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陽元日記  作者: サツマイモ
無戦姫の一生
87/99

86日目:かくにん!

「このひとすっげえ!羽生えてる!」


あれから。ほんの少し後。


空前絶後で超絶怒涛な出会いをした私と香湖さんと香湖さんの妹である渚沙ちゃんは、もう一度自己紹介をして、今の状況を共有し合いました。もちろん、私の方も驚きでしたが、羽の生えた少女が目の前に現れたというのもなかなかの衝撃を与えたことでしょう。


渚沙ちゃんは、一向に私の羽から目を離そうとしません。


一応、島長の子供ということもあってか、礼儀正しいために、勝手に触るということはしませんでしたが、なんだかこれはこれで恥ずかしさがこみ上げてきます。


「……へえ、凄いなぁ」


キラキラした瞳のまま、私の顔へと視線をあげた渚沙ちゃんは、一度だけふうっとため息を吐いた後、質問を投げてきました。


その姿勢―つまり、上目遣い―は、とてつもない破壊力を秘めており、私の心をきゅっと締め付けました。まあ、心臓は無いんですけど。だから……その、まあ、比喩的なことです。


それは、香湖さんも同様に思っていたようで、きっと渚沙ちゃんは気付いていないのでしょうけど、先ほどから香湖さんの嫉妬の視線を浴び続けているのでした。


「ねえ、天使ってさ、人の願いを叶えられんの?」


少年のような、純粋で無垢な質問に答えられないのは至極残念なことです。できることなら、答えてあげたいのですが、ここで答えることはできませんでした。


なぜなら、私も知らないからです。


知らないことをしったかぶると、ろくなことになりません。


「……それが、私も分からなくて」

「そうなんだ」


物わかりの良い渚沙ちゃんは、そう頷くとすぐに足を整え始めました。


つまりは、正座です。


まさかのタイミングで正座になったので、私も慌てて正座になります。


部屋には、緊張が走ります。


「……お姉ちゃんのお願い、叶えてください。天使的にできないのであれば、人間的にお願いします」


……天使的、人間的。


およそその言葉を寡聞にして聞いたことがないのでちゃんとした意味は分かりませんが、言いたいことはちゃんと伝わってきました。


天使的というのは、つまりは天使としての能力としてという意味で。

人間的というのは、つまりは人間としての知恵としてという意味で。

それぞれ、使われたのでしょう。


もちろん、私はそのつもりでしたので、

「もちろん」

とだけ答えました。


心なしか、自分でもびっくりするくらい優しい声だったような気がします。


「で、どうします?陽元王国脱出計画」

「……はるげんおうこく?」


「え、あれ?しらねーんですか?ああ、そうですか。ええとっすね、この島は、一つの国によって治められてんすよ。うん、日本じゃなくて。よく言われているのは、最も新しく発見された島、とかなんとか。私達から言わせてもらえんなら、ずうっと昔からここにいるんだけどって感じっすけどね」


「……へえ、そうなんだ」


じゃあ、やっぱりそうなんだ。


あの日―事故に遭った日に向かっていたあの島に、私はたどり着いていたということになるのですか。否、たどり着いたというよりは、連れていかれたという方が正しいのでしょうか。でも、私自身が祈ってそうしてもらったのだから、そう言う言い草もなんだか間違っているような気がします。


とりあえず、私はあの島へと飛んでいったわけですね。


意識だけ、とりあえずは。


「あ、そうだ。私って、いくつぐらいに見えます?」


確認をとるためです。ここで大人とか言われてしまったら、もう私はここから先の成長は望めないということになります。残酷ですが、気にした方が良いでしょう。


「……え、ええと」


どうやら、気づかいということ自体は勉強しているようですが、使い慣れていないようで、渚沙ちゃんはすぐに香湖さんへと視線を動かしました。


見かねた香湖さんはふっとため息をついて、きっぱりと宣言します。


「……そうですね。だいたい、30手前といったところでしょうか」


……へ?


「確かに、しわとかシミとかは見当たりませんけど、ところどころ白髪が見られます。確かに小学校高学年くらいの身長で、それくらいの容姿をしていますが、あとは、雰囲気ですね。これらを考慮して、私の推測としては、成長しなくなった30手前って感じですね」


……単純に傷つきました。


どうやら、両親の精神攻撃の鋭利度は、遺伝しているようです。


「マジっすか」

私の目測が当てにならないと知り、それもまた傷つきました。


しかし、これで何となく法則性がつかめてきました。

初めは幼女。次に、中学生。その次が未成年と大人の狭間。そして、30手前。


まるで、人生のダイジェストでもしているかのように年をとっていきます。


これもまた、ウロボロスの法則なのでしょうか。


「じゃあ、私は学校があるんで」


そう言ったのは、渚沙ちゃんでした。

……あれ?帰ってきたんじゃないんですか?


「ああ、ええと、部活っす」

「何しているんですか?」

「陸上部っす」

……らしいですね。

「頑張ってください」

「頑張って、渚沙ちゃん!」

「はーい」


ここからが本番です。私と香湖さんは、これから壮大な作戦会議を開くのでした。


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