表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陽元日記  作者: サツマイモ
無戦姫の一生
91/99

90日目:あくまで、可能性の話

「必路五雲さん、あなたに質問をします」

私は、質問します。

「な、なんでしょう」

必路さんは、答えます。

「元の世界は、バランスを保っている」


「え、ええ。そうですね。誰かがいれば、真逆の人物が必ずいる。そう思いますよ」

必路さんは、応えます。

「しかし、それは完全ではない」


「……まあ、単純な話、同じタイミングで真逆の体験を全て行えるかと言われれば、確かに不可能でしょう。ただでさえ、人というのは流れの中で死んでいき、誰かが生きているときに死に、死んだときは誰かが生きているわけですから、綺麗に入れ替えるなんてことはできないでしょうけど……って、何の話ですか、急に」

必路さんは、問います。


「……そう、人生というのは、綺麗に入れ替えはできない。では、どうやってバランスを保つ?例えば、コインでタワーを作るとする。しかし、一度だけ思いっきり真ん中を外してしまった。そういうとき、どうする?」

私は、無視して問い返します。


「……どうするって、そりゃ反対側に同じだけずらしますけど」

つまりながらも、答えます。


「つまり、私はそういう存在なんですよ」

確証なんかあるわけないじゃないですか。私だって、言っていてなにを言っているのか分かりませんよ。でも、そう考えるのが自然だと思ったんですよ。私としては。


なんで、私はこんなにも自己中心的なのか。自分勝手で、適当で、乱雑で、煩雑なのか。

もしも、このウロボロスのように、元の世界も構成されているのだとしたら。


前世の記憶が、遺伝子レベルで刻まれているとしたら。


「きっと、私は、前世ではとんでもなくいかれた存在だったんでしょう。成長が成長するほど成長し、成長しながら成長し、成長しつつも成長を置き去りにせず、成長し続けた。その結果が、これなんでしょうよ」


私の前身は、化け物じみた天才。


「何を言っているのか、さっぱり分からないんですけど?」

彼(彼女)は、冷や汗をかいたような、作り笑いを浮かべます。


「では、質問をします」

「さっきされた気もするんですけど」

「私は、どうしてウロボロスなんかに願い事をしたのでしょう」

「いや、それは知らないですよ。私だって、陽元王国に、彼と共にいたんですから。それで、呼び出されるようにして、仕事に出たわけですから」


「でも、そんな存在、知っていないと願えなくないですか?」


「……そんなことないんじゃないんですか?神様だって、天使だって、悪魔だって、何だって、あなた方人間は知らないじゃないですか。私は、陽元王国にいますから、それなりの情報がありますけど」


「でも、名前くらいは知っていますよ。日本神話にギリシャ神話。それぞれの国には、それぞれの神話がありますし、聖書には天使も悪魔もいます」

「だったら、ウロボロスを知っていてもおかしくは無いのでは?だって、ウロボロス自体は陽元王国以外にも知られているわけですし」


「普通だったら、神様とか仏様に、お願いしませんか?」

「……まあ、確かに。でも、それはたまたまだったんじゃないですか?」

「たまたま、偶然、よく知りもしない蛇に、お願いなんかしますか?」

「……確かに。そうですけど」


「もしも、それらが全て、私の前世が作り上げたものだとしたら」


「…‥すごい話ですけど、確証なんかないですよね?」

「もちろん。でも、可能性ならあるよ」

「何ですか?」

「笹指静と、久郷一風です」

「その二人が、どうかしたんですか?」


「他にも、似ているキャラがいたけど、それらはすべて名前が変わっていた。しかし、この二人は、変わらなかった。これって、私と同じ状況だと言えない?」


「……続けてください」

呆れつつも、ため息混じりに応答します。


「あともう一人、専門家も混ぜてもいいかもしれない。この4人はもしかすると、知り合いなのかもしれないってことになるよね」


「……まあ、他の人とは違う4人ですから、共通点があってもおかしくはないですよね」


「知り合い。友人。グループ。組織。研究所。研究会。同好会。もしかすると、そう言う類かもしれないよね」

「……もしかするとですけど」

「ということは、彼女たちはとある実験をしているのかもしれない」

「かもしれないですけど」


「実験。いや、もしかすると、ゲーム。仮想世界的な、そう言う奴かもしれぬ」

「かもしれぬですけど」


「と考えると、結構納得が行かないかな?」

「……具体例を挙げてもらえませんか?」


「棚倉先生は、本来彼を助けるっていうのが、ゲームクリアというか、終了の合図。奥塚さんの件も同様。全部、そうなんじゃないかなぁ、と思い始めて」


「っていうことは、これはゲームってことですか?」


「いやいや、これは、多分ゲームじゃないんだよ。仮想世界。仮の世界。あるはずのない世界。ってことだね。そんな気がしてきたよ」

「……なんか、方向転換えぐくないですか?こんなカーブ、曲がり切れませんよ」


「で、4つの世界が終わったために、この後の世界はもうない」

「人の話聞いてくれないんですね」

「となると、どうなると思う?」

「いや、もう全く以て見当がつかないですよ」


「そう。私は、この仮想世界の、幻想世界に、取り残されるってことなんだよ」

「……ふーん」


「あ、とうとう聞く耳を持たないようになった」


「だって、それはもう突飛すぎるんですよ」

「つまり、私はこのプロジェクトを成功させなければならないのだ」

「……なんか、まとまって良かったです」


これが本当だとしたら、私は柳橋咲菜ではないかもしれません。私は、この仮想世界に飛び込んだ時に、その名を作ったのかもしれません。あるいは、仮想世界の中では、名前が変わるのかもしれません。そして、記憶もなくなるのかもしれません。


全てが想像の域を超えず、妄想の域で留まる中で、それでも私はその可能性を考えます。


思考して、思想して、思慮します。


「本当に何が起こっているのか。私にすら分からないなんて」


世界とは、本当に分からないものです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ