67日目:伝説
「年子で両方ともに小さな体で生まれたけれど、その後は元気に育っていきました。
「ちょうど、両方ともに小学生になったころ、ある才能が芽生えました。
「それは、五感が海を越えるという才能。
「島を越えて、その先にいる人々の生活が見え、その先にいる人々の声が聞こえ、その先にいる人々の料理の味を感じ、その先にいる人々の環境に触れることができたのです。
「その才能は、すぐにこの島の人々に必要とされ、お陰でこの島はどんどん最先端の成長を遂げていくのでした。
「それを、彼女らは誇りに思っていました。私達は、良いことしているのだと。
「すると、彼女らはその才能に、磨きをかけていきました。
「妹は、それ以上に才能を伸ばすことはできませんでしたが、姉の方は新たな一歩を踏むことが出来ました。
「海を越えて、人を超えて、未来を五感で感じとる。
「そんな未来予知能力を、彼女は手に入れたのです。
「妹は、それを良いことだと信じて疑いませんでした。
「そして、姉は、恐ろしい未来予知をしたのです。
「他国が、この島を攻めに来る、と。
「この姉妹は、何度も町民に注意喚起をしました。忠告をしました。警告をしました。
「しかし、彼女らに耳を貸す人はいませんでした。
「どうしてなのでしょう。
「それは、彼女らの行き過ぎた才能にありました。
「出る杭は打たれる。
「彼女らは、それを思い知ったのです。ついに、この子供たちを産んだ親が悪いと、両親を焼き殺しました。
「しかし、間違いなく他国は攻めてきます。
「悲しみに暮れる中、彼女らはここで町民を救うことが、誤解を解くことの唯一の解決策だと信じるようになりました。
「復讐を誓わなかったのは、驚きだけどね。
「そこに現れたのは、この島の王子でした。
「『君は、未来が見えるんだよね?』
「そう声をかけて、彼はこの姉妹と共にこの島を守る決意をしたのです。
「すごいよね、ほんと。
「本当にすごいのは、彼女らではなく、彼だったけどね。
「全能の神と、後にもてはやされることとなる、今の王様だよ。
「見事に勝利した彼らは、その凱旋に向かう道中で、王子だけが祝福を受けました。
「王子と姉妹は、その後仲良く暮らし、この赤丸のついたところで生活していました。
「ある日のこと。
「若い町の人が、このひっそりと暮らしていた3人を見つけたのです。
「見つけた人は、こう思いました。
「『自らの美貌を用いて、王子を誑かしている』と。
「そう、この二人は結構美人だったのです。
「けしからんと集った群衆の中には、昔の二人を知る人たちがいました。
「『あいつらは、魔物だ!』
「そう言うと、彼らは、その3人が住んでいる家に火を投げ込みました。
「やがて、その3人は亡くなり、この話は伝説として、タブーとして、語り継がれることになったとさ」
静さんはふうっとため息をつき、一度下を向いてからもう一度顔を上げ、続けました。
まるで、ここまでの話をあらすじと―前提とするかのように、そしてこれからの話を本題とするかのような間の切り方に、私は本気さを感じました。
「この話には、続きがあってね。
「その3人の息子がいたんじゃないかってもっぱらの噂になっているの。
「それが、きっと、もしかすると、君が出会った彼なのかもしれないなぁと、思って、この話をしたんだ。じゃあ、職員室に行って、挨拶と書類のあれこれしようか」
私は、何とも言えない、胸の中を掻きむしられたような気分になりました。
彼が名乗りたがらなかった理由が、なんとなくわかりました。
しかし、この分かるというのも、理解できたというだけであって、事象として把握したというだけであって、じゃあ共感できるかと言われれば、それは答えられません。
共感って、したくてするものだと思いますし。




