71日目:花火に行こう!
「……」
ほほう。なるほど。
呟けることなんていくらでもあったのに、言葉は一つも出てきませんでした。
何でしょうか、この気持ち。
核心を突かれたような、決まりの悪さがそこにありました。
胸に、ありました。
「なるほど。それだと、確かにこの現象に出くわした理由も、解決されない理由も、つじつまが合うな」
静さんは、どこからか取り出したコップの形になった葉を置いて、ふうっと一息つきました。
いやいや、どこにあったんですか、それ。
「え、これね。そこにあった葉っぱをつなげて作ったやつ。ついでに、紅茶が良い感じになってたから。飲む?」
すごい適応力。
いや、大丈夫です。遠慮しときます。
「で、てことは、僕達は、どうすればいいのかな」
久郷先輩は、その静さん特製カップでお茶を飲んでいました。
適応力高えなぁ、こいつら。
先輩に向かってそんなことは言えませんけど。
「だから、単純に言うなら、いつもの自分なら絶対にしないことをすれば、元の世界に戻れるんだよ。たとえば……、久郷ならいつまでも研究なんかしないで、たまには友達と遊びに行ったりすること。そうやって、他の楽しさを知って成長するってのが、ポイントなんじゃないかな。先生は、よく分からないけれど、柳橋さんは、そのわがままな性格を直しなさいという説教じみたそれかもしれないね」
優しく答えを提示する奥塚さんは、他人を見ることに長けていると感じました。
すごく、ぽかぽかします。
でも、知っちゃっていいんでしょうか。
そんな事を知ってしまったら、成長しないんじゃないでしょうか。
私は、本当に成長するんでしょうか。
する気はないですね。
むしろ、それを担保にして、保険かけて、言い訳にして、成長しないと思うんですよね。
本当に、私という存在は、成長しませんね。
我が儘で、自分勝手で、自己中心的で、自愛が強くて。
そんな自分が、一番好きで。
手に負えません。
まあ、これはあくまでも、わがままな私の主観なのですが。
なにか、運命的な何かが働かないといいんですけど。
「じゃあ、それなら簡単だな」
静さんは、すっと立ち上がり、声高らかに宣言しました。
「お前ら、花火行くぞ!」
……、んな唐突な。
そんなの、皆が賛成するわけ……
「……花火って、楽しそうですよね」
先輩、寂しいっすよ、その眼。
さすがに花火大会とか、手持ち花火とか、子供時代にやったと思うんですけど。
「あれですよね、花に火をつけて」
「違います違います!先輩、本当にやったことないんですかっ?!」
「……友達いなかったし。興味なかったし。どういう原理で楽しんでるのか、全然知らないし」
今完全に、いろんな人を敵に回しましたね、先輩。
「……え、じゃあ、久郷」
神妙な面持ちで、奥塚さんは尋ねます。
「ん?なに?」
「花火のトリビアが、今はもう皆が知っているトリビアが、お前には通じないのか?」
「なにそれ」
「花火って、上空から見るとどんな形してると思う?」
ああ、あれですね。
「円でしょ?ほら、花火って、球体の爆弾みたいなやつをボーンと飛ばして、爆発させてるから、球状に広がるんでしょ?」
「知ってんのかい!」
3人同時に突っ込みました。
こんなに息が合うのは、最初で最後かもしれません。
「で、でもだって、お前どんな原理か分からないって」
「どうやって、楽しんでるのか、分からないってことだ」
「……あー、そういうこと」
ため息が、3人そろいました。
こんな速く前言撤回するなんて、思ってもみませんでした。
残念です、本当残念でなりませんよ、先輩。
「じゃあ、それを知ってもらいましょうか」
私達は、コンビニへ花火を買いに行くことになりました。
30分後。
「……まさか、こんなにないとは思わなかったよ」
静さんは、呆然としながら呟きました。
同感です。
いや、確かに季節とは少し離れますが。
でも、1か月ですよ?
「どこにあるんだ?」
「ホームセンターなら、あるんじゃないですか?」
私の提案もむなしく、
「そのホームセンターが近くにないじゃん」
という一言で片づけられてしまいました。
「……あの、言ってなかったんだけど」
久郷先輩が、そおっと手を挙げて、申し訳なさそうに言いました。
「家に、あります」
……。
……。
……。
皆さん、せーの。
「先言えや!!!!!!!」




