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陽元日記  作者: サツマイモ
解答というか、解説というか、ネタばらし
94/99

93日目:一歩

必路五雲は、ブツブツ何かを言いながら、渋々ついてきた。


「本当のことを言ってもいいんですけど、そうすると今回の実験の意味がなくなりますし」


あたしたちの一歩前を歩きながら、彼はそう呟いた。

浜を超えて、道路らしきところにたどり着いたが、しかしながらそこには車は一つも走っていなかった。というか、全体を見渡してみても立体的な道路とか、高層ビルとか、そういった現代チックなものは何一つとしてなく、見える建物はすべて木造建築物へと変化していた。


木々が生い茂り、家には蔦が巻き付いており、田舎というよりは、廃れた過疎地のようであった。こういう見た目の変化は、一体全体何を表しているのか。あたしにはわからなかったが、より一層そういった点が、仮想世界であるという仮説を強くさせた。


「……本当のことって、何ですか?」

無戦姫は、訊いた。


しかし、あたしにはそれが衝撃的であった。

なんてことのない質問だと思っていたために、その表情は驚きを隠せなかった。

仮想世界に飛んだあたしたちに関する、本当のこと。

あたしらにとっての、本当のこと。


その一言を乗せた声は、疑問でも、単一な感情でもなく。

声すらも震えていた。

なんで、こいつはそこまで……。


感情的なんだよ。

泣いてるんだよ。

おかしいだろ。


決意がこもっている。知りたいという意志がある。

まるで、何かに気づいてしまったかのような。

そんな、声。


振り返る五雲は、一瞬驚いた後、視線を下に降ろし、つまりながら答えた。

「言ってもいいんですけど……。そうすると、ここから出たくなくなってしまうと思いますよ?」


……出たくなくなる?

それは、いったいどういうことか。

あたしには分からない。

ただ、馬鹿なはずの無戦姫は、分かってしまった。

目頭には涙がたまっている。鋭い眼差しには、真実との対峙を求めるような、重い思いが刻み込まれている。


……ちょっと、待ってくれよ。

こんな展開って、何だよ。

……こいつは、もしかして、話しながら気づいたのか?


あたしの中で、ぐるぐる回っている。

しかし、答えは見つからない。


今目の前に起きている状況が、私の目の前で高速で流れていく。

言われてみれば、確かにそうなんだ。


皆が理解して進むような世界なんてないんだ。

誰かが気付いて、誰かが解説するときに、その時の第3者は何もわからずに進んでいくんだ。

あたしが知らずとも、世界は回る。


あたしだけが、急展開だと思っているんだ。


そうか、そうだ。

そういうことだ。


気持ちを落ち着かせて、あたしは涙を浮かべる無戦姫を見つめた。


「……それでも、訊きたいのです」

そういうことは、専門家に訊けばいいのではというあたしの疑問は、しかしすぐさま海風に呑まれた。

今日はよく海風に呑まれる。


「そうか、専門家はこの世界の理屈しか、知らないのか」


あくまでもお問い合わせセンター。

でも、彼はFAQじゃないのか?


「では、お答えしましょう。その前に、あなたの考えを教えてください。もしかすると、正解が含まれているかもしれないので」


どうして、必路五雲が、それを知っているんだ?


「なあ、五雲」

びくっと体を震わせて、こいつはこちらの方へと振り向いた。


「どうして、お前が知ってるんだ?」

「それは、私はサポーターですので」

「……サポーター?」

「ええ。何か間違えた時とか、道から外れた時にお助けするんですよ。たまに、ストーリーの登場人物になったりもしますが」


どうやら彼は、FAQではないらしい。


「……それで、どうしますか。ここで聞きますか?それとも、専門家の元まで行き、理屈を知ってから、聞きたいですか?」


あたしとしては、どちらでもよかった。

というよりは、どちらにしても、衝撃的で驚きなのは、変わりない。


「……事情を、先に知りたいです」

無戦姫は、そう決意した。


「……じゃあ、あなたの話を聞きましょうか。もう少し歩いたら、東屋がありますから」


あたしたちに、またも静寂と気まずさが流れた。

無戦姫の思い。彼女の過去。

そして、この世界の秘密。


あたしは、小さいながらも確実に、その一歩を歩みだした。



空は、あたしらとは関係なく晴れていた。

「それで、君の仮説を訊こう」


2対1の構図であたしらは座った。

あたしらが太陽を目の前に座る。五雲が、太陽をバックに座った。


「私は、その」

一度下を向いて、無戦姫は答えた。


「やっぱり、死んでいるのでしょうか?」


……。

私は、何も言わない。


「そうだね。どうしてそう思ったんだい?」

「……私には、心臓がないから。どうしてかは、分からないんです」

「よし、じゃあ、そこを答えればいいんだね」


「あと、もう一つ」

「ん?」


「記憶の話、なんですけど」

「記憶?」

「記憶って、やっぱり変わっているんですか?」

「うん。もちろんね。……よし、じゃあ始めようか」


そう言うと、必路五雲は、うんっと喉を鳴らして、始めた。


「これは、とある昔話です」



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