51日目:ちょろすぎ均さん
「いやあ、さっきね?ちょっと、似ている人がいるもんだから、少し話しかけてみたらね?『お前は、私の産んだ子供じゃない』とかいきなり言い始めて。いやいや、怖いなんてもんじゃないよ。急にだよ?だからね、殺しておいたんだ。のちに手荷物とかでわかっちゃったんだけど、その人この世界を作ったいわば共犯者みたいな人だったんだねぇ。参ったなぁ、こりゃ姫さんに怒られちまうなぁと思っていたところに、君たちが現れたってわけさ。いやいやいや、そんなに臨戦態勢にならなくたっていいでしょ。なんだよ、刺さっちゃうよ?傷ついちゃうよ。私、こう見えて結構ナイーブだからね?まあ、どう見えているかなんて知ったこっちゃないんだけれど。人は見ないようにしか見ないし、聞きたいようにしか聞かない。わがままでこそ、人間であり、欲望の塊じゃないと、それはもう人間じゃないとまで言えちゃうね。理性と本能を併せ持つとか言っちゃうけれど、理性がなければ人間じゃないように、本能もなければ人間じゃないよね?というわけで、本能の赴くままに、今から活動しちゃっていいかな?いまさら、一人殺そうが3人殺そうが怒られる回数は一回だし、だったら、別に殺したっていいよね?姫さんに怒られるのは嫌だけど、でも少し好きなんだよねぇ。憧れるし、尊敬しちゃう。……なんの話だっけ?」
本来、同じ守り人として仕事を渡された者同士、好き嫌いは別として、それなりの情報を共有しているものだと考えている人も多いと思う。その考えは間違いではない。
実際、俺は大体の情報を手にしている。柳生一花、水瓶丹香、必路五雲、王師肆談。それぞれの能力は熟知しているし、各々の性格も知っているつもりである。
しかし、残りの二人だけは、どう努力したところで、全く情報が入ってこなかった。
それが、無戦姫と、今目の前にいる、均彩酉である。
髪の毛の一本一本が月明かりに照らされて美しい。すらっと伸びる手足に、絶妙なふくらみの胸。だぼだぼの服を着ているこの女とは大違いの綺麗なワンピースを身にまとい、俺達の船に仁王立ちしている。
待っていたとも思えるこの状況に、俺は、俺たちは呆然と見守るほかなかった。
「あれ、あれあれ?あれあれあれ?おっかしいなぁ。この二人は血気盛んだから相当やりあえるっていう風に聞いていたんだけどなぁ。意外と戦わないのかな。非戦主義なのかな?まあ、それなら私がフルボッコにしてあげるだけなんだけどね」
握りこぶしを作る彼女に、この女は、ため息を吐いた。
どうしてなのかさっぱり分からなかったので、この女の次の発言に期待するしかない。どうやら、おしゃべりな均もへ?という顔をしているようなので、なんか突破口になるようなことを言ってくれるとこちらとしても気分があがるのだが。
幸いにも、この女にはあの長刀があるし、俺だって一人の女史に負けないほどの力はある。
さあ、発破をかける言葉を。
結果から言えば、的外れもいいところだった。
「はあ……多分、あたしと静さん。絶対気が合ってるわ。で、多分無戦姫とも気が合うわ。はぁ、最高かよ。可愛すぎんだろう、こんちくしょう。こんなにも両方OKで嬉しかったことってないわ。はあ……待って。尊い」
おい、お前が待て。急にどうした。
「へ……?いや、そんな、いろいろじろじろえろい目で見、見ないでくれよ。私は、ほら、て、敵なんだぞ?そんな目で見るなっ!」
おいおい、どうした。揃いも揃ってどうした。
「あれあれ?もしかして、君。均さんだっけ?まあいいや、あやとりちゃんって呼んじゃおう。あやとりちゃんは、褒められ慣れてないのかな?勿体ないなぁ。せっかくこんなに可愛いのに」
あんなおしゃべりだったやつが、急に黙った。真っ白い肌は急速に赤く染まり、動きがぎこちなくなる。そわそわし始め、しまいには、いわゆる女の子座りでぺたんと座ってしまった。
「や、やや、や、やめてくださいっ!わ、私は別にそんなにかわいいわけではないんです。そう、これはただの創作物。いくらでも可愛くなんてなれますし、先ほども言ったように、観方なんですよ。見方なんです。見たいように見るから、そんな風になるんです。私は、その辺の人とそんなに変わりません!だから、褒めるとか、そう言うの本当やめてください」
「だったら、なんでそんなに笑顔なのかな?すごく嬉しそうにしか見えないんだけどなぁ?」
この女は、いったいどれほどの女性あるいは男性を、このようにして手玉に取ってきたんだろうか。
「いいや、これが二度目だよ。男子には、一度だって使ったことは無い。男子と女子で態度変えてるし」
「そういうのって、性格悪いとか言われるのではないか?」
「まあ、それで嫌われるなら、仕方ないでしょ。切り替えるしかない。君たちの常識をあたしに押し付けてもいいけど、それを受け入れるかどうかはあたし次第でしょ」
「それは確かにそうだがな。で、どうするんだ、こいつ」
「もう少しで吐くんじゃないか?諸々」
まだ均の独り言は続いていた。
「だ、大体、可愛いって何ですか。逆にあれですか、馬鹿にしているんですか。そうです、そうでしょ!そうやって、あなたも可愛いですよって言わせるための作戦に過ぎませんよ。あーあ、危なかった。引っかかるところだった。世界で可愛いのは、姫さんだけですよーだ。あの可愛さに勝るものはいませんよーだ。陽元王国に住まわし女神さまとは、様に、いえまさにあの方のことですよーだ。あーあ、可愛いなぁ。思い出すだけでも可愛いなぁ。結婚したいなぁ、あの方と」
わりとあっさり話してくれた。
「ねえねえねえ、可愛い可愛い、世界一可愛いあやとりちゃん」
この女は、最後の言葉を掛けた。
「何でしょうか、もうだまされませんよ?」
「……」
「なんですか、その目は。やめてください、上目遣いとか。可愛いじゃないですか」
「……無戦姫のところに、連れてってくれないかな?」
「……しょ、しょうがないですね。一回だけですよ」
ちょろい。ちょろすぎるほどに、ちょろかった。




