3日目:柳生一花との出会い
「おい、お前!どこにいる」
旅人らしからぬ発言だったことは、深くお詫びしたい。
しかし、声の主は、そんな発言を問題にはしなかった。
「では、その破片を噛んでください。ええ、噛むのですとも」
まあ、そこに毒でも仕込まれているかもしれないし、そもそも破片を噛むなんてことする気もなかったが、彼の正体を暴くためにも、それはやらざるを得なかった。
「噛みましたね?そしたら、目の前に現れるはずです。ええ、はずですとも」
その声と同時に、だんだんと景色は変わっていった。
そこに、彼はいた。
肩よりも長い髪に、目は閉じたまま。ひげは一本も生えておらず、服は首と手に穴があるくらいの特徴しかない布で、身長はあたしよりも10㎝ほど高く、それでもひょろっとした体格で体重は同じくらいのように思えた。
「おやおや、わたくしと同じようにスレンダーなお方かと思いきや、二の腕の方に少し脂肪がありますかねぇ。いやはや、それもまた人間らしくて良いですねえ。ええ、良いですとも」
「……あの、一応レディなんですけど、そういうことはなるべく言わないでもらえますかね」
旅人らしい言葉遣いへと戻すあたし。
彼は、そういったことを毛ほどに感じておらず、驚いたような口ぶりで、
「おやおや、それは失礼を。誤りを謝りましょう。ええ、謝りますとも」
と言った。
まあ、最近太ったかなあとは思っていたから別に謝りではないけども。
「では、過ちを謝りましょう。ええ、謝りますとも」
「もういいです。それで、あなたはどういうお方なんですか?」
「ええ、私は防人七人が一人、柳生一花でございます。ええ、ございますとも」
「……そうか。あなたが」
食刀の刀鍛冶、柳生一花か。
「それと、敬語はいいですよ。どうせあなたの何百年も前からここにいますから。それよりあなたの名前もついでに教えて頂きたいですねえ。ええ、教えて欲しいですとも」
不思議で怪しくて妖しい人物だ。
「ああ、あたしの名前は先崎咲季だ」
「ほう、いいお名前ですねえ。ええ、良い名前ですとも」
「それは、ありがとう」
名前を褒められて、少し頬が紅潮してしまった。
「あなたは、何をしにここに来たのですか?是非とも、聞きたいですねえ。ええ、聞きたいですとも」
「あたしは、国が隠している陽元王国っていうところがどういうところか、探りに来たんだ」
「……なるほど、あなたはでは旅人ということですね」
「ああ、そうなるな」
「では、宿も決めておられないと」
「そうなんだ。しかも、食べ物までないとなると、きつい」
「いえいえ、それはお構いなく。ここに来たということは食事の必要がなくなったのですよ。ええ、なくなったのですとも」
「なくなった?どういうことだ?」
「説明はしなくてもいいでしょう。残念ながらわたくしお話というのは苦手でしてね。ええ、苦手ですとも。ですから、わたくしからはお話できないのですよ、残念ながら。ええ、残念ですとも」
「そうか…残念だ」
この国の謎は深まるばかりだ。
「じゃあ、宿だけでも、いいところ教えてくれないか?」
「それでしたら、海沿いが良いかと。景色もきれいですしね。ええ、綺麗ですとも」
「そうなのか」
だったら、先にテントを張ればよかったなあ。
「折角でしたら、廃墟をお使いになられては?戦争になっても生き残っている建物ですから、そうは簡単に壊れないでしょう」
「そうか、ありがとう。色々教えてくれてありがとうな」
「いえいえ、これしきの事」
なんか、良いことばかり聞いてしまったような。これでは、あたしばかりが得をしてしまう。何かしてあげられないだろうか。
「なんか、してほしいことあるか?あたしにできることなら、何でもするよ」
考え込むようにして、彼は顎に手をついて言った。
「そうですか、でしたら、人探しをしていただけますか?」
人探し?




