りになった後は、王宮の図書館で過ごすようになりました。
オルガはリリアーナがたった独りで過ごしていることを知ると、一つ上の兄を呼びました。オルガの兄はオルガのように豪胆な性格ですが、リリアーナに対しては、とても柔らかく接しました。オルガの兄はすでに学園に入学しているので、リリアーナは学園の話を楽しく聞きます。
こうして3人娘もマティアスから離れ、それぞれの過ごし方を愉しみました。
マティアスは、3人娘のそんな近況を全く知ることはなく、色とりどりの美しいご令嬢方と素敵な時間を過ごしました。
やがて、多くのご令嬢がマティアスの婚約者になりたいと言い出しました。さて、マティアスは困りました。彼女たちは皆とても可愛らしく、褒めて褒められて気分が上がりますが、お嫁さんにしたいかと言われたら、そうではありません。
「マティアス様ぁ…。わたくし、マティアス様のお側に居たいですわぁ」
「あら、わたくしこそが、マティアス様に相応しくてよ!」
「ああ、素敵なマティアス様…。せめて、一晩だけでも慈悲を…」
おいおい。皆さん、相手はまだ14歳ですよー?しなを作って媚びを売るにはまだ早いですよー?
だんだん食いつきが激しくなるご令嬢方に、マティアスはちょっと引いてきました。
ここで、マティアスは少し冷静になります。
そういえば、婚約者(候補)たちは、最近どうしているのだろうか?
「ディーノ。最近オルガたちと会っているかい?」
「…会ってるよ。だって、毎回お茶会に参加しに王宮に来ているからね」
「えっ?そう…だったのか?」
ディーノは呆れた。マティアスは自分の婚約者(候補)の存在をすっかり忘れて放置して、別の女と遊んでいたのです。
「で?兄さんは新しい女が出来たの?」
「まさか。ご令嬢方は可愛いけれど、ちょっと可愛がってお互い愉しむだけだよ」
「…それって、ズルくないか?」
美しく優しい、素晴らしい女性が3人もマティアスのお嫁さん候補なのに。その3人をキープして、マティアスはあっちの花の蜜を吸い、こっちの花の蜜も吸っています。ディーノにはそれが許せません。
ーー浮気するなら、オルガを譲れ!とディーノは訴えたい。
「しかし、王子なら多くの令嬢に愛を振りまいて当然だ、と聞いたんだ」
「は?何その都合の良い情報」
「それに、僕ほどのいい男は独り占めしてはいけないのだそうだ」
「…だから、それどこ情報だよ…?」
ガックリうな垂れるディーノ。確かに、マティアスは端正な顔立ちであるし、鍛えているのにすっきりした体躯。控えめに言っても美青年です。そしてそんな容姿を、婚約者(候補)は決して褒めたりしませんでした。
ーーそこが、イイ女だと思うのにな。
何で兄さんの婚約者(候補)なのか。僕の婚約者なら、すっごく大事にするのに…。
ディーノはそんな思いを強くします。
「…兄さん。もしかして、ご令嬢方に手を出した…?」
「キスだけさ」
「…それは浮気だよ!」
「キスだけだよ?しかも、誰一人勃起しないんだ」
「ぼっ…!」
ディーノの顔が赤くなります。13歳の純朴な少年ですね。
「みんな、可愛いのになぁ。キスだって気分がいいのに。でも欲情しないんだよ」
「サイテー!兄さん、サイテー!」
そう言って、ディーノは部屋を出て行きます。
サイテーと言い切られたマティアスは、キョトンとしています。
キスして勃起。それが、恋じゃない?
マティアスは本気でそう思っています。ーー恋に恋する乙女青年なのです。
でも、マティアスは忘れてしまっています。
過去、たった一人だけ、キスして勃起した相手がいることを。
…若い男の子ですから…。